こんにちは、タピタピです。
今電車の中で書いて、投稿しています。隣の人はまさかこんなことを書いているなんて思ってもいないことでしょう。
それでは本編どうぞ!
ウマ盛り祭りを乗り越えた翌日、俺は溜まりに溜まった有休を消化しろとの料理長からのお達しから一日休みをもらっていた。
だが大した趣味もない俺は特にやることもない。部屋にいても仕方なかったので散歩がてら学園内のグラウンドに訪れることにしたのだ。今日はこの場で1つの模擬レースが開催されるという。そう、たった1つのレースである。それだけのためにこれだけの溢れんばかりの人数が集まっているのだ。
あまりの人の多さに俺は早くもここに来たことを後悔していた。そもそもただの厨房を縄張りとする職員がここにいても見る以外にすることはない。トレーナーであれば色々と考えたりすることもあるのだろうが。
ともあれここまで来てしまって見ずに帰るのも歩いた労力に見合わないというものである。なので俺はギリギリレースが見える少し離れた丘にきて芝の上に腰を下ろした。
今回参加するウマ娘ならばこれだけ離れていてもよく目立つであろう。そんな考えを持ちながら時間つぶしにスマホを取り出そうとする。すると突然視界に影が差しこんだ。なんだ、と顔を上げるとそこにいたのは
「よっ、久しぶりだな」
「……お久しぶりですね、沖野トレーナー」
そこにいたのは成績だけを見れば超がつくほど優秀なトレーナーであり、チーム「スピカ」を率いている沖野トレーナーであった。彼はポケットから飴を取り出しながらどすっと俺の隣に腰かけてきた。
「お前がグラウンドに現れるなんて珍しいこともあるもんだな」
「……皇帝対スーパーカー。こんな好カードを好んで見ないやつがこの学園にいるとは思えませんけどね」
沖野トレーナーのそんな軽口に俺は軽く流すように答えるとその答えに思うことがあるのか彼は少し目を細める。
「その好んで見ないやつの筆頭のお前が何言ってんだ」
「……」
「なぁ、どうだ、お前もそろs「それよりもどっちが勝つと思いますか?」……はぁ……、さあな。流石にそう簡単に予想ははつかねえが距離的には若干シンボリルドルフ有利ってとこだな」
急所に刺さった言葉に詰まり少しの沈黙が流れると、少し雰囲気を変えて沖野トレーナーが何かを言おうとした。その先をある程度察した俺は先に言葉をかぶせる。その様子にあちらも渋々といった様子で話題を切り替えた。
今日のレースは芝2000m晴。このコースは最終直線が長いことから若干皇帝のほうが有利。だがこの彼女らに関してはそんな常識が通用するようなタチではないことはここにいる誰しもが知っていることである。
そんな話で時間をつぶしていると前の方に慣れ親しんだ赤髪が目に映る。そういえば以前彼女がマルゼンスキーに憧れていると言っていたのを思い出し少し笑みが溢れてしまう。
(あんなうっきうきで。本当に彼女が好きなんだろうなぁ)
そんなことを考えていると選手たちがコース内に入ってくるのが見える。それから数分後、世紀の一戦といっても差し支えないようなレースが幕を開けた。
***
レースが終わり人がまばらになっていくと俺は先ほど見かけた赤髪を探して視線を動かす。目立つあの色だ、すぐに見つかると思っていたのだが数分探しても彼女の姿を見つけることはできなかった。すでに帰ったのだろう、そう納得した俺は隣に座っていた沖野トレーナーに一声かけて歩き出した。
そんなこんなで目的もなく歩いていると学園内の池がある辺りに来ていた。近くの自販機で缶コーヒーを買ってベンチに腰をかける。既に4月が終わろうかという頃、桜は既に大半が散っており、地面には桜の花びらが敷き詰められていた。
だからこんな桜の落ちた場所で、どうして
「っ……」
彼女は泣いているのだろうか。
隣のベンチにはいつも持っているノートを握りしめて俯いているサクラチヨノオーが座っていた。その様子に先程まての面影は見当たらない。
声をかけるべきなのだろうか。
彼女は急に立ち上がるとノートを持った手を上げ、そして———
「流石にそれはダメでしょ、チヨちゃん」
俺はその手を少し強引に掴んだ。急に手を掴まれたことで体をビクッとさせたチヨちゃんはゆっくりとこちらに顔を向けた。
「っ!?お、お兄さん……どうして」
「たまたま見かけたんだよ。それで?これはどういうことかな」
ノートを力が弱まったチヨちゃんから取り上げると、彼女の瞳が力なく揺れ動く。
このノートは確かチヨノートというチヨちゃんの成長記録が書かれているものだったはず。いつも大事に持ち歩いているそれをどうして投げ捨てようというのか、その問いかけにチヨちゃんは最初は黙り、ゆっくりと言葉を溢していった。
「…………私は普通のウマ娘なんです。どうやったって特別にはなれないんです」
***
腕を掴まれ、ノートを取り上げられた私は座ることもせずにぽつりぽつりと愚痴とも言えるように言葉を吐き出していきました。
「…………私は昔から自分が特別でないことをよく知っていました。特筆した点もなく、何か特別な力があるわけでもありません。何をやっても平均で、普通、それがサクラチヨノオーというウマ娘なんです」
「そんなウマ娘はある日夢を見ました。偶然見たそのウマ娘の走りは私とは違ってあらゆる人を魅力するようなそんな走りでした。その走りを見て私も夢を持ちました。彼女のように走りたい、そう思うようになったんです」
「それからの私は自分で言うのもなんですが頑張っていたと思います。ノートに色々書き出して、このノートにもそろそろ書ける場所が無くなってきました。だから思ってしまったんです。今の私ならもしかしたら勝てるとは言わずともいい勝負ができるんじゃないかって」
「そんな思いでいた時、今日の模擬レースの話を聞きました。彼女の走りを、私の目指した走りをもう一度見たかったんです。そうしてレースを見て、私は分かってしまったんです。————私は彼女、マルゼンスキーさんのようにはなれないんだって。そりゃそうですよね、だって私は普通のウマ娘なんですから」
「……努力だけじゃ抗えないものがあるって知ってしまった。気づいた時にはグラウンドから走って逃げていました。そこにいると自分が自分でいられないような気がしたんです。もう、私は何の為に走ればいいのか分からないんです……」
「サクラチヨノオー」
私の勝手でくだらない独白に付き合ってくれた彼は私の名前を呼ぶと
「
そんな一言を吐き出した。
その言葉に私は彼の胸元を掴みあげて叫ぶ。
「っ!?そんな無責任な言葉、よく言えましたねっ!?あなたはただの職員の1人で、私にどうこういう権利はないはずですっ!」
「……あぁ。権利など欠片もないさ。でも、だとしても俺は言う。それはくだらないことだ。誰の力を借りることもなく走れる競争バなんてのは存在しない。それは皇帝シンボリルドルフをはじめ、マルゼンスキーだって誰かに支えられて走っている」
彼はウマ娘に掴まれ、苦しいはずだというのに目に力を入れ、決して発言を撤回しようとはしない。その勢いに私も若干気圧されてしまう。
「……なんですか、自分もその一員だから文句の1つでも言わせろとでも「どうして1人で抱え込むんだって言ってんだよ!」っ!」
彼は堪忍袋の緒が切れたように叫んだ。初めて見る彼の本気の怒りに私は掴んでいた手を離す。私が一歩後ずさったのに対し彼は足を一歩踏み出して、言葉を続けた。
「1人で無理だと、お前は知ったはずだ。才能の前にお前と言う個は今現在負けたはずだ。じゃあ頼れ!友人でも、先生でも、俺でも!1人でどうにかできなかったことも2人、3人ならどうにかできるかもしれないだろ!やれることがまだあるくせに、全部諦めたようんばくだらないこと言ってんじゃねえよ!!!」
「たよ、る……」
その言葉が頭の中で逡巡する。
「そうだ頼れ。少なくとも俺は君のそばにいる」
「っ!そういって、
意図せずに涙がこぼれ出す。一度流れてしまえばもう自分で止めることはできなかった。
「頼る」、それはかつてまだ学園に入学すらしていなかった自分にとってかけがえのないあの人がよく言っていた言葉であった。
頼って、頼られて、そんな関係が1番であると彼は信じていた。そして私も信じていた。
だから時間を重ね、あの人が私の前からいなくなった時に私は———頼ることをやめた。その相互関係を得られるのは特別な子だけ。特別でない私には……。
「いなくならないさ。俺は君のファンだからね」
そんな中、彼は先程とは打って変わって少し笑みを添えて優しい口調でそんなことを宣った。
「……ファン?デビューもしてないこんな普通のウマ娘のですか?」
「そうさ。君が努力してたのを俺は知っている。チヨちゃんはさっき自分は特別じゃないって言ったけどさ、俺にとってサクラチヨノオーは特別なんだよ」
私が聞き返すと、帰ってくるのはそんなありきたりな言葉。だというのに今の弱い私はその言葉に縋ろうとしてしまう。
「なんで、そんなこと……」
「だって俺は君の走りが好きだから」
「っ……」
『だって、君の走りすげえ好きだもん俺』
「……ほんと、あの人そっくりですね。……私の、走り……」
彼の言葉はかつて、私が尊敬し、そして頼ることのできたあの人の言葉と重なった。きっと今の私を見たら彼も同じようなことを言うような気がする。
「別に誰も君にマルゼンスキーになってほしいわけじゃない。君はサクラチヨノオーなんだ。君が走る理由が見当たらないっていうならさ、俺のために走ってよ。ファンのために走るのだって立派な理由になるんじゃない?」
「……ふふっ、そう、ですね。すぅーーーっ、はーーーっ」
あまりにぐちゃぐちゃな話だと思い、少し笑いが込み上げる。でも私の走りを待ってくれている人がいる。私でも、こんな私でも誰かの為に走れるなら。走ってもいいのなら。
ゆっくり深呼吸をする。酸素が回ったからだろうか、少し世界が明るく見えるような気がした。
「————私、もう少し頑張ってみようと思います。お兄さんが応援してくれるから。だから、私から目を離しちゃダメですよ?」
「おう、任せろ!」
だから、見ててください、お兄さん。そして——さん。私の走りを。
***
今の思いを全て吐き出したチヨちゃんをベンチに座らせ、俺は自販機で飲み物を買って彼女に手渡す。彼女は「ありがとうございます」とまだ上擦っている声で言うとゆっくりと口につける。
少しの沈黙の間、俺は
(やっちまったぁぁぁぁ!!!)
猛烈な後悔に襲われていた。
(いやいやいやなんだよあの言葉、いくらなんでも無茶苦茶だろ。チヨちゃんも途中で笑っちゃってたし。こんな年下の子に怒鳴るなんて……あぁ、やっちまったなぁ……)
同時刻、サクラチヨノオーの頭の中は
(やっちゃったぁぁぁ!!!)
全く同じように後悔していた。
(いやいやいやいくらなんでも関係ないお兄さんに怒鳴りすぎでしょ私……。泣いちゃって支離滅裂だし、あぁ、穴があったら入りたい……)
(…………でも、かっこよかったなぁ)
そんな2人の脳内後悔からしばらく、俺は言葉を切り出した。
「……じゃあとりあえず今のチヨちゃんの走りをもっかい見させてもらおうかな」
「うえっ!?今からですか!?」
その言葉にチヨちゃんは耳と背筋をピンと立てる。
ここまで関わった。否、関わってしまったのならば俺には彼女を支える義務が生まれてしまった。
「だって目を離しちゃだめなんでしょ?」
「うぐ……まぁ、そうですね。元よりこのあとはトレーニングの予定でしたし。じゃあちょっと見ててくれますか?」
「うん。あ、ちょっと先グラウンド行って柔軟とかしといて。一回寄らなきゃいけないとこがあるからさ」
「?分かりました」
その返事を聞いて俺は立ち上がると少し小走りで
それから5分としないうちにグラウンドに向かうと既にチヨちゃんが体を縦に横にほぐしていた。
その姿を見ているとあちらも気づいたのか少し嬉しそうな顔をしたのちに目を逸らされる。少し悲しくなるがあんな話をした後なのだ、そりゃそうだろう。
だからこそ俺はいつも通りの感じで話しかける。
「おまたせー」
「あ、はい。じゃあ走りますね」
「うん。期待してるよ」
そう言葉をかけるとチヨちゃんはコースに向かっていく。
特にタイム計測をするわけではない。ただ走る、そうして一周走ると息を整えながらこちらに歩いてくる。
「ど、どう、でしたか?」
その顔には少しの怯えが含まれていた。俺はその反応に対してもそのまま思ったことを告げる。
「うん。相変わらず綺麗な走りだったよ。ただ、ストライドがちょっと短いかな。もっと感覚的に広めにとってみて」
「え、すごいトレーナーみたいなこと言いますね」
「……まぁ、一応、ね」
そう言って先程とってきた胸元のいつも付けているのとは異なるバッジを少し触る。……まさか、付ける日がくるとは思ってもいなかった。
そのバッジを見てチヨちゃんは目をキラキラと輝かせる。
「え、それってトレーナーバッジじゃないですか!?なんでお兄さんが!?」
「俺、一応ここのトレーナーだからね。でもまぁお飾りみたいなもんだよ。だからあんまりこんな中途半端なやつのアドバイスを鵜呑みにしちゃだめだよ」
「トレーナーさんだったんですか……。な、なら!私の————」
「ごめんね、今は担当を持つ気はないんだ」
「そ、そう、ですか……」
チヨちゃんの尻尾が力無く垂れ下がる。
……罪悪感がすごいことになっている。チヨちゃんが言いたいことは重々わかっているつもりだ。先程あんなことを言ってのけたのだ、トレーナーであれば責任を取るのが妥当。だがそれでも俺は彼女のトレーナーにはなれない。今の俺ではあまりに不完全がすぎてしまう。
「ごめんね。ひとまず来週の選抜レースまではチヨちゃんの走りを見てるよ。そしたらきっと優秀な人がトレーナーについてくれる」
「……分かりました。じゃあお兄さんにそのレースの一着を持って帰ってきますっ!」
そう言うと彼女は再びコースに戻っていく。罪悪感と自己嫌悪に苛まれながらも俺の目はその走りを見逃さないようにと彼女に釘付けになっていた。
この日の選択が彼とサクラチヨノオーの運命の分岐点であったことを今の2人が知ることはなかった。
ここまでのご精読ありがとうございました!
あと8話、モチベがあるのでできる限りすぐ投稿できるようにしたいと思ってはいます。
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ではまた次回お会いしましょう!