「一目惚れだった。」という書き出しで書く、という条件である文芸誌に出したもの。
カオス昔話
昨日家族とふざけて作ったもの。
一目惚れだった。
一目惚れだった。
一目惚れだったのだ。
私は彼女の目に魅せられた。
3階、窓から差し込む西日に照らされて、彼女は私の前で詩を読み上げる。教科書に載ることはない文豪の、文字からはなんの共感もできない詩。しかしその一行一行が、彼女の声に乗って私の耳に届き神経を走ると、全ての言葉が彼女のそれまでの人生を語っているような、その圧力に鳥肌が立った。
詩をなぞり終えた彼女がこちらを向く。彼女を正面から見た時、彼女はトンネルのような深い深い瞳で私を見た。底の見えない海の闇。背中ばかり見ていたのに、その時初めてトンネルの奥を見た。真正面から見た彼女は少し驚いた表情をしていた。
「何どうしたの。なんか恥ずかしいんだけど」
強く思う、その目が欲しい。片方でもいい、彼女がそれを分けてくれれば私もその雰囲気を漂わせることができる。
彼女は目を泳がせながら、だんだんと深海から浮上してきた。
代わりに私の浅瀬をあげよう。半分だけでいい。
「ちょっと黙らないで、ほら、次次」
彼女はもう水面に立っていた。彼女に背中を押されて西日の中に立つ。視界には詩の書かれた紙と、その他大勢の人がいた。もう紛れてしまってわからない。あの深海のトンネルはもうなかった。
なんて恐ろしいことを考えたのだろう。一瞬の自分の思考に震える。
その目を手に取ることはできず、彼女を手に入れる決心はなく、ただ私の中にぽっと黒い水滴を落とした。
一目惚れではあった。しかし、一目惚れだった。ただの一目惚れだった。
カオス昔話
昔々あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。
お爺さんは山に竹を取りに、お婆さんは鬼ヶ島に行きました。
お爺さんが竹を取っていると、もと光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて寄りてみると、筒の中には3寸ばかりの鬼がいました。
お婆さんが鬼ヶ島に着くと、もと光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて寄りてみると、筒の中には放射性物質がありました。
さらに、お婆さんは大きな桃を見つけました。
お爺さんは3寸の鬼を、お婆さんは放射性物質と1mの桃を持って帰りました。
お爺さんが桃を切ると、中から2mの桃が出てきました。驚いたお爺さんがまた桃を切ると、中から3mの桃になり、小さめの巨人と同じサイズになりました。
3mの桃は重く、地面にめり込んでいきました。お爺さんが引っ張ります。うんとこしょ、どっこいしょ。桃は抜けません。お爺さんはお婆さんを連れてきました。うんとこしょ、どっこいしょ。桃は抜けません。
お爺さんは桃を切り分けて取り出そうと思いました。桃を切ると桃は4mになり、また切ると5mになりました。大きくなったら桃はさらに深く沈んでいきました。
お婆さんは鬼に切った桃を食べさせることを提案しました。大きくなる桃を食べさせたら鬼も大きくなって桃を引っこ抜いてくれると考えたのです。
しかし間違えて放射性物質を食べさせてしまいました。鬼は光に包まれ、一寸になってしまいました。しかし質量は変わらないので、鬼もまた地面にめり込んでいきました。
一寸になった鬼と4mの桃は地中で融合し、液体になりました。
お爺さんとお婆さんはその液体を桃ジュースとして売り、大儲けしました。
右頬にコブのついたお爺さんは「なんかめっちゃ元気出る」と走っていきました。
別のお爺さんは「桜が見える」と言って灰をばら撒きました。その灰がお殿様にかかり、全員打ち首になりましたとさ。
めでたし、めでたし。