「はっ!?」
音夜が目を覚ますと、そこは病院の一室だった。
「…む、そうだ、あのマーメイドに鉄砲水みたいなをくらって…」
音夜は気を失うまでのことを思い出した。
「兄さんっ!」
病室の戸が開くと、まひるが飛び込んで、音夜に抱きついた。
「よかったぁ~…」
「まひる…、とりあえず、お前水着だってこと忘れるなよ」
音夜に指摘されてまひるは顔を真っ赤にして飛び退いた。
【23 years ago】
3話 一部だったり、キバったり
「じゃあ海に落ちた俺を助けたのは能登志保なのか?」
「うん、志保ちゃんサーフィンやってたら兄さんが漂流してるのに気付いて浜まで運んでくれたの。ちょうどそこにナオと私が合流して、前に五嶋さんから教えてもらってた話の通ってる病院に運んでもらったの。」
五嶋はレイ・プロトタイプの音夜が不足の事態に陥った時のために各所に自分の名前で何でも都合がつく施設を備えていたのだ。ここはそのうちの1つだった。
「先生が言うには怪我とかほとんどしてないからもう退院してもいいって。」
「ほとんど、無傷?」
音夜は自分の身体に触れた。多少の打ち身などはあるが、あれだけの攻撃を直撃したにも関わらず、ほぼ無傷。それに海に飛ばされたのにそこに偶然志保がいたのもできすぎている。
「…あのマーメイド……」
色々と気にかかることが多い。一度レイバットと話し合う必要があった。
♪♪♪
「そういえばまひる、お前俺が買い物に行ってる時どこに行ってたんだ?」
退院した音夜とまひるはとりあえず着替えるため緒川邸へ帰ることにした。
「あ、そうそう。あのね、帽子が飛んできたの。」
「…は?」
「この炎天下、帽子がなかったら困るだるな~って思って、風上の方に探していったら旅の音楽グループの陽気なおじいさんと会ったの。そしてね……、あ、あの人…」
まひるが指差した方を見ると、大柄な男が直子に言い寄っていた。
「ナオに何してんだこの野郎~~!」
音夜は走り出して大柄な男の背中にドロップキックを打ち込んだ。
「ア~~!」
大柄な男は数メートルも吹っ飛んだ。
「ナオ、大丈夫か?」
「あ、いえ、音夜さんその人は…」
「安心しろ、お前を誑かす雑音は俺が倒してやったぞ。」
音夜は胸を張った。
「兄さ~ん、その人悪い人じゃないよぉ~。」
まひるがサンダルをぱたぱたさせながら音夜を追いかけて来た。
「その人、さっき言った旅の音楽グループの1人で、兄さんを病院まで運んでくれたんだよ。」
「なん…だと…」
そこに一台のキャンピングカーが徐行で近付いてきた。
「やぁお嬢さん、お兄さんは怪我とかないようだね。よかったよかった。」
「おい、なんであいつあそこで伸びてるんだ?」
♪♪♪
「はっはっは、暴漢と間違えたか。」
「まぁ、こいつの見た目だとそうなるか。」
音夜とまひるそれに直子は、彼らの湘南での拠点という海岸付近の森に移動した。
コンドルクインズというバンドの陽気な老人と小柄な老人は音夜から事情を説明させると笑い出した。
「まぁあれだ、スマン。」
「イヨイヨ、キニシテナイヨ。」
大男も気さくに許してくれた。
「ところで、旅しながら音楽をしていると聞いたが、一曲聴かせてもらえないだろうか?」
「では、挨拶代わりに…」
3人は楽器を持つと演奏を始めた。
日本とは違う太陽、乾いた風を受けながら、情熱的に、愉快に、コンドルクインズの曲はそんな感じだった。
「わ~,すごいすごい。」
「学校じゃ聴いた事無い音楽ですね。」
まひると直子は拍手絶賛した。
「うむ、なかなかのものだな。」
上から目線評価だが、それでも音夜にしては珍しく他人を褒めた。
「しばらくはここでバカンスがてら作曲活動に専念するつもりだ。基本的にここにいるからいつでも来なさい」
陽気な老人の言葉に、今度は俺のバイオリンを聞かせてやる、次はセッションしましょうね~、と音夜とまひるは約束した。
♪♪♪
「ねぇまひる、夏休みは合唱部の練習や受験勉強もあるのに、あんな約束してもよかったの?」
3人での帰り道、直子はまひるに聞いた。
「だいじょ~ぶ。合唱部はちゃんとやるよ~。勉強はまぁ、兄さんに教えてもらうし。」
「そうだな、あそこの教師たちよりはまひるにあった勉強方法を教えることが出来る。」
それからの夏休み、緒川兄妹にとってはとても充実したものになった。
合唱部は秋の全国大会、まひるや直子にとっては最後の大舞台にむけて精力的に練習をし、空いた時間には音夜と連れ立ってコンドルクインズのキャンピングカーまで行き一緒に音楽について語り演奏し、その合い間合い間に勉強をしていた。まひるの第一志望は近くの音大。
音夜の進路は本人曰く、
「俺の針路は俺の目線の先。俺の奏でる音が第一志望だ。」
などと言って進路相談室でバイオリンの演奏を始めた。普段の授業態度はさぼってばかりなのに、成績はつねに学年2位(ちなみに1位は直子)。
その一方で、音夜はマーメイドのことも気になっていた。
五嶋に連絡すると、観測班を動員して調査中、今は無茶をするなと言われた。
あれから謎の失踪者等といった怪事件の噂は聞かない。自宅の屋根の上でバイオリンを弾きながら音夜はレイバットに聞いた。
「レイバット、マーメイド族とはどんな種族だ?」
「うむ、歌をこよなく愛し、争うを嫌う。ライフエナジーも人間からではなく済んでいる海から摂取している。そして人間とは友好的でありたい、と彼女達は思っている。しかし…」
レイバットは言葉を濁した。
「長年海というこの惑星の根源ともいえる巨大なものからライフエナジーを摂取し、それが子孫を残すたびに徐々に体内に蓄積されて、十三魔族の中でも特に回復・生命力が強くなった。その涙は傷を癒し、血は難病すら平癒させる。そしてその血肉を喰らえば…」
「不老不死、ということか。」
「人間界でも数多の伝説が残っているようにな。捕らえられるのを恐れ、かといって、争うことはしたくない。彼女達はいつからかほとんど姿をみせることはなくなった、…と、我のデータベースにはある。」
「ん?ちょっと待て、“彼女たち”?マーメイドは女しかいないのか?」
「そうだ。種族は全員が雌。同系種であるマーマン族との交配で子孫を残す。」
「そうか…」
「なんだ、マーメイド族の住処を見つけてハーレム楽園にでも行きたかったのか?」
「違うわアホバット。あいつ、あのチンピラたちを誘惑していた時の歌、哀しかったんだ。悲哀、悲壮、絶望。そんな女の音楽を聴かされて、ほっとけるわけないだろ。」
「ふっ、お前らしいな。」
♪♪♪
そんなある日、まひるは合唱部顧問の池崎先生に進路相談室に呼ばれた。
「まひる君、君は最近校外で音楽グループと交流しているそうだね?」
「あ、はい。とっても良い人たちであの人嫌いの兄さんまで気にいっちゃって、今度海岸でライブでもしよ…」
「今すぐ交流を止めなさい。」
「え…?」
「校外活動には基本的に教師の許可がなければ認められない。今君は高校3年生、部活である合唱部の全国大会に向けて部長として率先して練習に努めなければならない、模範となる立場だ。そしてそれ以前に君はあまり成績がよくはない。赤点でないからいいという訳ではないよ。」
「はい…」
「ちょっと待て。」
進路相談室の外でまひるを待っていた音夜が中に入ってきた。
「兄さん…」
「音夜君?」
「規則規則、そりゃ学校や部活を円滑に進めるには必要だろうが、そんなのに縛られすぎて音楽の本質を見失ったら本末転倒だろ。」
「む…」
「率先して部員の模範?今の合唱部、たしかに全国大会に行く実力はあるが、どこか窮屈だぞ。お前の指導方法、少し改めたほうがいいんじゃないか?あと、まひるの成績は休み明けの実力テストで全科目でそっちがぐうの音も出ない結果を、俺が出させてやる!文句はそれからだ!」
まひるの手を引っ張って進路相談室から出た音夜は廊下の突き当たりで立ち止まった。
「ナオ、そこにいるんだろ。」
音夜が声をかけると、直子が出てきた。
「何ですか?」
「池崎にチクったのはお前だな。コンドルクインズと俺たちの関わりを知ってるのはお前だけだ。」
「…はい…、そうです。」
「ナオ…、どうして…」
「…だって、規則だし…まひる…合唱部よりあの人達と楽しそうに音楽やってたし……」
「ハァ…」
音夜は溜息を付くと直子のぽんと手を乗せた。
「ようするにまひるがあんまり合唱部、というか自分に構ってくれないから嫉妬してたのか。」
「なっ…、違い…」
直子は顔を真っ赤にした。
「ふっ、いつもはきっちり規則とか言って振舞ってても、可愛いとこもあるんじゃないか。」
「そうだ、ねぇナオ一緒に曲作ろうよ。全国大会用の自由曲。」
「え、でも…」
「大丈夫、ナオと一緒ならすっごい曲できるから。」
「超力(チョウリキ)ながら、俺も手伝うぞ。」
微力と自分を遜って言わない音夜の横顔を、直子はじっと見つめていた。
♪♪♪
夕方、音夜とまひるはコンドルクインズと音楽活動を楽しんでいた。
「そんなことがあったのか…」
「音夜、まひる、私達は2人とこうして音楽をやるのは楽しいしが…」
「ソレデフタリガ、ガッコデタイヘンナラ…」
「あ~、いい皆まで言うな。」
音夜は3人の言葉を遮った。
「俺の音楽は学校の規則、法律、日本国憲法ですら縛ることは敵わないものだ。心配するな。」
「そうだよ、兄さんは糸の切れた凧みたいなんだから。」
微妙に使い方が違うまひるの言葉に音夜は微笑んだ。
「さて、名残惜しいが今日はここまでだ。」
「え、でもまだ…」
「池崎の前で啖呵を切った以上、これからはもう少しお前の勉強時間を増やすぞ、いいな?」
「あぁ、そうしなさいまひる。」
「勉学は学生の本分だよ。」
「オンガクハ、イツデモデキルヨ。」
「と、言うことだ。」
音夜はまひるの頭にヘルメット被せた。
「は~い、じゃあまた明日ね~。」
バイクを走らせていると、レイバットが平走してきた。
「音夜、五嶋から連絡が入った。マーメイドと白服をこの近辺で目撃したそうだ!」
「何!?くっ、けど今は…」
後ろのまひるが音夜の腰に回した手に力を込めた。
「大丈夫、ちゃんと隠れてるから。それにこの近くならコンドルクインズのみんなが心配だよ。」
「よし、わかった!」
音夜はバイクの速度を上げた。
「我が先導する、ギャブリ!」
バイクに噛み付きマシンレイダーに覚醒させたレイバットは猛スピードで飛んだ。
♪♪♪
「ここだ!」
そこは以前音夜がマーメイドと遭遇した所だった。
「兄さん、あそこ!」
まひるの指差した方にはマーメイドがその優美なボディを三日月の光を受けて輝かせて歌を歌っていた。そしてその歌に引き寄せられていたのは…、コンドルクインズの3人だった。
「レイバット!」
レイバットベルトを装着した音夜は左手でレイバットを掴んで右前腕に噛ませた。
「華激(カゲキ)に、ギャブリ!」
「変身!」
氷霧を振り払い、仮面ライダーレイ・プロトタイプはマーメイドに迫った。
まひるはコンドルクインズの3人を止めていた。
「待って…、みんな、目をさまして…」
しかし、まひるの細腕では3人の動きを止めることはできなかった。そこに、白服達が現れた。全員まひるを見ても表情1つ変えず試験官を取り出した。
「まひる!くっ…、」
レイ・プロトタイプはマーメイドが叩きつける尻尾を回避するので精一杯だった。
そこに、青いスポーツカーが走ってきた。
「五嶋さん!」
「うおぉっ!」
オープンカーから白服達に飛び掛った五嶋は次々と白服たちを倒した。今でこそ音夜が使っているが、本来は五嶋がレイ・プロトタイプのテスターとして戦うはずだった。単純な
戦闘力なら、音夜以上だ。
「ふんっ!」
5人をあっという間に倒した五嶋は最後にコンドルクインズの鳩尾に拳を叩き込んで気絶させた。
「音夜、こっちは心配するな!」
「あぁ、任せた!」
「ふっ、重度のシスコンのお前がまひる嬢を任せるとは、ゴシマも信頼されてるな。」
「今は戦いに集中しろ、レイバット!」
「うむ、オトヤ、右だ!」
マーメイドの尻尾を躱したレイ・プロトタイプは距離を取った。
「おい、マーメイド!お前、どうしてそんなに哀しい歌を歌う?」
音夜の言葉にマーメイドは動きを止めた。
「こないだも、お前は攻撃を手加減していた。俺を遠くに飛ばしたようで、その実、ちゃんと人がいる方向を選んでいた。」
マーメイドは紺碧の海のような瞳でレイ・プロトタイプ、音夜を見つめていた。
【 戦 え 】
突如、周囲に謎の声が響いた。同時に、マーメイドが苦しみだした
「なんだ!?」
「どうやらあのマーメイドは何者かに操られているようだ。以前戦った時も攻撃こそしてきたが、辛うじて残っていた自我で威力を抑え方向を調整してオトヤを逃がしたのだろう…。しかし、あれは完全に自我を失っているぞ…」
ザバァッ!
瞳の輝きを失ったマーメイドはレイ・プロトタイプ目掛け激流を吐き出した。そんな戦いを見ていたまひるが…
「~♪♪~~」
突然歌いだした。すると、マーメイドの動きが鈍くなった。
「まひる?」
隣にいた五嶋も眉をひそめた。
「♪~~♪~♪~~~~」
まだ歌詞の無いメロディだけの歌だが、マーメイドはその歌で確かに動きが鈍くなっていた。
「まひる嬢、そのまま歌い続けてくれ!マーメイドの洗脳が解けるかもしれない!」
「なんだと!?本当か?」
「うむ、ただ、操っている奴はそう簡単には歌わせてくれないらしぞ…」
周囲の海から何匹もの貧相な魚型ファンガイアが飛び出してきた。
「くっ、まひるの邪魔はさせんぞ!」
レイ・プロトタイプはキックや拳で叩き落していった。だが、如何せん数が多い。素手では限界がある。
「音夜、新しい武器だ~!」
五嶋が車に乗せていたアタッシュケースからメカニカルな獣の犬歯…牙のような物を取り明日とレイ・プロトタイプ目掛け投げた。
「これは…」
「自在剣・機刃、お前が望んだ通りの武器になる!」
受け取ったレイ・プロトタイプは数多の敵を倒せる武器を想像した。すると、自在剣・機刃が開き、真ん中に持ち手と鎖で繋がった三節棍状に変形した。
「はぁぁ!」
レイ・プロトタイプは四方八方から飛び掛ってくる貧相な魚型ファンガイアを自在剣・機刃の乱れ舞う攻撃で次々と倒していった。
「はいぃぃ!」
ラスト一匹を倒したレイ・プロトタイプは脇に先端を挟んでポーズを決めた。
「それ、必要か?」
「余韻というやつだ。」
♪♪♪
「♪♪~♪~~~♪♪♪~」
まひるは必死に歌った
マーメイドの哀しみ、
絶望、
あまねく悪しき感情を、
癒すように、
願うように、
祈るように、
歌い続けた。
「 あ り が と う 」
「っ!?」
小さく響いた言葉を耳にしたまひるはマーメイドに駆け寄った。
「まひる、待て!」
レイ・プロトタイプの活動限界時間が来て強制変身解除された音夜はまひると止めたが、まひるは聞かずに力尽きて倒れたマーメイドの身体を抱き締めた。
「レイバット、どうなってる?」
「まひる嬢の歌が洗脳に勝ったのだ…、ただ、」
「死んだのか?」
「いや、酷く衰弱している。マーメイドの精神はそうとう疲弊しているようだ。」
そこに五嶋が携帯片手に近付いてきた。
「後の事は任せてくれ。そのマーメイドも、どこまでできるか分からないが、医療施設に収容して対症療法でなんとかしてみる。」
「お願い…します…、この子を……、助けて下さい…」
歌い過ぎて咽を嗄らしたまひるが頭を下げた。
♪♪♪
コンドルクインズの3人は歌に魅入られていた間の記憶が無く、翌日も変わらず音夜とまひると音楽に勤しんでいた。
「なぁ音夜、まひる。君たちにとって、音楽とはなんだ?」
コンドルクインズの陽気な老人が聞いた。
「俺であり、まひるであり、世界でもある。イコール、世界とは俺そのものだ。」
「ん~、酸素とか水とか、どこにでも在って当たり前なものかな?」
「はは、それで観客が来ればいいんだがな。」
小柄な老人が枯れたような発言をした。
「はっ、そんな弱気で奏でる音楽なんか、例え一等地であっても聞きたくはない。人がいるから歌うのがプロなんだるが、まずは歌って人を集めるのもプロだろう?」
音夜の言葉に大男が頷いた。
「オトヤ、イイコトイッタネ。」
「だがまぁ、今作ってる曲ができたら知り合いの音楽会社の奴に口利いてステージくらいは用意してやるぞ。」
「その健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみのときも、私が創りたいのはそんな曲かな。」
「あぁ、そうだな。」
音夜はそれにあわせてバイオリンを弾いた。
♪♪♪
「何だ、もう行くのか。」
「あぁ、あのWMC(ワールド・ミュージック・カンパニー)とお近付きになるチャンスはありがたいが、それは性にあわん。」
陽気な老人は帽子を被って、最後の荷造りを終えた。
「本当にいいのか、この曲をコンドルクインズの曲としてしまって」
「あぁ、構わんさ。」
「いいですよ。私はこれから別の曲創りますし。」
小柄な老人の言葉に音夜とまひるは笑顔で応えた。
「オ~~、オトヤッ、マヒルッ、アリガト~~~!!!」
2人は大男の全力の抱擁を受けた。
そんな2人を監視する影があった
「あの男…人間にしてはなかなかの強者だな……、それに…、あの女の歌……くっくっく…」
星獣戦隊ギンガマンの武器をそのまま流用しました
形態は、テレビシリーズの5形態+ここでのオリジナル5形態にする予定です