ストーリーはキバ、でも変身するのはレイ
※キャラの親族設定いじってます
湘南某所の古びた洋館。壁には蔦が絡まって庭には鬱蒼とした木々が生えていた
その館で暮らしている緒川操一朗(オガワソウイチロウ)はその日もいつものように朝5時に目を覚ました。寝起きだが寝惚けている様子はない。
眼鏡をかけて髪の一部を眼と同じ高さでポニーテールに髪ゴムで結んだ。そしてジャージに着替え、革製の竹刀ケースを背負って家を出た。日課にしている砂浜での走りこみと竹刀素振り100回、木刀の型稽古をして家に帰った。
シャワーを浴びて制服に着替え、バナナを野菜ジュースで流し込んだ。自室の机の上にある、昨夜折った折り紙の花束…今日は担任の高橋先生が産休に入るのでクラスメイト全員で花束を贈呈することになっていた…を持って家を出た
「行ってくる」
出る直前、操一朗は玄関前に飾っている写真とバイオリン、その前に並んでいる3つのボールに声をかけて家を出た
【23 years ago】
緒川音夜とまひるの双子は兄妹2人で暮らしいた。両親が遺した財産は2人が十分な余裕を持って高校を卒業するがあり、住む自宅も管理がやや面倒だが、洋館がある
「兄さぁ~ん、朝だよ~」
目覚し時計のアラームを不快音響とする音夜は毎朝妹の声で目を覚ます
「ん…」
夜型の音夜は毎夜館の屋根の上で世間で名曲とされている曲、ではなく、その時々に閃いた音をバイオリンで繰り爪弾いていた
音夜は冷水シャワーを浴びて下着とバスローブを羽織っただけの姿でダイニングキッチンに入ってきた。歩くたびに細身ながら引き締まった身体の凹凸に沿って雫が流れ落ちていた
「また夜遅くまで演奏していたでしょ」
夏制服をきっちり着てエプロンをした妹のまひるは朝食の支度をしながら、欠伸をしている兄に言った
「あぁ、昨夜は星の輝きがいつにも増して鮮やかでな。それを音として弾いていた」
「最近はあんまり無くなってきたけど、近所から騒音迷惑の苦情とか気をつけてよ」
「フッ、このオレの演奏を騒音などと評する有象無象に何を遠慮する必要がある」
音夜はまひるのいれたコーヒーを飲みながらテーブルの上の新聞に目を通した
「また失踪事件か…」
「最近多いよね、全国各地で。でもこういう新聞とかの報道は表面上の事実だけだけど、ネット上では妙な噂も立っているの知ってる?」
「噂?」
音夜はコーヒーカップを置いてまひるの方を向いた
「失踪した人たちは、実は人間に化けた妖怪とかお化けとかモンスターだって噂」
「なんだそれは。昨今地球温暖化で夏が長くなっているからって、年がら年中怪談で涼を取りたいのか、そいつらは」
「でもそうなると、次は私たちも危ないかも」
「何でだ?」
「だって私たち『洋館わらし』とか『吸血鬼』とか言われるんだよ、影で。ちなみに吸血鬼は兄さんだけ」
「まったく…、世俗の人の噂というのもは」
音夜はくし型切りされたトマトをフォークを使って立て続けに4つ、一個分を平らげた
「心配するな、何があってもまひるはオレが守る」
音夜はまひるの髪を指で優しく梳いた
「うん」
まひるは素直に頷いた
2人は目玉焼き、サラダ、トーストと特製野菜ジュースの朝食を食べ終えた2人は身支度を整えた
音夜は櫛でまひるの髪を丁寧に梳いてポニーテールに結った
まひるは音夜がシャツの袖を通すのとボタン留めを甲斐甲斐しく手伝った
これがこの双子のいつもの日常だった
館のガレージに停められているホンダ・Shadow<750>。音夜の愛車だ。学校の許可も取ってバイク通学をしているのだ
「行くぞ」
「はぁ~い。いってきまぁ~す」
音夜の放ってよこしたヘルメットをキャッチしながら、まひるは自分たちの帰って来る家に挨拶した
〔23 years after〕
「お、大智」
「よぉ操一朗」
自転車で学校への坂道を登っているとクラスメイトで親友の田中大智(タナカタイチ)がバドミントンのバッグを背負って自転車をこいでいた。操一朗と大智の2人は一人ぼっち部活動仲間である。剣道部とバドミントン部は操一達が2年後半になった時点で部員が一人しかいなくなり、本来なら廃部となるはずだったが、校長の計らいで特例として部として活動できることになったのだ。大智とはそれ以来クラスも同じこともあってよくつるんでいた
「今日も朝練か?」
「あぁ、声楽部の練習の端っこでな」
「大変だな」
「まぁな、そろそろ行くわ。先に行って体育館の掃除しなきゃならんし」
大智はそう言うとスピードを上げて坂を登っていった
「ちっ、あの教頭の言いつけか」
舌打ちする操一の目の前に、またクラスメイト、今度は女子が見えた
「が~んばれ~、ロンリボ~イ」
ちりり~~~ん!!!
「うわっ!?」
追い越した田中にちゃちゃを入れた小柄な女子生徒、宮本小夏(ミヤモトコナツ)は付けていた携帯用ヘッドフォンを外すと自転車のベルを鳴らした操一朗の方を向いた
「ちょっと緒川、危ないでしょ」
「道の真ん中を聴覚遮断して歩いてる奴に言われたくない。ちっさいくせに道幅取りすぎ、端に寄って歩け小動物」
「むっかぁ~!何その言いかた!」
「つーか宮本、お前図書室から借りた本延滞してるだろ」
「げ…、きょ、今日返そうかと…」
「一昨日返せ。『アガリ症克服術』と『プレッシャーに負けない自分』の二冊だからな」
「ちょ…、こんなとこで人が借りた本のタイトル暴露すんな~!」
「人通りの少ない通学路で良かったな。今日返しに来なかったら明日のHRで名指しで返却要求するからな。それとも、校内放送で要求してやろうか?」
「性格わるっ…」
「俺は仕事をしているだけだ」
そう言うと操一朗は自転車のペースを上げて小夏を追い越していった
「おっはよ、ソウ!」
廊下を歩いていた操一朗は左足を軸に身体を裁いて臀部への平手打ちを躱した
「女子から男子へもセクハラって法的には通用するんだからな、紗羽」
「え~、いいじゃん別に。だってソウは訴えたりしないでしょ」
「そりゃしねぇけど…」
操一朗へのいつもの挨拶をしようとしたのは沖田紗羽(オキタサワ)。寺の一人娘で操一朗とは小学高学年からの知り合い。小・中は別だったが、紗羽の家にはサブレという馬がいて昔から動物、特に馬などの大型動物が好きだった操一朗はサブレ目当てでよく遊びに行っていた
「きゃっ」
その紗羽が悲鳴を上げた
小夏が後ろから佐和に体当たりしたのだ
「おっはよ、佐和。それ紫陽花?」
「うん、庭にあったの摘んできたんだ。そうだ小夏、ラッピング手伝って」
早足で教室に入っていった2人。その後ろから歩いてきた女子生徒に操一朗は声をかけた
「よぉ和奏」
「あ、操一朗、おはよ」
坂井和奏(サカイワカナ)は操一朗の従兄妹だ。操一朗の父親緒川音夜(オガワオトヤ)の妹が和奏の母親坂井(旧姓緒川)まひるなのだ。和奏の家は小さな喫茶店も兼ねた土産物屋を経営している
操一朗と和奏は家族ぐるみの交流もあったが、幼・小・中と同じ学校でクラスも半分以上同じ。高校からは、和奏は音楽学科、操一朗は普通科なので、交流は絶えて久しかった。しかし、3年次から普通科に転科してきた。その理由を、操一朗は何と無く気付いていたが、敢えて触れなかった
「普通科はどうよ、少しは慣れたか?」
「うん、まぁね」
操一朗は和奏の持ってきた鉢植えを見た
「お父さんが昨日買って置いたの庭に植えちゃって、朝一で買い直しするはめになっちゃた」
「ご苦労なこって」
「そういう操一朗は…、折り紙?」
「俺切り花って苦手なんだよな。匂いとか」
「だからって…」
「ちゃんと花柄の折り紙で折った花だ」
そんな会話をしながら2人は教室に入った
「花束贈呈!」
担任の高橋先生が教室に入ってくると紗羽の号令で全員が花束を贈った。ちょっとしたお祝いムードで和奏に歌を歌ってという生徒まで出てきた
「え…と」
困惑している和奏に助け舟を出したのは高橋先生だった。例によって朝練で遅れていた大智を指名、大智は白浜坂高校校歌を歌った
「・・・ん?」
席が廊下側の操一朗は外に誰かの気配を聞いた。足踏みでリズムを取って鼻歌で大智の歌に合わせていた
「いっけない!」
高橋先生が慌てて廊下に出ると、私服の男子を連れてきた。オーストリアから日本に帰ってきた転校生らしい。先生の指名で大智が転校生の学校案内をすることになった
「じゃあ俺は図書局の仕事あるから、後でな」
大智にそう言うと操一朗は図書室に向かった。20年前は文化委員が兼任していた管理が最近になって外局扱いとして新設された。ただ、それは他の委員会と異なり各クラスから必ず選出するものではないので、要するに操一朗は初局員にしてただ一人の局員にして唯一の局長でもあるのだ
図書室に向かう途中、先月入った図書の一覧表と領収書を提出しに職員室に入ろうとしたら、中から来夏が飛び出してきた。入る前から何やら怒鳴り声的な響きが廊下にまで響いていた
(また教頭から何か言われたな)
来夏は普通科で唯一の声楽部の部員だったが、今は譜面捲りしかして…、させてもらっていなかった
(歌うのは好き、でもそれだけじゃ駄目ってことか)
教頭は生徒間ではかなり厳しい指導と融通が効かないことで有名だった。声楽部顧問でもある教頭は音楽を徹底して理論的に指導する。妥協や私情は許さず挟まず、文科系の頭脳で体育会系の指導をしている
(ま、紗羽辺りに慰めてもらうだろうがな)
以前操一朗は紗羽の胸…同世代では巨に分類される…に顔を埋めて何か叫んでいるシーンに…そもそも場所が図書室だったから当たり前のように…遭遇したことがあった
操一朗は来夏の激昂とは対照的に冷ややかな教頭に必要書類を渡し、判子をもらった
職員室から出ると、操一朗は今日送られた花束を抱えた高橋先生と和奏を見つけた
「和奏、ちょっと貸せ」
「あ、操一朗」
「これ車まで運べばいいんだよな?智子さん」
「あのね、緒川。ここ学校なんだから敬語使いなさいって」
実は操一朗と担任の高橋はプライベートで付き合いがあった。父親音夜の友人で音楽関連会社の社長五嶋一彦(ゴシマカズヒコ)。彼が未成年である操一朗の保護者として音夜が残した財産や館の管理をしてくれていた。そしてその五嶋と婚約したのが担任の高橋だったのだ
「高橋先生ってまだ籍入れてないんですよね?」
「うん、その前にこの子のことがわかっちゃったから、産んでから入れようって一彦さんと相談したの」
「男?女?」
「まだ分かんない。産まれてからのお楽しみ」
車に花束を乗せた操一朗は図書局の仕事に戻ろうとした
「あ、そうだ。緒川、一彦さんが大事な話があるから明日会社に寄ってくれって」
「ん、分かった」
【23 years ago】
私立白浜坂高校。普通科もあるが、一番力を入れているのはまひるの在籍している音楽科。特に合唱部は2年連続で全国大会で優勝しており、今夏行なわれる地方演奏会でもゴールド金賞が有力視されている
「音夜く~ん、おはよ~」
「まひる先輩、おはようございます」
緒川兄妹は学校一の人気者。容姿はもちろん、まひるは音楽科での才能と実績、音夜も在籍普通科だが時折弾くバイオリンの音色や言動で女子ファンが多くいた。裏では非公認ファンクラブまで存在しているらしい。2人はかけられる声や挨拶に適当に応えながら校舎に入っていった
「あ、ナオ、おっはよ!」
まひるは教室に入ると同じ合唱部の親友、高倉直子に挨拶した
「あぁ、まひる。おはよう」
「ねぇねぇ、今度のコンクールに2年の志保ちゃん入れない?」
「何?唐突に。それに志保って能登志保?確かに彼女去年と比べたら実力は高くなったけど、でもいきなり全国大会のかかったコンクールなんて」
「でも志保ちゃん、プレッシャーに強いし、今の歌に合ってると思うよ」
「…もう、わかった。なら彼女を入れたメンバーで先生に提出するわ」
「たのんだよ、高倉部長」
〔23 years after〕
「…宮本の奴……」
白浜坂高校図書室は私立だけあって蔵書量は豊富、特に音楽関連の歴史書や実用書、CDやカセット、レコードまで揃っている。ちなみにアニメ、ドラマ&映画化にもなった某カンタービレ漫画も全巻揃っていたりする。落ち着いた雰囲気の図書室のカウンターに座っている操一朗は日誌を書きながらぼやいた。結局、来夏は本を返しに来なかったのだ
「お、操一朗」
大智と転校生が図書室に入って来た
「よぉ、案内は終わったか?」
「ここで最後だよ」
転校生は大智に訊いた
「タイチ、ここは?」
「図書室、借りたい本あったらここで借りるんだ。で、こいつはここのトップ、緒川操一朗」
「日本の暮らしで困ってるなら、適当な本見繕うぞ」
「大丈夫、来る前にちゃんと買って来たから」
転校生はリュックから一冊の本を取り出した
「・・・それは?」
「オーストリアの空港にあったんだ」
「へぇ~・・・」
操一朗は『今日から住んでも大丈夫日本版』というタイトルの本を見て、操一朗は明日までに適当な本を見繕うことにした
「ただいま」
館に帰ってきた操一朗を迎えのは仄暗い赤紫の炎だった
「…クロ!」
「ゲッゲッゲ!」
操一朗が天井付近に呼びかけると、ずんぐりした刺々しいモンスターが現れた
「なぁなぁソーイチロー、俺っちそろそろ外で人間脅かしてもいいよな?」
「…まぁ、夏服になったし最近は暑い日続いてるしな。でもほどほどだからな」
「OっK~!」
ゴースト族最後にして唯一の生き残り『玄牙(ゲンガー)』愛称クロ。人を脅かす事を何よりの喜びとするお調子者。毎年夏になると湘南に出没する幽霊の都市伝説の正体だ。一応それ目当ての取材や観光客もこの季節になると来ているので町の活性化、と操一朗は勝手に解釈して許していた。クロは壁をすり抜けて外出した
「さて…と」
操一朗は地下室に下りた。そこは工房になっており、作りかけのバイオリンが作業台の上に置いてあった
「……操一朗…」
「うぉっ、ユノ!いたのか!」
工房の隅に鏡餅を人の背丈くらいでかくして草を飾りつけたようなモンスターが佇んでいた。ギガント族のやはり最後で唯一の生き残り『雪之王(ユキノオー)』。愛称ユノ
「…どうだ、バイオリンの製作状況は」
「あぁ、やっぱ親父のを越えるバイオリンは難しいな。できれば高校卒業までには完成させたいけど」
操一朗はカバンからバイオリン関連の本や材木に関する本を出した
「あ~、でもやっぱその前にひとっ風呂浴びるか。暑かったし服べとべとだし」
「…風呂なら、」
「いや、軽く水浴びるだけだ、沸かさねぇよ」
ユノのゆっくりとした喋りを遮るように操一朗は部屋を出た。制服を途中のリビングのソファに脱ぎ捨てて、下着姿で浴室にむかった
「さて、と」
操一朗は浴室で下着をぱっぱと脱いでドアを開けた
「あ~、操一朗~。なになに、一緒に入る~?」
「って、ミカ!入ってるならドアノブにタオルかけとけっていつも言ってるだろ!」
浴室内にはマリンブルーのロングヘアー女性が入っていた。当然、裸で
「え~、ちょっと前はよく一緒に入っていたし、身体の隅々までまひると一緒に洗ってあげたんだよ~」
「10年近く前の話をちょっとって言うな!とりあえずもう満足したなら俺が入るから出てってくれ!」
「はいはい~」
水を張った湯船から出たミカの身体は健全な高校生には目に保養…もとい毒だ。すらりと伸びやかな四肢、それに反する二大霊峰と谷間、水を弾く肌は室内灯の下でも輝いていた。ただ、操一朗は見慣れているので今さら興奮したりはしない
今は人型になっているが、ミカはマーメイド族唯一最後の生き残り『美路歌露洲(ミロカロス)』。下半身を魚状にした人魚形態と本来の姿である海獣形態にも変化できる
「まったく、ユノはミカが入っているから、と言おうとしていたのに、貴様ときたら」
風呂場の天窓からやたらド迫力な声の白い蝙蝠が入ってきた
「うっせぇな、レイバット」
3匹をまとめるリーダー的存在にして、父音夜の昔からの相談役。キバット族を基に人工的に創られた人造キバット族、その0号機。故に『零(レイ)バット』
操一朗の父・音夜は学生時代レイバット達と出会い、当時町を跋扈していたレジェンドルガと戦い、それを退けた過去があった。
「ところで操一朗、和奏嬢の様子はどうだ?」
「んぁ、補講受けたりして学業面は問題無いけど、クラスでの交友関係はちょっとな」
操一朗は冷水シャワーを出して頭から浴びながら答えた
「で、あろうな。別科からの転科というだけでも孤立しそうな状況に加え、高校3年生では特定グループに今時期から加えてもらったり、迎え入れたりするのは難しいだろうな」
和奏のこともなんとかしたかったが、今の操一朗にはバイオリンや今年最後の剣道の全国大会、明日の五嶋との面会…、考えることが山ほどあった。それを払拭するかのようにシャワーで顔を思い切り洗って操一朗は浴室を出た
【23 years ago】
今日も一日、特に変わったこともなく過ぎていった。音夜は適当に授業を聞き流し…それでも成績は上の下をキープしている…、まひるが合唱部の練習で夕方遅くまで練習なのでそれまでの時間図書室で過ごしていた。音楽科がある学校だけに防音設備がしっかりしている図書室は周囲の雑音から切り離されているので音夜はここが好きだった。しかし、ただ無為に時間を浪費するのではなく、音夜は常連になって仲の良くなった司書に頼んで購入してもらった本を喰い入る様に読んでいた。だいぶ日も落ちてきた頃…
「ごめ~ん、兄さん。おそくなって」
「いや、いいさ」
音夜は読んでいた本を閉じて棚に戻した
〔23 years after〕
翌日、操一朗は革のライダージャケットを着て、父親の形見でもあるホンダ・Shadow<750>に乗って町の中心にあるWMC(ワールド・ミュージック・カンパニー)に向かった
日曜だが各地で行なわれるイベントの対応があるため一部の社員は休日出社していた。それでも社内は静かなもので受付もいない。今日は向こうからの呼び出しなので操一朗はそのままエレベーターに乗って一気に最上階の社長室階まで上がった
コンコン
「操一朗だけど」
「入れ」
操一朗がドアを開けると、そこはトレーニング室、と見間違えるくらいの器具が並んだ社長室だった
「来たか」
ルームランナーで走っていたTシャツ短パン姿の五嶋一彦はマシンを止めるとタオルで汗を拭きながら操一朗を迎えた。今年で45になる五嶋は髪には白髪が混じり顔にも皺が入り始めているが、五体壮健。社内の若手よりも健康体で体力もあった
「まぁ座れ」
操一朗は部屋中央の来客用ソファに座った。その向かいに五嶋が座った。そして単刀直入に切り出した
「…奴らが動き出した」
「……」
「驚かないんだな」
「クロが昨夜帰ってきた時、町の様子からなんとなくその徴候があるって言ってた。ユノも気配を感じ取ってた」
「なら、話が早い。で、“どうするんだ?”」
操一朗は眼鏡を右中指を押し上げた
「親父からの約束で、まひるちゃんから頼まれたんだ」
操一朗は一息吸った
「自分の心の音楽を貫け、そして和奏を頼むってな」
「……その顔、昔の音夜とそっくりだな」
五嶋はアタッシュケースを操一朗の前に置いた
【23 years ago】
二人はやや暗くなり始めた町をバイクで走っていた。ただ、夕方と夜の間の時間帯にも関わらず人通りは少なく、何やら不気味な雰囲気が漂っていた
キィィ
「どうしたの?兄さん」
「不協和音に満ちている…」
音夜が上を見上げると、黒い影が落ちてきた
「まひる!」
音夜はまひるを抱えるとバイクから飛び降りた
黒い影は異形だった。蝙蝠のようではあるが、人間の姿形をしている。言うなれば蝙蝠人間だ
「ちっ…、人間か…」
「喋った!?」
驚いたまひるを背後に庇いながら、音夜は一歩前に出た
「おいお前。何者だ」
「人間の分際でファンガイアに対して偉そうに」
蝙蝠人間、バットファンガイアは牙をむき出して威嚇した。すると顔の一部がガラスのように皹が入って欠片がこぼれた
「ちっ、さっきの白い野郎の攻撃か…。ちょうどいい、お前らでライフエナジーを補給するか」
「何のことかは分からんが、お前は俺たちに害を成す存在と認識していいか?」
「ふん、害を成すのではない。一方的な捕食だ」
バットファンガイアの頭上に透明な牙のようなものが浮かび上がった
バキッ
「あいた!」
バットファンガイアの顔面目掛け、音夜はヘルメットを投げた
怯んだ隙に音夜はバットファンガイア殴りかかった。しかし、音夜の拳や蹴りは全く効かなかった
「くそ…」
音夜は近くの工事現場の三角コーンから棒を拝借した。それを旋回させてバットファンガイアからの攻撃をさばいて無力化し、カウンターで何度も打ち据えた。しかし、薙ぎ払うだけの威力はなかった
「…兄さん」
「まひる、早く逃げろ!」
バン!
バットファンガイアのパンチが音夜をふっ飛ばし、工事現場のフェンスに激突した
「く…」
〔23 years after〕
操一朗は昼食を摂るために商店街に来ていた
後部座席に五嶋からのアタッシュケースを括り付けたバイクを押して歩いていた。すると、どこからともなく歌声が聞えてきた
「この声…」
操一朗は声の聞える方へ向かった
そこにはヘッドフォンをして身体でリズムを取って歌っている来夏、ソフトクリームを2つ持った紗羽、自転車に乗っている大智、例の胡散臭い本を読みながら歩いていた転校生、コロッケを食べ歩いている和奏が丁度来夏を中心に集まったところだった
操一朗は5人に声をかけようとした時…、
「…っ!」
蜘蛛人間という表現がしっくりくる異形の存在がビルの屋上から今まさにその5人に近付こうとしていた
【23 years ago】
その時、
絶対絶命の音夜とまひるの前に白い影が現れた
「き、貴様!」
バットファンガイアはたじろいだ
「その命、青空の神に返してもらうぞ!」
〔23 years after〕
「ゲン!」
操一朗が叫ぶと、洋館の3つのボールの内、真ん中の黒いボールが一瞬で消えた
そのボールは次の瞬間には操一朗の手の中にあった
「行け!」
「ゲッゲッゲ!」
ボールから玄牙(ゲンガー)が飛び出すと、周囲は闇紅色(アンコウショク)になった。ゴースト族の幻術結界だ。ここで起きたことは現実世界には影響を与えない
「貴様、何者だ!」
蜘蛛人間は操一朗を指差した
「地元の高校生だ!」
「地元のお化けだ!」
「2人してボケかましている場合ではないだろう!愚か者めっ!」
頭上からド迫力な声と共にレイバットが降りて来た
「操一朗、やるぞ」
「おぉよ」
操一朗はアタッシュケースからバックル部分が止まり木の様になったメカニックなベルトを取り出して腰に装着した
操一朗はレイバットを右手で掴んだ
「ギャブリンチョ!」
そのレイバットを垂直に構えた左前腕に噛ませた
ピキピキピキ
操一朗の周囲に氷の結晶が浮かび上がり六角柱となり操一朗の姿を隠した
「変身っ!」
ガシャン
レイバットをベルトの中央に逆さまに取り付けた
「華激(カゲキ)に行こうか!!」
パキィィン
氷の六角柱が弾け砕けるとそこには白い戦士が立っていた
白いボディ、鎖が巻かれた両腕、蜘蛛人間を見据える眼は蒼氷色(アイスブルー)
仮面ライダーレイ
己が運命の音楽を守るため
今世界を繰り爪弾く
主人公は保志総一朗、ミカは堀江由衣、ゲンは山口勝平、ユノは杉田智和で読んで下さい