声春~Wake Up~   作:蒼乃翼

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前回の3倍の量になってしまった今回
新必殺技も出ます


第5話 振り返ったり、外してみたり

「弦(緒)を“朗”らかに“操”る唯“一”の男。人の中に流れる音楽を守って、美しいものを守って、大切なものを守るため戦う、そんな兄さんみたいな、あなたのお父さん、みたいな男の子に育ってね、操一朗」

【現代】

5話 振り返ったり、外してみたり

「操一朗!その刀を離せ!正気に戻れ!」

レイバットの必死の静止も、今の操一朗、仮面ライダーレイには届かなかった。

「ぅぅぅ………」

レイは肩と大太刀をだらりと下げて、しかし眼光だけは濁らせながらも眼前の隻眼鎧武者を睨みつけていた。

「どうやら使いこなせていないようだな。今のうちに………」

隻眼鎧武者が一歩前に踏み出すと・・・・・

「氷礫!」

ヒュガガガガガ

無数の氷塊が猛烈な勢いで隻眼鎧武者目掛け飛んで来た。

「ほぅ…、ずいぶんと懐かしい面々だ」

立ちはだかったのは、雪之王(ユキノオー)、玄牙(ゲンガー)、美路歌露洲(ミロカロス)の3人、否、モンスター形態となった3体だった。

「玄牙(ゲンガー)、美路歌露洲(ミロカロス)、こやつは我が抑える」

「OK」

「操一朗は任せて」

玄牙(ゲンガー)と美路歌露洲(ミロカロス)は未だ某躁状態のレイの前に立つと、同時に仕掛けた。

「鬼火!」

「烈水波動!」

ボゥッ!

バシャッン!

黒紫色の炎がレイの全身を包み込んだ瞬間、波打つ水の輪がレイに直撃した。

「guuuuuuuu・・・・・・・・」

鎧が焼け焦げたレイは足元がふらついていた。混乱状態にあるようだ。

「催眠術!」

玄牙(ゲンガー)がレイの眼前に両手を突き出すと、レイの青い複眼が点滅し、やがて消えた。

「レイバット!」

「うむ、強制解除だ」

玄牙(ゲンガー)の言葉にレイバットがベルトの止り木から飛び出し、ベルトを外した。と同時に、変身が解け、剥き身の大太刀も手から落ちた。

「アクアリング!」

美路歌露洲(ミロカロス)は満身創痍の操一朗を水の輪で受け止めた。

「雪之王(ユキノオー)!こっちはOKだ!」

玄牙(ゲンガー)の言葉と雪之王(ユキノオー)の豪爪が隻眼鎧武者の胴を深く抉ったのはほど同時だった。

「ふむ、流石にギガント族歴代最強と云われていただけのことはあるな、加えてゴースト族にマーメイド族、今の状態では分が悪いか…、その女、今しばらくお前達の下に預けておこう」

「巫山戯(フザケ)るな、下郎」

雪之王(ユキノオー)のドスの利いた声が響いた。

「我らが姫君にまで手を出そうというなら、我が真ナル進化で滅すると知れ」

それに玄牙(ゲンガー)も続いた。

「地獄の深淵に沈めるぞ、ガラクタ野郎」

美路歌露洲(ミロカロス)も操一朗を尻尾で巻き込んで庇いながら、雪之王(ユキノオー)よりもさらに大きな身体で隻眼鎧武者を見下ろした。

「まひるの宝物、和奏は絶対に守る」

「我ら、盟友音夜との戦慄(けいやく)の下、操一朗と和奏嬢は身命を賭して守護する。覚えておけぃ」

レイバットの言葉に隻眼鎧武者は、くっくっく、と笑うと周囲を囲っていた結界と共に消えた。

♪♪♪

「はっ…、はっ…、はっ…」

圭介は作業着のまま朝靄のかかる早朝の街を走っていた。

「和奏!」

家に着くと靴とカバンを放り、階段を駆け上がり2階の和奏の部屋に入った。

「おぅ、叔父さん…、」

部屋には濡れた制服のまま顔を赤くして寝ている和奏と、その和奏を膝枕している全身ぼろぼろの操一朗がいた。

「どうしたんだ?!」

「あ~…、買い物に行った和奏迎えに雨ん中バイク走らせてたらこけてな…、和奏も土砂降りの中傘も無く歩いてたみたいで………」

「とにかく、下に布団敷くから、少し待ってなさい」

圭介は下の茶の間に布団を二組並べて敷いた。操一朗は最後の力を振り絞って和奏を抱き上げて階段を降りた。

「俺は自分ん家帰るから…、」

「いいから、操一朗もここで寝なさい!」

有無を言わさぬ圭介に、操一朗も素直に従った。

「ああでも家に操一朗君の着替えって…」

けれどすぐにあたふたとする圭介に、操一朗は携帯を放った。

「五嶋さんに連絡して俺ん家から着替え持ってくるように頼んでくれ、そろそろ、俺も………」

操一朗は敷かれた布団に倒れ込んだ。

♪♪♪

夏休みが明けたが、操一朗と和奏は体調不良で学校を休んでいた。

「あ~…、退屈だ………」

操一朗と和奏は並べて敷いた布団から起きてテレビを見ていた。お昼のバラエティ番組で女子アナが見事な食べっぷりで食リポをしていた。

「………」

和奏はぼーとしてテレビの情報も頭に入っていないようだった。

「起きていていいのか?学校は来週からでいいから」

2人分の着替えを畳んだ圭介が部屋に入ってきた。

「私、ちょっと着替えてくる」

「あ~、俺もちょっと庭で身体動かしてくるわ」

「おいおい、操一朗君、君はバイクで転んでるんだぞ」

「これくらい日常茶飯だよ、全国大会も近いしあんま鈍らせたくないんだよ」

操一朗は濃紺の稽古着に着替えると庭に裸足で立ち、ゆっくりと筋肉をほぐし、血流を促し、メガネを外すとその場に正座した。右手を下にするように輪を作り、目を閉じて黙想した。鼻で静かに息を吸い、わずかに開けた口から吐く。それを繰り返しながら前回の戦いを振り返った。

(………あのバイオリン…、まさかあんな物騒なもんだったとは………)

「操一朗」

操一朗が1人きりになったの見計らって、レイバットが頭上に飛んで来た。

「レイバット、話、聞かせてもらうぞ」

操一朗は目を閉じたまま言った。

「うむ、奴は十三族の中でも別格の魔族、レジェンドルガだ」

「レジェンドルガ?」

「通常の魔族であれば、ゴースト族以外は何かしらの生物の形を持っている。美路歌露洲(ミロカロス)なら魚、雪之王(ユキノオー)なら大樹と熊」

「………ユノって木と熊のミックスなのか…、てかミカも魚には程遠いような………」

「根本がその生物というだけだ、永きに渡る進化の過程だ、気にするな」

レイバットは構わず続けた。

「だがレジェンドルガは統一された姿形を持たぬ。かと言ってゴースト族と同様に実態が無いというわけでもない」

「どういうことだ?」

「その時代における適した姿形になれるのだ。奴を我らと五嶋は『鎧武者レジェンドルガ』と呼称している」

「別格ってだけあって、俺の攻撃が全然効かなかったな…」

「うむ、その強さによって武力で他の魔族を支配、恐怖政治を敷き、さらにそれに加えレジェンドルガには他の魔族を精神的に操作する特殊能力が備わっている」

「マジで、チートの域だな………」

「ただ、そんな力を持つ者がそんなにいるわけもなく、太古の時代、ファンガイア族のキングが圧倒的な軍勢で攻め込み、最後は《闇のキバの鎧》によって滅ぼしたのだ。ただそれでも生き残りがいたということだ」

「《闇のキバの鎧》ってのは、俺のレイとは違うのか?」

「まず装着者がファンガイアであるということが前提となる。その上キックバックも半端無く、ファンガイアでも資質がないと瞬時に死に至る。レイの鎧は大元の構造こそ似通っているが、装着者が人間故に出力などは大きく下回る」

「なるほど…」

「それでもレイの鎧も音夜の時代と比べたら負担を減らした上でかなり出力は上がっている。が、それでもやはり奴は………」

レイバットは語尾を濁した。

「あのバイオリン…、刀は?」

「鎧武者レジェンドルガが使っていた武器だ。如何なる攻撃にも耐え得る堅牢にしてあらゆるものを活断する神通無比の大太刀。その正体は使用者のライフエナジーを吸い取る妖刀だ」

「そんな物騒なもんがなんで俺ん家の地下に?」

「物騒だからこそだ。かつて音夜はあの刀を人の身でありながら使いこなし、鎧武者レジェンドルガの片目を斬ったのだ。その後………、音夜の死後、玄牙(ゲンガー)の幻術でバイオリンとしてカモフラージュし、美路歌露洲(ミロカロス)の聖水を雪之王(ユキノオー)が凍らせたケースにて封印、雪之王(ユキノオー)が屋敷全体に結界を施し、監視していたのだ」

「あの隻眼は親父が………」

「あの刀はこちらにあっても、鎧武者レジェンドルガの力は絶大だ」

レイバットの絶望的とも言える結論、しかし、操一朗は目を開け、立ち上がった。

「なら、俺自身が強くなればいいだけだ」

操一朗は木刀を持つと素振りを始めた。軽く100本を振るったところで、剣道から剣術の型へと切り替えた。

左足の爪先は前方ではなく横に向け、腰を落とし、重心を安定させ、垂直に立てた木刀の鍔元を頬の辺りにまで上げ、一気に振り下ろした。

♪♪♪

操一朗は素振りを終えると諸肌を脱いで、庭のホースの水を頭から浴びた。分厚い稽古着で吸い切れなかった汗が流水で流され、まだ厳しい夏の陽射しが鍛えられた筋肉の溝に溜まった水滴を蒸発させた。風が吹くと気化熱がなんとも心地良かった。

「…ん?」

手拭で全身を拭きながら操一朗が妙に小うるさい気配を感じ振り返ると、裏庭からこそこそ坂井家に近付く小柄な人影………、ケーキ屋の箱を手にした宮本小夏を見つけた。

「あにやってんだ、お前?」

「ひぎゃ!?」

来夏はびくっと飛び跳ねた。

「ちょ…、緒川あんたなんて格好してんの!?ここ和奏ん家だよ!変態!!」

堂々と上半身裸で自分の前に立つ操一朗を、来夏は震わせながら指差した。

「俺の親戚ん家でもあるし、第二の実家みてぇなもんだからノープロブレムだっつーの」

同い年の女子に肌を見られても操一朗は慌てる事なく稽古着に袖を通し襟を整えた。

「つーかお前も何裏口からこそこそ泥棒みたいな入り方してんじゃねぇよ」

「和奏のお見舞いだよ、でもなんかお店から入るのもお仕事の邪魔かと思って………」

「…驚いた、お前…、そんな気の使い方ができたんだな」

「なんだと」

♪♪♪

操一朗と来夏は坂井家から歩いて10分程度の海岸に来ていた。

「ここに和奏いるの?」

「あぁ、アイツ大抵気が塞ぎ込んだ時はここに来てんだ…」

操一朗が辺りを見回すと………

「あ、いた、わっか…な?」

声をかけようとした来夏が途中で止めた。

「………」

和奏は海の水平線をじっと見ながら佇んでいた。

「あ…、」

「おいまさか…」

何かを察した来夏は階段を駆け下り、操一朗は一気に飛び降りた。

「和奏~!」

「ダメ~~!!」

「え?」

バッシャーー!!

別に自殺とかそういうつもりは一切なく、たんに海を眺めていた和奏が振り返るのと、走り寄って来た操一朗と来夏が岩場のわりと大きい水溜りに転ぶのは同時だった。

♪♪♪

「部屋、何にも無いんだね」

「お前だと余計に広く感じるだろうな」

ずぶ濡れになってお風呂と和奏の服を借りた来夏と、稽古着と袴を脱いで陰干しにしてジーンズと黒のノースリシャツに着替えた操一朗は和奏の部屋に上がっていた。

以前ならピアノがあったので3人も入ればやや手狭だったが、ピアノが無い今の部屋はがらんとしていた。

「あ、これお見舞いのケーキ。紗羽も半分出してくれたの。あと一応緒川の分もあるよ」

来夏が開けた箱の中身は………

「…潰れてるね」

「さっき派手にすっ転んだからな」

白いクリームと茶色のクリームがマーブル状に混じり合って混沌としていた。イチゴのショートケーキとチョコレートケーキというのだけはわかった。

ピロリン♪

来夏はそんな燦々たる状況を写メってメールを送信し、箱を丁寧に畳んだ。

「あ~、でもこれだけ広いと手足伸び伸びできていいね~~」

自分の不手際を誤魔化すように来夏はごろんと横になった。

「言ったっけ?おじいちゃんコンドルクインズの大ファンでお酒入るといつもライブの話をして、いつか一緒に行こうね約束して………、結局叶わなかったけどね」

話題を無理矢理変えようと来夏は話題を振った。けれども今の和奏にはどんな話題も暗い方にしかならず、

「約束は守らなきゃダメだよね。私もお母さんと約束していて、お母さんは守ろうとしてくれたのに、私は自分のことばっかりで、なんで病気のこと言ってくれなかったんだろう…、もし言ってくれたら」

「でもね、わたし約束叶わなくて良かったって思ってるの」

「え?」

「約束って叶ったら終っちゃうでしょ?約束があるからお祖父ちゃんのこと思い出せるの。これも大事な思い出だから」

「思い出………」

「お前って時々良い事を稀に良いタイミングで言うよな」

「なんだとこのやろう」

和奏は小さい頃、まだ操一朗と身長差がない頃を思い出した。

♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪

左に和奏、右に操一朗と手を繋いで歩きながら、まひるは鼻唄を歌っていた。

「なんのうた?」

頭のてっぺんでちょこんと髪を結んだ和奏が訊いた。

「お母さんの歌」

「まひるちゃんの?」

髪を伸ばしているせいで女児に見間違えられる容姿の操一朗も訊く。

「わかなのは?」

「おれのは?」

「ないよ」

まひるはいたずらっぽくそっぽを向いた。

「「え~~」」

「自分の歌は自分で創らないと」

「でもわかな、うたつくれないよ」

「おれもまだバイオリンひけない」

「じゃあいつか一緒に創ろっか?約束ね」

「うん!」

「あぁ!」

♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪

帰る来夏を見送るため、操一朗と和奏は『こかげや』の前に出て来ていた。

「ノーブラなのバレちゃうかな?」

「バレるほどねぇだろ、紗羽でもあるまいし」

借りた和奏の服の胸元を心配する来夏に、操一朗はデリカシーの無い一言を言う。

挨拶無用のガトリング~~♪

来夏を見送ると和奏の携帯に紗羽から電話が掛かってきた。

「もしもし」

『あ、和奏?来夏ってば何やってんだかもぅ~、あとで来夏とっちめてやるんだから』

「ありがとうねわざわざ。ケーキなら操一朗が美味しく食べたから」

『は!?食べたの?』

耳が良く会話の内容を聞いていた操一朗が手をくいくいとするとして和奏は携帯を渡した。

「おぅ紗羽、つぶれてもケーキはケーキだからな、全部食っちまったよ」

『あ…、そう…、ってそうだった、ちょっと和奏に代わって』

操一朗が和奏に携帯を渡した。

『お母さんが例の物あるからいつでも取りに来てって、言ってたの。何のことか分かる?』

「あ…」

♪♪♪

操一朗は和奏をバイクの後ろに乗せて紗羽の寺まで走らせた。途中、スクーターに乗った住職の沖田正一とすれ違った。

「あ、ソウに和奏」

庭の植木の手入れをしていた志保の手伝いをしていた紗羽が2人に気付いて声をかけた。

「はいこれ、写真ね。あと録音したテープ」

和奏は志保から昔の合唱部の写真を受け取り、ついでに歌を録音したテープを受け取った。

「てゆーか、ソウは何しに付いて来たの?完全に足代わり?」

「久々にサブレに乗ろうと思ってな」

「バイクでこけたんだから気をつけなよ~」

「うっせ」

そんなやり取りをしている2人を見て和漢は呟いた。

「馬…」

「………あ、そうだ、和奏も乗ってみる?」

「…え!?」

紗羽に引っ張られて馬場に連れてこられた和奏はされるがままにヘルメットなど各種乗馬装備を付けられた。

「は…、初めてなんだけど」

「心配すんな、俺が手綱握っとくから」

操一朗もサブレに鞍や鐙の馬具一式を取り付けてスタンバっていた。

「そこに足かけて」

「こう?」

「ちげーよ、それじゃ反対向きになっちまうぞ」

「あ、そっか…」

紗羽と操一朗に指導されながら何とかサブレに乗った和奏はそのまま馬場を一周した。

「そうや、さっきオヤジさんなんか不機嫌そうな顔してたけど、喧嘩でもしたか?」

「あぁ、私の進路に文句つけてきたの。だから口きかないの」

「………でも、もし、もしもお父さんが死んじゃったら、喧嘩したままでお別れになっちゃうんだよ…」

「………」

和奏の母親が既に鬼籍に入っていることだけは操一朗や志保から聞いている紗羽は口をつぐんだ。

「よし、そんじゃ少し走るぞ」

「えっ…、えっ?!ちょ…」

操一朗はサブレの首筋を叩くと駆け足で手綱を引いた。いきなり速度が上がり途惑う和奏だったが、徐々に表情は柔らかくなっていった。

♪♪♪

乗馬を終えた和奏はその場にへたり込んでしまった。

「はぁ~…、足の筋肉が………」

「結構くるでしょ?」

「俺も紗羽も最初は結構痛んでよ、しかも続けていくと今度はケツの皮…」

シパァンッ

紗羽が鞭を振るって操一朗のケツ…、臀部を叩いた。

「イッ、テェ~!何すんだ?!それかなり凶器なんだぞ!」

「アンタこそ、女子2人もいるとこでなんてこと言い出すのよ!」

そういちろうでりかしーないよ、とサブレも操一朗を見つめていた。

「サブレ、和奏のこと気に入ったみたいだからまた遊びにきてよ」

「そうなの?」

紗羽はサブレの鼻筋を撫でながら頷いた。すると、突然サブレが首を背後に向けた。

「わっ…、どうしたの?サブレ」

操一朗もサブレが振り向いた方向を凝視していた。

「まさか…、な」

サブレと操一朗の視線のはるか彼方、樹上に立つ異形の存在がいた。

「ふむ、隙あらば一気に勾引(カドワ)かすつもりで僅かに隠形(オンギョウ)の術が解けかかってしまったか。それに気付くとは、なかなかどうして…。まずは今のレイを倒すのが先決か」

異形の存在は木の葉を巻き上げながら消えた。

♪♪♪

翌朝、操一朗はいつもように早く起きて坂井家の庭で稽古をし終えると、久々の制服に袖を通した。

台所に行くと既に和奏が父親のコーヒーの用意をしていた。家猫のドラのご飯の用意もできていた。

「あれ?早いな」

「うん、ちょっと昨日のテープ聴きたくて。音楽室寄るの」

父親への手紙をイラスト入りで書きながら和奏が答えた。

「そっか、なら行くか」

操一朗は食パンを咥えると和奏と2人で家を出た。

2人が出てから起きた圭介が台所でご飯と称してレンジに食パンだけ入っていたのにがっかりしたのは、ドラのみぞ知る。

♪♪♪

「あれ、誰かいる?」

和奏と操一朗が第三音楽室の戸を開けると・・・・・・・・

頭に本を何冊も重ねて空気イスしながら発声してる大智と

漏斗でピンポン玉を吹き上がらせながら閉じた両足を垂直に上下運動しているウィーンがいた。

「………」

「………」

操一朗と和奏は何も言わずに戸を閉めた。

「秘密の朝練バレちゃった、【秘密の朝練で来夏たちを驚かせる作戦】失敗か…」

「私は驚いたけど…」

「俺はリアクションに困った」

「みんなの役に立ちたくて、上手くなりたんだ。和奏、ソーイチロー、僕たちにまず必要なのは何だと思う?」

「常識?」

「まともな本?」

ウィーンの必死の訴えを和奏と操一朗は軽く一蹴した。

「やっぱ本だけの独学じゃ無理だって」

【ボイストレーニング初級編 あっという間に上手くなる!】という本を捲りながら大智がぼやいた。

♪♪♪

バキバキbeating now~!かっ飛ばしてkicking now~!

放課後、和奏と並んでバイクを押しながら歩いていると操一朗の携帯が鳴った。

「もしもし?」

『あ、緒川?』

「っと、陽子さんか」

『アンタと坂井さん今日から学校行けるようになったんでしょ?ちょっと帰りに赤ん坊の顔見に来なさいよ。』

「あ~、ちょい待ち。なぁ和奏、陽子さ…、高橋先生んとこに赤ちゃん見に行くか?」

「え?!赤ちゃん、行きたい!」

「今から2人揃って行くわ」

『あ、それじゃ手土産にジェラート買って来て。4つお願いね、味は任せるわ』

「はいはい…」

電話を切ると操一朗は和奏を後ろに乗せ、バイクを走らせた。

行き掛けにオレンジ、パイン、イチゴ、レモンのジェラートを買って高橋家に行くと五島もいた。

「おう、操一朗。すっかり身体はいいようだな。和奏君も、久し振りだな」

「あ、はい…、こんにちは」

実際に会うのはまひるの葬儀以来となる和奏は軽く会釈した。

「ほ~ら、操一朗おにいちゃんと和奏おねえちゃんだぞ~」

五嶋はいつものきりっとした表情からは想像もできないほど表情を崩して赤ん坊をあやしていた。

「そういえば、結婚して子供できたけど、このまま別姓で通すのか?」

「まぁね、学校でも今さら五嶋先生なんて呼ばれてもしっくりこないし」

「俺の仕事が忙しくてこうして別居結婚になってしまっているしな」

「ふぅ~ん、あ、これジェラート」

「お、サンキュー。2人も好きなのを選んでいいわよ」

操一朗はパイン、和奏はイチゴを選んだ。ジェラートを食べながら、五嶋が抱いている赤ん坊にしばし見蕩れていた。

「わ~、かわいい~」

「和奏君、抱いてみるかい?」

「え…?」

「ほら、肘の辺りで首を支えるようにして…」

陽子に手伝ってもらい、和奏はおっかなびっくりしながら赤ん坊を抱っこした。

「ぅわ…」

「そういえば、名前は決めたのか?」

数口でジェラートを食べ終えた操一朗が訊くと、五嶋は真剣な表情になって頷いた。

「操一朗、それに和奏君、この子の名前を付けるにあたって、2人の許可を貰おうと思ってな、今日は呼んだんだ。」

「許可?」

赤ん坊を抱っこしたまま、和奏は首を傾げた。

「この子、女の子なんだが、『まや』と名付けようと思う」

「マヤ?」

操一朗は、漢字は?と続けて訊いた。

「真なる夜、と書いて真夜(マヤ)だ。」

「真…」

「夜…」

和奏と操一朗が呟くと、五嶋は由来を言った。

「まひると、音夜から一字ずつもらったんだ」

「………」

「………」

「もちろん、2人が承諾しかねるというなら、改めて…」

「………俺は別に、構わねぇけど…」

操一朗は和奏の方を振り向いた。

「五嶋さんは、2人と友だちだったんですよね?」

「あぁ、自分で言うのもなんだが、私は友人がほとんどいなくてな。そんな中で音夜とまひるに出会った。出会い方は…、まぁいいカタチとは言えないが、それでも2人は無二の親友となった」

和奏は無邪気に自分を見上げる笑顔を見て決めた。

「うん…、いい名前だと思います………。真夜(マヤ)ちゃん、お母さんと音夜伯父さんも、きっと喜んでいると思います。」

「そうか…、ありがとう」

五嶋を目頭を抑えながら頭を下げた。

「つーか、陽子さんはいいのか?」

「いいわよ、ちゃんと2人で話し合ったし、私もいい名前だと思うし」

「ほら、操一朗も…」

「ぉ、おぅ…」

和奏から赤ん坊を受け取ると、操一朗は少しおどおどしたが、すぐに腕の中にしっかりと新しい旋律(いのち)を抱きとめた。

「………………………真夜(マヤ)」

操一朗の呼びかけに、真夜(マヤ)はきゃっきゃと無垢な声で応えた。

キィィィィィン

「………悪ぃ、ちょっと野暮用思い出した。五嶋さん、和奏を家まで頼む」

「うむ、わかった」

五嶋は操一朗の表情から状況を理解し、頷いた。

「あ、操一朗…」

途惑う和奏の腕に真夜(マヤ)を預けると、操一朗は高橋家を飛び出した。

♪♪♪

バイクを走らせていると、レイバットが追走してきた。

「レイバット、五嶋さんと陽子さんとこに赤ん坊が生まれた」

「うむ」

「まひるちゃんと親父から一文字ずつ取って、真夜(マヤ)だってよ」

「そうか」

「すっげ小さくてよ、けどすっげぇ重くてさ…」

「………」

「護るもんが増えたな…」

「そうだな」

「なぁレイバット」

「なんだ」

「さっきから視界がぼやけちまってんだよ…」

震える声の操一朗を、レイバットはいつもの口調で諭す。

「ならばいっそ眼鏡を外せばよかろう。今のお前なら、心の眼でしかと敵を捕らえることができよう。護るべきもの、な」

レイバットは静かにバイクに噛み付き、マシンレイダーへ変化させた。

廃工場まで辿り着くと、操一朗はバイクを止め、ヘルメットを脱ぎ捨てると、一気に駆け出した。

挿入歌 ♪Belive♪

「操一朗!敵はこの上だ!」

地面から現れた玄牙(ゲンガー)が幻術結界を張る。

「あぁ!」

操一朗はベルトを装着すると階段を二段飛ばしで駆け上がった。

駆け上がりながら、真夜(マヤ)の温もりと柔らかさと、そしてその音(いのち)の重さを思い出していた。

「絶っ対ぇ…………、護る!!」

操一朗は、眼鏡を外した。

「来たな。我こそは太古より日の本に住まいしゴブリン族の天…」

「オラァッ!」

右拳を強く強く握り締めた直突きが、屋上にいた全身茶色で鼻高怪物…天狗の横っ面に直撃した。

「レイバット!!」

「うむ、華激(カゲキ)に行こうか!」

操一朗は右手でレイバットを掴むと左前腕に噛みつかせた。

「変身!」

「ギャブリ!」

変身した仮面ライダーレイは天狗の前に立ちはだかった。

「おのれ!我が妖術を見よ」

パンッ

天狗が葉っぱのような手で拍手を打つと、天狗の姿が何体にも分身した。影分身の術だ。

「フハハハ、どうだ、どれが本体か分かるまい」

ドッ、パキィン

前後左右、上空にまで浮いている天狗の分身を、しかしレイは迷うことなく冷気を纏った右拳を左後方の天狗のどてっ腹に叩き込んだ。殴られた箇所は拳の跡が残り、さらに凍っていた。

「くっ…、何故本体が………」

「何でだろうな、眼鏡外したからあんま見えねぇはずなのに、前よりお前らの気配(音)を感じられるようになったんだ…よ!」

追撃のレイの冷凍鉄拳を天狗は両手で防ぐが、屋上の給水タンクに激突した。

「くっ…、人間風情が天狗様にここまで………」

「その鼻っ柱へし折ってやんよ、レイバット!」

仮面ライダーレイはウェイクアップフエッスルをレイバットに咥えさせた。

「ウェイカップ、2!」

レイバットが二度フエッスルを吹くと、レイの両腕に冷気が集中した。

「我が究極奥義で抹殺してくれん!」

天狗が両手を突き出すと、木の葉を巻き込みながら猛烈な勢いで竜巻がレイに向かって吹き荒れた。

果たして、知ったことかと言わんばかりに仮面ライダーレイはゆっくりと前進した。そして、両腕のカテナで封印している魔皇力を僅かに解放し、両拳に集束させると、一気に前方に跳んで天狗の顔面目掛け突き出した。

「双拳・大樹鉄槌(ダブル・ウッド・ハンマー)!!」

「ぐぁぁぁぁぁ~~~~!!!」

長い鼻をぽっきりと折られた天狗は全身が凍り付き、そのまま粉々に砕け散った。

♪♪♪

「うぉ、なんだよこのご馳走」

その夜、操一朗が圭介に呼ばれて坂井家に行くと、食卓にはいつもよりもかなり豪華な夕飯が並んでいた。刺身や操一朗が好きな鶏の唐揚げ、サラダに五目ご飯、吸い物まであった。

「いいか、こういうのを飯って言うんだ。今朝のパンをレンジに入れただけのは飯とは言わん」

「あ、今日結婚記念日でしょ」

和奏の言葉に操一朗も思い出した。

「そっか、そうや今頃だったな」

それから3人は五嶋真夜(マヤ)のことなどを話しながら食事をした。普段大食漢な操一朗も流石に今日の量は多かったようで、全部食べ終えると茶の間にごろんと横になった。

「そういえば、聞いた事なかったけど、叔父さんってまひるちゃんになんてプロポーズしたんだ?」

「俺じゃない、母さんがプロポーズしたんだ」

「うっそだ~…」

食後のお茶をいれていた和奏が胡散臭そうな顔をした。

「本当だって…」

圭介は渋い顔をしながらお茶を啜った。

「じゃあまひるちゃんどうやってプロポーズしたの?」

「あぁ、ピアノを弾いて…」

ピアノという単語に和奏が敏感に反応した。

「………お母さん、なんで病気のこと言ってくれなかったんだろう…………。知っていたら私、ちゃんとお母さんと歌を創っていたのに…」

「あのな、病気の事は母さんが言わないでくれって頼んだんだ。俺と、それに五嶋さんにも」

「え…?」

「は…?」

♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪

銀杏並木の中を、まひる、圭介、五嶋が歩いていた。

「わがまま言ってもいい?」

「和奏と操一朗にはまだ病気のこと言わないでほしいの。2人ともしっかりしてても淋しがりだし、受験もあるし」

「けど、もう子供じゃないんだぞ」

圭介の言葉にまひるは俯いた。

「うん…、もしかしたらあの子達を傷付けてしまうかもしれない」

「じゃあどうして?」

五嶋は10年来の友人であるまひるに訊いた。

「約束しているから。私、和奏と操一朗と一緒に歌を創らなきゃ」

「わかってくれるよ、ちゃんと話し合って一緒に歌を…」

「哀しい別れの歌?」

まひるの言葉に圭介は言葉を詰まらせた。

「一緒に歌を創るとね、相手の心に自分を遺せる気がするの、………兄さんみたいに」

五嶋も言いかけたが、何も言えなかった。

「だから、哀しみじゃなくて、母親として、和奏には優しさ慈しみの心、操一朗には兄さんから受け継いだ強さと信念を、もし私がいなくなってもその歌が私の代わりにずっと一緒にいてくれる。それを聴く度にあの子達が私を思い出すの」

「和奏も操一朗も音楽を好きになってくれて本当に良かった…、大事な大事な宝物だから…、私、絶対にあの子達を独りにしない」

♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪

「…ッ~!」

和奏は泣きながら家を飛び出した。

「私…、凄く愛されていたのに……、勝手に思い込んで………、」

走りながら和奏は嗚咽を漏らした。

「捨てちゃった………、思いでも……、ピアノも…、音楽もッ!」

「和奏!」

操一朗がバイクに乗って追いかけて来た。

「操一朗…、私…、わたし………」

和奏は目に涙を浮かべ操一朗の服を掴んだ。

「…ちょっと来い」

操一朗は和奏にヘルメットを被せるとバイクの後ろに乗せて緒川家まで走った。バイクから降りると操一朗は和奏の手を引いて中に連れ込んだ。

「あ…、」

緒川家のリビングダイニング、かつてまひると音夜が奏でていた音楽の間に・・・・・

「ピアノ…」

「叔父さんに頼まれて運んだんだよ、一旦お前の気持ちを整理させる時間が必要だからって。大変だったんだぞ、五嶋さんと2人でこれ運ぶの。あとこれ…」

操一朗はピアノの上に乗っていた一見何の生物か分からないマスコットを和奏の手に乗せた。

「これ…」

「まひるちゃんが作ってくれたお揃いのマスコット、俺のシャチとお前のイルカ。これまで処分するこたねぇだ…、っ!」

和奏はマスコットを抱き締めると操一朗の胸に飛び込んだ。

「…ありがとう………、ありがとう、~…、」

操一朗は和奏の髪を優しく梳いてやった。

翌日

白浜坂高校第三音楽室から歌が響いた。

部長の宮本小夏の小気味良く元気な声

副部長沖田紗羽の爽やかで溌剌とした声

部員その1田中大智のしっかりと芯のある声

部員その2ウィーンの純粋なボーイソプラノボイス

そして、

坂井和奏の優しさに満ち溢れた声

緒川操一朗の朗らかなバイオリンの音色

合唱時々バドミントン剣道部の歌声は、湘南の青空にどこまでも響いていった。




今回の敵
日本土着ゴブリン族:天狗(ダーテング)
技:かげぶんしん リーフストーム


仮面ライダーレイ技解説
◆冷凍鉄拳:冷気を纏った拳による拳撃。追加効果で殴った箇所を凍らせる
◆双拳・大樹鉄槌(ダブル・ウッド・ハンマー):ウェイカップ2で発動。両腕のカテナで封印されている魔皇力の一部を両拳に集束させ、それを同時に打ち出すライダーパンチ
(元にした技⇒金剛番長のダブルハンマー)
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