「では、こちらの部屋でごくつろぎ下さいませ」
「ありがとうございます」
7日間滞在するための部屋に案内されたので、
鍛えてもらうとは言ってもタナカさんは基本的にはホテルマン、本職を優先してほしいと俺も言ったのもあって修行時間自体は短い
その為、自由な時間が結構出来ている。
意外と外出などに制限はなく、軟禁状態ですらない超自由なのが逆に怖い。
普通はこういう時ってホテルヘルヘイムからは出たらダメとか言われるものじゃないのだろうか、それとも俺の事を試しているのか……考えすぎか
「どうしよっかなぁ、タナカさんが言うには食後の運動ついでに闘技場って場所を借りるって聞いていたんだけど……」
なんでホテルに闘技場があるのかは謎だがちゃんと戦う場所があるのはある意味助かる。
「あぁー暇暇、魔具触りたい、なんで全部なくなったんだよぉー」
そう、俺が持っていた魔具は全て無いのだ。
スピカに頼んでイルマ達に元祖返りの写真と卵と一緒に持って行ってもらった髪飾り魔具の他にも持っていた各種魔具、それが全て無くなっている、それもあって今は【重量操作】で体重を調整してるくらいだ。
持っていた魔具はどれも大した機能は無いが、簡単な魔具いじりで暇をつぶす程度の事は出来たはずなのだ、残念である。
……待てよ?
「ひらめきぃ! 冥界なら魔界にない材料がわんさかあるんじゃないか!?」
これはテンションが上がってきた!
戦いとか守るとかそういうのよりやっぱクリエイティブな事をしている時が一番楽しいのだ、修行は修行でちゃんとやるが俺が俺らしくするにはやっぱ魔具制作しかあるまい!
善は急げと部屋を飛び出した
「いやぁ良く考えたら本当にさ、私って別に戦闘狂とかじゃないし? 敵と戦うとか最終手段なわけだし? 平和主義だしー?」
確かにウォルターパークではどうかしていたしなんか戦いがちょっと愉しかったけど別に前世含めても別に俺は格闘技とかの大会にも出てないし、とにかく機械いじりと旅行ばっかりしていた。
最近は元祖返りやらエイコの恋の応援やらと考えることが多すぎた、修行の時以外は冥界でリフレッシュしてみよう、幸いここなら俺がある程度はっちゃけてもRAINの事を知る者はいないしレイラとしての知り合いもいないはずだ。
とりあえずはまず魔具いじりの為の材料を探したいところだ、お金に関しては父からタナカさん経由で送ってもらったので潤沢にある、良い感じのものが買えるかもしれない。
「材料材料どこにある~♪ かっくれってなーいで、でっておいで~♪」
テンションも上がってきたので即興で作った歌とか歌ってみる、ガーコにでも聞かれたらキャラ崩壊ね、とか言われるのは必至だがここには当然いない!
「あ、お客様 外出ですか?」
「ほあ」
フリーズ
支配人の女の子だ、ここにはそういえばこの子もいた。
死亡(未遂)直後にテンションが上がっているやばい女と思われただろうか、実際冷静に考えると激やば女なのは事実なのだが自認と他認は違う、訂正しよう
「違うんですよ」
「何がですか?」
「あ、聞いてなかったんですね……良かった」
「面白い歌ですね、材料材料どこにある~♪」
「聞いとるやんけッ!!」
「ひえっ!!」
内なる関西人が出てしまった、何と言うかとことん天然な子だ。
魔界もキャラが濃いのが多いが、この冥界もキャラが多いのが多そうだ。
「失礼、少し見られたく無いものを見られたので動転してました」
「そ、そうですか ところで、何かご入用でしたら我々がサポートしますよ!」
ふんすっ! と気合を入れて対応してくれる。
この支配人、支配人なのにどこか新人くさい感じがある、それもまた味というやつなのだろうか
ともかくサポートを頼めるのであれば俺としても好都合だ
「ちょっと(魔具の)材料を探してまして、どこにあるかわかりますか?」
「(料理の)材料ですね! わかります!このホテルは広いので案内しますね、こちらへどうぞ!」
張り切って先導してくれる支配人さん、正直言うとエイコっぽくてかなり好きなタイプかもしれない、友達としてだが。
「支配人さん」
「はい、なんですか?」
「支配人さんの名前ってメイでしたよね、もしよろしければメイさんと呼んでもいいでしょうか? 折角7日間もここにいるから仲良くなりたいなって……」
「ーっ! もちろんですっ! 私こういうの初めてかも!嬉しいです!」
両手を上げて喜んでいる、これだけ喜んでくれるというなら俺としても嬉しいし、ちゃんと仲良くなりたいと感じる。
「はい、着きましたよ ここの人は気難しい方が多いので入らないでちょっと待ってくださいね」
「わかりました」
メイが話を付けるために入っていき、俺は部屋の前で待っていることになった。
なんだかさっきからおいしそうな匂いがする、中は食堂のようで食べ物があるのが分かる、よく考えたら冥界に来てから何も食べていない、ウォルターパークでも色々動いていたしさっきも大泣きしたせいで体力を使ったので食事をしておきたいところだ、聞いてみようかな
ふとなんとなく上を見るとそこにはこの場所の名前がでかでかと記載されていた。
「仮厨房?」
どんっ!
「あっすみません」
「おっとっと、こちらこそ邪魔でしたね すみません」
職員の人が荷物を運ぶときにちょっとぶつかったようで前によろけた、その勢いでちょっと室内に入ってしまっていたようだ。
外にいた時から気になってはいたが、中に入るともっとよくわかった、ここには大量に料理が置かれているしそのどれもが最高レベルの物だろう。
魔界に来てからは貴族として生きてきたのでこういう高級なものも理解できるようになったが、魔界で見るようなそれと比べても頭抜けていいものに見える。
流石に勝手に食べたりはしないが、後で食べれるのか聞いてみようかと──
「不法入国ーーーーー!!!!!」
「え?」
「誰の許可を得て俺様の国に足を踏み入れてやがる……」
「お客様ですベヘモットさん! 抑えてください!」
「うるせぇな!わかっとるわッ! 田中からも話を聞いてるしな」
「だったら、もう少し……」
「客だろうが何だろうが、入っていい場所と悪い場所があんだろうが、ここは大切な食材を管理する場所、飯の時間でもねぇのに客が入る場所じゃねぇよ」
正直何が何だか分からないが、勝手に入った俺が悪いのはわかった。
メイさんは前で待っていろと言われたのに事故とは入ってしまったのは事実、ちゃんと入口から離れておくべきだったと言えるだろう。
「申し訳ございません、そこまで重要とは認識できておりませんでした」
自他共に厳しいであろう人相手にはちゃんとした礼儀での謝罪だ、そこに罪の
「お、おぉ……なんか俺様も怖がらせて悪かったな……」
「ベヘモットさんが謝った……」
「俺様だって謝るわッ!」
あの金髪の人がベヘモットと呼ばれた人……?
確かベヘモットって……
「あの、ベヘモットさんでいいんですよね?」
「あぁ? そうだがそれがなんだ?」
「ベヘモットさんって悪魔ですか?」
「そうだが」
「あぁ、いえ 冥界で悪魔に会ったの初めてなので気になっただけです、私も悪魔なので」
魂視で見えていたのはきっとこの
「で、支配人から聞いたが材料が必要なんだって? 料理でも作んのかよ、俺様の国ではやめろよ?」
「……料理? 何の事です?」
「あ? ……おい」
「ひぃっ! か、勘違いしてましたぁ!? 材料が必要と聞いていたのでてっきり料理だとばっかり!」
「チッ…… ったく用がねぇならさっさと行け」
しっしっ!と手を払うように振って追い払おうとするが、俺も今世は悪魔なのである程度は欲で動こうと思う
というわけで、質問
「あの、何か食べていい物ありませんか? 考えてみたらもう一日くらい何も食べてないんですよね」
「時間じゃねぇって……はぁ、そこ座れ」
言ってみるものだ、机の前に座れと言われたので素直に座って待ってみる。
「ほら、これでも食ってろ」
出されたのはピラフのようなもので、出来たてなのが分かるようで鼻腔をくすぐる良い匂いがする。
遠慮なく一口食べてみる
「──ッ!!!」
最高に美味い、このおいしさを外に出さないようにするためにも話す事すら出来なくなるレベルだ。
「とっても美味しそうに食べますね」
「俺様が作ったんだから当然だ」
料理には圧倒的な自信があるようで、褒められていながらも照れたらなんかは一切していない、ただ、他人が食べているのを見るのは好きなのかもしれない、俺が美味しそうに食べてるのを見る目は少し優しげだ。
「ベヘモットさんって子供好きですよね」
「あ?なんだ急に」
「レイラ様もそうですけど子供のお客様がご飯を食べている時が1番楽しそうだなって思いまして……あ、別に変な意味じゃないんですよ!?」
「……まぁな」
俺は子供だが(人間的には)大人でもあるんだが、そういう意味じゃないんだろうな、きっといろんな思い出があるんだろう
「そういえば、他の皆さんはどこに行ったんですか?」
「あいつらは今は仕込みだ、俺様と違ってカタツムリみてぇにトロい奴らだからな、準備が必要なんだよ」
「なるほど」
「失礼、ベヘモットさんにお伝えしたい事が……支配人もご一緒でしたか」
「あ、田中さん」
ベヘモットに用とかで仕事中のタナカさんが厨房へと入ってきた、何か話そうかとも思ったが仕事の邪魔はしたくないし、飯が美味い
「団体のお客様の予定が変わったようでして、今から30分後に食べられるように料理を作ってもらえますか?」
30分とは中々に急な話だ、普通に考えて断るか時間を増やしてもらうかといったところか
「あ? 何人だよ」
「512名です」
「512ぃ!?」
「うおっ! 料理食ってる時に立ちあがんじゃねぇよ!」
「え、だって、えぇ……?」
約500人の食事なんていくら急いでも無理だろう、他にもスタッフがいるとはいえ流石に30分では無理がすぎる
「出来ませんか?」
「誰に言ってんだ? 俺様に作れねぇ料理はねぇよ、どんな量だってな」
「──」
なんという信頼、なんという自信
この2人、どちらも欠片も出来ないなんて思っていない。
「多分ベヘモットさんのアレが見れますね!レイラ様は結構運がいいですよ! ベヘモットさんは凄いんです!!」
メイも大興奮である、一体何が始まると言うのか
「ほらよっと」
厨房内にあった巨大な階段を軽々と剥がしてしまう、魔術を使ったとも思えないのになんという怪力だろうか
そしてもっと驚くべき事は、その階段の裏には超超巨大なフライパンのようなものがあった事だ、そのフライパンはいくつもの凹みがあり、それぞれ別の料理を作れるようだ
前に見たショッピングモールのものと比べても数倍の大きさはあるそれを手足のように操っている。
「まさしく食の悪魔……食王ってこっちでしょもう」
「食王とは? 確かにベヘモットさんは料理がすごい王様ですけど」
「私の故郷にそう呼ばれてるのがいるんですよ、あっちは食べる専門ですけどね」
そう雑談していてもいいのだが、折角の料理を残すのも良くないので食事を再開
食事が終わったあとでもまだ料理はしていたが出来上がった料理も相当な数となっていた。
そして、そのまま余裕を持って500人前の料理が完成した。
どれも美味そうで何一つとして手が抜かれていないのがわかる、まさしく神の……王の手腕と言ったところか
「ん、食べ終わってるな じゃあさっさと出ていけ、他の客が来る」
「はい、良いものを見せてもらいました まだ滞在するのでまた来ます!」
「おー」
無愛想だが、腕は確かで優しさもある。
このホテルのコックは超一流だ、後6日間の料理もとても楽しみだ。