「まひる、今五嶋から連絡があった、あのマーメイドが目を覚ましたらしい」
「本当!?」
「だが、何やら状況的に問題があるらしい」
【23 years ago】
4話 学んだり、焼いたり
WMC(ワールド・ミュージック・カンパニー)管理下の倉庫
運びこまれたマーメイドはそこにいた。周囲には、五嶋に白衣姿の研究員が数人いた。
その中心には体長6m近い巨大なモンスター、マーメイドがいた。十三魔族の中でも一際美しいとされるマーメイド族だが、とぐろを巻き上体を垂直に立て、五嶋達を見下ろす表情はかなり険しく、手負いの獣の雰囲気を漂わせていた。
「五嶋」
「五嶋さん」
「おぉ、音夜にまひる」
「我もいるぞ」
音夜にまひる、レイバットが到着すると、マーメイドは幾分警戒心を解いた。
「よかった…、元気になったんだね」
まひるが近付くとマーメイドは顔をまひるに寄せてほっぺすりすりをした。
「ふぅ~…、麻酔が切れてからずっと威嚇しっぱなしでな、まひるならあるいはと思って呼んだんだ。」
「よし、我の十三魔族言語翻訳装置を使い、奴とのコミュニケーションを…」
「うるさい蝙蝠。わたしはこの人間しか信用しない。雄どもも出て行け」
「…む」
「…ふぅ~、どうやらまひるに任せるしかないな、レイバット、五嶋、俺達は出よう」
男達とレイバットがいなくなると、まひるはメーメイドに話し掛けた。
「もぉ~、ダメだよ、女の子があんな口きいちゃ、めっ!」
まひるはマーメイドの鼻先を人差指で押した。
「だって…、人間達は…、特に男は信用できない…」
マーメイドは一族の顛末をまひるに話した。
人では辿り着けない島を転々としながら、時期が来ればマーマン族と繁殖し、新たな家族と共にまた別の島に。
人間にはなるべく近付かないようにしながらも、世界各地の音楽だけはマーメイド族の唯一の娯楽となっていた。
「でも、人間達の航海技術が発達して…、コロッケとかいう人間がアメリカ大陸を見つけてから私達も時々見つけられるようになって…、」
(それたぶんコロンブス…)
「そしたら私達を捕まえようとする人間どもが海に出てきて…、仲間がたくさん掴まって………、最後は私1人になって………………」
マーメイドの目から涙が零れた。
「でもそんな時、アイツが現れたんだ…」
「アイツ?」
「サガ―ク族という魔族の女戦士だ。わたしを助けると言って近付いてきて………」
メーメイドは身体を震わせた。
「それからは記憶が曖昧なんだ。ぼやっとしていて、それでも………自分の歌が悪用されていたのは何と無くわかった…………」
「それであの時泣いていたんだね………」
「…ぅ、…ぅぅ………」
「辛かったよね、大好きな歌をそんなことに使われて………」
まひるはマーメイドの首に腕回してぎゅっと抱き締めた。
♪♪♪
「兄さん、この子うちに住まわせてもいいよね?」
音夜とレイバット、五嶋がまひるに呼ばれて中に入るといきないまひるが衝撃的なことを口にした。
「待て待て、マイシスター。どういう流れでそうなった?」
「だってこの子もう一族いなくなっちゃって行くとこ無いみたいだし………うちに…」
「ペットを飼うのとは訳が違うんだぞ…」
音夜は愛妹の懇願に呆れていた。
「うちにはもうレイバットいるし、部屋も余ってるし、いいでしょ?」
「おいまひる嬢、我は拾われた犬畜生か!?」
「だいたいそんなデカイ図体をどうやって住まわせるんだ?」
「う~ん、それはたしかに………、ねぇ小さくなれる?」
「いやそんな簡単に…」
「これでいいか?」
五嶋の言葉を遮るように、マーメイドの全身が光に包まれ、光がどんどん小さくなっていった。
「一応人化の術はある程度の魔力を持っていれば可能だ」
マリンブルーのロングヘアーを靡かせながらマーメイドは全身を観察した。
「数百年ぶりだが、うまくいったな」
「………あ~」
「………うむ、」
「これは…」
音夜、レイバット、五嶋は呆然としていた。
「ちょ、と…、ダメだって~!」
「何がだ?」
「裸なんだよ!!!」
変身したマーメイドは、一糸纏わぬ裸体だった。
まひるは羽織っていたサマーカーディガンをマーメイドの裸体にかけた。
「まぁ…、そいつの躾はまひるに一任するとして、差し当たって名前が必要だな」
「名前?何だそれは?」
「え、名前だよ」
「そうか、マーメイド族には個体を識別する名称がないのか」
レイバットが頭上を飛びながら考察した。
「じゃあいい名前を考えておくから、ちょっと待っててね」
♪♪♪
人間の姿となったマーメイドが緒川家に来てから数日、
音夜が朝まひるを起こしに来ると・・・
「お~い、まひる朝だ…」
1つのベットでまひるとマーメイドが抱き合って眠っていた。
どちらも裸で
「はぁ~…、またか」
音夜は溜息を吐いた。
「ふぁ…、あ、兄さんおは………よ!?!」
まひるは自分の姿に声が裏返った。
「む、まひる、起きたか」
「もぉ~、なんでまた服脱がせるの?!しかも私のまで」
「このパジャマというのは窮屈だ、特に胸が」
「むぐ…」
マーメイド(人間態)はモデルのように長身で、さらにグラビアアイドル並の豊満な巨乳の持ち主だった。同年代ではそれなりに背が高く胸もあるまひるだが、そのまひるのサイズの服はマーメイドには窮屈だったようだ。
「だ、だからって私のまで…」
「お前の人肌はちょうどいい冷たさだ。抱きつくのにいい」
またある時は
「ふんふんふ~ん」
まひるが脱衣所で鼻唄交じりに浴室に入って湯船に入ると・・・・・・
「きゃあっぁぁぁぁぁ~~~!!」
「まひる!どうした、またエロバットか!?」
「愚か者!我ならここだ!」
まひるの悲鳴を聞きつけ音夜と濡れ衣を着せられたレイバットが浴室に駆け込むと、学習してバスタオルで身体を隠したまひるが震えていた。
「み…、み…、水!」
まひるが指を指した湯船には、たしかにいっぱいの水で満たされていた。
「冷たっ!」
「うむ、摂氏18℃。かなりの冷水だ」
手と羽を突っ込んだ音夜とレイバットも確認した。
「む、風呂に入れというので入らせてもらった。ずいぶんと狭いんだな、風呂というのは」
全身から水を滴らせながらマーメイドが廊下から3人を見ていた。
他にも食事の仕方や文字、現代社会(マーメイドの知識は1900年代で止まっていた)などまひるは献身的に色々教えた。合唱部の部活も毎日忙しいにも関わらずだ。
「おいお前」
ある日、まひるが部活の朝練に行った後、マーメイドが音夜に話し掛けた。
「まひるはどこに行った?」
「部活だよ」
「ぶかつ?」
マーメイドの疑問にレイバットが部屋の中に最近作った止り木小屋から出てきて応えた。
「まひる嬢は学校という同年代の男女が集まる教育機関の中で音楽を主にする学科で勉学に励んでいる。そして、集団で歌う合唱をする少数集団の長を務めているのだ」
「蝙蝠の言い方はよくわからん」
「ようするに、まひるはこことは別の所で歌っているんだ」
「ふ~ん………」
マーメイドは何かを考えていた。
「よし、私も行くぞ。お前、案内しろ」
「は…?」
♪♪♪
音夜とレイバット、そしてまひるのワンピースを着たマーメイドは白浜坂高校に着た。
「ここが勉強とかするところか?」
「そうだ。ここに俺とまひるは通っているんだ」
「まひるはどこだ?」
「いいか、今まひる達は全国大会を控えて練習しているんだ、邪魔をするなよ」
「全国大会とはなんだ?」
「歌で競い合う催し物だ」
「そうか、マーメイド族でも歌が上手い奴が一番になって長になるんだ。そしてわたしは一番上手かったぞ」
「………は?じゃあお前、マーメイド族の長か?」
音夜は表情を引きつらせながら訊ねた。
「うむ、苦しゅうない」
「何処で覚えたそんな言葉………」
レイバットは呆れた。
3人は体育館の裏手からこっそり中を覗いた。
「テノール~、音がごちゃ~ってなってるから、はっはっはって感じに」
「音が団子になっているから発声しっかりして」
まひるの出す大雑把な指示を直子が通訳しながら部員達は練習に精を出していた。
「………」
「どうだ?」
「あいつらは下手だ。わたしの方が上手く歌える」
マーメイドは頬を膨らませた。
「…あぁ、なんだ」
音夜は納得した。
「お前、まひるが盗られたと思って、焼きもち焼いていたのか」
「もちを焼くのは不輸じゃないのか?」
「はっはっは、いや、何だかんだでお前もしっかり人間らしい感情があったんだな」
「?お前は何を言ってるんだ?」
「よし、屋上に行くぞ」
音夜はマーメイド族を伴なって屋上に上がった。
「俺がお前からインスピレーションを受けた音楽を弾くから、それに合わせて好きに歌え」
音夜はケースからバイオリンを取り出した。
その時・・・・・
突如襲ってきたのは無数の針の雨だった。
「なんだ?!」
「音夜、ファンガイアだ」
レイバットがすぐさまバイクからベルトを持ってきた。
「レイバット!」
「華激(カゲキ)に行くぞ、ギャブリ!」
音夜は右前腕にレイバットを噛ませるとレイ・プロトタイプに変身した。
「Oh、これが今回のターゲットか」
レイ・プロトタイプの前に現れたのは、人型のサボテンファンガイアだった。
「おいレイバット、あれはなんだ?」
「うむ、ゴブリン族、それも中南米土着の原住ファンガイアらしい」
「どうやら、標的はお前らしい。下がっていろ」
「Oh、勘違いしてもらっちゃ困るぜベイビー」
サボテンファンガイアは指をチッチッチと気障に振った。
「俺の目的は、マヒル・オガワというレディーだ」
「何…?」
レイ・プロトタイプは思わぬ事実に固まった。
「ふざけるな!まひるは渡さない!」
マーメイドはモンスター形態に変化すると、尻尾を勢いよく振るった。
「HA!」
パチン!
サボテンファンガイアがフィンガースナップを鳴らすと、突如コンクリートの屋上に草が生え、マーメイドの身体を転ばせた。
「ターゲットはマヒル・オガワだが、お前も始末しておこう。魔族を裏切り人間に付いた裏切り者よ」
サボテンファンガイアは右拳を握ると、極太の棘が鋭くとび出した。
「棘棘鉄拳(ニードルアーム)!!」
マーメイドは目をつぶった。しかし、衝撃はこなかった。
「…?………っお前!」
「ぐっ…」
レイ・プロトタイプの腹部装甲に深々とめり込んだ拳
鎧を貫通し音夜の生身の肉体に刺さった棘
破壊された部分からは火花がばちばちと散っていた。
サボテンファンガイア/ノクタス
ニードルアーム
くさむすび
ふいうち
ミサイル針