真・東方夜想曲 -マニアクス-   作:青葉那由多

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滅茶苦茶設定回です


14話 現れた存在

 八意永琳は、幻想郷の外れにある迷いの竹林の深部で、永遠亭という診療所を営んでいた。医者としての腕はもちろんのこと、薬剤師としては、『天才』という言葉すら不十分な程の『知恵』を有し、まるで神話のような薬品を創り出す事が出来てしまう。

 

 そんな彼女は、はるか昔──まだ月の世界に都が存在せず、のちの月の民がまだ地上で暮らしていた頃、決起したツクヨミの誘いを受けて月へと渡った。

 

 彼女はその才覚を持ってして月の都の創設に多大なる貢献を果たし、人々から『賢者』と讃えられていた。

 

 しかし彼女は、度重なる研究の末、『蓬莱の薬』という、飲んだものが不死の存在、『蓬莱人』へと変貌を遂げる禁忌の霊薬を創造してしまう。

 

 彼女は当時、教育役として接し、親しい関係にあった月の民の娘、蓬莱山輝夜へと霊薬を譲渡し、輝夜はそれを使って蓬莱人となった。

 

 月の民から蓬莱人へと成り代わった輝夜は、禁忌に手を染めたとして極刑に処される。

 

 しかし、不死の存在である蓬莱人となっているためそれは意味を成さず、月の民は解決策として彼女を地上へと追放することを選択した。

 

 そして、蓬莱の薬を創り出した張本人である永琳は、これまでの多大な功績と、彼女自身は未だ月の民であることから刑を免れた。

 

 だが、輝夜の追放刑が執行された後、彼女も後を追うようにして月の都から姿を消した。

 

 実は、蓬莱の薬を創り出したことも、輝夜にそれを飲ませたことも、すべては二人が企てた計画のうちだった。

 

 輝夜はいわゆる『箱入り娘』で、外の世界...地上に対する憧れが人一倍強かった。彼女は、教育役として派遣された永琳と交流を重ねるうちに、蓬莱人になることができれば、追放という形で月の都から離れられるのではないかという考えを持つようになる。

 

 問題は永琳がその計画に乗じるかどうかという点だった。彼女は月の都の指導者の一員という重役であり、賢者と讃えられたその功績をみすみす手放すというのも考え難い。

 

 だが、永琳は月の民から賢者として慕われていたものの、指導者であるツクヨミと同じ天津神が、国津神から譲り受けた世界である地上を蔑むという月の民の傲慢な姿勢に少しずつ愛想を尽かし、徐々に月という世界から心が離れていた。

 

 

 古き時代、後に月の民の主となるツクヨミらを生み出すことになる天津神らが住まう世界である、高天原から地上に降り立った際、そこには既に地上の神々である国津神たちが存在していた。

 

 秩序というある程度の結束関係があった天津神に対し、国津神は多種多様な存在であり、地上は混沌としていた。しかし、その混沌の中でも、それぞれの繋がりがあり、それが悪だとは言い切れなかった。

 

 だが、天津神は国津神たちに取って代わって地上を手中に治める事を選んだ。先述の通り、国津神は天津神らに比べて纏まりが無かった。

 

 天津神に従おうと考える者、徹底抗戦を唱える者、そもそも興味がない者など、戦国時代の日本の如くバラバラであった。

 

 結局、徹底抗戦を唱えた国津神である『まつろわぬ神』たちは、天津神の連携の前に敗れ去り、その姿を眺めていた他の国津神らは、天津神に地上を譲り渡す事を迫られた。

 

 こうして地上は天津神のものとなり、敵対した『まつろわぬ神』らは徹底的に貶められ、降伏を選んだ他の国津神らも、力の一端を封じられる。

 

 永琳はこの出来事からそれなりの時が経過した時代に生まれた『人間』であるが、国津神自体が滅んだわけではないため、彼らの存在を感じる機会はまだ残されていた。

 

 結局、激動の時代の狭間で生まれたツクヨミに見出され、永琳は月へと渡ってしまう。月の都という環境は薬剤師としては魅力的であったが、このような過去から、永琳は決して月の世界の思想には傾倒せず、自分を見失わなかった。

 

 そして時は巡り、地上へ降りたいという輝夜が現れた。地上の世界への想いを膨らませる彼女と触れ合い、永琳はとうとう月の民らに見切りをつけ、彼女を地上に連れていくことを決意したのだ。こうして、永琳は輝夜と共に月の都を離れ、地上へ舞い戻った。

 

 しかし、追放者である輝夜はともかくとして、これまで月の都に関する様々な重要事項に関わっていた永琳には、月の都から技術などを持ち去るのではないかと危惧されており、あわよくば連れ戻したいという願望も込めて、追手が送られていた。

 

 月の都は反逆者には容赦が無く、自身のみならず輝夜にまで被害が及ぶかもしれないと悟った永琳は、輝夜との逃亡生活を余儀なくされた。

 

 輝夜は地上の世界に目を輝かせていたが、追手に追われる日々に疲弊した永琳は、月の都との決別の意味を込めて、蓬莱の薬を再び創造して服用し、自身も輝夜と同じく蓬莱人となった。

 

 この出来事は月の都から派遣された諜報部隊によって都に伝えられ、都は騒然となった。しかし、それでも永琳という人材は都にとって重要な存在であり、追手が止むことは無かった。

 

 そのような日々を繰り返しながら時は流れた。ある時、永琳は輝夜を連れ、創生されて間もない幻想郷に移り住む事を決めた。

 

 そして、滅多に人や妖怪が寄り付かないであろう迷いの竹林の深部に、月の追手からの逃亡拠点である永遠亭という屋敷を創り上げた。

 

 そこは、屋敷全体に永琳の『知恵』と技術を最大限に活用した魔法が張り巡らされており、一旦の安寧が訪れた。

 

 しかし、幻想郷に逃げ込んだことは都に把握されており、幻想郷には度々先遣隊が訪れた。そんな中、迷いの竹林の原住民だった因幡てゐという兎の妖怪が永遠亭へ侵入。紆余曲折あって、彼女も永遠亭の一員となった。

 

 そしてその後、月の都での暮らしに危機感を抱えていた都の兵士である鈴仙という少女が、彼女は永琳の捕縛部隊に志願することで地上へと降り、幻想郷へ侵入する。

 

 彼女は優れた兵士であり、仲間と連携を取りつつ、なんと永遠亭を発見してしまう。しかし、月の都と相対する勢力との戦争が迫っていると知り、危機感を抱いていた彼女は、仲間を裏切って、永琳の弟子になることで都から逃れようとした。

 

 永琳は当初、月の都の情報を探る目的で鈴仙を受け入れたが、幻想郷での日々を経るうちに、本当の師弟としての関係が芽生えていた。

 

 そして彼女はやがて、永琳から師として優曇華院という名と、輝夜からイナバという愛称を授かり、フルネームだと鈴仙・優曇華院・イナバ、とやや珍妙な名前になっている。

 

 その頃になってようやく月の都は永琳を諦め、追手を警戒する心配は無くなった。そして、永遠亭は隠れ屋敷から診療所兼薬局として姿を変え、永琳とその弟子となった優曇華院が医師としてその腕を振るうようになった。

 

 そして時は過ぎ、人修羅が幻想郷に現れる数年前に、月の都の民に強い怨みを持つ人物が、ある存在の力を借りて都を襲撃するという事件(幻想郷では異変という)が起きた。

 

 その際、抗争が激化して幻想郷に影響が及ぶことを懸念した永琳は、異変の解決に間接的に助力し、月の都との関係を清算することに成功する。

 

 

 だが、月には戻らないというスタンスは一貫しており、その後も月の民の存在を避けているのは変わらない。

 

 永い時を、このようにして生きてきた彼女だったが、人修羅が幻想郷に現れるしばらく前、月からの使者が再び姿を現した...。

 

─────────────────────────────────────

 

 障子の貼られた縁側への出入口と、板張りと畳の二種類の構造で彩られた床という、いかにも和風の屋敷といった風格を漂わせる永遠亭の一室に、ある人物が足を運んでいた。

 

「お久しぶりです、八意様...いや、八意先生」

 

 長い菫色の髪を黄色いリボンでまとめ、神々しい力を感じさせる刀を携えた凛と顔つきの少女が、永琳に対して最大限の敬意を込めて頭を下げる。

 

「貴方が直々に私の前に現れるなんて、どんな厄介ごとなのかしら」

 

 対する永琳は、恭しい態度を取る少女と比べると、何とも愛層の無い冷たい反応を示している。永琳と対面している少女は、名を綿月依姫と言い、月の都で兵士達を取りまとめる立場にある。

 

 そのような立場の人物が、空間的には隔離されているものの地上の一部である幻想郷へと直々に足を運び、永琳に頭を下げている。実は彼女は、永琳の元部下兼弟子であり、永琳が都を離れた後も、彼女を敬っている。

 

 しかし、そんな依姫とは裏腹に、永琳は冷たい態度を崩さない。実際には、再会を喜びたい感情はあるものの、依姫がこうして地上に現れているという現状が、彼女に頭を抱えさせていた。

 

「先に謝らせて頂きます。先生にどうしてもお伝えしたいことがあるのですが...それはきっと、先生が仰る通り、『厄介ごと』に他なりません。」

「はぁ...。変わらないわね、貴方も」

 

 生真面目すぎる依姫の態度に、思わず月の都に属していた時の記憶を思い返してしまう永琳だが、その表情は僅かに緩んでいる。その様子を見た依姫も、少し表情を綻ばせた。

 

「まぁ、話だけは聞いてあげるわ」

「感謝します先生。では...」

 

 永琳はぼやきつつも、要件を話すよう促した。彼女がここに来るということは、相応の事情があるということを永琳は理解している。

 

 もしかしたらそれは、否応なく巻き込まれるような事態かもしれないと考え、対策を練るための情報は必要だという冷静な判断だ。

 

「この幻想郷...あるいは隣接する世界に、『人修羅』という混沌の悪魔が現れる、という予言をツクヨミ様から預りました。」

「人修羅......!」

 

 『人修羅』という名を聞いた瞬間、永琳は先程までの面倒を嫌い、やる気の抜けた表情から一変、彼女に似つかわしくない驚愕で染まった表情に変化した。

 

「!...ご存知でしたか」

「カルトじみた経典に少しだけ載っているような存在よ、名前しか知らないわ」

 

 永琳の言う経典とは、『ミロク経典』という、悪魔を使役する術に手を染めた秘密結社、『ガイア教団』が秘蔵している禁断の書物である。

 

 ミロク経典は、混沌としたガイア教内でも異端視される派閥が信奉している存在であり、永琳はにわかには信じがたい、という表情をしている。

 

 しかし、あのツクヨミ直々の報告であるという事が、人修羅の存在は虚像ではなく本物の存在であるということを示してしまっている。永琳は少しの時間を要したものの、その事実を受け入れた。

 

「仮に本当だとして、そいつを私にどうしろっていうの?」

「それは......その...」

 

 永琳の言葉に、依姫は顔を俯かせて言い淀んだ。真剣極まりない表情はそのままだが、湧き出た汗がその顔を覆っている。余程言い出しづらい事を頼もうとしているのは、一目瞭然だった。

 

「とりあえず、言うだけ言ってみなさい」

「はい...」

 

 苦い顔をしながらも、過去の弟子にはやはりそれなりに情はあるらしく、永琳は話を促した。依姫は彼女の情に感謝しながらも、はやり浮かない表情をしている。暫く言い淀んだ後、気持ちを切り替えるように深呼吸をして、彼女は語り始めた。

 

「ツクヨミ様はその...『人修羅』の身柄を、引き渡すようにおっしゃられています」

「そいつに何か用があるってわけ?」

 

 呆れた表情で永琳が冷たく返す。もっとも、彼女が呆れているのは目の前にいる依姫ではなく、彼女にその指示を下したツクヨミに対してであるが。依姫は辛辣な対応をされながらも、目線を一切逸らすことはなく答える。

 

「そういうことになります...。」

「悪いけど、貴方たちの力にはなれないわね」

 

 永琳はきっぱりと言い切った。これは余計な事に関わり合いになりたくはないという事はもちろん、人修羅という存在が本当に経典に記されたような『悪魔』であるなら、手の打ちようがないという諦観も含まれている。

 

「......まだ何か言いたそうね」

「っ...!」

 

 これで一通りの要件は聞き出せたと思っていた永琳だったが、依姫の様子がおかしいことに気が付く。まるで、何か重大なこと...あるいは後ろめたい事を話す踏ん切りがつかないといった様子である。

 

 永琳はそんな彼女の心境を汲み取って、目で続きを促し、彼女は顔をうつむかせ、恐る恐る会話を切り出した。

 

「これは先生への私からの個人的なお願い事なのですが...」

「個人的....ね」

 

 依姫は永琳の元弟子であり、絶対的な尊敬を抱いていたが、かつての永琳の心境を察しており、月を離れた彼女を追うことはなかった。そういった依姫の人柄から、永琳は彼女の『お願い事』というのは何者かの指示などではなく、心からの願いなのだと理解している。永琳は、態度を少し和らげて、話を聞く姿勢になった。

 

 しかし、直後に依姫から発せられた言葉によって、また険しい表情へと顔色を変えてしまうことになる。

 

「どうか...どうか一度!ツクヨミ様にお会いになってください!」

「なんですって...?」

 

 これまでの永い間、彼女から月に戻るよう促されることは一度もなかったので、実質的に月へ戻れと言い放つ依姫の言葉に、永琳は耳を疑った。しかし、絞り出されるように発せられた声も、その表情も真剣極まりないため、冗談とは思えない。

 

「どうしたっていうのよ...」

 

 これまでの様子とは一変して、取り乱したような依姫の姿に、永琳が頭を抱えながら呟く。すると、依姫は心に留め込んでいたものを吐き出すかのように、永琳に訴えかける。

 

「私は...見てしまったのです...!ツクヨミ様のあのお姿を...」

「!......落ち着いて、もう少し詳細に話しなさい」

 

 彼女の発言に、漠然と感じるものがあった永琳は、取り乱す彼女を窘め、何故自分をツクヨミに謁見させたいのか、そう思った理由を話すように促した。

 

「それは...私が『人修羅』の存在を告げられたときの事でした...」

 

─────────────────────────────────────

 

 灰色の月の大地のそのごく一部に、現代の観点からすると中華風の建築様式に見える建物が無数にそびえ立ち、大都市を形成している。そこは月の都と呼ばれ、太古の日本の神々とその眷属が創り上げた、『穢れ』無き世界である。

 

 都は古風な雰囲気を醸し出しているものの、人智を超越した様々な技術が用いられており、一般人はその存在すら知覚することは出来ない。同様に、そこに住まう人々...『月の民』も、普通の人間とは異なる、様々な才覚や特殊能力を有する。

 

 つまるところ、月の都は完全無欠の大勢力であり、誇る武力もはかり知れない。そんな月の都の中でも、特に優れた能力を有し、『八百万の神々』の力をその身に降ろすことができるという、途轍もない力を持った少女が存在していた。

 

 彼女は名を綿月依姫と言い、姉の豊姫と合わせて、月の都の防衛組織である『月の使者』の指導者を勤めており、都における重要人物の一人である。

 

 そんな彼女は今、月の都の絶対的指導者であるツクヨミから直々の命を受け、彼女に謁見するべく、都を一望できる高台にそびえるツクヨミの屋敷に向かっていた。

 

「ツクヨミ様の命で、ここに参った。謁見の間に通させてもらえるか」

 

 屋敷へとたどり着いた彼女は、両開きの大扉を開き、玄関へ入り込むと、組織のリーダーらしい硬い口調で、待機していた黒装束を纏った使用人に、要件を伝える。

 

「お話はツクヨミ様から伺っております。どうぞお通りくださいませ...」

「ご苦労」

 

 使用人はいわゆる『黒子』のような格好をしており、顔も黒い頭巾と布で覆われているため表情は全く見えず、はっきり言ってかなり不気味である。しかし彼女は、そのような雰囲気を纏う使用人にしっかりと労いの言葉をかけてから、板張りの廊下を進んでいく。

 

 ──ツクヨミ様直々の招集とは、いったい何事でしょうか...?

 

 月の都の首脳陣の一員である彼女でさえも、ツクヨミと面会することは滅多にない。そのため、依姫は重要な事情の報告に違いないと身構えている。数日前に伝達された手紙には、魔法の印がされており、他でもないツクヨミ本人からの手紙であると確かに証明されていた。

 

 内容はきわめて簡素なもので、指定した日時に、屋敷にある謁見の間に足を運べ...という呼び出しの連絡のみであった。その日は奇しくも、地上から見て月が日食になる頃合いだったため、依姫は暗示のようなものを感じずにはいられなかった。

 

「失礼いたします、ツクヨミ様。綿月依姫です。文で伝えられた通り、謁見に参りました。」

 

 謁見の間へと続く大扉にたどり着いた依姫は、ざわつく胸を抑えながらも恭しい態度と所作で、ツクヨミに要件を申し上げた。

 

「通れ...」

 

 大扉の向こうから、重々しい声が響き渡る。ツクヨミは、性別という概念すら超越した存在なのか、その声には男女という区切りは感じられず、どちらとも捉えられるようなものだった。

 

「はっ...!」

 

 ツクヨミの声を受けた依姫は、一度その場で跪いて返答してから立ち上がり、姿勢を正して大扉を開く。これまで中華風だった屋敷の内装とは異なり、タイル状の石材で創り上げられ、いくつもの石柱がそびえ立つ、無機質な神殿のような空間が広がっていた。

 

 依姫は無礼のないように、美しく歩幅が揃えられた歩みで、ゆっくりと神殿を進んで行く。奥部には舞台のように段が上がって幕が架かった場所があり、影が映し出されている...。その向こう側に、ツクヨミが佇んでいることが分かる。

 

「お伺いに上がりました、ツクヨミ様」

 

 依姫は内心に畏れを抱きながらも凛とした眼をもって、はっきりとした声色で壇上のツクヨミに声を掛ける。

 

「よくぞ参った...」

 

 ツクヨミが依姫にねぎらいの言葉をかけると同時に、自身を覆い隠していた幕が上がり、彼女の全貌が晒される。それは、途轍もない姿であった。黒装束の使用人と似た系統の着物を羽織っていたが、それだけのため、身体が晒されている。

 

 だが、その体は、銀河を映し出すスクリーンのようになっており、まるで宇宙が人の形を取っているかのような風体で、ただの人間が相まみえたとするなら、その姿を見ただけで正気を失ってもおかしくはない程の、人知を超越した神話級の姿だ。

 

「お変わりないようで...」

 

 だが、依姫は動じることなく応対する。彼女にとっては、ツクヨミの姿は見慣れた物であり、むしろその姿に宇宙の神秘を感じ、美しいとさえ思っている。そんな彼女は、ツクヨミの前で跪き、続く言葉を待った。

 

「汝も息災であるようだな。...急ぎではあるが、要件を述べさせてもらおう...。依姫、面を上げよ」

「はっ」

 

 依姫は跪いたまま力強く頷き、ツクヨミの命に従って顔を上げるが...

「...!......?」

 

 視線の先に映りこんだモノに彼女は言葉を失い、凛としていた表情を驚愕の表情に塗り替えた。信じがたい光景を目撃しているかのように、沈黙したまま震える瞳で『それ』を見つめ続けている彼女の身体には、汗がにじみ出ており、感情がぐちゃぐちゃにされるような、言いようのない恐怖を感じていた。

 

 依姫はどうにかして言葉を絞り出すが、その声はほとんど悲鳴のようなものだった。居ても立っても居られなくなり、彼女は両手を合わせてへたり込む。一体何を目撃したのだろうか?

 

「...やはりこの次元の存在には、私の姿はまだ受け入れられないようだ」

「ツクヨミ...様?」

 

 先程までの、感覚に直接語りかけるような超自然的なものではない、低く芯のこもった男性の声が響き、依姫は思わず言葉を漏らす。

 

 彼女の視線の先には、月の満ち欠けを象った青磁の大鎌を携える、紺の衣が身体と一体化した、まるで忍のような風流な姿の『ツクヨミ』の姿があった。




 珍しく人修羅が出ない回になりました。メガテンに詳しいだけで神話とかは詳しくないというタイプの人間なので、明るい人が読んだら正直かなりたどたどしい内容だと思います。

 あと、最後の方は滅茶苦茶超展開でごめんなさい。伏線のようなものも匂わせにもならないぐらいにしか張れなかったので...。感想とか頂けると幸いです。
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