真・東方夜想曲 -マニアクス-   作:青葉那由多

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16話 謎の人物たち

 先ほどまでの騒がしい雰囲気から一変して、鬱蒼として静まり返った森の中を、人修羅は黙々と突き進んで行く。八意永琳(やごころえいりん)の知恵を借りるという目的を達成し、帰路についている途中だった。

 

 一度通った道は脳内の地図に記録されているため、常人では現在地を見失い、遭難してしまいそうな見通しの悪い場所でも、全く足を止めさせるには至らない。彼は無造作に体を走らせつつ、永遠亭で得た情報に思考を傾けていた。

 

──本当に...帰れるのか...?

 

 元の世界へ帰還する手段はあるのかという人修羅の問いに、永琳は月の都と手を組めば可能性はあるという答えを残した。しかし、月の都のツクヨミは、何らかの理由で人修羅の力を求めているらしい。

 

 交換条件と言えば聞こえがいいが、その力を利用され続けてきた人修羅には、あまりいい情報ではなかった。仮に協力するとしても、現状は物理的にも概念的にも独立したその世界に接触する手段がない。

 

 おそらく永琳にはそれができるだろうが、彼女は今のこの平穏を望んでいるため、否応なく何らかの変化をもたらす人修羅の行動に、力を貸してくれることはないだろう。人修羅自身も、この世界に、大きな影響を与える行動をするのは控えたかった。

 

─手段を選べるのか...?俺は...

 

 ボルテクス界において、人修羅は立ち塞がる全てを薙ぎ倒し、否定することによってしか自分の意思を貫くことが出来なかった。その過去から、手段などを選べる立場ではないのかと考えこんでしまう。

 

─もう里か。

─.........?

 

 考え込んでいるうちに、里の住人にとって魑魅魍魎が跋扈する恐ろしい世界である外と里を隔てるために設置された里の外壁、そこにいくつか設けられた通行用の門にたどり着いていた人修羅は、妙な感覚に立ち止まり、周囲の状況を確認した。

 

「あ...」

 

 彼にしては珍しく、やや間の抜けた様子で思わず言葉を漏らしながら、体に手をやった。なぜそのような反応をしてしまったのか、それは彼の姿を見れば一目瞭然だった。

 

 彼は、上に服を着ていなかった。彼が身に着けているのは、悪魔の『身体』として一体化したショートパンツとスニーカーのみであり、全身に走った発光する模様が存在感を際立たせている。

 

 とはいっても、これが悪魔としてのスタンダードな姿であり、幻想郷に流れ着いた際もこの姿であった。しかし、一般の人間や、それに近い感性を持つ妖怪が多いこの世界では、この姿は悪目立ちする。ということで、里の呉服屋で購入した和服を身に着けていたのだが...

 

─消し炭になったんだったな...

 

 炎を纏う不死身の少女、藤原妹紅(ふじわらのもこう)との戦いによって身を焼かれ、その際に身に着けていた衣服は焼却されてしまっていた。一体化した部位以外には衣服を身に着けていない状態が通常になっていたので、目覚めた際に服がなくなっていても気がついていなかった。

 

─このまま入るのは...やめておくか。

 

 先ほどから注がれている門番の気まずい視線に、人修羅はまずは服を用意してから里に入ろうと考えるが、あいにく手持ちの服はなく、商業施設は中央寄りに配置されているので買うまでには少々距離があり、その間にちょっとした騒ぎになってしまうだろう。

 

─そういえば...里の外にも店があるらしいが...

 

 以前解決した妖魔本騒動の際に、その妖魔本は魔法の森の入り口に佇む『香霖堂』という、半妖の店主が営む雑貨店から仕入れたものであるらしいということが分かっている。

 

─寄ってみるか...

 

 雑貨店であれば日用品の類も少しは扱っているはずだという考えと、半妖である店主にはこの姿を大目に見てもらえないだろうかという願望が、人修羅の足を魔法の森へと突き動かしていた。

 

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─距離があるな...

 

 魔法の森の入り口近くという、広い魔法の森からすれば比較的浅く、人里に近い地域ではあるものの、迷いの竹林に接続する森とは方向が正反対であり、この格好では里を通過することも憚られる。

 

 そのため、まずは大回りして人里の反対側に移動し、そこからさらに魔法の森へ向かって進んでいかなければならない。人修羅は身のこなしが軽く、素早い動作でありながら正確な行動を繰り出す事ができるが、走力があるというわけではない。

 

 悪魔の身体とそれに秘められたマガツヒの力によって到底人間とは言えない動作を行うことが出来るが、移動能力に関しては例外である。

 

 もちろん常人を凌駕する走力と持久力を兼ね備えるものの、翼を持つ悪魔や飛行能力を有する幻想郷の魔法使いや妖怪などといった存在には劣り、飛行することも出来ないので、空中に存在するなど、物理的に隔離された場所には自力で行くことが出来ない。

 

 目的地としている香霖堂は魔法の森の森にあるが、人里を通ることができないためさらに距離が開いており、人修羅と言えどもそれなりに時間がかかる。

 

 元々時間にはルーズで、今も時間がかかること自体はどうでもいいと感じている人修羅だが、外で時間をかけすぎると、また何かに巻き込まれるのでは...という懸念があった。人修羅は、人里が存在することや、知り合った妖怪の性格からボルテクス界よりは優しい世界だと感じていたが、そうでもないのかもしれないと考えを改め始めている。

 

 彼はしばらくして、考えていても仕方がないと踏ん切りをつけ、魔法の森へと向かって歩き始めた。

 

─────────────────────────────────────────────────────────

 

 人里の近辺ならば妖怪に絡まれることも少ないだろうと考え、人里の外壁伝いに反対側の門がある地点を目指して歩いていく人修羅。彼は、この中を通っていけないもどかしさによって、小さいように見えた人里がとても大きな場所であるように感じていた。

 

 実際、幻想郷において大切な『人間』を保管するためのスペースゆえ、幻想郷の構築物では最も広い面積を誇る。この中でしか『人間』が生きていけないと考えるなら、この大きさはまだ小さすぎるとも言える。

 

 人間の里は妖怪が創り上げた方舟だとしても、そこに住まう人々は今を生きている本当の人間であり、外の世界の人間たちとの本質的な違いはない。本当の人間である彼らが生み出す強い感情エネルギーこそが、この幻想郷の力の源なのだから。

 

 妖怪は基本的に自己の存在を保つための糧を得るために人々を襲うが、それなりに強大な存在で糧に困らない者のなかには、道楽のためだけに人々にちょっかいをかける困った性格の者もいる。

 

 そのような者たちは、日々刺激を求めて幻想郷中を練り歩いている。広そうで意外と狭いこの世界に対して、残念ながらそのような妖怪は数多く存在する。里の外を出歩くことが多い人修羅が、そういった存在と接触するのは、もはや時間の問題だった。そして...

 

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「ッ...!」

 

 ようやく里から魔法の森へと続く道へ踏み出した人修羅だったが、突如として何者かの気配を感知して立ち止まり、気配の方向へ勢いよく振り向いた。

 

「ちぇっ、勘がスルドイなぁ...驚かしてやろうと思ったのに」

 

 その行動を残念がるような声色で、幼気な少女の声が響く。人修羅が見つめるその先には、左右非対称の赤と青の矢印のような奇妙な形状の翼?を持つ、黒ずくめの少女がおり、残念そうな表情をしつつも、人修羅に向けて好奇の目を晒している。

 

「突然ですがここでクイズ!私は誰でしょう!」

 

 姿から見て妖怪であることは間違いないであろう少女は、幻想郷の妖怪らしく浮遊しながら人修羅を見つめていたが、突然人修羅に近づいたと思うと、勢いよく宣言した。

 

「知らない」

 

 幻想郷に生息する妖怪についての知識がほとんど無い人修羅は、彼女がなんの妖怪なのか見当もつかず、これと言った興味もなかったので、切り捨てるように即答した。

 

「つまんないなぁ、変な格好のお兄さん。そうは言わずに答えてみてよ。答えないと...」

 

 しかし、少女はその反応に不満を顕にし、手にしていた三又槍を人修羅突き立てた。さすがにこんな事で争いになるのは御免だ。人修羅は少女に向かって右手をかざし、解析能力(アナライズ)を用いることで、正体を看破しようと試みた。しかし...

 

 

「...お兄さん、何してんの?」

 

詳細不明(わからない)...?

 

 結果は不明。攻撃や魔法に対する相性などが把握できないことはもちろん、彼女に至っては種族や名前さえも判らなかった。どれほど凶悪な魔王や神であっても、解析能力(アナライズ)を用いれば種族と名前程度は知ることが可能だった。というよりは、そういった存在はすでに名前が知れ渡っている事が常であったが。

 

 それに対して、彼女は一切の情報が不明。力を測るには一戦交える以外にはないが、それはしたくない。となれば外見で判断するしかないが、幻想郷の妖怪の多くは人の姿を取っているため、たとえ本来の姿を知っていようと、彼女のこの姿からは何も判断することができない。まさに正体不明といっていい存在だ。

 

 目の前でふわふわと浮かんでいる彼女の姿を見つめたり、瞳を閉じて感覚神経を集中させて気配を探るなど、能力ではなくフィジカルで彼女の正体を探ろうと試みるも、どの手段も失敗に終わった。

 

「早く答えてよ~」

 

 彼女は退屈そうに、手に持っていた三又槍をくるくると回し、脅しをかけて回答を催促した。人修羅は仕方がなく、見た目のイメージだけのあてずっぽうで回答を試みる。人修羅が出した回答は...

 

「......チン?」

「誰だよ」

 

 彼女の背中から飛び出ている奇妙な翼の形状から、『チン』という毒鳥の悪魔を連想していた。だがやはりというべきか、全然違ったようだ。少女は四苦八苦している人修羅を、先ほどとは打って変わって満たされたような表情で見つめて、笑みをこぼしている。

 

「......お手上げ」

 

 本当にわからない。人修羅は潔く負けを認め、少女の出方を疑った。お互いの間に張り詰めた空気が流れるが...

 

「っ...あっはっはっは!」

 

 その張り詰めた空気は、少女の快活な笑い声によって引き裂かれた。彼女は文字通り抱腹絶倒していて、笑いすぎた結果、涙さえ流している。一体何がそんなに面白いのかと訝しむ人修羅に、彼女は楽し気な様子で語りかけた。

 

「いや~分からないのも無理ないよ。だって私、『正体不明』の妖怪だもんっ...ふふっ。」

「そういうことか...」

 

 幻想郷での出来事の中で、スキマ空間を操るゆかりや、首を着脱して操作する蛮奇、鍛冶が得意な小傘など様々な能力を持つ妖怪に触れてきた人修羅には、彼女が正体を隠すことに秀でた妖怪である。ということがその発言で理解できた。

 

「あ、名前ぐらいは教えてあげるよ。封獣(ほうじゅう)ぬえ、ね。しっかり覚えといてよ!」

 

─ヌエ...?

 

 『ヌエ』という悪魔なら、ボルテクス界で遭遇した記憶がある。だがしかし人修羅の記憶にあるぬえは、丸っこくずんぐりした体系の、マスコットのような少々愛らしい姿の虎と猿と蛇の悪魔であり、彼女とは似ても似つかない。単純にぬえという名前なのか、それとも本当に人修羅の知る『ヌエ』の別の姿なのか、正体は分からない。

 

嘉島尚紀(かしまなおき)だ...よろしく」

 

そんな風に考えたあと、人修羅は一応挨拶の返事をした。

 

「ナオキか~。普通な名前だな~。まぁいいや、尚紀はなんの妖怪なわけ?その変な恰好、ニンゲンじゃないでしょ?」

 

 軽い挨拶が済んだところで、正体不明の妖怪こと、ぬえがまたしても人修羅に問いかける。この外見では、彼女の目に人外として映るのは当然ではあるが、人の世界に還ることを望んだ『尚紀』にとっては、少々心に来る問いかけだ。

 

「悪魔の中の魔人という分類らしい...人修羅というのが悪魔としての通り名だ」

「ふ~ん。ひょろいくせになんか強そうな名前じゃん。じゃあ私も人修羅って呼ぼうかな~。」

「好きにしろ」

 

 言われて、人修羅はこの世界でも尚紀と呼ばれることが殆ど無いという事に気づく。彼は、人修羅として生まれ変わってから、人間だった頃の自分...『尚紀』が少しずつ薄れていくのを感じていた。だからこそ、『尚紀』であるために、元の世界の再生を試みたが、結果として人間に戻るという望みは叶わず、今こうしてここにいる。このまま悪魔として力を振るい続ければ、いつかは本当の『悪魔』になってしまうのだろうか。

 

「お~い。何黙ってんの?」

「何でもない」

 

 黙って考え込んでいた人修羅を見かねたぬえが、彼の肩をペシペシと叩き、目の前の現実に引き戻した。そして、ぬえは趣に人修羅の背後に回ると...

 

「えいっ」

「...!?ッ!」

 

 首の付け根から突き出た、漆黒の三角錐状の突起を片手で掴む。人修羅は、内臓を握られているかのような奇妙な感覚によって瞬発的に手を動かし、掴んでいたぬえの手を、それなりの勢いで払いのけた。

 

「わ、悪かったって...」

「次からはやめてくれ」

「なんか大事なトコだった...?」

 

 人修羅の反応に、先ほどまで大胆不敵な態度をとっていたぬえは、ややばつの悪そうな表情に変わり、人修羅の様子を窺うように顔をのぞきこんだ。

 

「いや、知らない」

「えぇ...?」

 

 全身に走る発光模様と同じくらい目を引く人修羅の角...?だが、彼自身もどういった器官なのか把握できてはいない。強いて言えば、魔弾を発射する際にそこにエネルギーが貯められているような気がするが、確証はない。その角?は、人間の頃には存在しない器官であるためか、触られると激しい違和感が生じる。そのため、最後まで連れ添った仲魔であるピクシーにも触らないように言い聞かせていた過去がある。

 

「あのさー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「どうした」

 

 人修羅の返答に、やや気まずい空気が流れていたが、その空気を打ち破るように、またしてもぬえが話しかけてきた。どうやらまた何か質問があるようだ。

 

「ん~っと...えー...。ん~~」

 

 自分から聞きたいことがあると話しかけてきたくせして、彼女は人修羅にどう伝えるか迷っている様子だった。香霖堂に急いでいたのは、妖怪などと遭遇(エンカウント)したくなかった為であり、もう遭遇してしまった今となっては、もう急ぐ理由もなくなってしまった。人修羅は彼女が言葉を組み立てるまで、待ってやることにした。そうしてしばらく待っていると、ぬえが再び口を開くが...

 

「あのさー...白い服着たモヤシみたいな...男?どっかで見かけたりしなかった?」

「......誰だよ」

 

 どうやら人?を探しているらしいが、アバウト過ぎてまったく分からない。時間をかけてひねり出した言葉がこれなのか...という落胆から、思わず声を発してしまった人修羅を、ぬえがジッと睨みつける。

 

「ほかに特徴は?」

「えーっと...無駄に声がイイ...?あとなんかブルブル震えてた...」

 

 追加の情報を求めたものの、全く人物像が思い浮かばない。彼女の情報を統合すると、白い服を着たモヤシのような体系で、ブルブル震えながら無駄にイイ声でしゃべる人物らしいが...。

 

─...ん?いや......

 

 そんな人間いないだろうと言いたいところだったが、人修羅には少し引っかかる所があった。古今東西の悪魔が集うボルテクス界には、意外とそれなりに条件に合致している存在がいた気がするが、うまく思い出せない。なんの悪魔だっただろうか...?

 

「わからない。そもそもなぜ探している?」

 

 何かが引っかかっているが、やはり出てこない。人修羅はその人物を探す動機を尋ねることで、さらに情報を得ようとしていた。

 

「あ~!言ってなかったなぁ...!そいつはこの前魔法の森で見つけたんだけどさ、ちょっとちょっかいかけてやったら、すっごい声で「ア、アクマだぁ~~~~!!!!」って叫んですっとんで行っちゃってさ、面白くて追いかけてみたら、生意気にもあいつ、爆弾かなんかで私に抵抗しやがって、目が見えなくなってるうちに逃げられちゃったんだよ。だから見つけ出して、いっぱい仕返ししてやろうかな~って。」

 

彼の言葉を聞いたぬえは、待ってましたと言わんばかりにまくし立てた。

 

「これ以上は協力できない」

「ちぇ~」

 

 彼女の話を聞いて、また少し何かが引っかかっているような感覚があるが、やはり思い出せない。それに、人間を襲わせる手伝いをするのもあまり良くないだろう。人修羅はぬえに別れを告げ、不満げな彼女を残してその場を離れ、香霖堂を目指して歩き出す。しかし...

 

「なぜ付いてくる?」

「なんか暇なんだよね~あと、ヒトシュラも魔法の森に行くんじゃん」

 

 居なくなったと思っていたぬえが、いつの間にか彼の後をつけていた。というか、並ぶようにして真横で浮かんでいる。用があるのは魔法の森ではなくその手前にある香霖堂だが、彼女は魔法の森で例の人物を探すつもりらしく、方向が同じだからという理由らしい。

 

「用があるのは香霖堂という雑貨屋だ」

「へぇ~。なんの用があるの?あのメガネ店主と知り合いだったり?」

 

 メガネ店主というのは、おそらく店主である森近霖之助(もりちかりんのすけ)という人物の事を指すのだろうが、人修羅にはこれといった面識はない。意外にも彼は有名な人物なようで、ぬえのような妖怪もその存在を把握しているらしい。だが、今はそれは関係ない。なんとなく嫌な予感がするが、とりあえず香霖堂へ赴く理由を彼女に伝えてみる。

 

「...服を買いに行く」

「えっ...服着るの?っ...今着てないのに?ふふっ...!」

 

案の定、上半身に衣服を身に着けていないことをからかわれた。

 

「元々そういうカッコじゃないの?」

「その通りだが...」

「じゃあなんで今更服買うの?」

「人里だと目立つ」

「人里に行くタイプの妖怪...悪魔なんだ」

「なりたくてなったわけじゃないからな」

 

 香霖堂に向かいながらぬえの率直な疑問に答えていると、疲れによるものなのか、つい『人修羅』という存在に対する『尚紀』としての言葉が零れ落ちてしまった。その言葉を聞いてしまったぬえは、少々同情的な目を彼に向けた。

 

「そうなんだ......」

「...気にするな。行くぞ」

「うん!」

 

 湿っぽい話には区切りをつけ、二人は香霖堂を目指して進んでいく。その間、またしてもぬえからの他愛ない質問が投げかけられた。

 

「ファッションとか興味あるの?」

「全く」

「じゃあ私が選んであげよっか?」

「いいけど」

 

─懐かしいな...

 

 東京受胎により、嘉島尚紀が人修羅となる以前の学生時代の頃、尚紀は身だしなみを最低限は整えていたものの、本当に最低限であり、よくクラスメイト(新田 勇)からセンスのなさを指摘されて、言われ服屋に連れていかれた事もある。人修羅はぬえとの会話から、学生時代の青春?を思い返していた。

 

「ほら、あそこが香霖堂。看板あるでしょ。」

「近かったな」

 

 ぬえという話し相手がいたためか、人里を迂回する距離よりも彼女と出会ってからの道のりのほうが長いにもかかわらず、あっという間に目的地にたどり付いてしまっていた。中々に混沌とした世界であるものの、人修羅は孤独なあの世界になかった安らぎを感じていた。

 

「あ、選んであげる代わりに私がモヤシ男見つけるの手伝ってよね」

「なら断る」

「そこは仕方ないなぁ...じゃないの!?」

「いいから行くぞ」

 

 ぬえにいつの間にか協力する契約を持ちかけられそうになっていたが、人修羅はあっさりとはねつけ、香霖堂の店内とつながる戸に手をかける。

 

「ちょっとまてって!」

 

おいて行かれそうになったぬえが人修羅を静止する。

 

「ん...?」

 

 戸の向こうが騒がしくなった事によって、店内で待機していた店員?が、外に誰かがいることに気が付く。もしかしたら族の類かもしれないと警戒する店員だったが...

 

「ごめんください」

 

 店内に入った人修羅の姿は確認できないが、その声からただの利用客だろうと店員は気を緩めた。

 

「なんだ客か...............ごめんごめん、一度言ってみたか...!......あ、あれ、キミは!?」

「......!君は...」

「あっ、お前はこの前の!」

 

 香霖堂へ足を踏み入れたその直後、その場の全員に衝撃が走り、人修羅、ぬえ、店員が、三者三様の反応を取る。彼らの関係は一体どういったものなのだろうか?

 




 お久しぶりです。3か月以上お待たせした割に、箸休め的なエピソードで申し訳ないです。またちょこちょこ更新していこうと思うので、今後ともよろしくお願いいたします。感想等いただけるととても励みになります!
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