「色々準備はしたけどもう一つくらい何か欲しいよなぁ」
モデビル業の休憩中ふと俺は音楽祭の事を考えていた。
音楽祭はクラス対抗で行うタイプの行事である。
「お疲れ様ですRAINさん……あれ?何か悩みですか?」
「あぁマネちゃん、悩みって程でもないんだけどアイデア不足って感じかな」
「アイデアってことはまた魔具についてですか?」
「んにゃ、今回は学校の行事の事。今度音楽祭ってのがあってね、それの演目は大体決まってるんだけど今ひとつ決め手がないんだよね」
「音楽祭、なるほど じゃあこれなんてどうです?」
そう言ってマネちゃんは一枚のチケットを取り出した。
[WONDER BROTHERS]
そう書かれたこの黒いチケットには丁度次の休みの日程に開催される旨が記載されていた。
しかし、その記載には何のチケットなのかが記載されていないのだ
「これは?」
「サーカスのチケットですよ、最近人気が出だしたらしく丁度チケットを頂いたんです」
「へぇ、サーカスかぁ……」
サーカスは前世でも数回しか行ったことが無い、それも幼い頃の記憶なので今となっては殆ど覚えていないくらいだ。
魔界では炎魔術や飛行能力などがあるのでこういう見世物は無いものだと思っていたのだが、魔界にもサーカスはあるらしい。
「チケットは二枚あるのでどなたかと行ってもいいと思います」
「マネちゃんは?」
「私は丁度その日は先約がありまして……すみません」
「そっかー、じゃあだれか誘ってみようかな」
そう言ってチケットを受け取って、私服に着替えて帰る準備をする。
俺が行くとしてももう一人となるとちょっと難しい、いつもならエイコやガーコと三人で行動したり入間達三人に混ざって四人で行動することはあるのだが、二人で行動するとなると誰かをハブるような事になってちょっと嫌な感じだ
どうしたものか……
「……ん?」
……まぁ、たまにはいいか。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
時は進んでサーカス当日、サーカスの場所ではなくその近くのカフェで待ち合わせとなっていた。
俺が来た頃には先に座って待っていた、なんだかんだ言って時間はきっちり守るんだから好感は高い。
「お待たせ、ごめん、待った?」
「いや、俺も今来たところですよ。しかし今日も変わらず……いや、いつにもましてお美しい!」
「今日はそんなにおしゃれってほどでもないけどね、サーカス見るだけだし」
「そう言いますが、観劇用に用意したそのドレスも素敵ですよ」
「そりゃねぇ、仮にもキミと一緒に居るからにはある程度は気合を入れないと失礼ってもんじゃん? 私と会う時いっつも張り切るんだから……
嫌な気持ちはそうないのだが、いつも以上に張り切って用意してこられると嬉しい気持ちと悪いなという気持ちが湧いてくる。
俺が完全に女子であったらもっとときめいてやれたのだろうかと思う事もままあるのだが、何というか上手くいかないものである。
開園まではまだ時間があるので俺も自分の分のコーヒーを頼もうとしたら、すでにゼゼが頼んでいてくれたようで戦慄した。
俺が来るタイミングを察して俺が飲むであろう飲み物を頼んでいたのだろうか、スマートとみるべきかちょっときもいと考えるべきか……
「ゴフッ……!」
「あ、ごめん 気遣いありがとね」
ゼゼの【
今の俺がちょっと引いたのでダメージを受けたのだろう
「あ、あぁ大丈夫です……」
「その体質というか能力も大変だよね、常時発動って事でしょ?」
「ええ、ですがこの全知全能の私ですから、嫉妬などの悪感情を越える程の好感情を常に得られるので問題は無し!」
「そこは素直に尊敬するよ」
つまりは他人からよく見られるように自分磨きと周囲への配慮を常に忘れないという事でもあるのだ、俺もモデビル故にこういった見られることに関しては結構気にしているのだが彼のそれには遠く及ばないだろう。
そんな感じに色々雑談もしているうちに時間となったのでサーカスの方へと移動することになった。
「ところでゼゼくんはサーカスは行ったことあるの? 私は初めてなんだよね」
「ええ、魅せるものですので何度か、家族の中にはサーカスに関わったものもいます」
「へぇ、流石はゼパル家だ 芸能関係ではどこにでも手を伸ばすって感じだね。いい意味で」
「貴女にそう言ってもらえると、他の方の数倍は嬉しいですね」
「こういうのを本心で言ってるのもほんと流石と言っておくよ……ついたね」
サーカスの会場に着くと、そこには巨大なテントを始めとして変わった馬車や猛獣たちが入るような檻、数多くの風船などまさしくこれこそサーカス!といった様子であった。
「えっと、チケットには席とかないけど受付に渡せばいいんだよね」
「ええ、座る場所も案内はされますがある程度は自由のはずです」
と、ゼゼが言った通りに受付でチケットを渡し案内された先は真ん中を半円状に囲むようにして何層も階段状に配置された席の一つだった。
家族や友達で少し列がずれそうな場合は調整もしているようで一人だけ別の層になるなんてことも無いようだった。
俺達の席は上から二番目の中央から少し右側の席だった、悪くはないが普通の席といった感じだ
「そういえばゼゼくんってこういうのVIP席とか特等席とかで見るんじゃない?」
「いや、そうでもありませんよ いい席からでしか良さを理解できないのは美を追求する者としては間違いと言えますから」
「ほんと凄いよキミは……」
それでいて俺に対してここまで純粋に好意を向けてくれるのだから本当に……
「ショ~~~タ~~~イム!!」
話しているうちに開演時間となったようで真ん中に座長であろう悪魔が立っていた。
「レディースアンドジェントルメン!ようこそ【ワンダーブラザーズ】へ! さぁ驚きと引き換えに
「まずはこの演目、"針地獄綱渡"! 針山の上に張られた一本の紐をこの一輪車に乗りながら渡りつつジャグリングを!」
ライトがすでにスタンバイしていたであろう黒い服に一輪車を携えた悪魔が手を振っている。
彼の前には【チェルーシル】でも使ったのかでいつの間にか現れていた針山の数m上に大体太さ1cmくらいの紐が張られている……何か細くないか?
サーカスは詳しくないがもう少し太くないと通れない気がするのだが……あぁ、まぁ最悪飛べばいいか
「え?飛べばいいだろうって?それではつまらない、ですので彼にはこちらの魔具を装着いたします……この魔具の効果はほらこの通り!」
ガチャンと一輪車の悪魔の胸部分にバンドのようなものが付けられた。
一輪車を持った彼は困ったような動きをして羽を出すが羽が拘束されてしまっており、とても飛べるような状態ではなくなってしまった。
「さらにこちら……! 【キープ】!!」
座長が両手を広げて舞台全体に【キープ】の魔術をかけてしまった、魅せることを意識した魔術だからか俺が知っているような【キープ】と違いなんだかキラキラしている。
「あれちゃんと掛かってますね、私が使ったことがある【キープ】とよく似ています」
「そっか、そういえばゼゼくんは使えるもんね」
ゼゼはその家系魔術で魔力を上昇させることで高位魔術を使用できるので、【キープ】もちゃんと覚えているのだ。
その彼が言うのだから間違いなく使われているのだろう
「では彼には早速渡り切ってもらいましょう!!」
そして座長へのライトが消え、視線は一輪車の彼に集中された。
そして彼は爆弾をジャグリングし始めて……なんで爆弾?
そのままBGMに合わせて進んでいき、時折ふらつきながらも彼は渡り切ることに成功した
割れるような拍手の中、彼は一礼して消えていった。
「なるほどね、縛りをかけるのでハラハラ感を出すことが出来るんだね」
「続いてはこちらをご覧下さいませ!"スピードスター危機一髪!"」
また気が付かないうちにセットが変わっている、魔術を使っている部分もあるだろうが視線誘導も関わっているのだろう、例えば先ほどの針山の彼は高い位置での演目だったので、そちらに視線が向けられているうちに地面のセットを準備出来るのだ、そうしてスムーズに次の演目に進めている……これがプロか
用意されていたのは巨大な丸い籠のようなものでその中に2人悪魔が入っている、どちらもよく似た顔をしているので双子なのかもしれない
「彼らにはこれからこの中を爆弾を持った状態で【
その説明をしながらもアシスタントの悪魔が2人に【加速】をかけ続けている、本来同じ魔術を重ねがけしても効果は一定のはずなんだが改良しているのかどんどんと効果量が上がっているように思えた
準備が出来た後は彼らは恐ろしい程の速さで飛び始める、カゴの大きさは大体直径5mの球体なのだがそれを手慣れた様子で飛び回る
「スタート!」
カチリとタイマーが開始された、その下にそれぞれ280kmとかかれている。
時々交差したり手を繋いで回転したりしながらも速度は落ちない
場に緊張が走る中約束の5分となった
パカリと、カゴの上の部分が開くと彼ら2人はそのまま飛び出して勢いのまま爆弾を空に投げた、気がつくとサーカスの天井は開けていて空が見えていた
相当な爆発が起きるがサーカス内には被害は全くない、ここまでで一つの演目だったのだろう
彼ら2人は戻ってきて一礼をしたので俺たちはまた拍手で応えた。
その後も悪魔ダーツや魔獣大戦争といった風にいくつも演目を見て、驚きながらもとっても楽しい時間を過ごせた
「今宵はこれにて終了となります、足元にご注意の元ご退出下さいませ」
そのアナウンスに従い俺たちは外に出た。
「いやぁ、サーカスってすごいねぇ」
「ええ、ガイスト嬢の珍しい表情をいくつも見られて俺は満足です」
「え、ちょっと!私の事ずっと見てたって事!? ……もう!」
「ははは」
そういうゼゼも普段のようなカッコつけた笑い方ではなく年相応の少年のような笑顔で笑ってるので、普段見ないような顔という事で勝手におあいこにしてやる
それにしても魔界のサーカスは人間界のそれと比べてひりつきがないだろうと思っていたが、実際は法律などで制限がかけられている人間たちと比べても圧倒的に危険でひりつくものばかりで楽しかった。
舞台演出のいくつかも見て学べたし今度マネちゃんには礼をしないといけないだろう
「ところでガイスト嬢、この後夕飯でもご一緒に如何ですか?」
「今日は付き合わせちゃったしね、いいよ 行こうか」
「是非とも! 良い店を予約しているんです、行きましょう」
俺が断ったらどうしたんだとかいう野暮なことは言わないでおこう、今日の感動を咀嚼しながら食事も楽しむとしようか
【スキ魔】
自分が渡したチケットでレイラとゼゼがデートをしたのでちょっと後悔しているマネチャンであった。