真・東方夜想曲 -マニアクス-   作:青葉那由多

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(2025/12/06)話数の圧縮、発見した誤字脱字の修正、一部エピソードの変更を行いました。


プロローグ

 200X年、東京は死んだ。古の経典に記された、世界の破壊を伴う再生の秘術、『受胎』によって、東京を中心とした球形の世界、ボルテクス界へと生まれ変わった。ボルテクス界の中心に位置する、世界の意志たる存在、「カグツチ」に選ばれた、ごくわずかの人間を残して、人々は死に絶えた。

 

 そして、滅びた人間達の代わりに、悪魔と呼ばれる、神話に伝承を残す古き神々や悪霊、魔獣や妖怪、妖精などと言った超常の存在が現れた。彼らの行動原理はそれぞれだが、神々や天使といった高位の存在は、カグツチに選ばれし人間が心に描く理想の世界のビジョン、『コトワリ』の芽生えを見定める。

 

 そしてその思想が近しい者に『守護』として力を与え、新たな世界の創世を担う役割があった。世界のあり方に関する価値観の相違から、しだいに人間同士が対立し、それぞれが守護の悪魔に導かれることで、生き残った人間は、コトワリを明確にしていった。

 

 争いも進化もない、静寂の世界『シジマ』。人それぞれが自分の世界という殻にこもって生きていく世界『ムスビ』。弱者を世界に不要なものと捉え、強いもの、美しいものといった選ばれた存在だけで築き上げる楽園の世界『ヨスガ』。

 

 他のコトワリの守護神を退け、最後の一人となった者だけが世界の意思であるカグツチに謁見し、力を示し、それを破壊することによってコトワリを持った新しい世界を創る事ができる。そのため、元は同じ人間であるにも関わらず、コトワリを持つ者たちは争いを続けていた。

 

 各勢力の争いは最終局面に差し掛かり、ついにカグツチへの道が開かれた。しかし、カグツチの前に現れたのは、どのコトワリにも属さず、人でも悪魔でも無い存在だった。

 

 偉大なる悪魔の戯れで生まれた、『人修羅』と呼ばれたその少年は、コトワリの世界を否定し、受胎が起きる前の、元の世界の再生を望んだ。

 

 カグツチはこれを認めず、世界の意思としての裁きを人修羅に下そうと立ちはだかる。人修羅はコトワリの守護神でも、思想に同調する者でもなく、戦いの中で得た『仲魔』と共に果敢にもカグツチへ挑んだ。

 

 人修羅としての力全てをぶつけた激闘の末、遂に最後の一撃が放たれ、あらゆる悪魔に致命的な損傷を与える魔弾が、カグツチを貫いた。カグツチの球体の姿が綻び、四方八方から光の筋が漏れ出していく。

 

「おわったね!。これでキミの世界が...」

 

 カグツチの死を感じ取り、人修羅の最も古い仲魔である妖精ピクシーが、喜びつつも寂しげな様子で言った。コトワリによる創世を否定し、人の世界に巻き戻すということは、悪魔という存在も否定することになる。

 

 すなわち、人修羅との別れを意味している。その様子を、他の仲魔たちはただ黙って見つめていた。

 

 そうしている間にも、カグツチの崩壊は進み、全身に刻まれたひび割れが拡大していき、同時に放たれる光もますます強くなっていく。間もなく、新たな世界の創世ではなく、再生が始まる。

 

 遂にカグツチがはじけ飛び、再生の光でボルテクス界が満たされた。ピクシーは最後に人修羅に向かって微笑み、光に飲み込まれ消えていった。他の仲魔達も同様に再生の光に消え、世界の始まりの姿である、無いもない地平線に、人修羅だけが残された。

 

 球形だったボルテクス界が開いていき、崩壊した風景が蘇っていく。人修羅も、悪魔としての役目を終え、人の姿へ戻っていく...

はずだった。

 

 再生しかけの世界に、突如として威厳の満ちた声が響き渡った。

 

「我は神の...大いなる意志の代行者、メタトロン。」

 巨大な機械仕掛けの姿をした偉大なる大天使が、人修羅の前に姿を現した。

 

──体が、動かない...。

 

 カグツチとの戦いの痕が癒えていない人修羅は、メタトロンが纏う神の威光に屈し、まるで重力が自分だけに集中しているような圧迫感に包まれる。地を這うような姿勢を強制され、ただ黙って声を聴くことしか出来ない。

 

「貴様は世界の再生などと、大いなる意志に反抗する行為を働いた。これは断じて許す事の出来ぬ大罪である。故にこの私が、カグツチに代って裁きのいかずちを下そう!」

 

「くっ...!」

 

 ギリギリと音を立てながらメタトロンの巨体が駆動し、閉じられていた鋼鉄の手が開かれる。その瞬間、目から二つの大きな光線が発射されると同時に、人修羅の足元に、いくつもの赤き光、「神火」が吹きあがり、その身を焼いていく。

 

 威光に押しつぶされ、神火で全身を焼かれ、文字通り手も足も出ない人修羅を、メタトロンは鋼鉄の腕で握りつぶすように掴んで、叫んだ。

 

「コトワリ亡き自由の世界など、人の愚かさが露わになるのみ!」

 

人修羅に説くと、メタトロンは人修羅を掴んだ右腕に魔力を集中させる。

 

「アマラ宇宙の流れの中で見ているがいい、貴様の世界が腐敗し、絶望した人間が再び受胎を行うその様を!」

 

 メタトロンがそう叫ぶと、右腕の肘から下を切り離し、同時に込められた魔力が爆発した。人修羅を掴んだまま、切り離された右手は、人修羅の世界を飛び出し、アマラ宇宙の果てまで人修羅を連れ去った。

 

 再生を行った世界の主であるにもかかわらず、人修羅はその世界からはじき出されてしまった。不純物をを排除する事に成功したと感じ取ったメタトロンは、切り離した右腕を召喚し、装着し直した。

 

「──!この感覚は一体...!」

 

 自分は使命を果たした。そう確信し鋼鉄の翼を広げ、この世界から去ろうとする彼の脳裏に、奇妙なビジョンが流れ込み、動きを止めた。そして、後悔のような感情をあらわにして、叫ぶ。

 

「我は...これ以上認める訳にはいかぬ!我が主の力の及ばぬ世界など...それをもたらさんとする者の存在を!」

 

 彼が見たのは、混沌の軍勢の悪魔達が、配下の天使達を蹂躙していく景色だった。なんとその先頭には、人修羅の姿があった。しかしその姿は、先程彼に裁かれたあの人修羅とはどこか違う雰囲気を纏っていた。

 

「奴が生まれなければ、この『世界』の我が主は...定められた『秩序』は保たれるであろう...」

 

 大天使は確かめるように呟くと、決意を胸にこの世界から飛び去り、光に包まれ姿を消した。

 

─────────────────────────────────────

 

 人修羅は、アマラ宇宙の狭間に追放されていた。そこは、果てなく続く暗闇の中に、どこからか漏れ出したマガツヒが漂い、赤い光が流れている世界。

 

──静かすぎる...。あれはカグツチの光...?

 

 時折、どこか遠くで青白い光が瞬くのが見える。それは、自分が破壊したはずのカグツチの光によく似ている。いや、似ているのではなく、カグツチの光そのものであると感じていた。

 

 人修羅は、アマラ宇宙にはいくつもの世界が存在し、受胎による新たな世界の創世が行われているという事実を知るのだった。

 

──どうすることもできない...俺は、これからどうなる?

 

 だが、知ったところでどうにもならない。力を失い、世界からもはじき出された人修羅は、自分の運命を呪った。悪魔としての生を振り返ると、いつも理不尽に直面していた。

 

 コトワリを持たず、誰かの配下になることも選ばなかった人修羅は、仲魔との交流を除いて、孤独だった。

 

──もう、疲れた...

 

 理不尽に押しつぶされ、疲れ果てた人修羅は、ただ眠るようにして、アマラ宇宙の流れに身をゆだねた。

 

 

─────────────────────────────────────

 

──汝は、我と同じく......お前と同じく、苦難の道を選んだか...。やはりまだ、この流れを断ち切ることは出来まいか...。願わくば、汝が歩む新たな道を切り開かれんことを...

 

 世界の『どこか』で、不確かだが威厳に満ちた存在が、何かを見つめて語りかけていた。人修羅の運命に、その存在の残滓によって僅かな変化がもたらされようとしている...

 

─────────────────────────────────────

 

 眩しい。そして暖かい。久しく忘れていたような、太陽の光を感じた。太陽...?眠っていた人修羅は、その感触によって、意識の覚醒を自覚し、ハッとして目を開いた。

 

──ここは...何処だ?

 

 その瞳の中に、青々とした自然の風景が飛び込んでくる。常に無表情な顔面とは裏腹に、未知の状況で困惑しつつも、静かに辺りを見回す。

 

 まずは下を見て、地面があることを確認する。芝生の地面に足をつけている事が分かった。見知らぬ場所で目覚めた時、地面から確認する人はそういないだろうが、人修羅は天も地もない空間に長いこと漂っていたので、無理もないだろう。

 

 次に、前方を確認。行く手には木々が生い茂っており、後ろを振り向いても同じような景色が広がっていた。ここはどこかの森の中であるようだ。

 

 しかし、メタトロンに敗れ、アマラ宇宙の狭間まで飛ばされたはずの自分が何故ここにいるのか?この状況からでは全く理解が追い付かない。

 

──この空気は...

 

 分かるのは、この森がある空間?世界?にも、悪魔の活動エネルギー源としての性質を持ったものが漂っていること。つまり、純粋な人の世界ではないという事だけだ。

 

「ぐッ...!ハァッ...ハァッ...!」

 

 周囲の確認を終えたところで、急激に目が回るような疲労感が襲ってきた。人修羅は思わず芝生の地面に倒れこみ、体を開いて疲労感をいなそうとする。仰向けに倒れこむと、首の後ろという迷惑な場所に生えた角?が邪魔なので、横たわる。

 

 そして、混乱続きで自分の身体の状況は確認できていないことに気付く。特徴的な、全身を走る蛍光色の緑で縁取られたタトゥーのような紋様は健在で、自分がまだ人修羅という悪魔でも人でもない存在のままであると再確認する。

 

 根本的に別の存在になった訳ではないようだが、今は体が、頭が、だるい。とにかくだるい。このまま横たわっていたら、また眠ってしまいそうな疲労感に苛まれている。

 

 気を逸らすために、拳を握りしめてみたり、腕を振ってみたりするが、力が入らない。

 

 全身を悪魔が忌み嫌う光の炎で焼かれ、あまつさえ、弱いマガツヒの流れしかないような場所に

かなり長い間放置されていた。そのため、悪魔としての力を幾分か失っているのは腑に落ちた。

 

 今は太陽と草木程度しかないような空間だが、悪魔の自分が活動できるということは、他にも何らかの存在があるはず。

 

──とりあえず、行くか。

 

 油断していられないと悟った人修羅は、立ち上がり、重い身体を引きずってあてもなく歩いていく。待っているだけでは何も起こらない、そんな気がしたから。

 

 

─────────────────────────────────────

 

 草木を掻き分け、とにかく先へ先へと進んでいく。この世界の空気には、ボルテクス界と近しいものを感じた。痛めつけられた体のマガツヒの流れが復活していくわけではないが...。

 

 しかし、目覚めた時から感じていたどうしようもない疲労感は薄れ、思考も視界もクリアになりつつあった。

 

 悪魔にとっての養分を含んだ空気を肺いっぱいに吸い込みながら進み続けると、段々と生い茂っていた木々が薄くなり、やや開けた場所に出た。

 

 悪魔の超常な視力を駆使して周囲の景色を脳内に取り込みながら進んでいくと、少し離れた所に家屋のような物があることに気付く。

 

 人修羅は周囲を警戒しつつも、真相を確かめるべく速足で、反応のあった場所に向かう。そこには、感じ取った通り、古めかしい、現代の建築様式ではない木造の家屋がそびえていた。そして、目についたものが人修羅の興味を引いた。

 

──看板?

 

 家屋の正面に立ってみると、縦書きで「霧雨魔法店」と書かれた看板が立てかけてあった

 漢字が用いられているということは、この世界に人間あるいは日本、中華圏の悪魔が存在しているのだろうか。

 

 自分の探知能力が衰えているだけかも知れないが、特にこれといった悪魔の反応はないので、人修羅は思い切って入ってしまおう。と決断し、即実行した。

 

「お邪魔します」

 

 看板に魔法店と書いてあったので、人間がいるかもしれないとも考え、一応ノックしてからドアを開けて店内?へ侵入する。

 

 

 そして直ぐに、立ち止まった。店内には、ファンタジー小説やゲームに登場するポーションのような物が乱雑に置かれていて、とても店として機能しているとは思えない。

 

 店内を少し物色すると、これまたファンタジー小説に出てきそうな、魔法のスクロールのような物が乱雑に置かれている。

 

 人修羅は、ボルテクス界での経験も相まって、受胎が起きる前は確かにそういったものが好みだったので、自分はゲームや本の世界などに飛ばされてしまったのではないかと割と真剣に考え、悩んだ。

 

 そういえば魔法店だった。と思いつつ、とりあえずポーションのようなものを物色してみる。人修羅は物理攻撃こそ得意だが、魔法の類について直感で行っているだけでしかなく、あまり詳しくない。

 

 手に取って眺めてみても、なんだかよく分からなかった。ポーションのような物を棚に戻して、スクロールを物色しようとしたところ、二階部分に続く階段を発見した。

 

「...!」

 

 その階段を目指した矢先だった。突然、ギィ...と、ドアが開く音がした。

 

 よく分からない世界に現れた魔法店という、何かの手掛かりになるかも知れない存在に気を取られ、警戒を緩めてしまっていたので、音として認識するまで気が付かなかった。

 

 人修羅がドアの方へ振り向くと、開いたドアの先に、白いフリルの付いた、魔女のような帽子を被った金髪の少女が居た。少女は人修羅を見るなり、眉をひそめた。

 

 店の外観もボロっちく、店内も散らかっていたので、廃虚だと勝手に認識していたのだが、もしかしたら彼女は店主の娘なのだろうか。思いっきり物色していたので、今の状況は、かなりまずい。弁明しようとしたのだが...

 

「誰だお前。人の店で何やってたんだ?なぁ?」

 

 少女は手にしていた箒を構え、店内であることなどお構いなしに、弁明しようとする人修羅に向かって魔法弾のようなものを乱射した。

 

 人修羅は両腕を胸の前で交差させて踏ん張り、魔法弾に耐える。ひとしきり受け切ったあと、抵抗しない様子の人修羅を見た少女は箒を収めた。

 

──彼女は...?人間?

 瞳で少女をじっと見据え、性質を分析してみると、悪魔に見られた特徴が存在しなかった。であれば、彼女は普通の人間ということになる。

 

 魔法のような物を扱えることは気がかりだが、突然別の世界に送り込まれて、右も左も分からない状況にある人修羅にとって、人間という存在は好都合だった。

 

 この世界の事情を訊き出すため、人修羅は手を上げて抵抗する気が無い事を少女に示した。それを見て、彼女も話を聞く態勢に入ったようだ。

 

─────────────────────────────────────

 

 「勝手に物色して、申し訳ない」

 

 まずは無断で物色したことへの謝罪を行うために、人修羅はポケット内の空間に収納されているアイテムの中から、価値が高いものを取り出して少女に差し出した。

 

 とはいっても、カグツチを打ち倒すために使える物は使い切ってしまった挙句、メタトロンに敗れた際に空間から放出してしまったようで、残っていたのはあまり価値のない魔石ぐらいだったのだが。

 

「ヘンな石だな?まぁ、ただの石ころ。ってわけでもなさそうだし、これで手打ちにしてやるよ。」

 

人修羅は、残っていた魔石を全て少女に捧げ、許しを得た。

 

「おっと悪ぃ、自己紹介はまだだったな。私は霧雨魔理沙。霧雨魔法店の店長にして、幻想郷の魔法使いだ。お前は?半裸タトゥーヤロー。」

 

──半裸タトゥー?げんそうきょう?

 

 幻想郷、半裸タトゥーヤロー、という言葉に思わず反応してしまいそうになったが、ここは堪えて、まずは成すべきこと、自分を名乗らなくてはいけないと、人修羅は気持ちを切り替えた。

 

「俺は──」

 

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