進撃の巨人パロとタグ付けしましたが、ほぼ原型がないため一次創作としました。
これは進撃の巨人を読み始めて間も無い頃、家族が洗面所で1匹の蚊を叩き潰したのが始まりです。家族の誰かのまだ新鮮な血が洗濯機の白い壁に細く伸びていました。それを見て家族は「あぁっ、せめてお前だけは…生き延びて子孫を残せっ!」とノリノリで蚊になりきっていました。そこから彼は着想を得て妄想を広げ、蚊の生態を調べ、カクヨムに投稿しました。私もまだ読ませてもらってないのですが、複数の話に分かれており、全て最後には蚊が死んでいきます。それでもまた別の蚊が子孫を残してくれるはずです。彼の作品は全くと言っていいほど読まれていないのですが、私も書いてみたいと彼に申し出て許可をもらい、今ここに書き綴っている次第でございます。虫が苦手な方も読んでいただけると私も彼も喜ぶことでしょう。
2025年1月25日 08:39
前方50cm。1.5m級だ。1匹が仕掛ける。しばらく周りを飛び回った後首の辺りを狙う。とまった!と思った瞬間、ぺちん、という間抜けな音が響き彼女は無常にも叩き潰された。人間の手には彼女が滑稽な姿で張り付いていた。人が右手の指で弾き飛ばすと、手には魚拓のような跡が残っていた。
初めて彼女に出会ったのは2週間前のことだろうか。まだ私はボウフラで、彼女も同じ姿で水の中を体をくねらせ漂っていた。周りにはたくさんの仲間がいた。1匹の母によって生み出された兄弟達だ。あの頃の記憶は不鮮明だが、あの太陽の光で劣化し変な色になった青いバケツの中で生きていた。
初めは200匹くらいはいた。それからぼんやりと浮き沈みしつつ微生物を摂取して生きているうちに暑さに弱い者は死んでいった。その死骸も私達は食べた。
ある日のことだ。世界が急に傾いたて兄弟が明るい方へ流されていった。彼女と私はちょうど底にいたからあの天変地異に耐えられた。再び平穏が訪れた時残っていたのは数えるほどだった。そして生きる世界がとても小さくなった。水がほとんどなくなって底に溜まった泥だらけで狭い場所にしまったのだ。それでも良かったことがある。もうすぐだ。
成虫になる儀式は極めて簡素なものだった。浮き上がって、幼い殻を破って、出る。それだけ。しかし目の前に広がる光景には目を奪われた。まだ体が湿っているのでバケツの縁にとまって見る今までにない世界。バケツの底から見ていたものよりずっと広い空、見たこともない色、生まれて初めて見る緑色。それとも違う色の花々。しかし、見惚れている場合ではない。準備ができたら飛び立たなくてはならない。
まずは体に栄養を蓄えなければ。だから血を吸わなければならない。雄は草の汁でも吸っていればいいのだからうらやましい。しかし、雌も1匹減ってしまった。それでも私がその分卵を産めばいいのだ。私も人間に接近する。今人間は目の前の草に集中している。それにやつの足首、ズボンの隙間から素肌が見える。そっと、しかし素早く近づき、血色の良い肌にとりつく。習ったわけではないのに、血の吸い方は知っている。腹の中が血で満たされていく。
重くなった体で飛び立つ。後は交尾をして、卵を産みつけ、子孫に繋ぐだけで私の役目は終わる。雄だ、雄、雄はいないか。私の準備はできてるぞ。
やっと雄を見つけた。交尾をするのに時間はかからない。雄に抱きつく。途端にバランスが取れなくなる。それもそうだろう。雄も自らの体を支える力で羽を動かしているのだから。この状態では素早い動きはできない。ふらふらと高度が下がっていく。しかしこれも少しの間
何が起こったのか理解できなかった。体が動かない。雄はどこへいったのだろう。視界に入ってきたのは人間の手。そこに彼女と同じ芸術的な姿で張り付いているのはさっき出会ったばかりの雄。足がもげて横に添えられている。交尾中に人間に叩かれたらしい。私は死ぬらしい。それでもいい、99匹が犠牲になろうが、生き残った1匹がまた100の卵を産めば良いのだ。ただ私がその99匹の中にいただけだ。視界の端に別の蚊が見えた。彼女が生き残って子孫に繋いでいくことを願う。私は彼の死体に押し潰され、ひとつの黒い塊となった。