「ここが、かつて大戦争が起きた地って事? すっごくのどかなんだけどなぁ……」
鳥が鳴き、草が揺れる何もない草原
そこにぽつりと一人、俺が立っていた
手にはこの日の為に一曲だけ鳴らせるように練習して来たバイオリンがあり、それを演奏して欲しいと父に言われてここに来た
こういうのはガイスト家の家業の一つであり、失われた悪魔たちへの鎮魂と新たな門出を祝福するためにいろんな儀式を行うというものだ
今回は音楽だが、する事自体はそこで命を失った悪魔の特徴によって変わる
この元戦場は前にアムドゥスキアスとデルキラが演奏で666時間敵軍を足止めしたときの場所らしい
しかし、周囲は山に囲まれている他戦場跡なんかでもなく、自然豊かで戦争の傷は時の流れに修復された後だと実感した
「……これ私がやる意味ある?」
とは言ったものの、だれもいないのでむなしく響き渡っただけだった
魂視でもこの辺りに悪魔の魂は残っていないのにやる意味とはいかに
「あるんだなこれが」
「うわっ、え? 誰?」
「やっ」
そこで突然話しかけられてびっくりした
魂視で見てたのに気づかなかったので尚更驚きだ、認識阻害でもないようだし、俺が分からないレベルの認識阻害はプルトンさんくらいのものだ
胡散臭さが凄いけど、何処か不思議な印象を受けるお兄さんだ
「こんにちは、今代のガイスト……いや、次代のガイストかな?」
「あ、次代の方です 貴方は?」
「俺? 俺の名前はメフィスト、少し世間に詳しい悪魔だよ」
「メフィスト? ……ん?何で?」
「んー? 何が?」
「あ、いや……こっちの話です」
メフィストという名前から連想する悪魔の名を俺は知っている。
その名は"メフィスト・フェレス"、ゲーテの戯曲に登場するキリスト教の悪魔である。
ゲームなんかでもしばしば登場していた記憶もある彼なのだが、おれがなぜ疑問に思ったのかと言うことがある
俺が密かに考えていた持論からかけ離れた悪魔であるからだ。
魔王予言の書と言う書籍がある、その名の内容はこうだ
『あまねく種族を配下に収め、血の契約を結び万物の癒しを賜う 彼は異郷より舞い降りて、右手に
途中も気にはなるが、重要なのは最後の部分だ
それは、彼らがソロモン72柱の悪魔たちと同じ名を持っているという事だ。
例えばアスモデウスやウァラク、他にもナベリウスやバラムと言った悪魔たちである。
多少は違う名前の悪魔や、被りっぽいものは見たことがあるし、まるで関係ない名前の悪魔もいる。
例えば同級生のトイフェルやレイラーなんかの名前は関係がない悪魔と言える。
しかし、それ以外に有名な悪魔で神話に登場する悪魔は見たことが無かった。
例えばルシファーとかそういうのだ。
メフィストフェレスもソロモン72柱には含まれない悪魔なので、存在しないと思っていたのだが、俺の予想が間違っていたという事になる
しかし……
「考えすぎ、俺は例外だよ そんなに難しい顔しないの」
「……心とか読める感じです?」
「いや? なんとなくそうかなって思ってね」
「あぁ、そうですか」
調子が狂う、この
それだけではない、この
「私がガイストって事バレてるっぽいし、ガイストの事知ってるっぽいんで言いますけど 貴方、何者ですか? 死なない悪魔なんて初めて見ました」
「古ーい悪魔だよ 歴史をこの目で見て来た悪魔、キングメイカーなんて呼ばれることもある、それに死なないのはそちらも同じじゃない?」
「うちは寿命なら死にますよ そっちは寿命すらないですよね、正確にはリセットしている」
「ふふふ」
ひたすらにめんどくさいなこの
転生は本来冥界で閻魔が行う仕事なのだ、輪廻転生が存在する以上、それは絶対的な法則であるはずなのだ
しかし彼はそれに逆らっている
俺は
「ガイストとも長い仲だから安心して、俺は味方だよ 今回はグレイブに頼まれてきたんだ」
「えっ? おとさまに?」
「うん、こういう仕事は初めてなんでしょ? ちゃんとやれるか見てほしいんだってさ 後は俺との顔合わせ」
「もうわけわかんないんで、ちょっと説明を求めます」
「許可します じゃあ、軽く説明するね」
彼が言うには、俺達ガイストとメフィストの関係はかなり古い時期からあり、それはガイストの初代の頃から続いているらしい。
魔王を作るキングメイカーと呼ばれる彼ではあるが、常にそれを行っているわけではなく、意外と自由に魔界を楽しんでいるそう
その一環でガイストの仕事を手伝うこともあるようで、毎回ガイストが切り替わる時期に手伝いに来るらしい、魔界の閻魔である俺らもある種の王とは彼の談。
今回は俺が鎮魂の議とも呼ばれている仕事の補助の為に来たらしい
父ともよく話すとかで今まで俺が彼の事を知らなかったのも敢えてそうなる様に誘導していたらしく、自分が魔界の閻魔であることを知るまでは会うことも知ることも無いようにされていたとか
それについての理由も聞いたのだが、彼なりの理由もあるらしく詳しくは教えてくれなかった
因みに説明途中でうちの家紋が記載された契約書を見せられたのでメフィストが嘘を言っているという線は無くなった
「さ、そろそろやろう 道具は持ってきているね」
「あぁ、はい 今回はこれですね」
バイオリンを見せてから構えた
メフィストも頷いて開始を促してきたので演奏を始めた
音を奏でて、鎮魂の意思を込めてただただ演奏していく
まだまだ慣れない演奏だが、していくうちに変化が起きた
「……これは」
「これはガイストにしか出来ないことだ、とっても尊く重要な役目……ってのは言わなくてもわかるね」
草花と思っていた物から次々と魂が天に昇っていく、成仏しきれなかったりこの地に縛り付けられていた悪魔たちの魂がそこにはちゃんとそんざいしたのだ
メフィストが言うには魂視ですら判断できないレベルで場所に縛り付けられる魂というのはあるらしく、彼らを導いてあげるのもガイストとしては重要な役目なんだという
魂たちが冥界へと昇っていくその様は幻想的で、どこか物悲しいものがある。
戦争で命を落とした悪魔はその最後の時をどのような想いだったのか、どうしてこの地に縛り付けられるほどの未練を持ってしまったのかは分からないが、少なくとも今回に限ってはきっと俺の音楽が彼らの未練を断ち切ることが出来たのだと信じたい。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「お疲れ様、悪くない仕事だった 教えることが少なそうで残念だよ」
「そりゃどうも、これでも人生経験だけは長いので要領よく学んでるつもりなんで」
結局の所、儀式が終わるまで彼はそばにいるだけで特に何かをしてきたりする事はなかった
俺が力を上手く使えなかったらそれの補助をするそうだったらしく、そのための術も持っていると言っていた。
どこまでも謎な悪魔だ……そもそも悪魔なのかすらも怪しいが
彼の魂は他の悪魔とも違うのに悪魔らしく、元祖返りのようでそれでもない
純粋というより原型という言葉が正しいような魂なのだ
魂でわかる範囲の寿命もおかしなことになっているし、ガイストや冥界の天さんや田中さんのような魂のような特殊性もあるような気もする
今後も長い関わりになりそうだが、いつか俺は彼を理解出来るのだろうか
「あ、そうだ ガイストなら禁忌魔術を教えてもいいよ、俺大体使えるし」
「あー……やめときます、命を大事にはうちの家系も同じなんで 死なないからって粗末には出来ないんでー……」
本当にいつか理解出来るのか心配になる
メフィストは結構くせもので本編で説明しきれる気がしていないので捕捉
今作におけるメフィスト→ガイストの関係は魔王を導くキングメイカーとしての練習台や実験台としての関係です、本来の魔王案内役というよりはWIN-WINのビジネス関係という感じで、ガイストは魔王には絶対になれないのも理由の一つです
つまりはメフィストからレイラに対しては気に入るとかそういうのは殆どないです(この時点では彼が入間とも会っていないので活動前というのもありますが)