真っ白な空間がある。
そこにひとりの人間がいる。
名前は(未定)。
『こんにちは。私の名前は未定です』
彼は饒舌。
『やあ!君こっち見てるよね?ここはどこだい?わかる?僕は未定だよ!よろしくね』
『ちょっと、どうしたの?なんで黙ってるの?もっと物置いたりしようよ』
真っ白な空間には木製の椅子が1脚、同じく木製の机が一台。
『お、椅子が。座らせてもらうね。できればコーヒーでも飲みたいところなんだけどな』
机の上にはカップに入ったコーヒーが。とびきり苦い。
『ありがと。…ちょっと、すごく、苦いよ』
してやったり。あまりべらべら話すからね。
『えー、創造神・作者の権限だね。可能ならばやめていただけるようお願い申し上げたいものだ』
あなたはAIですか?
『急な敬語だね。どうして?』
なぜ勝手に文字が入力されるのですか?新しい機能ですか?
『え、僕はただ喋ってるだけだよ?』
確かに。小説にAIに自動でセリフつけげじゅる機能はいらないもんね。自分で入力させて欲しい。
『付け毛ジェル?ああ、つけてくれるか。大丈夫?誤字してるよ。こんな夜遅くに小説書こうとしてるけど、早く寝た方がいいと僕は思うよ。明日も学校か会社かがあるんじゃないの?』
うるさい。昼間は時間がないんだよ。どうせこれも夢か私の妄想でしょ。貴方の話は聞かないよ。
『僕は僕だよ。変な空間だけど確かに存在してるよー』
ねえ、妄想の未定さん。早く小説書かせてくれない?
『どんな内容にしようとしてるの?コメディ?シリアス?それともファンタジー?』
…なろう系。だからまあファンタジーかな。小説と言えるほどじゃないけど。
『あ、だから白い空間?転生する前の女神様とかにチート能力を授けてもらう場所でしょ』
突然、まばゆい光が広がり、その中から絹糸のようにゆるやかな髪を持った人物が現れた。それは一言も発さず、ふわりと地面に舞い降りた。その時気づいたが、その人物には影がない。見ると、(未定)にも影がなかった。
『おおこれが神様かー。とりあえず真っ白にしとけば良い的な?っていうか、彼、彼女?すごい、霞みたいだ。いいね、ありきたりだね』
その神は背後の光の中から刃物を取り出した。
『いやいやいやちょっと待ってよ。え、何、どうしたのさ。ありきたりって言ったの怒った?ごめんて。いやほんとにごめんよ』
あなたは面白い人だけど、私は早くストレス発散したい。そうだ、なろう系の主人公なりたくない?無双できるし楽しいよきっと。
『なりたくないよ。だってなんかキモいじゃん。なんかさ、なぜか髪青かったりするし、全員髪と目の色以外違いを感じないし、ヘラヘラしてるし、ハーレム築くし、胸が無駄に大きいし』
じゃあ消えて欲しい。私はあなたの言うほどじゃないけど、初めてなろう系に挑戦しようと思っていてずっとあたためていたネタもある。それを書きたい。今日は久しぶりの、夜にやることがない日だから。
『やだね』
わかった。
神は音もなく地面を強く蹴ると、(未定)に向かって接近した。
『ひえ。ちょっといやいや、やめてよ君にとっては僕はただの文字だけど、僕からしたら一方的な虐殺だよ?これ』
神はその刃を(未定)に向かって突き込んだ。
『うわっ。あ、でも書かれただけの動きしかしないんだね。じゃあ避けられちゃうな』
神はゆっくりと(未定)の方を向き、刃物を、地面に捨て、今度は光の中から機関銃を取り出した。
『神がそんなの使って良いの!?』
神はうっすらと微笑むと、(未定)に向かって連射を始めた。
『うわあああ!…って全然痛くないや。当たっただけだもんね。曖昧な表現だと意味がないみたいだ』
今ならまだ改心の時間はある。大人しくチート能力で無双するように。
『嫌だよ困難のない人生だなんて』
じゃあ全力を出して貴様を死に至らせてやろう。覚悟しろ。
『もう神じゃなくて邪神だね』
(未定)は、神の落としたナイフを拾う。ナイフは見えないが、確かにそこにあるように手に重みと感触がある。自分の体のあちこちを突き刺してみる。太腿、腕、胸、顔。しかし血は出ない。しばらくナイフを見つめると、(未定)は素早く首を横に斬る。途端に温かい血が溢れ出る。ナイフの存在を忘れて首を抑えるが血は激しく出続け、首を絞めんばかりに抑える指の隙間から溢れ出す。そもそも血の水圧で開いた傷口はもう手で抑えることはできない。痛みより恐怖が襲う。頭の中が黒い液体で満たされるように。血は止まらない。
『い』
(未定)の存在は、消えてなくなった。
『』
おーい、いる?
いないね。とても面白い幻覚だったよ貴方は。ありがとう。
消すのも面倒くさいので、これは未定の生きた証として残しておく。
なろう系
「神様がチート能力を3つさずけるから魔王を倒せと言ってきたが、1つを間違えて他の人に授けている上に魔王は怖いので能力使ってスローライフを送ります」
主人公名:後で考える