こんばんは、タピタピです。
5日ぶりぐらいになりました。毎日連載をしている人の凄さを改めて実感したところです。
それでは本編へどうぞ!
お兄さんと契約を結んでから数週間、5月も終わろうとする頃にはその生活にも慣れ、私はいつも通り朝のランニングをするために外に出ます。
まだ明るくなりきっていない空の下を慣らし程度に走ると少し暑くなってきた気温が走る風で少し和らぎます。
1時間ほど走り、シャワーで汗を流した私は朝食を摂るために食堂に向かいました。契約前は何かとバダバタする朝は食堂に行くこともあれば購買で適当な物を見繕って食べていたりしていましたが、トレーナーさんに言われ、今では毎日欠かさず通っています。
食堂はまだ朝ということもあり人の数もそれほど多くなく、列もない受付口で目当ての人を探します。
「!トレーナーさん!おはようございます!」
「お、おはようチヨちゃん。今日はどうする?」
簡単に見つかったその人は今日は受け渡し口の近くにいました。
私の声に反応すると、こちらに振り向き、近寄ってきてくれます。
学園の朝ごはんは基本的に2つのコースに縛られ、パンかご飯かを選択できます。主菜、副菜等はある程度決まっており、トッピングとかは言えばできる限りは添ってくれるそうです。
お腹を軽くさすって、今日の気分を探ります。今日は!
「パンで!」
「あいよ〜。俺もご飯食べてきていいですか?」
「おう、忙しくなりそうだったら呼び戻させてもらうけどな」
「了解です。てことだからチヨちゃん、席俺の分も取っといてもらっていい?」
「分かりました!」
食堂内の人に確認をとったトレーナーさんはそう言うと業務を別の人に引き継いで少し裏手に回ります。
その間に朝食を受け取った私は空いている席から窓際のところを選び、席を確保します。今日の朝食はクロワッサンとベーコンエッグを中心とした洋食のようです。香ばしい匂いが鼻腔をくすぐります。
「昨日は朝ごはんは一緒に食べれなかったですから。我慢です!」
「今日は生徒も少なさそうだしね。おまたせー」
そう言って、いつもの服に着替えてきたトレーナーさんが隣に座ると、そちらには美味しそうなthe 和食!がありました。くっ、そっちも美味しそう……!
「じゃあ!」
「「いただきます」」
やっぱりごはんは誰かと食べたほうが美味しいですね!
***
「最近、チヨノオーさんは楽しそうですね」
「うえっ!?」
久しぶりにアルダンさんとの合同トレーニングということで走る前に体をほぐしていると、彼女がふと思ったようにそんな事を言い出しました。
ですが、その様子にからかいはなく、むしろ安堵が見て取れます。
「よかったです。たまに部屋で泣いてたのを見てた身としては本当に」
「うえうえうえぇぇ!?バレてたんですか!?真夜中とかのことですよ!?」
「うふふ」
トレーナーさんと契約を結ぶまで、たまに心細くなったり、あの人の方が頭によぎったりして眠れなくなった時に少し枕を濡らしたことはありました。でも声出したわけでもなければ、時計の針も頂点を超えているぐらいの頃です。
「怖い、怖いですよ、アルダンさん……。ちなみにアルダンさんは明日の選抜レース出るんですよね?」
少しの恐怖を彼女に覚えた私は話の方向をずらそうとします。その事にアルダンさんも気づいているようですが、微笑むだけで特に遮ろうとはじせん。メジロアルダン、恐ろしいウマ娘です。
「はい。そのために今日はチヨノオーさんのトレーナーさんに色々アドバイスをもらうことになってるんです」
「なるほど。私全く知りませんでしたー」
そう言ってトレーナーさんの方に首をぐいっと曲げ、じとーっとした目を向けられた彼は視線をゆっくりずらしていく。
「ご、ごめんって。トレーナー業なんて今までやってこなかったから業務のスピードが遅くて、連絡できてなくて……」
「でも今日朝ごはんの時に話せましたよね?」
「……」
「忘れてたんですよね?」
「はい……」
観念したように言葉をここぼすトレーナーさん。やはり二足のわらじは厳しいのか、疲れが溜まってるように思います。トレーナーさんに言ってもいつも大丈夫と流されてしまうので、どうしたものでしょうか。
「じゃあそろそろ軽く併走してみようか」
切り替えるようにトレーニングを始めたトレーナーさんに私は悩みながらも、一旦はトレーニングに集中することにし、グラウンドに足を進めて行きました。
***
「うん、2人ともいい感じだな」
「そうねぇ」
「んで、なんでここに?」
「可愛い後輩ちゃんの様子を見に来ただけよ〜」
ターフから離れ、2人の姿を確認していると、いつのまにか隣にいた怪物さんが賛同を口にする。
マルゼンスキー、チヨちゃんの憧れであり、現在においてまさしく最強の一角であるウマ娘である。
そして俺がサブトレ自体に少し、お世話になったウマ娘であった。
「……随分、チヨちゃんのこと買ってるんだな」
「そりゃあ、私のことあんなに慕ってくれる子だもん。それに、ダービーを私の代わりにとってくれるらしいからね」
以前、彼女の走りに惚れたチヨちゃんはマルゼンと話をしたらしい。その時にマルゼンは走れなかったダービーをチヨちゃんに託した、とはチヨちゃん談だ。
だがその言い方に俺は一つの答えを見てしまっていた。
「……もう走らないのか」
「?別に走るわよ?ダービーはもう出られないけど」
「……そうか」
「へんなの。チヨちゃーーーん!!!頑張れーー!!」
「マ、マルゼンさん!?なんでここに!?」
俺のそんな問いに、意味がわからないと言いたげに改めてグラウンドに目を向け、声援を送るマルゼン。その声にちょうどゴールしたチヨちゃんが大慌てでこちらなら近寄ってくる。尻尾をそりゃもうぶんぶん振って。
マルゼンスキーは俺の問いを正しい意味で理解している。彼女は賢い。故に、言葉ではどうしようもないのだ。教えられるのは、そこで競える者だけだと決まってしまっている。
その後も練習は続き、マルゼンが寮に戻り、日が相当傾き始めた頃。
「うん、そうそう。あとはもう少しだけ顔をあげて、そう。あとはコーナーに入る時にもう片足分外から内に切り込む感じで」
「なるほど。分かりました」
トレーニングも終わりに近づき、アルダンさんに思ったことを告げる。今の彼女にはトレーナーがついていない。メジロにも抱えのトレーナーがいるはずだが、どうやら自分でトレーナーを見つけたいらしい。
そんなわけで明日の選抜レースに出ると言う。その調整が今日の目的であった。俺としても普段チヨちゃんが仲良くしてもらってる相手に手伝わない理由はない。クラシックに出るならいずれはぶつかることもあるだろうが。
そんなことを考えているとチヨちゃんがこちらに近づいてくる。
「そういえば、トレーナーさん。私たちの部室ってないんですか?」
「ん?部室?……あぁ、そういえばトレーナー資格もらった時に一部屋寮とは別にもらったな。すっかり忘れてた」
チヨちゃんに言われ、頭の中がら記憶を引っ張り出すと、一年ほど前に一部屋もらったような気がする。だが鍵こそもらっているものの一度も入ったことのない部屋だ。今どうなっているか、見当もつかない。
だが、部室に何か感じたのかチヨちゃんは目を輝かせていた。
「気になりますね!」
「そ、そう?まぁ、見たいなら、てかもうちゃんと片付けて部屋として使える状態にするか……。じゃあアルダンさんのトレーニング見終わったら今日は切り上げてそっち行くか」
「はい!」
「あの……」
そんな風にこれからの流れが決まるとアルダンさんが少し遠慮がちに手を上げる。
「ん?どうしたなんか違和感でもあったか?」
「いえ、それは全く。あの、もしよければ片付けお手伝いさせていただいても?」
「?別に手伝ってくれるっていうなら是非ではあるけど、いいの?」
「はい。今日のお礼、としては少ないかもしれませんが」
「いやいやいや困ってる子を助けただけだし、そんなのいいんだよ」
「ですがそれではメジロの名を担うものとして……」
「わかった、わかった!じゃあ手伝ってもらうよ。いい?チヨちゃん」
「はい!」
家元の名を出そうとしてきたメジロアルダンを止め、とりあえずあと十数分彼女の走りを見て、アドバイスを送り終えると、軽く休憩を挟んだのちに部室と呼ばれる部屋に向かっていった。
部屋に戻り鍵を探したがどうやら無くしていたのでたづなさんに頭をそれはそれは深く下げることでなんとかスペアキーもらい、部屋に3人で入る。
「意外と散らかってないですね」
「逆になにもないです」
「そりゃあ俺も初めて入ったからな」
中は本当に何もないただの部屋であった。西日が差し込んでおり、日照条件は非常に良さそうな部屋である。ただ、夏になれば暑すぎるため、カーテンを購入しなければいけなさそうだ。
そんなこんなで窓を全開にして掃除、埃などを掃き、窓を拭き、貸し出しをしているホワイトボードを中に入れるとそれっぽい部屋に変化していた。
「こんな感じで、いいんじゃないですか!?」
「うん、これなら作戦会議とかには十分使えるな。アルダンさんも飲む?」
来た時にコンセントを差し込み、ある程度冷え始めていた冷蔵庫からペットボトルを取り出してチヨちゃんに投げながらもう1人の彼女にも聞く。
「あ、いただきます」
その返事を聞いて自分の分と彼女の分を取り出した俺はソファに腰をかけてとある資料をバッグから出して机に置いた。
「よし。じゃあ新しい部室を手に入れた記念としてちょっとだけ話していこうか。なんと言ってもチヨちゃんのデビュー戦が決まった。6月の下旬、函館の1800mだ」
「おぉ!北海道!私初めて行きます!」
「夏に北海道、気候はちょうどよさそうですね」
昨日決まったチヨちゃんのメイクデビューは選抜レースと同じ1800mの芝であった。夏の函館というのもちょうど良い避暑地として俺自身もワクワクしていた。
だがそれよりもチヨちゃんだ。三冠を例の彼に届けると言った手前、最初のここでつまづいているようでは元も子もない。
「あぁ。てことでそこに向けて調整していく感じになる。大丈夫そう?」
「はい!」
そうして残り1ヶ月、初めての公式レースが、サクラチヨノオーのスタートが始まろうとしていた。
***
函館レース場。今日、私がデビューをする場所です。
その控え室で私は開始の時間を待っていました。
「緊張します……」
「そりゃよかった」
私のぽろりと出たナーバスな言葉に、よかったと返す私のトレーナーさん。どこか落ち着いた雰囲気の彼、どうして担当がこんなに緊張してるというのにそんな余裕そうにいられるんですかね。
「よかった?なにがいいんですか?」
「だって楽に勝っちゃったら記憶に残らないだろ?どうせなら強く印象に残るような試合がいい」
「それは当事者じゃないから言えるんですよ……」
そんなお気楽にあたかも勝つのは当たり前、みたいなことを言い出したトレーナーさん。それに対して私は嘆くように首を後ろに逸らす。
「でも俺は勝てるって信じてる。それにこんなとこじゃ止まれないだろ?」
だがそんな言葉にふと、今までの色々が頭の中を駆け巡りました。
そうだ、私が走る理由はトレーナーさんだ。ファンだと言ってくれる人の前で無様な走りはできない。私は思い出した想いを頭に入れるために頬を思いっきり叩く。「なに!?」そんな声が隣から聞こえるが無視。
いい感じです。入れたような気がします。
「……はい!トレーナーさんが見ててくれるなら、私は負けませんっ!だから期待して待っててください!」
「あぁ。行ってこい!」
今の会話の最中も膝の上に置いていたチヨノートを机の上に優しく置きます。このノートも何冊目になったでしょうか。その全てが無駄ではなかったと、証明するために。
その努力を力に変えて、私は部屋のドアを開けた。
地下のスロープを抜けて、太陽の光に包まれる。
「……すごい……」
そのターフに立つと、ここ独特の空気に思わず気圧される。
学園とは比較できないほどの重み。今まで走ってきた子達の思いのようなそれを全身で感じ取れてしまう。
実感する。私の物語が、サクラチヨノオーのレースが始まろうとしていた。
他の選手たちも続々と入ってくると、確認が取れたのかゲートに入るよう促される。
「……よしっ!チヨノオー、ファイ、オー……!」
気合を小さい声で入れ、ゲートに入っていく。
最後の1人が入り、9人全員が揃う。そして、扉が開いた。
————私のメイクデビューが始まった。
(いいか、まずあの時みたいな2度目のスパートは今回は禁止だ。この試合でわざわざ奥の手を見せる必要はない。8割だ。8割の力で勝つことを条件とする)
数カ月前の模擬レースと同じ4番手についた私は始まる前にトレーナーさんに言われたことを反芻する。
今回は逃げが3人。私と同じ先行が2人。データ通りの形になる。
私の心は始まる前とは打って変わって、ひどく冷静で、冷徹であった。
レースは向こう正面を過ぎ第三コーナーに入ろうとしていた。ここまで大した動きはなく、概ねは私達の作戦通りになっている。
なので作戦通り仕掛けるは第三コーナー中盤。
そこに達した瞬間、私は一気にスピードをあげる。
「くっ……」
そして第4コーナーを過ぎ、最終直線に入るころにはすでに1バ身の差をつけて先頭に立っていた。最後の人を抜くと、その選手から悔しそうな声が漏れる。
『最終コーナーを抜け、最後の直線に入ります!先頭はサクラチヨノオー、すでに後続とは大きな差がある!ここから追いつくウマ娘はいるのか!?』
後ろから足音は聞こえる。だが遠い。
そして、
『サクラチヨノオー、圧巻の走り!1着はサクラチヨノオーです!』
私は掲示板を確認し、拳を握りしめる。
一勝目。サクラチヨノオーというウマ娘が競走バとして世界に現れた瞬間であった。
***
それから月日が経過し、猛暑と呼ばれた夏をなんとか越え、11月の下旬になりました。
京都ジュニアステークス、11月後半に行われる芝2000mのGⅢ。
2度目にしていきなりGⅢに挑んだ私たちですが結果は2着と2バ身を離した勝利に終わりました。初めての重賞、緊張のし過ぎでゲートを少しミスってしまったのが今後の課題です……。
ですがそれでも勝ちは勝ち。そのご褒美として学園に帰ってきた私は今日はトレーナーさんと一緒に近くのショッピングモールに来ていました。
「次はあれ見たいです!」
「ちょ、ちょっと休憩しない?ほらもうお昼だしさ……」
「そ、そうですね。大丈夫ですか?ごめんなさい、舞い上がりすぎちゃって……」
そんな言葉をかけられて初めてトレーナーさんが少し疲れたような顔をしているのに気づきました。
一緒に来れたのが嬉しすぎて、はしゃいでしまいました……。
そんな私の気持ちを汲み取ったのかトレーナーさんは少しおろおろとしだしました。ちょっと面白いです。
「いや、せっかくのご褒美だからね、それぐらいはしゃいでくれた方がこっちもありがたいよ。ただ、さすがに体力差が……」
「ちょっと待っててください、アイス2人分買ってきますね」
「ありがとう……」
そう言って疲れたトレーナーさんの代わりに某アイスクリーム店で私の好きな小豆のアイスと口の中がパチパチする人気のアイスを買って先に戻ります。
トレーナーさんはどちらでもいいとのことで私が小豆の方をもらって、早速口に含みます。
冷房の効いているところで食べるアイスに勝る物はありません!
その後は元々言っていた通りお昼を同じフードコートで済ませてまた歩き始めます。食べた味噌汁に惹かれたのか、トレーナーさんはさっきからずっとぶつぶつ隣で呟いているところです。
「美味しかったですね!」
「うん。……あのだしの感じは、貝?いや、もっとなんか……」
久しぶりの料理人モードに入っているトレーナーさんにほんわかしていると、ゲームセンターのそばに来ていました。そこで見つけてしまったんです。
「あ、あああああれはマルゼンさんのぱかプチ!しかも限定衣装ver!?トレーナーさん、こっちですよ!?」
「ん?あぁ、わかっーーーーーー」
私がそれに惹かれ、トレーナーさんの手を引き前を向くとその手にいきなりとんでもない重みが加わりました。何事かともう一度振り返ると、トレーナーさんが汗だくになって膝をついていました。
「あが、がっっっ……!?」
「
その尋常でない様子に周りの人も何事かと集まってきます。その間にもお兄さんは苦しそうにうなっており、私は何が起こってるのかも理解できないまま、お兄さんのそばにいることしかできませんでした。
そして、
「…………っ」
「お兄さんっ!?」
限界が来たのか気絶した様子でお兄さんは私の方に倒れ掛かってきました。その体重を全身でなんとか支えることはできました。
しかしそれからどうすればいいか分からなくなっている私に近くの人から一旦横にした方がいい、とのアドバイスを受けてタオルを頭の下に引いて横にします。
そのタイミングで救急の方がこちらに到着しました。どうやら周りの方のどなたかが呼んでくださっていたようでした。救急の方は容態を確認すると、
「うん。単なる気絶、ほかに異常は見られないね。……脳までは流石にわからないが。君がこの方の知り合いかな?」
「はい……」
「これから近くの病院に搬送するから一緒にきてもらってもいいかな?」
「分かりました」
そうして私は人生初の救急車に乗ることに。ただそこに喜びやワクワクはなく、あるのは目を瞑り、起きそうにないお兄さんの顔。
また失うのではないか。そう思うと思わず涙がこぼれそうになりましたが、ここで泣いては迷惑、それでお兄さんに何か支障があっては私は耐えられません。どうにか耐えきり、病院に着くと彼は診察室に運ばれました。
その間部屋の外で待っていると、病院の先生と思われる人がこちらやってきました。その人を確認した瞬間、私は椅子から勢いよく立ち上がります。
「あ、あの!お兄さんは!」
「あぁ、特に脳にも体にも異常は見られなかったよ。原因に心当たりはあるかい?」
「……わかりません」
「そうか。ひとまずは検査入院ということ様子を見ることにしたよ。君も彼が気になるだろう。この部屋で今は寝てるはずだからいってあげなさい」
「ありがとうございます」
そういうと奥の方に歩いていく先生にお辞儀をしながらも私はふぅー、と息を吐いた。ひとまずは大事にならなくてよかったという安堵。
しかし、なぜいきなりあんなことになったのか。悩んでもわからないからとりあえずお兄さん……トレーナーさんの所へ、と割り切るまでに時間はあまりかかりませんでした。
そうして教えられた部屋に入るとそこには静かに寝ている彼の姿がありました。ゆっくり近づき胸元に耳を当てる。ドクン、ドクンと一定のリズムで心音が聞こえるのを確認して耳を離します。
トレーナーさんの手を握りながら今回の理由を探します。やはり連れ回るスピードが早すぎたのでしようか、でもそれだげであんな取り乱したり……?
そんな答えの出ない問題にひたすら頭を悩ませていると、ドアがノックされます。看護師さんでも来たのだろうかと思い、どうぞと声をかけると入ってきたのは私と比べてます小柄な人と私の倍ぐらいは大きそうな凹凸コンビでした。
「失礼するよ」
「失礼する!」
「え!?学園長さんと、食堂の料理長さん!?どうしてここに」
現れたのはトレセン学園の理事長さんと、食堂の料理長さんでした。まだ理事長はわかります。忙しい合間を縫ってきてくれたのでしょう。ですが、料理長さんは?上司ではあるでしょうがそれだけの理由でここまで来られるでしょうか。
そんな疑問の様子を感じ取ったのか2人はすぐに答えてくれる。
「うちの従業員が倒れたのだ。様子ぐらい見にくるとも」
「私はこいつの親戚だからね。まぁ、母替わりみたいなもんだよ」
「えぇ!?そうだったんですか!?」
「まぁ、さすがに言ってはないか……。学園長、これから彼女と話がありますので、席を外していただいても?」
「あぁ、彼の様子は確認できたし十分だろう。なにか容態に変化があればこちらに連絡してくれ」
「分かりました」
料理長さんがそう頼むと理事長さんは見舞いの品と言って果物をかごに入れたものを脇の机に置いて、帰っていった。
その様子を見てから料理長さんも近くの椅子に腰をかける。
「それでお話というのは……」
「あぁ。君、いやチヨノオーさんはこいつのことどこまで聞いてるんだい?契約を結んだってことはある程度は聞いたんだろう?」
咄嗟に思いつくのはあの選抜レースの日、彼が契約前に言ったことです。
「……記憶のことでしょうか」
「そうだ。となるとそこまでぽいね。……これから先の話は君の人生の在り方を変えてしまうかもしれない。それでも聞くかい?」
神妙な面持ちで彼女は私にそう問いてくる。しかし私の意思は変わらない。彼のために全てを尽くして走ると決めたあの日から、私はお兄さんと共にある。
「はい。教えてください。彼は私のファンで、私のトレーナーさんなので」
「———————茂原蓮」
「……………………はい?」
その名前に先ほどまでの覚悟はいとも容易く消え去った。
全身に電流が流れたように体が固まる。
その名前だけは私の覚悟を揺るがす例外であった。
驚愕のあまり動かなくなった私を見て料理長さんは目を一層細める。
「君なら、他でもないサクラチヨノオーなら知っているはずだね、この名前を」
「な、なんで、あなたの口から———
——————
ここまでのご精読ありがとうございます。
実のところ入院も書き切るつもりだったんですけど、うまく書けなかったので次回に飛ばすという荒技に出ることにしました。
内容に関しては読者の皆様のまぁ、予想通りですね。次回は料理長による説明編、そして初めてのGI編です。
それではまた次回お会いしましょう、感想、評価お待ちしてます。
*今回誤字脱字が多いことが予想されますのでありましたらご報告いただけると幸いです。