こんばんは、タピタピです。
ちょっと時間がかかりました。すいませんm(__)m
今回は皐月賞となります!
それでは本編へどうぞ!
桜が本格的に咲き誇る4月、直前に迫るクラシック三冠の始まりである皐月賞の記者会見が行われることもあり、しがない記者である僕もそこに訪れていた。
入場前から既に記者席は満員、周りを見れば有名どころも多数来ているようだ。本当に小さな会社の記者の僕、こんなとこによく入れたもんだと思う。
それだけ今回の皐月賞は注目を浴びている。
なにせ、期待されているのだ、かの皇帝と同じ、無敗の三冠ウマ娘の登場を。
『それではこれより代表選手5名の入場に移ります』
そのアナウンスを受けてから袖から人気上位のウマ娘が出てくる。モガミナイン、トウショウマリオ、モガミファニー、マイネルロジツク、この四人が先に出てくる。
G1で人気上位をとる全員もれなく強いウマ娘。そこには私が勝つという闘志が肌をぴりぴりと刺激していた。
だが、その気迫も最後のウマ娘が出てきた瞬間に霧消する。
1番人気、ゆっくり足を進めるそのウマ娘がもつ絶対の気配。先ほどの彼女らが闘志で燃え滾ったような気配だとしたら、彼女に僕は何の熱も感じなかった。
そう、ないのだ。勝つという気概も、なにもない。あたかも勝つのは自分であると決まっていると言い張るかのようにその気配に会場のすべてが呑み込まれていた。
「……っ!こりゃ、すげぇ」
ある程度の経験を積んでいる僕も思わずそんな言葉が零れる。記者という公平でいなければならない立場であるとわかっていながらも思ってしまう。
彼女はレベルが違う。
最後の彼女が列に並ぶと、前からそれぞれの意気込みが語られていく。
全員が素晴らしい覚悟を持ってこのクラシックに挑もうとしていて、全員が僕にとっては光って見える。だからこそ、僕は少しでも彼女たちの役に立ちたい。
それが僕の夢だった。
『では最後にサクラチヨノオーさん、意気込みをお願いします』
「はいっ!私は私を応援してくれるファンのために走ります。その一歩目に皐月賞をそして三冠を手にして見せます。もし私の前に立ちはだかる子がいるなら—————
—————全身全霊で全部倒します。
「「「っ……」」」
「……うぇ?」
桜姫と呼ばれ始めたその強者の圧に壇上の三名が震え、そして一人は足が震え尻餅をつく。
この場にいたウマ娘を含む全員が分からされていた。
サクラチヨノオーこそが間違いなくこの世代の最強であると。
その日、僕はサクラチヨノオーのファンになったんだ。
***
「はっはっはっはっ……」
記者会見から数日、明日の皐月賞を控えた日、トレーナーさんは私に休みを言い渡しました。
ですが、体に怪我や不調がないかの確認を済ませて解散となった後、私はその指示を破って学園周りのランニングを行っていました。
明日はついに皐月賞。私の目標で、蓮さんの憧れであった三冠の始まり。私は負けられません。トレーナーさんの記憶にも強く残るレースにできるはずなんです。
そんな焦りは体に明らかな負荷を与えていたんです。
「っく!」
そのいきなりの痛みに思わず足を止まります。
右足、関節部分に痛み。少ししゃがんで確認してみると、明らかに赤くなって腫れていました。どこかで痛めたようです。
私は迷います。果たしてこれをトレーナーさんに言うべきなのか。言ったら間違いなく明日のレースは取り消しになるでしょう。
それだけはダメだ。
だが、体は確実にその意志に反対しています。本能が、これは無視するには危険であると、彼に伝えろと、そう叫んでいるんです。
それでも私は足を動かすことを選びました。
大丈夫、我慢できる。今は強く踏み込んだりしなければ問題はない。
だって、勝たなきゃ何にもならないんですから。
***
翌日、晴れの天気の下、私は大きな声援を浴びてターフに立っていました。ついに、待ちに待った日がやってきたのだと、体が騒ぎ立てています。
控え室でトレーナーさんの声援を受け、いつもの勝負服に身を包んでからここに来るまでも心臓の鼓動が止まらなかった。
でも、きっとこの鼓動は高揚によるものだと、体に言って聞かせる。
周りの痺れるような空気に触れながら、順番にゲートに入っていく。
そして、最後の1人がゲートに収まった。
「(……チヨノオー、ファイ、オー)」
いつも通り、構える。
『今年も始まります、クラシック一冠目、皐月賞。最も早いウマ娘が勝つとされるこのレースの栄冠を得るのは、無敗の桜か、はたまた新進気鋭か。18名、各ウマ娘ゲートイン完了です。――皐月賞、今スタートです!』
遮るものが無くなった瞬間、一斉に選手が飛び出す。その中でも飛び出したのは9番のキョウシンムサシだった。
私のスタートも悪くはない、今までで最高の出来だと感じた去年の朝日杯と比べても遜色ないぐらいだ。それでもこれはG1、私より上手い子なんてざらにいる。そこに驕りも油断もない。
その逃げを前に見ながら現在は3番手、内に入るために少し緩めて、入る。その際に外から抜かれて現在は4番手。
中団の先頭取ってここまではいつも通り。
そして
「……っ」
すぐ後ろに迫られているのが分かる。それだけで相応のプレッシャーがかかっている。そして問題なのはそれよりも前、つまり先ほど私を抜いたウマ娘だ。
前にいるのは幾度と見てきた後ろ姿。
(ヤエノさんッ……!)
***
そのウマ娘がターフに降り立った時観客の歓声が地面を揺らしていた。
サクラチヨノオー。同期のウマ娘でデビュー戦から四戦四勝。そのうちの一つはG1であるという無敗のG1ウマ娘、そして今回の1番人気であった。
そんなウマ娘を見つめている私は先月の毎日杯で地方からやってきたオグリキャップに負け、何とか滑り込んだ14番人気。思えば1年で随分と差を広げられてしまったものだ。
彼女の走りは異常なスタミナ量によって支えられている。その圧倒的なスタミナは2回目のスパートという規格外な力を発揮していた。
朝日杯で彼女の走りを見てから、彼女に勝つために何度も何度もその走りを見て目に焼き付けた。サクラチヨノオーを超える、その目標に執着しすぎて毎日杯で負けたのはトレーナー殿にも随分怒られてしまった。
だがそれは1つの光明に繋がった。まさしく彼女の弱点と呼べるもの。きっと夏までには弱点ですらなくなるのだろう。それでも、今現時点においては、彼女の首元に歯を突きつけるには十分だ。
得意な差しを捨て、彼女の前に陣取る。自由には走らせない。スパートのタイミングを遅らせる。だって
—————直線だけじゃああなたの脚には足りないのでしょう?
***
ヤエノさんの特徴は圧倒的な体幹の良さ。逆に弱点は少しのスピード不足、それゆえに毎日杯ではオグリさんの後陣を期す結果になってしまっていた。
そんな彼女が私の前にいながら、そしてマークしていた。
前との距離が少し離れること覚悟でスピードを落とし、離れようとしても彼女も同じように合わせてくる。絶対に好きには動かさない、そんな彼女の意志が伝わってくる。
これは非常にまずい。長距離を走るためにスタミナを徹底的に走っていた私の足は加速力に乏しくなっていた。故に最高速に達するまでにそれなりの距離を使ってスピードを上げていくしかない。だがもしそれを直線まで邪魔されるのなら、私は先頭に追いつけないだろう。
既に第二コーナーに入り、もう少しで向こう正面、残り半分になる。
多少のロスは割り切るしかないと覚悟を決め、ヤエノさんを抜こうと考えた時、後方から上がってきた子達がいた。そしてそのまま上がる、わけではなく、スピードを少し下げた彼女たちの思惑に気づいた瞬間、私は迷いをやめて急いで足を外に向けた。
もしここで彼女たちを抜かなければ詰みである。囲まれて抜け出せなくなれば直線では彼女たちに、ヤエノさんに勝てない。だから足を向けた方向に早く進もうと力を込めた時だった。
(っ……!?こんな、ときにっ……!)
脚に鈍い痛みが走る。最悪のタイミングだ。これで脚が一瞬止まった私は完全に前の進路を潰された。流石に4人の横並びを躱そうと外に行くのは自殺行為。それこそそんなことができるのはオグリキャップさんぐらいだ。
こういう状況を一般的になんと言うか。
そう、詰みである。
***
「ここ、いいかしら」
観客席の中の関係者席、そこで1人でスタート前の様子を見ていた俺の隣にとあるウマ娘がやってきた。
「来てると思ってたよ」
「そりゃあ可愛い後輩のレースだもの」
彼女、マルゼンスキーはそんなことを言いながらターフ上に目を向ける。その目には不安が見て取れた。
「上の特等席から見ればよかったんじゃないか?」
「……あなたに話があったのよ」
「話?」
「……チヨちゃん、明らかに変よ」
先程まで別に向けていた目をこちらに向け、そんなことを言うマルゼン。
それに心当たりがなかった俺は、トレーナーという立場でありながら知らなかったその情報に目を見開いていた。
「どういう、ことだ。昨日の最終チェックでも脚に異常はなかったし、その後は休ませてた。怪我なんて……」
「違うわ、あたしが変に思ったのは弥生賞の時よ」
「……何が見えた」
「チヨちゃんのライブは見た?」
「あぁ、見たぞ。少し遠くからではあったが」
「……そう。あたし結構近くで見てたのよ。リズムがほんの少し、誰も気づかないぐらい少し、ズレてたわ」
「それは、練習不足とかではなく?」
「あのチヨちゃんよ?練習を怠ってるわけないでしょ。……あたしには何か焦ってるように見えた」
「焦ってる?なんで、今も無敗の4連勝だぞ、なのに」
弥生賞では、いい走りができていたと思う。ファンも増えて、後ろから桜色のペンライトの染まり具合には涙がこぼれそうになったほどである。
だからこそ、焦ってるという原因がわからない。
「そこまではわからない。だからここに来たんだけど、どうやら空振りみたいね」
「……レースが終わったら、話を聞かなきゃな」
話の最中にファンファーレが流れ始める。それが流れれば俺らは話をしなくなった。始まるまでの1秒、1秒が長く感じる。
そして、皐月賞が始まった。
相変わらずのいいスタート。位置取りはよかった、そして対策で囲まれた際もある程度は考えていた。
だからこそ、俺もマルゼンもその動き方に明らかな異変を見てしまった。
「んなっ!?」
「……脚、出なかったわね」
「……怪我だ、間違いない。しかも、今怪我したとかの感じじゃない。昨日の朝にはなかった。……昨日の午後か、今日の朝。チヨちゃんが指示を無視して走ってるってことか……?」
その走り方は間違いなく怪我であった。ほぼ間違いない、だがいつからだ、どうして気づかなかった?
頭が思考でぐるぐると渦巻いている最中に隣のマルゼンが溢した。
「チヨちゃん、苦しそう」
「……」
いつもの天真爛漫な彼女から想像できないほど、チヨちゃんの顔はあまりに苦しそうであった。
***
(どうするどうするどうする…………いや、もう賭け、か)
既に直線を抜けようとし、第三コーナーに入ろうとしている。
以前前は塞がれたまま、ここまでの流れを見て私は覚悟を決める。否、決めるしか無くなった。
一世一代のギャンブルと心中する覚悟である。
『さぁら第3コーナー、ここでくるか、桜姫、ロングスパート……か、かけない!!サクラチヨノオースパートをかけません!これはどう言うことでしょうか』
『……前が徹底的に塞がれてますからね、抜け出せないのかもしれません』
観衆の方からも聞こえてくるざわめきを横に流して走る。
まだか、まだか。
焦りが生まれる。だがまだ抜け出せない。
そして、ついにギリギリのギャンブルに終止符が打たれた。
第3コーナーを過ぎ、最後のカーブへ入る、瞬間。私と一緒のタイミングで仕掛けようと思ったのだろう。スパートしない私に焦った真ん中を陣取っていた子が少し前に出る。
その隙間、そこが開かれるのが直線前だったら完全に負けだった。
だけどまだ第四コーナー前、まだ間に合う距離だ。
足をそこに曲げ、そして、蹴る。
隙間を通すように、2人の間を抜ける。少し強引に抜ける、そのせいで少し右隣の子が接触を恐れて隙間を大きく開ける。
私も失格は望むとこではない。接触にならない程度にギリギリで抜けようとしていた身からすればそれはありがたい。
一気に隙間を抜け切った。
『ここできた、サクラチヨノオー!少し無理やりに前に抜ける形になりました、ですがそれより少し早くにヤエノムテキもスパートをかけている!ここから追いつけるのか!?』
そして集団を抜けた私は、全力で芝を踏み締めた。
いつもより短いスパート、体力は余っているが追いつけるかは微妙。
それでも今ここでいくしかない。既にヤエノさんは私がスパートをかけたのを見た瞬間にスパートをかけて前に出ている。ここまで読み切っていたのだろうか、もうそこそこ離れてしまっている。大体3バ身ほどだろうか。
全力のスパート、はったりはなし、一度で全てを出し切る。
スタミナがあるなら、と足のストライドを広げ、スタミナを代償にスピードを上乗せする。垂れてきた逃げの子を抜き去った。あと前には1人だけ。
コーナーを抜け、最終直線。最初に抜け出したのはヤエノさんだった。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
叫びが聞こえてくる。つまり、私もその距離にまで来ている。
伸ばせ!もっと、早く!速く!
「勝つんだぁぁぁぁ!!!」
スピードが上がる、あと1バ身。だが残り距離は100mもない。
やはり最高速には達さない。やはり距離は足りていない。
それでも、それが負ける理由にはならないはずだ。
だって、聞こえてしまった。
「サクラチヨノオー!勝てぇぇぇぇ!!!!!!」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」
声を出して、全てを吐き出す。体から余計なものを全て捨てろ、空気だっていらない。
視界は濁り、もう白くなっていてほぼ見えていない。
それでも足は動く、動かす。なら、十分。
そして、
『な、並んだ!サクラチヨノオー、遂にヤエノムテキと並びました!いや、並ばない!そのまま抜き去る!』
そして、そして、
『今決着!一冠目は桜姫、サクラチヨノオーだぁぁ!!!』
『いやぁ、素晴らしい末脚でしたね』
『はい!ですが、桜姫がここまで追い詰められたのは接戦は初となりました。ヤエノムテキにも会場から大きな拍手が送られています』
息ができない。耳もぐわんぐわしてうまく聞こえない。目もまだぼやけている。
私は完全にテンパっていた。
「チヨノオーさん、落ち着いてください。まずは深呼吸です」
後ろから背中をさすられながら何とか言われた通りに深呼吸を数回繰り返す。少しずつ落ち着いて周りが見えるようになった私は後ろに振り返った。
そこにいたのはヤエノさんだった。
「ヤエノ、さん」
「一着、おめでとうございます。勝ったと思ったんですけどね」
「……いえ、半ば運でした。前があれより早く空かなければ、あと五秒遅ければ、恐らく、負けてたでしょうから」
実際、何度繰り返しても勝てるのは今回だけな気がする。それだけギリギリ噛み合った故の勝利だった。
「ですが、勝ったのはあなたです。……脚、怪我してますね?」
「……やっぱりバレてました?」
「当たり前です。バ鹿ですかあなたは、なんでそんな足で出てきてるんですか……。トレーナー殿には?」
「……」
「はあ、ちゃんと言っといてください。とりあえず、おめでとうございます。ですが、次は私が勝ちますので」
「……いえ、次も勝つのは私です」
去っていくヤエノさんの姿を見ながら視線を先程声のした方にスライドする。見えたのは地下のスロープに続く階段を降りていくトレーナーさんの姿だった。
もう一度空を見上げて息を整える。ゆっくり息を吸い、吐く。落ち着いて体を立ち上げると大歓声に手を振ってからターフを後にする。
少し歩くと、そこに探していた人の姿を見つけた。
「とr「サクラチヨノオー、その足はどういうことだ?」……なんのことですか?」
同じタイミングで私を見つけたトレーナーさんはフルネームで呼びながら私の右足を指していた。
それにとっさに足を後ろにひいてしまう。
「脚、見せて」
「っ!」
罪悪感からか、それとも怖かったのか、私は彼から逃げるように後ろに向かおうとし、突然何かにぶつかってしまう。
「はーい、チヨちゃん。ここから先は通行止めよ〜」
「マルゼンさん……」
そこにいたのはマルゼンさんだった。レースも見ててくれたってことらしい。
だけど今この瞬間だけはいてほしくなかったと思ってしまう。
「触るぞ。…………なんで言わなかった?今回のレースでできたものじゃない。少なくともその時から痛みはあったはずだ」
すぐ近くに来ていたトレーナーさんが一言入れてから右足の腫れ上がった部分に手を当てる。顔が怖いものに変わる。
やはりあの時に悪化させてしまっているらしい、レース前に見た時より酷くなってしまっていた。
そしてトレーナーさんの問いに、私は半ばやけくそに答えていた。
「もし、言ったら、トレーナーさんは私がこのレースに出るのを許しましたか?」
「いや、絶対にないな」
「だからですよ!私は、走らなきゃいけなかったんです!このレースだけは走らなきゃ!」
そう、このレースだけは走らなければ、勝たなきゃいけなかった。
私の夢のために。
そしてお兄さんのために。
だって勝って、記憶を戻して、それぐらいの恩返しができなきゃ、お兄さんに……っ
「チヨちゃんの脚がどうなってもか?」
「そうです。私が、やらなきゃいけないんです。私だけがっ……!」
「なんで、そこまで……」
あなたの記憶を戻せるのは、私しかいないのに、そのあなたがどうして私の前に立ってるんですか。
そんな矛盾に気づいてぐちゃぐちゃになった頭でうまく整理もせずに言葉を並べてしまった。だから、
「だから邪魔しないでくださいっ!私は走らなきゃ!じゃないと、お兄さんが!………………ぁ」
やってしまった。一気に冷静になる、また、やってしまった。いつもどこかでドジを踏む。またお兄さんに迷惑が掛かってしまう。
……いや、わかっていたはずだ。迷惑を恐れた結果がこれなんだ。
「俺、が?どういう、ことだ。チヨちゃん、何を」
「…………お兄さんに、黙っていたことがあるんです。あの12月、お兄さんが倒れた時のことです————
一度そう思ったら最後、4カ月の秘め事はすらすらと私の口から出ていった。
「……そう、だった、のか……」
「……だから、だからっ!私だけがお兄さんの記憶をと「じゃあ尚更だな」」
その言葉に先ほどまでの怒りはあまり感じられなかった。
お兄さんもどこか、うまくかみ砕こうとして、まだ胃に入りきっていない感じ。
それでもその目はいつか見た覚悟を決めたような目だった。
「チヨちゃんには去年の最初、あの池で随分言ったはずなんだけどなぁ」
「お兄、さん?」
「————チヨちゃん、頼ってよ」
「っ……」
その言葉に頭が鈍器で叩かれたような衝撃を受ける。
1年前、落ちた桜の上で言われた言葉。
私を救ってくれた言葉は私に、もう一度大きな衝撃を与えにやってきた。
「チヨちゃんに重荷を背負わせてた俺が言うのもなんだけどさ、俺はチヨちゃんに頼って欲しかった。俺たちの関係ってそんな薄いもんだったのか?」
「いや、ちがっ……」
「ありがとう。じゃあさ、頼ってくれないか?今からでいい、チヨちゃんが悩むこと、辛いこと、全部俺にも背負わせてほしい。それがトレーナーってもんじゃないかな?多分、昔の俺もそう言うと思うけど」
「……トレーナーさんの重荷が増えちゃいます……、そしたらまた倒れちゃうかも……」
彼のその笑顔に、涙が、堪えようとした雫がゆっくり、溢れる。
あー、ほんと。泣き虫になっちゃったなぁ。また、ですよ……。
「その時は俺はチヨちゃんに頼らせてほしいかな。どう?」
「……助けます。……ぐすっ…………とれ゛ーなーざん、……私を、あなたを、助けてください゛っ……」
「おう、任せろ!……ってまぁ自分のことではあるんだけどね……」
「締まらないわねぇ……」
涙が溢れ始めた私にそう宣言したお兄さんに、少し引いていたマルゼンさんがため息混じりに、それでも少し安堵したような顔で言った。
少し経って、涙も落ち着くと、お兄さんのそばから離れる。
「とりあえず、話は後にしてチヨちゃん医務室に行こう。流石にこの怪我でウイニングライブなんてさせるわけにはいかないからね」
「……すみませんでした……」
「全くだ。いくら勝つためだからって怪我しちゃ意味ないでしょ」
「……はい」
確かに焦っていたし、時間も足りないと思っていた。
きっと、その思考に囚われた時点で失敗だったのだと思う。
そして翌日、
「よし、帰省しよう」
「どういうことですか!?」
帰省することになりました。
ここまでのご精読ありがとうございました。
次回はついに日本ダービーです。チヨちゃんといえばダービーですよね!
それでは評価、感想等お待ちしてます!
また次回お会いしましょう!