真・東方夜想曲 -マニアクス-   作:青葉那由多

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7話 強制戦闘

 人修羅は歩を進める度に、この異界に渦巻く妖力が段々と強くなっていることに気がついていた。手当たり次第に進んできていたが、幾多の悪魔の領域を踏破してきた経験と、悪魔としての本能からか、おのずと目的地へと導かれていたようだ。

 

 前衛として先導していた人修羅は、開けた空間と、その向こうにある、上階へと続く階段を発見した。小鈴と友人としての付き合いがある阿求は、小鈴は2階にある自室で妖魔本を開いたのではないかと推察を立てていた。

 

 仮にそうだとするなら、妖魔本から呼び出されたこの異界の主もおそらくそこに居るはずだ。2階の部屋を暫定的な目的地とし、まずは1階から上がる為の階段を目指す。

 

 しかし、それの発見と同時に、これまでで一番強力な悪魔の気配も察知した。人修羅は身構える。すると、その視界が薄暗くなった。何故だろうか?答えは影だ。伸びた影が人修羅を覆ってしまうほどの巨体が、人修羅の目の前に現れたのだ。

 

 牛と蜘蛛が融合したような姿をしている悪魔は、その巨体を支える、ピッケルのように長く細く尖った8本の足を何度も持ち上げて、それ地面に叩きつけて人修羅を威嚇している。

 

 巨体が多足を叩きつけるその衝撃に足を取られ、人修羅は上手く立ち回る事が出来ない。

 

──なら、地面から離れれば良い

 

 人修羅はその場で身をかがめ、衝撃波を耐えながらタイミングを見計らって跳躍。衝撃波の影響下から逃れる。その勢いのまま、巨体の悪魔の顔面を殴りつける。が...

 

「ッ!」

 

 殴りつけた拳の感覚が鈍くなっていた。そして、滲んだ痛みが遅れてやってくる。巨体の悪魔は、堅固な外殻を持っており、人修羅の拳の威力がその外殻に打ち勝つことができなかった。

 

 放たれた拳は、外殻によって逆に損傷を負ってしまった。人修羅は思わず右手を押さえる。悪魔はその隙を見逃さない。

 

 体を一度反対方向に捻って助走をつけ、強烈な勢いを乗せた体当たりを人修羅に放つ。巨体ゆえにその威力は凄まじい。

 

「ぐっ...!がぁっ...!」

 

 最高速度で爆走する車に撥ねられるような、とてつもない衝撃が身体に響き渡ると、人修羅は大きく吹き飛ばされ、壁に思い切り身体を叩きつけられる。

 

「お兄さん!」

「やられっぱなしでいいのか!」

 

 その光景に、後方で一部始終を目撃していた小傘たちが、口々に叫ぶ。体当たりの衝撃と、硬い壁に叩き付けられる二重の衝撃に、人修羅は蹂躙され、どうにか立ち上がろうとする。

 

 しかし身体に力が入らず、足はもつれてしまう。悪魔の巨体が迫る。鋭い足を横たわった人修羅の真上につけ、それを振り下ろす...。肉が潰される音が響き渡り、人修羅の身体が貫かれる...

 

はずだった。

 

 人修羅の肉が潰される鈍い音とは真逆の、重みを持った金属音が響き渡っていた。

 

「私のことを忘れてもらっては困りますね」

 

 悪魔の足が振り下ろされる寸前に、アークエンジェルが人修羅の前に立ち塞がっていた。

 

 彼は構えていた刀を、悪魔が足を振り下ろすのに合わせて思い切り突き出し、攻撃を弾き返したのだ。行き場を失った力が逆流し、悪魔は体勢を崩した。

 

 

 幻想郷に放り出された時とは違い、今はアークエンジェル、それに小傘や蛮奇といった仲魔たちが居る。

 

──仲魔...か

 

 

 人修羅は、彼らの力に頼る事を決めた。悪魔が体勢を崩している間に、人修羅はアークエンジェルに念を送り、次の行動を指示する。一瞬、指示を無視される可能性を懸念したが、彼は、若干渋ったものの、了承してくれた。

 

──いつものやつで行くか

 

 アークエンジェルに治癒魔法をかけてもらい、負った傷を再生した人修羅は、その場で腕をクロスして大きく息を吸い込み、そして悪魔に向かって吐きかけた。

 

 吐き出された息は、まるで濃霧のように靄を発しながら悪魔の周囲に広がっていき、悪魔の視力を奪った。

 

 悪魔は、怒り狂い、その場で暴れまくるが、まとわりつく濃霧によって視力を奪われているため、攻撃は明後日の方向へと放たれている。

 

「きゃーっ!」

「目が、目が回る...」

 

 人修羅には全く命中していないものの、3メートルもあろうかという巨体が力任せに暴れ回っているため、部屋全体が激しく振動する。

 

 小傘は身をかがめて鳴き声を上げた。非力な人間である阿求は、振動で倒れそうになってしまい、慌てて両手を地面につけて身体を支える。

 

 その時、阿求が持っていた蛮奇の頭が放り出されてしまい、振動に合わせてそこかしこをバウンドして、目を回してしまっている。

 

 対して人修羅は、足が振るわれるのに合わせてタイミングよく跳躍することで、アークエンジェルは翼を広げて飛行することで、それぞれ衝撃波から逃れていた。

 

「グゥ...!ウゥゥゥ...」

 

 いくら悪魔と言えど、がむしゃらに攻撃を繰り出し続ければ、疲労が蓄積していくものだ。

 

 悪魔は足を叩きつけるのを止め、大きな頭をうつむかせて荒い呼吸をしている。当然、隙だらけだ。人修羅はアークエンジェルに合図を送ると、悪魔の巨体に接近。

 

 正面からの攻撃は行わず、脇を抜け、地面に降ろされている尾の部分に走りこむと、そこを掴み上げて悪魔の身体を登っていく。

 

 そのまま背中を走り抜け、首の位置まで移動すると、そこを踏みしめ土台とすると、伸びた2本の角を全力で締め上げて、頭を無理矢理上方へ逸らさせた。

 

 その真正面には、刀を握って精神を集中させているアークエンジェル。人修羅は、悪魔を拘束することで、アークエンジェルが全神経を集中させた大技を放つことができる状態を創り出そうとしていた。 

 

「ガァァァ!!!」

 

 悪魔は頭部を締め上げられている苦痛に呻く。首を全力で踏みつけられているため、悪魔は頭を動かすことができず、押さえつけている人修羅を振り落とすことができない。

 

「ハッ!」

 

 やがて、精神を研ぎ澄ましたアークエンジェルがここぞとばかりに目を見開き、力が蓄えられた刀を、凄まじい力を込めて振るった。

 

 悪魔とは距離が空いているが、アークエンジェルの天使としての力と、刀に打ち込まれた人修羅の悪魔の力が解放され、波のように揺らめく蒼い斬撃が放たれ、悪魔を切り裂いた。

 

 人修羅はアークエンジェルの合図を受けて、斬撃が放たれる瞬間に悪魔を拘束していた手足を離し、身体を踏み台にして上方へ跳躍。悪魔だけが、激しい魔力の波に切り裂かれた。

 

「よくやった。.........?どうした?」

 

 一仕事終えた人修羅は、指示通りの行動をしたアークエンジェルを自分なりにねぎらおうと、彼に近づいた。しかし、どこか様子がおかしい。

 

「何です、このげっそりする感覚は...!」

 

 力なく呟き、手にしていた刀を地面に突き立て、膝をついて身体を抑えるアークエンジェル。悪魔の攻撃を受けていた素振りはなかったが、明らかに具合が悪そうだ。

 

「ぐっ...どうやらこの刀は、今の私には過ぎた力のようだ...。使いこなすには、鍛錬が...いや、そう単純な問題ではない気がします。」

 

 やはり天使と悪魔では力の相性が悪かったのだろうか。と、その場にいた者たちは結論づけた。予想以上に力を消耗しているらしく、アークエンジェルはこの場で回復を待つことを選択した。

 

「これ以上は私の身体が持たない。この刀は貴方に預けます。あなたたちは、先を急いでください。」

 

 人修羅に刀を預けると、自分を置いて先に進むよう促す。一行は、奮戦したアークエンジェルに礼と別れの言葉をかけてから、階段を上がり、ようやく上階へと足を踏み入れた。

 

─────────────────────────────────────

 

 巨大な悪魔が立ちはだかっていた広間を抜け、上階へと続く階段を登り切った瞬間、空間を支配する悪魔の気配が、より一層強く感じられるようになった。恐らく、二階部分は一階ほど広大では無いようだ。しかし、現れる悪魔は強力になっている。

 

 剣術など習ったことも無い人修羅は、かつての仲魔の剣技を想起し、見よう見まねで刀を扱って、立ちふさがる悪魔を切り伏せようとする。しかし、刀を扱うには、適切な知識と、繊細な技量が要求される。

 

 人修羅は、結局上手く刀を扱うことができず、拳に切り替えて悪魔をなぎ倒した。自分の体を流れる力を、物理的な力に変換して放出することと、武器という道具を扱うことはまた別の技能が要求されると思い知る。

 

 アークエンジェルは自分はあまり階級の高い天使ではないと卑下していたが、剣術に関してはやはり、少なくとも自分よりは優秀なことに間違いないだろう。

 

 悪魔である自分の力を混ぜたことによって、剣技を使用した際に想像以上に力を消耗してしまったようだが、やはり刀は彼に扱ってもらったほうが良いだろうか。元々は、彼の獲物であるし。

 

「おい、人修羅!」

 

 蛮奇が人修羅を呼び止めた。つい考え込んでしまったのか、彼女に呼び止められるまで、蛮奇たちと距離が開いていたことに、人修羅は気が付いていなかった。その声で、人修羅は歩みを止めて、開いていた距離を縮めようとするが...。

 

「.........!」

「お......い!......人......修...!」

 

 突如視界が、もやがかかったように歪み、呼び止める蛮奇たちの声も、途切れ途切れの不明瞭なものになり、しまいには何も聞こえなくなってしまった。

 

─────────────────────────────────────

 

 光で埋め尽くされていた視界が回復すると、人修羅は謎の空間に一人で立っていた。彼は、自分が先行してしまった結果、転移の罠を踏んでしまったのだと悟った。

 

 どうやら彼は、隔離された空間にいるようだ。辺りを見回しても、ドーム状の壁が広がっているだけで、出口のようなものは存在しない。こういった空間から脱出する方法は一つだと、人修羅は知っていた。

 

──ここに俺を呼んだ奴を倒す...。それだけだ。 

 

 前方に多数のに紫の雷が炸裂し、人修羅をこの空間に引き寄せたであろう悪魔たちが姿を現す。白骨死体が埋め込まれた邪悪な樹の悪魔たちが、人修羅の前方に壁を作る。

 

 その後方には、恐らくリーダー格だと思われる、巨大な骸骨が立ちはだかっていた。巨大な骸骨の悪魔は、何故か怪しい関西弁で人修羅に声をかけてきた。

 

「これはマガツヒたっぷりの美味そうな兄ちゃんやなぁ。悪いけど、ウチらのためだと思って、いっぺん死んでくれへんか。」

 

カチカチと骨を鳴らしながら、いかにも悪魔らしい要求をする骸骨。

 

「ことわる」

 

人修羅は動じることなく要求を突っぱねる。

 

「まぁそう言うと思うたわ。ま、だからって見逃してやるわけないんやけどな!!」

 

 骸骨の悪魔が啖呵を切ると同時に、妖樹たちが一斉に氷のつぶてを人修羅目掛けて発射する。ひとまず防御姿勢を取って攻撃を耐えしのぐが、一対多の状況での戦闘は、言うまでもなく不利だ。

 

 

「どんどんいくで~!......?なんやお前は!」

 

 物量に圧され防戦一方の人修羅の前に、神々しい光の柱が舞い降りた。骸骨の悪魔(ガシャドクロ)とその配下の樹の悪魔達は、その光を本能的に嫌い、大げさに身体をのけ反らせた。

 

「...!」

 

 光が晴れると、先程まで光が射していたその場所には、アークエンジェルが立ちはだかっていた。この状況下では、加勢に来たと考えていいだろう。

 

「勘違いしないでください、こうするのが最も効率が良いのです!」

 

 露骨なセリフを吐きながら、アークエンジェルは今が好機だと言うように無駄のない動きで人修羅の傷を魔法によって治療すると、何かを求めるように手招きをする。

 

「これか?」

 

 人修羅はアークエンジェルの持つ剣から創り出された、自身の魔力が打ち込まれた刀を無造作に取り出し、彼に投げ渡す。

 

「貴方の剣技は見ていられませんね」

 

 彼はまんざらでもない様子で軽口を吐きながら、投げ渡された刀を受け取り、慣れた手つきで構える。

 

「大丈夫なのか?」

 

 神聖な存在である天使のアークエンジェルとは相対する、人修羅の悪魔としての力が込められた刀を振るい続けた彼は、巨体の悪魔との戦闘で疲弊して戦線から離脱していた。それを踏まえ、人修羅は容態を伺う。

 

「貴方の哀れな様子を見て奮起しましたよ。それに...」

 

 仲魔としての契約を結んだ相手は、基本的にいつでも召喚することができるが、今回は多勢に無勢で召喚する隙も無かった。ということは、彼自身の判断で自主的に出てきたということらしい。

 

 容態の方は、気合?で何とかしたらしいが、彼には力を回復させる手立てがあるように見える。

 

「使った分だけ奪い取ればいいのですよ!」

「.........一理あるな」

 

 天使とは思えない、実に悪魔じみた笑みを浮かべ、全く天使らしくない力技での解決を宣言するアークエンジェル。だがその姿勢は、ボルテクス界で揉まれて育った悪魔としての人修羅と波長が合わさっていた。

 

「えぇコンビやなぁ!この悪魔もどき!」

 

 アークエンジェルが現れてから暫くの間無視されていた骸骨の悪魔(ガシャドクロ)が、無視されていた事に腹を立て、二人を罵る。

 

 悪魔は号令をかけ、樹の悪魔を集合させて再び隊列を組み、アークエンジェルの登場によって崩された態勢を立て直した。

 

「いけるか?」

「当然です。しかし、とどめ(マガツヒ)は譲ってくださいよ。」

 

 確認の声をかけると同時に、仲魔の召喚能力を転用した念話のような能力で、人修羅が導き出した最適な行動をアークエンジェルに指示する。彼はそれを条件を付けて承諾した。

 

「せいっ!」

 

 アークエンジェルの刀が一閃。刀に込められた人修羅の魔力と、彼の優れた剣技が組み合わさり、切り裂かれた空間に熱を帯びた魔力のうねりが生じ、悪魔たちを飲み込んでゆく。

 

「ぐえっ!」

 

 その猛烈な衝撃に悪魔たちは体勢を崩し、無防備になる。アークエンジェルの行動の裏で、身体に流れる魔力を空気と共に肺に溜め込んでいた人修羅は、それを解放して、猛烈な火炎の息(ファイアブレス)で、骸骨の悪魔(ガシャドクロ)達を焼いていく。

 

「ガガガガガ...」

 

 樹の悪魔たちは火炎の息(ファイアブレス)によって焼却され、黒焦げになった骸骨の悪魔(ガシャドクロ)だけが残る。悪魔はカチカチと大きなアゴを振るわせて痙攣しており、反撃する間もない。

 

「消え去りなさい!」

 

 アークエンジェルが手を振りかざすと、天からまばゆい一筋の光が悪魔の頭上に降り注ぎ、それが一瞬にして巨大な光の柱となって悪魔を包み込む。その光景に人修羅は、嫌な記憶を思い出して、僅かに顔を背ける。

 

「お、覚えときぃぃぃ....!」

 

 捨て台詞を遺しながら、闇に生きる邪悪(DARK)な存在である骸骨の悪魔(ガシャドクロ)破魔(ハマ)の光により、この世から葬られた。

 

 主を失ったマガツヒが、主を葬った張本人であるアークエンジェルへと取り込まれていき、彼は満足そうな笑みを浮かべた。

 

─────────────────────────────────────

 

 異空間の主である骸骨の悪魔(ガシャドクロ)を打ち倒したことにより、人修羅とアークエンジェルは、転送罠が仕掛けられていた地点に戻され、そこには蛮奇達が待機していた。

 

「私と同じで、どっかに飛ばされてたみたいだな。よく戻ってこれたね」

「蛮奇ちゃん、結構心配してたんだよ~」

「余計な事いうな!ってお前は...」

 小傘に茶々を入れられた蛮奇が反発し、声を荒らげる。同時に、別れていたアークエンジェルが戻ってきていることに気付き、顔を顰めた。

 

「なんです、その態度は?私は敵の手中に堕ちた彼を救い出したのですよ?」

「......否定はしない」

 

 大げさで尊大な態度を取るアークエンジェルだが、確かに彼が居なければ窮地に陥っていたことは間違いない。やや不本意だが、今回は反発する蛮奇を窘め、先へ進むよう出発の号令をかける。

 

 悪魔が仕掛けた転移罠にかなりの戦力が集中していたようで、どうやら後は主の部屋に突入するのみのようだ。特に苦労もなく、変貌した小鈴の部屋の前にたどり着いてしまった。

 

「ついに決戦...だね!」

 

 決戦を前に、小傘が珍しく気合を漲らせている。

 

「阿求は外で待ってた方がいいんじゃないの?............危ないから」

「ふふ...心配してくれてるんですね」

 

 蛮奇はやはり周りの事を気にかけていたようで、普通の人間である阿求に提案した。嫌味に聞こえないように配慮したのか、彼女にしてはストレートに理由を述べて、気恥ずかしそうに目を背けた。

 

 

 確かに、この空間を支配する強大な悪魔である以上、何をして来るのか分からない。記憶力以外は全く持って普通の人間の阿求をこれ以上連れて行くのは、リスクが大きいかも知れない。だからといって、ここで待っている間に襲われる可能性もある...。

 

「これは、霊夢さんのお札ですね。神社に行ってらしたのですか?」

「まぁ...色々あった。」

 

 千円札の束の一部と札を交換してもらっていた事を思い出し、それを何枚か手渡して、外で待機するように伝える。

 

「それ、私たちに向けんなよ」

 

 小傘に抱えられた蛮奇が、鋭い目つきで人修羅を凝視している。幻想郷の巫女だけあって、妖怪達にはかなり恐れられているようだ。

 

 実際、彼女は手強かった。人修羅は札をしまい込み、部屋へ突入する覚悟を決める。が、そこで、蛮奇がぽつりと呟いた。

 

「結局、私の体どこに居るんだ...?」

「確かに...」

 

 二階は、転送罠のエリア以外は一本道であるという認識だった。入り組んでいる一階のどこかを見落としていて、そこに放置してしまっていたのだろうか。あるいは、主の部屋に拘束されている...?考えうる限りの状況を想定したが、確信は得られない。

 

「私が探しに行きましょう。彼女も連れて行きますか。結局は唯の人間ですから、そんなものだけでは心もとないでしょうし、私の側にいることが最も安全でしょう」

 

 天使としてのプライドを感じさせる態度の発言だが、彼の意見は理に適っている。彼の判断を受け入れ、阿求の護衛に就かせつつ、蛮奇の体の捜索を任せる。

 

 そして人修羅と蛮奇、小傘は、すぐ側にある、小鈴の部屋を目指して移動し、重々しい妖力が溢れ出る扉の前に立つ。この妖力の大きさは、やはり主が待ち受けているに違いないだろう。

 

 振り向いて、小傘と、抱えられている蛮奇に確認を取る。蛮奇は首だけあるもののやる気万全といった感じで闘志を漲らせているが、小傘はやはり不安そうだ。それでも、彼女なりに勇気を奮い立たせているようだ。

 

 仲魔に確認が取れ、人修羅は意を決して重たい扉に手をかけた。

 

「......っ!」

 

 その瞬間、何かが扉の向こうから飛び出し、人修羅に体当たりを浴びせたような状況に陥った。押し飛ばされて座り込んでいた人修羅が顔を上げると同時に

 

「私の体!」

 

 蛮奇が素っ頓狂な声で叫ぶ。そしてどういう訳か、その体は、飛び上がって起き上がると、こちらを目掛けて襲い掛かる。一体どういうことなのだろうか。人修羅一行は困惑のまま、蛮奇の体に応戦する──

 




 クダンのエピソードは思い付きで書きすぎたのでアークエンジェルとの共闘シーンに書き替えました。別に推し悪魔というわけではないのですが、どんな作品でも序盤の頼れる仲魔なので、それが筆に乗っている気がします。
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