「なんとか完成……! 似たような物作ったことあって良かった……」
6日目朝である、昨日は試合に出ることもなくひたすら道具の作製に勤しんでいた、時短に便利な【クワルツ・クワルツ】があってもなお丸一日かかった、動作確認が出来ていないことだけがネックだがそこまでして修正する時間も無い、このままやるしかないだろう。
「やる事はやったし……当たって砕けろだ! ……でもその前におやすみなさい」
徹夜はいつだってきつい、戦いの前には休眠が必要なのだ
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
夜になった、俺は今赤紙を持って闘技の間に立っている。
そして俺の対面にはそう、双剣こと宮本武蔵だ。
かつての英雄と正面から勝負する場、といえば聞こえはいいがこれから行われるのは一方的な戦いだろう
ただ、それは俺が何の準備もしてきてない場合の話だ。
「それで? そのごちゃごちゃしたのが準備の結果か?」
「はい、正直不意打ちでも勝てる気はしなかったんで色々用意して正面から行った方が勝算が高いかなって」
「何であれ……ここに立つというには斬られても文句はないな?」
「当然、ですが私は結構しぶといですよ」
「そろそろいいだろう、客も入った 相棒、合図を頼む」
振られたのは今回レフェリーを受けてくれたタナカさん、聞く話による時々他のスタッフと持ち回りでやっていることがあるらしい、最も今回に限っては天さんが頼んだらしいが
「それでは両者準備はよろしいですね?」
「はい」「ああ」
試合が始まる
「試合開始!!」
「【展開】!!」
懐からボール状のものを上に投げる、そのボールは空中で留まって周囲にワイヤーを飛ばしていく、そのワイヤーが吸着した先からまた別のワイヤーが展開されていく……瞬く間にそのワイヤーは立体的な蜘蛛の巣のように入り組んだ状態で展開された。
これの軌道は俺は把握済みなので回避は余裕だが、天さんもワイヤーを回避したり一部撃ち落とす余裕が見られたがこれくらいは想定通りだ
「これは何だ?」
「まぁ……舞台ですよ、舞台」
そう言いながら上に張ったワイヤーを掴んで引っ張る、するとワイヤーはゴムのようにしなっていく
そのゴムを持った状態で重力魔術を緩めることで高速で飛び上がる、速度自体は飛行時よりは遅いが加速度は飛行するよりは圧倒的である。
不意を取れたため上空を確保に成功した、そのまま翼を開いて空中で留まる
更に追加だ
「【反射膜】!」
ワイヤー同士をつなぐように壁が展開されていく、さながら立体的な透明の迷路のような状態となった
プチローンの時でも使った複合魔術による反射膜の再現だ、効果時間は短いがその分強度は上がっている。
この世界にも魔術と似たようなものがあるようでそれに対して魔力を保持する鉱石があって助かった。
「で、ここでコレ! 疑似
当然本物と比べると弱いが連射性を上げた片手で持てるサイズの連射式銃だ、因みに霊体化で自分を守れ俺が使うから大丈夫なだけで他人が使うと普通に暴発する危険物だったりする、その分奪われても大丈夫とも言えるのだが
取り合えずそのまま乱射する、弾は【クワルツ・クワルツ】で簡単に作ったものだが意外と上手くいって助かる、魔術はやはり便利である。
パラララララララッ!!
大量の弾は反射膜で跳弾し四方八方から飛び交っていく
ウォルターパークの射的で見せた技の応用でもあるし俺が元祖返りに敗北したときに受けた技でもある、身を持って体験したからこそわかるがこの技は一度受けると回避が不可能な上、威力も申し分ないのだ
「甘い! これくらいまとめて吹き飛ばせばいいだけだッ!!」
ドッゴオオオォ!!!
二刀を使い十字に斬る。
たったそれだけで衝撃波が発生し、ワイヤーを含んだ全てが吹き飛ばされた、これだけじゃ無理だとは思っていたが思っていたよりあっさりだ、ワイヤーを使った漫画みたいな立体起動とかしたかったのだがご破算となった
「でも制空権はまだこっちなのでッ!」
空中から球状の物を数個落としていく、当然それはタダの球なんかじゃない
「これくらい……いや、こうだ 返してやるよッ!」
足を利用して飛んできた球をはじき返してきた、直感だろうが初見で対応されるのは世話がない
球の正体は爆弾である、手りゅう弾のように安全装置を外してから衝撃によって爆発するのだが何故跳ね返せるのかわからない、インチキも大概にして欲しい
当然俺自身も爆風の影響は喰らうが無詠唱【
「ずっと思ってたが随分と変な魔法を使うな、お前俺と同じなんだろ?」
「同じ……? あぁ、"御上り"ってやつですか? 私はちょっと違いますよ、ほら羽とか角とか尻尾がありますし」
パタパタフリフリと羽と尻尾をアピールする、元はと言えば同じ人間だが今の俺は悪魔なのだ
何が気になったのかは知らないが良いチャンスだ、奇襲を仕掛けよう
「後
「まぁどちらでも良いがな……ッ!」
名付けてミニヨンボム、事前に仕掛けておいた小型の車型爆弾だ、簡単な信号で起動して真っ直ぐ限定だが進み起爆する
小さく起爆するまでは静かなので奇襲に便利……の想定で作ったものだ
命名はミニ四駆から、ミニオンではなくミニヨンなのだ
まぁ、これも背中についてる疑惑がある天さんには無意味だった、事前にバレていれば起爆させるように対処されるだけ
ただミニヨンボムに気を取られた一瞬あればいい
「隙あり!」
二つの意味で急転直下、飛行をやめつつ大鎌のブースト機能を利用する事で高速で落下する、狙いは一つ、首だけだ
この奇襲は二度目は不可能、今回限りの一発勝負だ
「ハァァァァ!!」
天さんがこちらを見る前に大鎌で斬りかかる、人間の反射神経では間に合わないほどの速度だ、今から防いでもかすり傷程度なら与えられるはずだ……?
何故すでにこちらを向いて構えている?
「それだけ殺気をたてていれば気付かないわけがないだろうがッ!」
まずい、このままでは斬られる!
回避は間に合わない、完全霊体化で回避するしか……
「うぷっ!」
ここで発作、霊体化をするほどの余裕がなくなった
スパッ!
「……あ」
気がついた時には天さんは俺の後ろにいる、飛んでいる俺に対してただ跳ぶだけで抜いたらしい、そして俺の胸には綺麗な十字傷がついていた
「うぁぁぁ……!!」
熱い、燃えるような熱さだ
銃による傷も相当な痛さだったが刀に斬られるとこうも痛いのか、傷がついた部分が痛さを超えて熱く感じている
「まだ終わりじゃないぞ!」
跳んだ先の壁を蹴ってまたこちらへと跳んでくる、とどめの一撃という事なのだろうか
「フッ!!」
再度一撃を受ける、咄嗟に【
「がぁっ……!!」
その一撃を受けて飛行を維持できるわけもなく、墜落した
「……ここまでだな、相棒もう良いだろう これ以上子供を痛めつける趣味はない」
「いえ、まだですよ天くん 彼女はまだ諦めていませんので」
視界が霞む……だがまだ手札は残っている
倒れるのは全て終わってからだ
それに、これくらいの課題が対処できなければ元祖返りへの対策なんて出来るわけがないんだから……
「何故まだ立つ、別に倒れたところで何も問題はないだろう」
「そうですね……でも
冥界で唯一作った魔具を起動
「安心?」
目標を設定、使用魔力は自分から100%
「安心できる毎日を、みんなと笑える日常を維持したいだけ……これはその為の一歩目だから!」
オールコンプリート、発射準備完了
「【リ・ベーラ】【フルブースト】!!」
魔術を強化するだけの単純な効果の魔具、魔界の素材もないので魔力は自前のものを無理矢理引き出して使う俺流【パンドルーラ】だ
投げた玉は真っ直ぐと力強い一本の光線のように宮本武蔵へと向かう
「これくらい弾き返して………何ッ!?」
「俺の全魔力だ……簡単に弾き返せるもんかよ!」
他の道具ならまだしも俺という元祖返りの全魔力を使用した一撃だ、流石の宮本武蔵でも防ぐので精一杯だろう
「ぐっ………ウオオオオァァァァァ!!!!!!」
ギィンッ!!!
それでも流石は宮本武蔵、跳ね返すのは出来ずともその軌道を変えて上空へと弾き飛ばす事はできたようだ
「ハァッ………!! 今のは良かったが……?」
俺は指を上へ向けただけだ、それだけで歴戦の戦士の彼なら俺の意図がわかるはず
打ち上げた玉はまだ生きている……さぁカウントダウンだ
3
2
1
ドパァン!!
「「「………」」」
室内とはいえ広い闘技の間に咲く一輪の花、花火である
メイさんに聞いた話だが宮本武蔵は芸術にも造詣が深いと聞く、江戸時代には既にあった花火であるが、近代の技術を用いて研鑽された花火を見るのは初めてだろう
周囲の視線はたった一つの花火に注がれていた、それは宮本武蔵も例外ではない
「隙あり」
その隙をついて俺は武蔵の懐へと潜り込んだ、そのまま大鎌で一閃。
「くそっ、だが手負いの一撃程度では……フェイントだと!?」
そう、その一閃はただのフェイント
大鎌でするにはあまりに傲慢な技だが、仕込んだブースターがそれを可能にする
防ぐように出された刀を避けて本命を放つ
超至近距離での二段構えの神速の一撃
「擬似……燕返しィ!!」
ギィィィンッ!!!
正真正銘最後の一撃、魔力も体力もすっからかんだ
出し切った俺の今の全力だった……しかし
「届かなかった……!」
武蔵の刀は二本ある、一本避けてももう一つの刀で防がれてしまったのだ
会心の一撃だった自負はある、その上で彼には届かなかったのだ
完敗だ
「もう動けないだろう、終わりだな 相棒、良いな?」
「えぇ……ではレフェリーとして勝者を宣言いたしましょう」
「勝者…………ガイスト・レイラ様!!」
「「……は?」」
今、なんと聞こえた?
俺は負けたはず……意識が朦朧としてききまちがえたのだろうか
「おい相棒、俺の聞き間違えか? こいつが勝ちって聞こえたんだが……」
「聞き間違えじゃありませんよ天くん、勝者はレイラ様です」
「そんなはずはないだろう!」
「天くん」
タナカさんがトントンと頬を叩いている
天さんが同じように頬を触るとそこには、一つの切り傷が付いていた
たった一つの、それも怪我とも言えないような切り傷……しかしそれは俺が与えた奇跡にも等しい一つの勲章と言えるものであったのだ
「そうか……」
ふっ……と俺を見て優しく笑う天さん、彼に認められたようで嬉しくなってくる
「それではよろしいですね、改めまして勝者……ガイスト・レイラ様!!」
ウオオオォォォォォォ!!!
あぁ、良かった
俺はちゃんとやれたのか……やれるのか
安心した
意識が薄れて音が遠くなっていくが、今度は怖くない
ホテルヘルヘイム編は後2話の予定です