「これが今回のターゲットだ」
「Oh、人間の女か?」
「ただの人間ではない、この女は………」
【23 years ago】
5話 着いて行ったり、組んでみたり
「おい、お前!」
マーメイドは倒れて変身の解けた音夜の身体を起こした。
「くっ…」
レイの鎧が防いだおかげで音夜の肉体自体のダメージは少ないが、それでも衝撃は内臓まで達しており、音夜の口からは鮮血が垂れていた。
「…~っ!」
マーメイドは怒りに身を任せてサボテンファンガイアの前に出た。
「龍尾激震(ドラゴンテール)!!」
青白いオーラを纏った尻尾を振り上げると、サボテンファンガイアに叩きつけた。
バッシュッ!!
「Oh!My God~~!」
サボテンファンガイアは空の彼方へ飛ばされた。
「音夜!しっかりしろ」
ベルトから離れたレイバットが音夜に声をかけるが、意識が朦朧としているらしく返事がない。
「蝙蝠、どけ!」
マーメイドは人間形態になると指を噛み切り、血を一滴音夜の口に垂らした。
「お?」
するとすぐに音夜は起き上がった。
「なるほど、それがマーメイド族の血の効果か。たった一滴で何という回復力………」
「ふー、助かったぞ」
「お前のためじゃない、まひるを護るのにはお前と鎧の力が必要だから生かしただけだ。それより、何故私を庇った?今の私でもあの程度の敵、軽く…」
「馬鹿か、女が狙われているのにそれを見過ごすような真似、この俺ができるわけがないだろう」
「………ふん、変な奴だな」
「音夜とはこういう男なのだ、いずれ分かるようになるだろう」
レイバットの言葉にマーメイドはそっぽを向いた
「それよりも、敵方がまひる嬢を狙うとは…、一度五嶋とも相談せねばな。レイの鎧の修理も必要だ」
「ああ。おい、俺達は一旦五嶋の所に行く。まひるの事、頼むぞ」
「お前らに言われるまでもない。まひるは私独りでも護れる」
マーメイドは胸を張って断言した。
♪♪♪
レイバットにベルトを運ばせ、音夜は一旦まひるの様子を見に行った。丁度休憩中だったようで、合唱部の部員達は談笑していた。
「まひる」
「あ、兄さん」
音夜が音楽室に入ると、女子部員達は歓喜の声を上げた。
「どうだ、調子は?」
「うん、いい感じだよ。ナオが上手くまとめてくれてる」
「そんな…、まひるが皆の士気を高めてくれてるから…」
直子は音夜の顔を直視しないように俯きながら恐縮していた。
「ふっ、相変らずいい和音を奏でているな、お前ら2人は」
音夜は2人の頭を撫でてやった。
「ところで、全国大会とはいつからだ?」
「え?明日」
「は?」
「あれ?言ってなかったっけ?移動日込みで明日から4日間」
「………マズイな」
「何が?」
「まひる、その全国大会、俺も着いて行く」
「えぇ~?!」
「でも、音夜さん…、学校の方は………」
「心配するな、ナオ。俺の成績はお前が一番知っているじゃないか」
「いやそっちじゃなくて届出とか…、合唱部は全員分一週間前に提出していますけど、今いきなり出してもたぶん許可されませんよ…、そもそも音夜さん部員じゃないし」
「えー音夜先輩も来てくれるのー?」
「どうしよ、私お洒落な服持って行かないと」
「どうせ制服でしょ」
などと、女子部員達は騒ぎ出した。
「と、に、か、く、わたしももう高3なんだから大丈夫です。そんなに心配しないで」
「むぅ…」
音夜はいっそ本当の事を言おうとしたが、最後の全国大会前に余計な心配をさせたくはない。
「あの、一応全国大会についてまとめたプリントです…」
どうしたものかと思案しながら、直子から渡されたプリントを見ていた音夜が急に音楽室を飛び出した。
♪♪♪
WMC(ワールド・ミュージック・カンパニー)の研究室
「五嶋!」
「なんだ音夜騒々しい。鎧の修復ならあと1日は…」
「俺も全国大会に連れて行け」
「は?」
「WMC(ここ)が後援している合唱の全国大会、審査員にお前の名前があったぞ」
音夜は先ほどのプリントを五嶋の目の前に突き出した。
「あ、ああ…、たしかに明日からその予定があったが…」
「まひるが敵から狙われている」
「その話ならレイバットからさっき聞いた…、たしかにお前が側にいた方がいいな…」
「そういうことなら私も着いて行くぞ」
マーメイドがいつの間にか研究室に来ていた。
「お前、まひるは?」
「家に帰った。結界貼ってきたからしばらくは大丈夫だ」
腕を組みながらマーメイドは五嶋の前に立った。
「おい人間」
「な…、なんだ…?」
「こいつと一緒に私も行くぞ。戦える奴は1人でも多い方がいいだろ」
「まぁ…、それはそうだが………」
五嶋は音夜の方を向いた。
「いいんじゃないか?どうせ俺が行くならこいつが1人で留守番することになるからな」
「はぁ~…、わかった。俺の同伴者ということでお前達2人を連れて行こう。明日の6時に会社の前に集合だ」
♪♪♪
翌朝5時
「それじゃ、兄さん、いってきます」
「おぅ」
「帰ってきたら名前、一緒に考えようね」
「ああ、待っているぞ」
「レイバットも、2人のことお願いね」
「うむ、まひる嬢も道中の無事と大会での健闘を祈る」
音夜とマーメイド、レイバットに手を振りながら、まひるはキャリーケースをごろごろ転がしながら学校に向かった。
「さて、と」
音夜は手早く昨日五嶋から渡された荷物を用意してスーツを着た。単純な黒スーツだが、音夜が着ると不思議と雑誌モデルのように決まる。
「おい、これはどうやって着るんだ?」
マーメイドがほぼ半裸状態で音夜の前に現れた。
「はぁ~…、まったく」
音夜はなるべく直視しないように半眼でマーメイドにスーツを着せた。しかし、マーメイドの白く透きとおるような肌は一部だけでも十分すぎるくらい艶かしかった。
マーメイドの着替えが終ると最後にWMCの社章をつけサングラスをかけ、2人とレイバットはWMC本社に向かった。既に五嶋が車に乗って待っていた。
「おう、来たか…って、マーメイドの服………一応うちの女性用の中でも一番サイズ大きいのを選んだんだが………」
ジャケットの下のYシャツはボタンを3つも開けても胸が押し上げていてまだきつそうだ。さらにタイトスカートも足が長すぎるせいでミニスカ状態になっていた。
「とりあえず乗れ、行くぞ」
五嶋の運転で車は全国大会の会場に向けて出発した。
「一応青空神教(アオゾラシンキョウ)の監視網でまひる達の動向は把握している。レイバットの方でその情報は随時確認することができる」
「む、そうなのか?」
レイバットは車内の手すりに逆さまにぶら下がりながら、地球の本棚・・・・もとい、監視衛星からの映像、および各種監視データにアクセスした。
「ふむ、今はPAで休憩中のようだ。このままの速度ならあと20分で追いつける」
「一応、俺は審査員となっているから大会前に特定高校との関わりは断っている。同伴者であるお前らも、極力接触は控えろ」
「わかった」
「…む~………」
まひる成分足りていないマーメイドがむくれていた。
五嶋達の車もPAに着き、こちらの休憩を取ることにした。
「音夜、すまんがスポーツドリンクを買って来てくれないか?お前達も分も好きなのを買ってきていいから。」
五嶋は500円玉を音夜に渡すと車を降りてスクワットを始めた。
「ああわかった。おい、お前も来い」
「命令するな」
マーメイドは文句をいいながらも音夜について行った。
「おい人間、少し歩くのが早いぞ」
マーメイドは周囲の車や多くの人間に驚きながら音夜のスーツの裾を掴んだ。
「まったく、はぐれるなよ」
音夜はマーメイドの手を握った。
「…どうしてあの時助けた………」
「言ったろ、女が襲われてるのに見過ごす事はできん。それにな、」
「?」
「お前の音楽というのを知りたいんだ。お前の中には海のように深く、澄んで、包み込むようなマリンブルーの音色が聴こえるんだ。それを俺は聴いてみたい」
「…ふん、お前なんかに聞かせるつもりはない…」
「そうか、なら、俺の音楽を聴かせてやる。だからお前の音楽も聞かせろ」
音夜はそう言うとバイオリンケースから愛器を取り出そうと・・・・
「音夜先輩?」
「ん?」
振り返るとそこには合唱部の能登志保がいた。
「どうしてこんな所に?それにその格好…、あ、WMCの社章」
「あ~…、知り合いが大会の審査員をしていてな、将来就職も考えていて、今日はまぁあれだ、研修的な?」
「ようするにコネ使ってまでまひる先輩が心配で着いてきたかったんですね?」
「お前は中々勘が鋭いな。まひるには黙っててくれないか?」
音夜は人差指を口に当てるないしょポーズでウィンクをすると、志保は肩をすくめた。
「はいはい、分かりました」
志保は自販機でお茶を買うとバスに戻って行った。
「やれやれ、反対側の方に止めたのに、見つかるとは。まあ本人じゃなくて良かった…」
音夜はスポドリとオロナミンCを買うとマーメイドに聞いた。
「何にする?」
「………お前ら人間の飲み物はよく分からん。」
自販機を隅々まで凝視していたマーメイドは素っ気無く答えた。
「なら水でいいな」
音夜は三本のペットボトルを抱えると踵を反した。
「ん…?」
「どうした?」
「いや…」
音夜はPAの奥、森の方へと歩いて行った。マーメイドもそれについて行った。
「………」
「………」
音夜とマーメイドの視線の先、針葉樹が生えている中にただ一本、異質な植物が生えていた。
「おい」
「ああ」
バシャッ
マーメイドが人差指の先端から熱湯を噴射した。
「アウッチチ!」
するとその異質な植物、サボテンは人型へと変貌した
「何故ミーの擬態だとわかった…?」
「擬態するなら日本の植物くらい把握しろ!サボテンなんて野生じゃ生えていないんだよ!レイバット!」
「うむ!」
音夜が上空に手を上げると、ベルトが降ってきた。監視網で状況を察知したレイバットが修復の完了したベルトを持って飛んで来ていた。
「行くぞ、変身!」
「華激(カゲキ)にな、ギャブリ!」
音夜は左手でレイバットを掴むと右前腕の噛ませ、仮面ライダーレイ・プロトタイプに変身した。
「ヒュ~、また返り討ちにしてやるさ」
サボテンゴブリンは両手に棘を生やしてボクシングのファイティングポーズを取った。
「棘棘鉄拳(ニードルアーム)ボクシング!」
先日の戦闘と違い、一発の威力はないが、連続して繰り出される棘の拳を、しかし、レイ・プロトタイプは軽快なフットワークで躱していく。
「く…、何故当たらない」
「お前のスタイルは古いんだ、よ!」
レイ・プロトタイプのカウンターパンチがサボテンゴブリンの顔面にヒットした。
「禁酒法時代のスタイルなんだよ、その頃に覚えてあとは魔族としての能力を過信して鍛錬を怠ったな」
レイ・プロトタイプのステップはさらに加速した。
「人間舐めるな、化け物!」
「フッ、言ってくれるね、けど、お前の隣に居るのだって、同類(化け物)なんだぜ」
「む…」
マーメイドはサボテンゴブリンの指摘に、しかし、反論できなかった。
「アホか!こいつは確かに人間とは違う、だが、音楽を愛するのに人間とかマーメイド族とか関係ないんだよ」
「人間…」
「それに、こいつの本音は、いい音色だ。お前のような下衆の極みには分からんだろうが…、なっ!」
コンビネーションジャブからの渾身の左ストレートがサボテンゴブリンの顔面にさらに決まった。
「オップ…、どうやらお前は中々のウォーリア―らしい…、それは認めよう………、だが、」
サボテンゴブリンが再びファイティングポーズのまま接近してきた、レイ・プロトタイプは迎え撃つべく拳を構えた・・・が、
「フッ」
「何?!」
突如、サボテンゴブリンの姿が消えた。
「どこだ…」
レイ・プロトタイプの一瞬の隙を、サボテンゴブリンは背後から・・・・・・
「熱水!!」
バッシャー!!
「ア~ウチッチチチ!」
マーメイドが発射した熱水がサボテンゴブリンに直撃した。
「お前…」
「私も協力する、いくぞ、音夜」
「OK、それじゃ、いっちょデュエットと行きますか」
挿入歌 ♪ヒカリ♪
「くっ…、調子に…」
全身に火傷を負ったサボテンゴブリンは動きが緩慢になっていた。そこをレイ・プロトタイプは怒涛のラッシュで攻めた。
「ラララララ~!」
「烈水波動!」
攻めてサボテンゴブリンが怯んだ瞬間、レイ・プロトタイプはバックステップで離れ、そこにマーメイドの水攻撃が直撃した。
「…Oops、こんな…人間にマーメイドごときが………」
火傷に加え†混乱状態にも陥ったサボテンゴブリンは、もはや瀕死状態だった。
「おい、お前氷の技は使えないのか?」
「まかせろ、音夜!」
マーメイドは右手でピストルの形を取ると人差指と中指に魔皇力を集中させた。
「レイバット!」
「うむ、ウェイカップ2!」
レイバットがフエッスルを二度吹くと、レイ・プロトタイプの左拳にも魔皇力が集束し始めた。
「まずい…、棘棘防御(ニードルガード)」
サボテンゴブリンは全身から棘を生やして、身を包み込み防御体勢を取った。
「冷凍光線!」
「ア~ンド、ライダーパ~ンチ!」
マーメイドの放った冷気の光線に合わせて、レイ・プロトタイプの拳がサボテンゴブリンに直撃した。
どんなに硬化しても、所詮は植物。冷気の前にはあっという間に凍って、そこにレイ・プロトタイプのパンチが加われば・・・・・・・
「ぐはぁ~~~~~!」
サボテンゴブリンは凍って爆散した。
♪♪♪
全国大会を終えて、見事ゴールド金賞を取ったまひるが帰ってくると、マーメイドはまひるに抱きついた。
「おかえり、まひる」
「うわっ…、もぅ~、ただいま」
「帰ったか」
「うん、兄さんこそ、留守中何もなかった?」
「あぁ、何もなかったぞ」
「音夜の言うとおり、何もなかったぞ」
顔を見合わせて笑う音夜とマーメイドにまひるは首を傾げた。
「あれ?いつの間に兄さんのこと名前で………」
「そうだ、早く名前を考えよう」
「ちょ…、焦らないで、実はもう考えているの」
「本当か?」
「うん、綺麗な貴女とその歌にぴったりな名前」
まひるは紙に書いて見せた
美路歌露洲
「~?」
「ミロカロスって読むの。でも長いから、ミカって呼ぶね」
「ミ…カ…、それがわたしの名前…」
「うん、ミカ」
「いい名前だな、ミカ」
「これからよろしくたのむぞ、美路歌露洲(ミロカロス)」
まひる、音夜、レイバットに名前を呼ばれ、マーメイド・・・美路歌露洲(ミロカロス)は微笑んだ。
今回の敵
サボテンゴブリン:ノクタス
技:棘棘鉄拳(ニードルアーム) 棘棘防御(ニードルガード) だましうち