真・東方夜想曲 -マニアクス-   作:青葉那由多

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12話 燃える竹林

 人修羅が里を発ち、既に1時間ほど経過していた。ただの通り道というだけで、ほとんど手が加えられておらず、やや凸凹した歩きづらい道を通り抜ける。

 

 その先は、道が更に険しく、それなりに視界の確保ができた草原とは代わって、雑多に生い茂る木々に囲まれており、見通しが悪い。

 

 森、という言葉がふさわしいこの場所は、昼間だというのに薄暗く、先の見えない不気味な風景が広がっていた。ふと振り返って見ると、先程まで歩いていた草原は影も形も無く、細い道と、ただ木々だけがそこにあった。

 

 ここまで、人修羅はずっと歩き詰めだったが、人並み外れた悪魔としての肉体を持つ彼にとっては、大した事ではなかった。

 

 妖怪避けのマガツヒを時折放ちつつ細い道をなぞって、森を無心でひたすら進んでいく。すると、木々の他に、大きく伸びた竹が散見されるようになった。これは、目的地である迷いの竹林に、もうすぐたどり着けるという証明だった。

 

 進めば進むほど、森に混じっている竹の割合が少しずつ増えていく。その光景を見ている人修羅は、かなり長い間歩き続けている事を自覚した。

 

 永遠亭というのは、優秀な医療機関であるらしいが、一般人にとって、妖怪という脅威にさらされたまま、何時間も歩き続けてまで向かう価値があるのだろうかと人修羅はふと思う。

 

──回復の泉が、そこの一つしかなかったら自分もそうするか...?

 

 永遠亭は、人里の町医者では治せないような怪我や病気でも治せてしまうらしい...ということを聞いていた彼は、ボルテクス界に存在した、『回復の泉』という施設の存在を想起した。

 

 少数の仲魔以外に特にこれといった協力者を持たなかった人修羅は、あらゆる悪魔に分け隔てなく癒しを施すその施設に大いに世話になっていた。永遠亭というのは、幻想郷の人々にとってそんな存在かもしれない。

 

 そんなふうに思案しながら歩いていると、生い茂っていた木々はもう、背の高い竹に成り代わっていて、まさに竹林、という言葉がふさわしい景色が広がっていた。

 

 人修羅は竹林の案内人をやっている慧音の親友の住処はすぐそばだろうと考えながら歩いていると、突如として周囲から竹が消え失せ、開けた場所に出た。

 

 確実に何かがある。今までの経験からそう判断した人修羅は、体を引いて注意深く辺りを見回す。円形に広がっているようだが、そこまで広くはない。先の方にはまた、竹が生い茂っているのが見える。

 

 地面は黒ずんでおり、身を屈めて観察してみると、何かが焼けた跡地のようで、大量の煤が混じっていた。何か...と言ったものの、森に入ってからは草木と土しかなく、この周囲には竹しかない。

 

 つまり、何かがあってこの場所の竹が焼き払われた結果、この開けた場所が生まれたのだろう。周囲を警戒しつつも、人修羅は焼け跡の中心を通り抜けようとする

 

 その瞬間、焼け跡の向こうの竹林から人影が飛び出す。同時に、鋭さを感じさせる、やや低めの女性の声が人修羅を呼び止めた。

 

「よう、変なカッコの兄ちゃん」

「......」

 

 声の主である、地面すれすれまで伸びた白い髪が目を引く少女?が、人修羅の前に降り立った。少女?は、白いシャツを着た上半身に対して、対して作業着のようなゆとりのある紅いズボンを履いており、紅白に彩られている。

 

 対して人修羅の恰好は、上半身は歴史を感じさせる昔ながらの和服。だが下半身は丈が短く、肌にフィットした縫い目の少ない近代的なショートズボンであり、さらけ出された肌には蛍光色の刺青のような奇妙な模様が走っている。「変なカッコ」と言われても仕方のない姿だ。

 

 人修羅は黙ったまま、彼女を見据えている。霊夢と同じぐらいの身長に、まだ幼さが残っている『少女』といった顔つきだが、人修羅を見据える視線は鋭く尖っており、貫録を感じさせる。何の目的で声をかけてきたのかは判然としないが、彼女も人外の類なのだろうか?

 

「喋らないし顔色も全然変わんないけど、聞こえてんの?」

 

人修羅の感情が読み取れない対応に、少女は痺れを切らして詰め寄ってきた。空気を悪くしたいわけではないので、彼女の問いには一応頷いておく。

 

「まぁいいか、さっきからヘンな気を振りまいてんの、兄ちゃんだろ?こんなとこで何やってんの?」

 

 眼を細くして、人修羅を睨みつける少女。明らかに怪しまれている。妖怪との争いを避ける為にマガツヒを放出していたのだが、人間に近い知性などを備えている相手には、敵対行動と捉えられても仕方がない。

 

「藤原妹紅という人物に用があってここに来た。妖怪の相手をする暇が無くて追い払っていた。」

「へぇ...藤原妹紅ってヤツに会いに来たのか。ふ〜ん...なるほどね。」

 

 最小限に済ませたシンプル極まりない弁明をする人修羅に、少女は納得しているようで、どこか疑念も抱いている、半信半疑のようだ。

 

「まぁその妹紅ってやつに逢いたいのは分かったよ。でも何でわざわざ歩いてきて妖怪がどうのって言ってんの?飛べばそもそもそんな雑魚に絡まれないでしょ」

「......」

 

 少女にそう言われて、彼女が現れたときの事を人修羅は思い返した。焼け跡の向こうの竹林から”飛び”出てきた。そして、彼女の口ぶりから察するに、里の人々や外来人のような、力を持たない人々以外は、空を飛ぶことができて当たり前の世界らしい。

 

「何?」

「飛べない...」

 

少女は土まみれの人修羅のスニーカーを見やった。

 

「...マジで?」

「マジ」

 

 切実さが伝わったのか、少女はひとりでに頭を押さえながら、「マジかぁ~」と唸っていた。どうやら誤解は解けたようで、人修羅は一息つけそうだった。しかし......

 

「ところでさ、雑魚を追い払えるぐらいには強いんだよな?」

 

 和解ムードから一変、少女がやや興奮気味な様子で詰め寄ってきた。その様子と口ぶりから、人修羅はある想定をした。出来れば違っていて欲しいと思いつつ、相槌を打って続く言葉を待った。

 

「いやぁ...ここって何にもない場所だろ?私はずーーーっとここら辺に住んでて、暇すぎて刺激のない毎日なんだよ」

「......」

 

「だからさぁ、なんか刺激が欲しいっていうか......。お前、いい時に来たよなぁ...。なんかピリピリした雰囲気出してきちゃってさ、私もなんかその気になってきたっていうか。」

「......」

 

人修羅は黙ったまま、結論を待つ。

 

「あぁもう!回りくどいのはナシだ。私と殺り合わないか?乗ってくれたら、私が妹紅ってやつのところまで案内してやるよ!私はこの辺詳しいからな。」

 

 結局、人修羅の想定通りの流れになってしまった。悪魔になって暫くした頃から、名声?が轟くようになってしまい、自分の身の安全よりも、闘争の快楽を求める好戦的な悪魔から挑戦を吹っ掛けられることがそれなりにあった。

 

「考えさせてくれ」

 

 妹紅の元に案内してもらえるという対価はある。しかし、永遠亭にたどり着いてから何が起きるか予測が付かないため、力を温存していたい。人修羅は少女を静止して一人考える。

 

 自分はこの世界の知識が圧倒的に足りない。人外などにとってメジャーな移動手段らしい、飛行能力も持ち得ていない。慧音からも妹紅という人物の居所については漠然としか教えられていない。今の人修羅には、ない。ばかりだ...。

 

「......やるか」

「おう!」

 

 結局、妹紅という人物に会うことができなければ、元も子もない。漠然と行動し続けるよりかは、少女の誘いを受けて妹紅の元へ案内してもらうのが一番確実であると決め、少女に応じた。

 

「じゃあ早速行くか!」

 

 少女は気合を込めて飛び上がり、闘志を漲らせた。それに呼応するかのように、彼女の体から炎が揺らめき、周囲の温度が急上昇する。

 

 彼女が身に纏う炎によって、日光が遮られて薄暗かった竹林に明かりが灯り、黒ずんだ煤混じりの地面が照らし出される。そこで、人修羅は理解した。この焼け跡は、以前に彼女がひとしきり焼き尽くした名残りなのだろうと。

 

「一つ言い忘れてた...」

 

少女は炎を纏ったまま浮遊状態で停止し、人修羅に言い放つ。

 

「私は、『死なない』から殺す気で来い!!!」

 

 その宣言に続いて、少女は身に纏った炎を武器に、不死鳥のごとく人修羅に突撃する。彼女の発言の意図も理解できぬまま、人修羅は反射的に身を逸らして突撃を回避する。

 

「...!」

 

 しかしその瞬間、炎の勢いが増したことによって、完全な回避は阻止されてしまう。身をかすめた炎は、人修羅が身に着けていた和服に引火する。

 

 人修羅は反撃とばかりに、右手を振り払い、少女に向かって何かを行おうとするが、炎によってかき消されてしまったのか、少女の周りに一瞬だけ、泡が浮かんで弾けるという現象しか起こらなかった。

 

 引火した火は瞬く間に和服を走り回り、人修羅は、身を炎に包まれてしまった。

 

─────────────────────────────────────

 

 男に着火させた火は、激しく勢いを増し、全身に回っていた。男だったものは、炎の塊と化していて、人影もはっきりと見えない。呆気なく燃え盛るその光景に、少女は思わず立ち尽くして呟いた。

 

「やりすぎた...?」

 

 

──呆気なさすぎるだろ...。さっきまでの威勢はどうしたんだよ...。

 

 喧嘩を買ったのは向こうの方ではあるが、ふっかけたのは自分である。そのため、少女は目の前の光景に罪の意識を感じずには居られなかった。

 

 手遅れかもしれないと思いつつ、冷や汗をかきながら炎のもとへ駆け出して、消火を試みる。

 

 彼女は炎の魔法を扱うことができるが、魔法で生み出した炎によって引き起こされた現象自体まで抑えることはできない。

 

 少女と男が出会ったこの場所も、以前少女が殺りあったときに引火させてしまい、消火することができずに燃え広がってしまった為に出来ている。騒ぎを聞きつけた永遠亭の人々が必死で消火活動を行い、どうにかこの範囲で済んでいた。

 

 嫌な記憶のフラッシュバックによって顔を顰めていた彼女だったが、持てる全てを使って人修羅を包む炎を払った後に、一気に生気を失った表情になってしまった。

 

「いない...。そんな......嘘だろ!?」

 

 そこには、灰と煤以外に、何もなかった。その光景に少女が愕然としたその瞬間、激しい衝撃と共に視界が意志に反して、大きく揺れ動く。

 

「がっ!う...!?」

 

 遅れてやってきた痛みによって、彼女の顔は苦痛に歪む。動転する気を抑えて、どうにか状況を理解しようと試みる。その場から身を引き、視点を動かすと、彼女の表情はまた驚愕に染め上げられた。

 

「お前...!」

 

 彼女の視線の先には、火達磨にされて、灰燼と化したはずの男が直立していた。自分の認識では、確かに火達磨になったはずであり、その姿に彼女は当然、困惑した。

 

 彼が身に纏っていた和服は跡形もなく消え去っているが、彼の身体は所々に煤が付着して黒ずんでいるだけで、目立った外傷は見られない。

 

──ピンピンしてるじゃん...。私が見たあの消し炭はなんだったんだ?

 

 その姿に、少女はいったい何が現実なのかと自分の認知を疑い出す。同時に、まだ痛む身体を抑える。彼女にとってこの痛みは本物で、その先に立っている彼の姿が幻だとは思えない。

 

「幻...!?でも、いつからだ...?」

 

 そこに思考が至った時、彼女はこの不可解な現象に対する手がかりを得て、思わず呟いた。彼女は自分の記憶を辿って、関連する彼の行動を導き出そうとする。

 

──ていうかこいつ、空は飛べないくせに魔法?は使えるのか...。魔法...。魔法...あの時か?

 

 少女が行きついた彼の行動、それは彼女の攻撃を躱しきれず、衣服に引火した直後に取った行動である。右手を振り払った後、一瞬だけ自分の視界が弾ける泡に包まれた。その時、自分は正気を失ったのだろうと、彼女は身に起きた出来事を理解した。

 

─────────────────────────────────────

 

「ッ...!」

 

 人修羅は、突撃の直撃こそ避けたものの、少女の体から溢れ出た炎が、身に着けていた和服に引火してしまう。魔法?の炎...ということで、何か特別な力でもあるのか、簡単には消火出来そうにないと、直感が告げている。

 

 炎の消火を行う時間を稼ぐため、咄嗟の判断で、少女の一時的な無力化を試みる。人修羅は身を炎に焼かれながらも、一瞬で意識を右手に集中させ、それを無造作に振り払う。

 

 半透明な魔法の泡の渦が彼女の目の前に描かれ、一瞬ではじけ飛ぶ。魔法の泡自体に物理的な攻撃力はなく、一瞬の出来事だったので、少女が警戒することはなかった。

 

 彼女は反撃することはなく、様子もオカシくなっている。試みは成功したようだった。無力化を確認した人修羅は、身にまとわりつく炎の消火活動を急ぐ。

 

 

 両手を交差して身体に流れる力を、身体の奥底へ集中させる。そのまま地面に座り込んで足を伸ばすと、大きく息を吸い込み、肺に流れる空気とマガツヒの流れを感じ取る。

 

 以前シキオウジに対して振るったものとは逆の性質の...つまり、冷気を纏った魔力を創り出し、肺に取り込んだ空気と融合させる。

 

 そして、その融合が頂点に到達した瞬間、顎を大きく開き、口内をさらけ出す。それと同時に、悪魔の肉体を一時的に凍結させうるほどの冷気の奔流が吹き出した。

 

 放たれた冷気の奔流は、その勢いのままに、まとわりついていた炎を、冷気と空気の強い流れでかき消していく。その勢いによって、消し炭になってしまった和服だったものから煤が舞い上がり、人修羅の体を黒く染めていった。

 

 消火するには冷気と衝撃が少々過剰で、自分の力で生み出した冷気にもかかわらず、体の一部が凍傷を負ってしまった。

 

 数日前の鈴奈庵異界化事件の際に、撃破した悪魔から手に入れた魔石を取り出して使用し、熱傷と凍傷を癒す。同時に、一旦無力化している少女の状態を確認する。

 

 彼女は驚いた様子で、何も無いところに向かって駆け寄っている。どうやらまだ混乱状態は継続中のようだ。まだ行動の自由を得られていると確認した人修羅は、最後の行動に出る。

 

 彼女の方へ体を向けると、ゆっくりと歩み寄りながら、全身に行き渡る力の流れを、右手の拳を強く握ることでそこに集中させる。拳に力を込めたまま、射程圏内へと歩き出す。

 

 今だ混乱の只中にある少女を捉える。そして、『気合い』を込めた拳を無造作に打ち出す。放たれた拳は、強い衝撃力を伴って彼女の身体を穿ち、彼女を数メートル吹き飛ばした。

 

 『気合い』を込めた事で、拳の威力は倍以上に強化されている。並の悪魔なら、一撃で消し飛んでもおかしくはない。人修羅はこの一撃からは、相応の手ごたえを感じていた。

 

 しかし、手応えとは裏腹に、少女は苦痛に顔を歪めはしたものの、直ぐに立ち上がり、逆に拳の衝撃で正気を取り戻していた。攻撃が効いてない訳ではないはずだが、人修羅は不可解な感触を覚えていた。

 

 

 

「意外とテクニシャンなんだな」

 

完全に復活した少女が、やや語気を荒げて人修羅に言い放った。

 

「そういうわけでもない。殴る方がまだ得意だ。」

 

 謙遜している訳ではなく、事実彼は魔法の扱いにはそこまで長けていない。魔力が弱いという訳ではないが、端的に言うと制御が下手で、基本的には力まかせにぶつけることしか出来ない。

 

「まぁ、確かに効いたな...。結構やるじゃん」

 

 とは言いつつも、わざとらしく肩を回して見せるその姿からは、とても余裕があるように感じられる。本当に効いていたのかと、人修羅は疑念を抱いて僅かに目を細めた。

 

「今回は久々に楽しめそうだ!」

 

 少女は興奮した様子で笑みを浮かべる。高鳴る心と同期して、またしても身に纏う炎が吹きあがる。それとほぼ同時に、地を蹴って大きく飛び出し、一気に距離を詰め、人修羅に向かって勢いよく炎を纏った膝蹴りを放つ。

 

「はぁっ!」

「ッ...!」

 

 人修羅はそれを右手で受け止め、鍔迫り合いのような状態で双方が見合う。物理的な衝撃自体は受け流すことができたものの、少女が纏う炎は、じわじわと身体を焼いていく。彼女を引き離すべく、人修羅は左足を振り払うように放ち、後退させた。

 

 しかし、少女はすぐさま間合いを詰め直し、今度は炎を纏った拳を人修羅に向かって叩きつけた。打ち込まれる拳の速度は素早いが、シンプルな動作であるため見切りやすい。

 

「ちっ...!ぐうっ!!」

 

 人修羅は命中する寸前で拳を左手で掴み上げて彼女を拘束。絡みつく炎に耐えながら、空いた右腕を叩き付け『反撃』を行った。彼女は苦悶の声を漏らしながら、受け身も取れず後ろ向きに地を転がっていく。

 

 数メートル転がったところで、彼女は流れを断ち切るかのように飛び起きた。かなりの勢いで吹っ飛ばされたので、白いシャツは破けている上に煤まみれになっている。

 

 殴られた箇所は内出血を引き起こして腫れあがり、転がって地面を強く滑った体のあちこちには擦り傷ができている。やはり、攻撃が効いていないようには見受けられない。

 

「痛ってぇな...ぁ!」

 

 だが、少女はそんな怪我など気にせずに、またしても人修羅目掛けて飛び込んでくる。武術などといったものとほど遠く、やれるようにやるだけの人修羅と少女の戦いは、傍からみるともはや喧嘩のようである。

 

─────────────────────────────────────

 

 人修羅はいくら攻撃を受けても対処して反撃し、少女はそれでいくら吹き飛ばされようと立ち上がり、また果敢に挑んでいく。

 

 少女は突撃した勢いのままに手足を振るい、それに都度人修羅が応戦し、殴り、あるいは蹴り飛ばすという華やかさのかけらもない攻防が、延々と繰り広げられた。

 

 

 人修羅は昼下がりにこの場所にたどり着いたが、もう日が落ちそうな時刻だった。薄暗い世界を、少女の炎が照らし出し、二人の戦いが激しい影を周囲に映し出している。幻想的な光景にも思えるが...

 

──いつまで続く......?

 

 いくら人修羅の領分である肉弾戦でも、進展も後退もない状況が続けば、心身ともに疲弊する。おまけに、彼女に組みつかれるたび纏わりついてくる炎による火傷が、魔石を1回使用していくだけでは癒せないできないレベルまで蓄積していた。

 

 応戦する人修羅の心に、こんなことをするためにここに来たのではないし、いい加減終わらせたいという焦りが生まれ始めた。

 

「......そろそろ良しとするか」

 

 

 戦いの様子から人修羅の焦りを読み取ったのか、少女はありがたくも戦いの終わりを予感させる言葉を呟いた。長時間の戦闘から解放され、やっと目的を果たせると気が緩みそうになる人修羅だったが、続く言葉に直ぐに意識を締め直した。

 

「これで終わりにしてやるよ!!」

 

 少女はその場で飛び上がって力強く宣言する。そして、少女の身体に纏う炎の勢いが爆発的に上昇する。実際、その光景は爆発そのものだった。溢れだした炎は、まるで不死鳥のような姿を描き、羽ばたきによって炎の嵐が吹きあがる。

 

 考えるまでもなく、最後の大技。不死鳥の姿で揺らめく炎によって、接近することもままならない。このまま先程のように飛び込まれたら、人修羅はひとたまりもないだろう。

 

──氷の息(アイスブレス)では対抗できそうもない...もう少し力が残っていれば...

 

 燃え盛る不死鳥を止めるには、空気中の水分ごと瞬間凍結させうるような...絶対零度の冷気を操る術でもない限り不可能だろう。彼女の攻撃がまともに直撃すれば、天に召される可能性もありうる。

 

 戦闘を行う前に少女が言い放った言葉を反芻するものの、悪魔とは違う幻想郷の住人には、極力手を下したくなかった。一方、少女は完全にスイッチが入ってしまっており、躊躇う様子の人修羅などお構いなしのようだ。

 

──殺す...しかないのか?

 

 相手の生存を考えないのなら、打つ手がない訳ではない。こんなところで終わる訳にはいかない。絶体絶命の窮地に、彼女を犠牲にする決心を固め、悪魔としての力を最大限に解放した。

 

 人修羅は瞳を閉じ、首を大きく後方に逸らせ、後頚部から突き出た黒い三角錐状の器官に全ての力を送り込む。人修羅の体内のみならず、空気中からもマガツヒを無理矢理吸収し、高まった力が、三角錐の頂点から閃光を迸らせる。

 

──もう引き返せない...

 

 少女が爆炎を纏ってこちらに飛び込んだ瞬間、それを叩き伏せるように、逸らした首を前方に大きく突き出して、現在の人修羅が持てる力を全てかき集めた、魔弾を頭部から発射した。

 

「あっ...う......あああああ!」

 

 かつてないほどの力を圧縮した一撃が、少女の身体を貫いた。しかし、それでも彼女が消し飛ぶことはなかった。やはり、不完全な状態では威力が足りなかったのだろうか。

 

 人修羅の瞳に、胸に大穴が空きつつも、こちらに向かって飛び込む少女が映る。その光景を最後に、視界は暗転した。

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