サクラチヨノオーは負けられないんですっ!   作:タピタピ

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こんばんは、タピタピです。

時間遅れてしまい、申し訳ありませんでした!


9話、最終決戦になります。


それでは有馬記念へどうぞ。



サクラチヨノオ―は負けられないんですっ!

 

「ふぅ……」

 

 

 12月も下旬、寒くなった手に息を吐く。 

 

 その小さい声が貫通してくる上の歓声に飲み込まれていく。

 

 

 

 最強決定戦、頂上対決、その他にも色々な呼ばれ方をしている今回の有馬記念。

 

 私の無敗クラシック三冠、天皇賞秋での激闘、ジャパンカップでの海外勢との死闘。そのすべてが連なり、今日のこのレースの注目度は例年を大きく上回るものになっているという。

 

 このはちきれんばかりの歓声がそれを物語っている。

 

 

「……」

 

 

 手が震える。

 

 緊張が体に伝播する。

 

 足がすくむ。

 

 

  だけど————

 

 

「チヨちゃーん」

 

 

 少し、気持ちに整理がついたころ、遠くからのほほーんとした私を呼ぶ声が聞こえる。

 

 

「あ、タマモさん。お久しぶりです」

 

「いやぁ、ついに来たなぁ今日が」

 

 

 タマモクロス、今最も強いウマ娘として名前が挙がる人。直接しゃべるのは以前のファン感謝祭で色々あった以来になるだろうか。

 

 

「今日は勝たせてもらいます!」

 

「お?いうやんけ。せやけど勝ちは譲らん。勝つのはうちやで」

 

 

「申し訳ないが勝つのは私だ」

 

 

 タマモさんと話していると、さらに奥からまた白い毛、オグリキャップことオグリさんがやってくる。

 

 

「「オグリ(さん)」」

 

「タマ、今日こそは負けない」

 

「望むところや」

 

 

 タマモさんとの間にバチバチとした雰囲気が流れると、次はこちらに向き直ってくる。

 

 

「チヨノオー、やっと走れるからな、勝たせてもらう」

 

「私こそ!」

 

 

 そう言って宣戦布告を受けてから少し話をして、

 

 

「お、そろそろオグリの番やないか?」

 

「ん、じゃあ先に行かせてもらおう」

 

 

 そうしてオグリさんを見送ると、2人になった場所で聞いておきたかったことを口にする。

 

 

「タマモさん、本当に引退するんですね」

 

「……あぁ。もうちょい走っていたかったんやけどな」

 

 

 タマモクロスの引退、既に知られているこの話。まだ十分強いだろうに、その決断が彼女の意志を物語っていた。

 

 

「そうですか……。でも、手加減なんてしませんからね」

 

「はっ!そないなことされたら試合中に蹴り入れたる!」

 

「負けても慰めてあげませんからね!」

 

 

 そんな軽口を叩きながらターフは向かう。

 

 ここからは戦場だ。

 

 

 

『今年も、この日がやってまいりました。日本一を決める大勝負。有馬記念が始まろうとしています。今回の目玉は何と言っても現在の三強対決です!その中で1番人気を勝ち取ったのは現在無敗の三冠ウマ娘。彼女の走るレースには必ず桜が咲き誇る。3枠5番、サクラチヨノオーです!』

 

 

 

『間違いなく現最強の一角ですね。ギリギリのレースもありましたが、それでも最後には必ず勝利を勝ち取るという素晴らしいウマ娘です』

 

 

 

『続いて2番人気は天皇賞春秋連覇を果たし、ジャパンカップでは各国の選りすぐりを後少しのところまで追い詰めました。電光石火の白き稲妻。7枠14番、タマモクロスです』

 

 

 

『私個人的に推しているウマ娘になります。最終盤での加速力には目を見張るものがあります。その走りはまさに稲妻と言えるでしょう』

 

 

 

『そして3番人気に落ち着いたのが地方から現れた、颯爽と重賞を掻っ攫っていった芦毛の怪物。直近ではタマモクロスとの対決に敗れ、3番人気に落ち着くことになりました。ですがその走りに迷いなし。6枠11番、オグリキャップです』

 

 

 

『まさしく怪物、外から全てをまくってくるあの末脚。世界にも通用するその実力を見に来た人も多くいるのではないでしょうか』

 

 

 

 その独特な雰囲気が会場を包み込んでいた。

 

 ウマ娘13人がゆっくりとゲートに入って行く。

 

 

 静寂の時。

 

 

 その瞬間に全ての神経を注ぐ。

 

 

 

 

 ゲートが開いた。

 

 

 

 

 

 有馬記念 スタート

 

 

 

 

 開幕、一直線に内に切り込むようにスタートを決める。

 

 完全に抜け出したそのスタートは自分でもよく分かるほどに人生で最速のスタートになった。

 今日までにマルゼンさんに練習に付き合ってもらった成果。このスタートだけは誰にも負けないとある程度の自負を持って内に入る。

 

 その様子からいくらかのウマ娘が顔を険しくさせていた。

 

 

(今回も、逃げるのか?)

 

 

 全員に共通する問い。菊花賞でサクラチヨノオ―が見せた大逃げ。もし仮に逃げるようならば早いうちに対処しなければいけない。

 だがもし違っていた場合には大きなスタミナのロスを負うことになる。それにその妨害は何しろ自分がやらなければいけないというものでもない。

 

 言ってしまえば誰かがやってくれればいい。

 

 

(誰か、止めてくれ)

 

 

「……そうじゃないやろ」

 

 

 そんな声が隣から聞こえてくる。

 

 

『始まりました!有馬記念!サクラチヨノオーが好スタートで内をとり、そしてタマモクロス!?タマモクロスが2番手についています!!!』

 

 

 隣に立ったのは白い髪の毛、タマモクロス。

 

 

「誰かがやるやない。まずは自分からや」

 

「……っ」

 

 

 その早い行動に少し舌を巻く。

 

 この混乱をある程度のところまで持っていきたかった。この二択で選手を潰しておけば皐月賞のような集団でのマークは逃れられるはずだった。

 

 そのタマモさんの行動に連なるように他の選手の逃げの手を潰すように周りに動いてくる。

 

 

「……」

 

 

 その動きを見てから私はため息気味に内をとりながら少しずつスピードを落としていく。

 

 

「やってくれましたね」

 

「そううまくはやらせんで」

 

 

 逃げを諦めた私を確認して周りにいた逃げの脚質の子たちが前へと上がっていく。

 前に3人、隣にいたタマモさんもすでに後方、いつもの位置につけなおしている。

 

 そしてオグリさんは動くことなく、中団後方、やや外側にて待機。

 

 

 2人の動きはある程度考えられる。

 

 位置からしてオグリさんは差し、タマモさんは追込。そしてタマモさんに合わせるようにオグリさんはあがってくるはず。

 

 そして彼女が仕掛けるのはおそらく私と同じ二週目の第三コーナー前にる。

 

 

 そうみんなが思っているからこそ、今回だけ仕掛け場所を変更する。

 

 

 第二コーナーを曲がり、向こう正面。

 

 誰もがお互いを警戒し続ける形になったことで動きはほとんどなくなっていた。

 

 

 

 その中、1人が動き出した。

 

 

 

「ヌルいなぁ」

 

 

 

「ゆっくり走って体力温存?」

 

 

 

「勝負所は最終コーナー?」

 

 

 

 

「ヌルすぎる!分かっとんのか?」

 

 

 

 

「今アンタらが闘うとんのは」

 

 

 

 

  最強(タマモクロス)やぞ

 

 

 

 稲妻が、動き始めた。

 

 

 

「ですよね」

 

 

 だが、ただ一人、ただ一人だけがこの事態を予測している。

 

 

「あなたなら、そうすると思った」

 

 

「行きます」

 

 

 足を踏みしめる。前には2人、後ろからは圧倒的な圧。

 

 これほどの迫力、伊達に最強を名乗ってはいない。

 

 

 それでも、

 

 

「怖いものなんて山ほど乗り越えてきた」

 

 

 領域(ゾーン) 憧れは桜を越える!

 

 

 

 *** 

 

 

 

(……やっぱりばれてるやんな)

 

 うちのスパートとほぼどんぴしゃりなタイミングでスパートをかけ始めたサクラチヨノオ―を見てそんな感想を抱く。

 

 先日、ジャパンカップが終わった後に帰国前のオベイユアマスターと話す機会があった。

 

 

「あのレース、全部最初から最後まで読んでたんか?」

 

「ん?まぁ大体はね~」

 

「……とんでもない奴やでほんま」

 

「私がエネミーとして挙げたのは欧州王者のトニーとこの国の君ら二人。そしてそれは間違っていなかった。だからこそ行くなら今年しかなかったんだ」

 

「しか?」

 

「この国のウマ娘もたくさん見たし、データも集めた。そして現役の最強格はまず2人。タマモとオグリ。そしてもう一人、いるだろう?」

 

「……サクラチヨノオ―か」

 

「Yes!……それがすべてさ。なにせ、

 

 

  私にはサクラチヨノオーには厳しすぎる

 

 

 

(まぁ、だとしてもやることは変わらないやんな)

 

(すまんな、オグリ。今日は姫さんをどうにかしないといけへん)

 

 

 まずは中団にいるオグリのとこまで。

 

 

「オグリン、10秒や」

 

 

 領域(ゾーン) 白い稲妻

 

 

 白い稲妻がターフを駆けていく。

 

 

 

 *** 

 

 

 

(本当に言った通りになった……)

 

 

 加速を行いながら後ろの圧の存在を考える。

 

 作戦会議の時点でタマモクロスのロングスパートは考えられていた。私のロングスパートと同じ距離を走り切れる彼女ならばこれぐらいはやってもおかしくない、と。

 

 そしてトレーナーさんは言った。

 

 

「いや、向こう正面。1100m付近だ。そこでタマモクロスは加速する」

 

「どうしてそんな」

 

「そりゃあチヨちゃんに追いつけるまでの加速を出すにはそれぐらいからじゃないと追いつかないからだよ」

 

 

 加速を続けながらそんなことを考える。

 

 既に逃げの子達は捉えて抜き去っている。

 

 

 第3コーナーに入った時点で二着目とは3バ身は開いていたはず。

 

 

 

 

 ただ、多分もう———

 

 

 

 

「……!来た……!」

 

 

 圧が一気に迫る。そして、

 

 

「さぁ、うちとやろうや!サクラチヨノオー!!!」

 

「行きますよっ!タマモクロスさんっ!!!」

 

 

 第四コーナー前、残り400m。

 

 

 ついに2人が並んだ。

 

 

 

 

 並んだ瞬間のことだった。

 

 

 

 *** 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 後ろからタマの迫力がが増すのを感じた。

 

 よくよく考えてみると、こうしてタマの圧を後ろから感じると言うのは初めてだったかもしれない。

 

 

 そして、また感じる。この感覚。

 

 天皇賞秋、ジャパンカップ。二つのレースで何かが足りないと教えられた、あの感覚。

 

 

「———0」

 

 

 そしてついに横に——並ばない。

 

 

「……先行くで」

 

 

 一言、そう一言だけ残してタマは先へと進んでいく。

 

 いくら私でもこのまま離されるのが得策でないことぐらいはわかる。

 

 

「っ!」

 

 

 足をため、蹴る。

 

 いつもと同じように走る。

 

 だが、それでも

 

 

「まだ、届かない、のかっ!?」

 

 

 距離は漠然と離れていく。

 

 

 

 

 

 …………嫌だ。

 

 

 

 

 ……嫌だ。

 

 

 

 

 嫌だッ!!!

 

 

 

 

 負けたくないッ!!!!!

 

 

 

 

 思い出す。

 

 

 

 

 生まれた時から脚が悪かった。

 

 立って歩く、それだけでも奇跡だった。

 

 

 そんな私が……

 

 今……

 

 

 

「もっと……」

 

 

 

 カサマツのみんなのおかげで走る楽しさを知った。

 

 中央のみんな、

 

 ……そして、タマのおかげで

 

 ここまで来れた。

 

 

 

 "答え"を見つけられた。

 

 

 

『なんでそんな走るの?』

 

『貴様は何の為に走っている?』

 

 

『お前が戦うべきは相手は誰だ!?』

 

 

 そうだ……

 

 

 私が戦うべきなのは、誰でもない。

 

 

 

 

 私自分だ。

 

 

 

 

 だって私は———

 

 

 

 

 

 領域(ゾーン) 灰の怪物

  

 

 

 

 

 

 

 —————走る為に生まれてきたのだから!

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!」

 

「はっ!来たな、オグリ!!!」

 

 

 

 

「行くぞ!二人とも!」

 

 

 

 ただ本能に身を任せる。

 

 走れと体が叫ぶ。

 

 今だけは、どこまでも走り切れるようなそんな感覚。

 

 

 

 

そして、残り200m。

 

 

 

 

『以前先頭はサクラチヨノオーとタマモクロス!いや、違う!来た!オグリキャップ!オグリキャップが並ぶ!並ぶ!残り200m、最終直線を前にして、3人のウマ娘が横並びになった!!』

 

 

『勝つのは姫か』

 

『稲妻か』

 

『怪物か』

 

 

 

『最後の直線に入ります!』

 

 

 

 *** 

 

 

 

 完全な横一列。

 

 抜け出すのが困難な運び。

 

 オグリさんが領域に入るのは想定外だった。……いや、そうでもないか。元々才能や素質の面で私の遥か上をいく人だ。私にできたことができないわけがない。

 

 私は特別な力を持った主人公じゃないんだから。

 

 

 私はサクラチヨノオー。

 

 ただ1人のサクラチヨノオーだ。

 

 

(さぁ、私どうすればいい)

 

 

 描き出せ、蓮さんと作った最強のサクラチヨノオーを。

 

 

「「……!」」

 

 

 一歩、足を遅らせる。

 

 

 その瞬間に2人が前に出る。横一列が崩れた。

 

 半バ身差が生まれた。だけど、きっとそれでいい。

 

 

 

 私にはあの2人に挟まれて走れるだけのパワーはない。

 

 今更ないものねだりなんてしない。

 

 

 だってそれも私だ。

 

 

 

 足を外へ。

 

 

 なら、私には何がある———

 

 

『スタミナがそんなにあるならさ、スパートだって調整すれば2回できるんじゃない?』

 

 

 選抜レースに勝つために2人で考えた最初の作戦。

 

 周りが聞けば何言ってんだと一蹴されるような作戦。

 

 

 でも、それができるから私たちだ。

 

 

 

 

「行きます」「行け」

 

 

 

 

 外に向けられた足を、地へ。

 

 

 

「なっ……!」

「っ……!?」

 

 

 

『サクラチヨノオー落ちたか!?いや!まだ桜は舞う!外に方向転換してから2度目のスパートだ!!!』

 

 

 

 

 

 別に走り始めたのに大それた理由があったわけじゃない。

 

 なんとなく走って、自分が速いことに気づいてからそこを目指すことにはそう時間はかからなかった。

 

 

『私、トレセン学園に行きたいっ!』

 

『じゃあいっぱい走って速くならないとな!』

 

『ちゃんとご飯も食べるのよー』

 

 

 苦しいこともあった。

 

 

『う、そ……、やだ、やだやだやだ!なんで、なんで蓮さん!なんで!出てきてよ!!』

 

 

 目の前が真っ暗になって、ただ走った。

 

 

 

『私たちは君をいつでも歓迎している。一緒に走ろう』

 

『行くわよ〜!!!』

 

 

『すごい……!私も、あんな風に……!』

 

 

 そしてまた夢を見た。

 

 あの人のようになりたいと、また走った。

 

 

『同部屋、よろしくおねがいしますね』

 

『これから何卒よろしくお願いします』

 

 

 みんなにも会った。

 

 

『…………私は普通のウマ娘なんです。どうやったって特別にはなれないんです』

 

 

 私には特別な才能はないのだと知って。

 辛さに押しつぶされそうになった。

 

 

『どうして1人で抱え込むんだって言ってんだよ!』

 

 

 それでもいいとファンになってくれた人がいた。

 

 頼ってくれと叫んでくれた人がいた。

 

 

 

『だって俺は君の走りが好きだから』

 

 

 私の走りが好きだと言ってくれた人がいた。

 

 特別にしてくれた人がいた。

 

 

 

 

 

 いつだって私には仲間がいた。

 

 

 1人で何度も何度も打ちのめされて

 

 

 それでも何度も起き上がらせてくれた。

 

 

 

 そして"答え"が見つかった。

 

 

 

 私はずっと特別な力が()()()()()んじゃない。

 

 

 

 私は————

 

 

 

 

「私は!サクラチヨノオ―は!!負けられないんだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 ————誰かの特別に()()()()()()んだ。

 

 

 

 

 

 

「っく!私だって負けない!勝つのは私だ!!!」

 

「うちや!うちは勝つんや!みんなのためにも、うちは負けないっ!!」

 

 

 全員が全てを出し切って走る。

 

 息を吐ききって体を空っぽにする。

 

 吸ってる余裕などない。

 

 

 一歩、一歩でも早く前へ。

 

 

 既に姿は朧げにしか見えなくなってきている。

 声も聞こえない。

 

 

 それでも彼らの声は私たちによく届いた。

 

 

「タマちゃん!!!頑張れ!!!」

 

「おう……っ!!!」

 

 

「オグリ!!!走れぇぇぇ!!!」

 

「まか、せろ……っ!!!」

 

 

 

 

 

「チヨ!!!いけぇぇぇぇぇ!!!」

 

「———はい!!!」

 

 

 また一つギアが上がる。

 

 

 足が、肺が、脳が悲鳴を上げている。

 

 それでも誰も止めない、止められない。

 

 

 

 残り10m。完全に横並びに。

 

 

 残り5m。

 

 

 

『————』

 

 

 

 

 手を小さな腕で引っ張られる。

 

 

(!……そっか、ずっといてくれたんだね。もう大丈夫、ありがとう)

 

 

 

 一歩、わずか一歩、されど一歩。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桜が舞った。

 

 

 

 

 

『先頭は、サクラチヨノオー!!!サクラチヨノオーが、怪物と稲妻を抑えてわずかに一着でゴールイン!!!観客席が満開の桜で埋め尽くされております!!!見よ!これこそが日本の最強!サクラチヨノオーだぁぁぁぁ!!!』

 

 

 ゴールを超え、何をするでもなく、私は観客席を見ていた。

 

 見えるのは色々な人が桜色のグッズを持ち上げて満開になっている観客席。まさしく桜そのものだった。

 

 

 どうしてもまだ現実味がないというのだろうか。

 

 ただ、

 

 

「……楽しかった」

 

「せやな」

 

 

 私の小声に反応する人が右横にいた。

 

 芝に座って同じように観客席を見ているタマモさん。その目にはやりきったという清々しさが見える。

 

 

「……楽しかった。ただ、悔、しいな……」

 

 

 その横でオグリさんが楽しかったと思い出に耽るように、それでいて悔しいと辛そうに目から涙を溢す。

 

 オグリさんが強引に目元を拭い、立ち上がるとそれに伴ってタマモさんも立ち上がって2人が手をこちらに伸ばす。

 

 

「おめでとさん」

「おめでとう」

 

 

————サクラチヨノオー(あんた・君)の勝ちだ

 

 

 

「私の、勝ち」

 

 

 言葉にすると、その言葉が頭に溶けて行く。

 

 

 私の勝ち

 

 

 足が自然ととある方向に向かっていた。

 

 

「————トレーナーさんっ!!!」

 

 

 

 周りの目を気にせずに思いっきり抱きつく。

 

 

「チヨ!!!よく頑張った!!!」

 

 

 トレーナーさんが私を受け止めながら満面の笑みでこちらに微笑みかけてくる。

 

 サクラチヨノオーの人生はずっとこの人に揺さぶられてばっかりです。

 

 

 勝手に仲良くなって、いなくなって、また出会って、怒られて、助けられて。

 

 

 だから、本当に、ありがとう。

 

 

「トレーナーさんっ!」

 

「ん?」

 

 

下からトレーナーさんを見上げる。

 

 

「————貴方の特別になれましたか?」

 

「!あぁ、最っ高のウマ娘だ!」

 

 

 

有馬記念 

 

1着 サクラチヨノオー タイム: 2:29:17

 

 





ここまでのご精読ありがとうございました!

有馬記念にてレースは最後となります!次回が最終話となりますのでよければ見ていただからと嬉しいです!

それではまた次回お会いしましょう!
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