悪魔で霊な元人間   作:P223

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67 ホテルヘルヘイム・チェックアウト

 

「お話は全て聞けましたか?」

 

「はい、タナカさんの事以外ですが」

 

「私の事はこの後で、では一度戻りましょうか」

 

閻魔殿から出るとずっとそこにいたのかタナカさんが入った時と同じ場所で待っていた。

多分待っている間も何かの仕事をしていたんだろうが流石はプロだというべきか、超人というべきか……超人の方だろう

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

ホテルヘルヘイムへと戻ってきた、最初にこのエントランスで目覚めた時はパニックを起こして色々と世話をかけたのを思い出す

 

たった1週間だったが色々と世界が広がった1週間だった、その始まりだけは二度と体験したいものではないが結果だけ見ると良かったのだろう

 

今後魔界で色んなことが起きそうだが、それを乗り越えて日常を続けられるための力のきっかけ程度なら手に入れたと思うし、ちゃんと形に出来れば大丈夫だろう

 

「レイラさん!」

 

「メイさん! 仕事は大丈夫なんですか?」

 

「これからレイラさんがお帰りになるって田中さんから聞いたんでちょっとだけ仕事を任せてお見送りに来ました! ほら、他にもいますよ」

 

「なんで連れてこられてかと思えばお前か 帰るのか?」

 

「ベヘモットさん、七日間おいしいご飯をありがとうございました!」

 

「あぁ、また来た時は好きなだけ美味いものを食わせてやるよ お前の好きな食べ物の傾向も分かったしな」

 

「その時はお願いします!」

 

それだけ言うとベヘモットさんは戻っていった、料理人なので仕込みなど忙しいのだろうし無理に引き留めることも無いか

 

「聞いたぞ、もう行くんだってな もう少し時間があれば色々教えてやれたんだが……」

 

「えっ、天さん珍しいですね! 何かを教えるとかあまりしないタイプだと思っていました!」

 

「否定はしない、だが少しこいつは気になるんでな……昨日最後に使った技なんかは特に気になるフレーズだった」

 

あれは正直勢いで言ったのでそっとしておいてほしい。

最も佐々木小次郎の技を言ったおかげで一撃入れられたというのであれば言ってよかったと言えるのだが

 

彼とは3日程度とはいえかなり貴重な体験だった、もっと時間があれば色んな事を試せたのだがそこは日常を優先するため予定通りにしている。

 

何にせよ彼には感謝である

 

「支配人ここにいたのか 何してんだ?」

 

「あ、副支配人 お客様の見送りです」

 

「へぇー お嬢さんがそうか」

 

「はい、そういえばこの1週間会いませんでしたね」

 

「1週間もいたのか、まぁ俺も仕事があるからなぁ そういうこともあるだろ」

 

帰る直前に出会った彼がホテルの副支配人らしい、口の側の手術後のようなのが目立ちはするが女性人気の高そうなイケメンだ

気だるげそうな雰囲気を感じるが、仕事自体はちゃんとやるタイプだろうか

 

「じゃあ俺もお見送りしようかね、仕事を合法的にさぼれるし」

 

「仕事してください! 副支配人はやる時はやるってわかってますけども!」

 

「ちょっとだけだしいいだろ? 見送りだって仕事だし」

 

「ははは……」

 

こうしてみているとこのホテルだけでも俺の知らない関係がもっと大量にあるんだろうなと感じる。

 

「そろそろお帰りの時間です、お荷物等は大丈夫でしょうか」

 

話しているとタナカさんがそう声をかけてくれた、チェックアウトの時間だ

促されるように書類にサインをし、部屋の鍵を返す。

支払いは既に父が行っているので今回はなし、もしまた来ることがあったら今度は俺の金で泊まろうと思う。

 

全て作業もつつがなく終わり、入口に立っている

初めはこのホテル内に突然現れたそうなのでここを通っていないが、この門を通ればこのホテルともお別れだ

 

濃密で実りのある楽しい日々だったが、その分名残惜しい

振り返ると話したことのあるスタッフの多くが揃って見送りに来てくれている

 

「一週間楽しかったです、ありがとうございました!」

 

「こちらこそ楽しかったです!ありがとうございました!」

 

メイさんとお互いに深い礼をして感謝を交換する。

タナカさんはそんなメイさんを見つつも姿勢正しく、こちらを見ている、この後魔界に帰るまでの案内もしてくれるそうなのでもう少しだけ一緒だ

 

ホテルの外へと足を踏み出す、少し見慣れた冥界の中央の景色が広がっていく

そんな時、大きな声が聞こえてきた

 

 

「「「またのお越しをお待ちしております!!」」」

 

 

最初に冥界に迷い込んできた場所がここでよかった

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「ここが冥界のガイストの屋敷? てっきりおとさまと会話するための道具がある場所だと思ってたんですけど」

 

「中央にある屋敷は目立ちますので、秘匿された施設故目立たないこの場所が選ばれたそうです」

 

ホテルから離れた俺たちは別の倉庫に行き、パス門で冥界中央からかなり離れた場所に移動していた

座標は聞いてあるので、後程貰った地図と照合してガイド用の魔具は作れるとは言えど普通だと近づきすらしないような僻地である

現に人どころか生物すら見えないし感じない

 

「では中へ」

 

「はい」

 

中に入ると、我が家の屋敷と同じデザインであり中の構造も同じだとすぐに分かった。

 

「こちらです」

 

「そっちは地下室ですよ? 今は私が魔具工房として使ってますけど……ってここは冥界だから違うのか」

 

「そういう事です」

 

そのまま付いて行くと一つの扉があった、だがその扉はドアノブが付いておらず開くようなものではない

 

「私ともここでお別れとなります、その前に私の事で気になることがあればお答えしましょうか 丁度ここは誰もいませんので」

 

タナカさんは振り返ってそういった、タナカさんの正体をついに聞くことが出来るのだろう

遠慮はしない、思い切って聞く事にした

 

「タナカさんは一体何者なんですか? ただの人間としてはおかしいくらいに色んなことを知ってますし、魂視(スピリット・レイ)で見ずらいし、見てもなんか普通とは違う感じがするんです、それになんか親近感がありますし」

 

「簡単な話ですよ、私はホテルマンです 誰かの役に立ちたいからこそ自己研鑽を常に行っています、その過程で他人が知りたいことは事前に知っておかなければなりませんし、出来ることはなるべく増やしておく必要があります。」

「人間界にいた頃も色々と技術を習得して様々なホテルに貢献してきたつもりですが、冥界に来てからは更に時間が増えましたので色んな事を覚えました ただ、それだけの事なのです」

 

「では、その魂がおかしいのとかガイストの秘密を知っていたのとかはなんでなんですか?」

 

「これは閻魔大王にもお伝えしてほしくない事なのですが……わけあって私は前閻魔大王から力……魂の大半を受け継いだのです、その流れからガイストの方、グレイブ様と交流する機会が得られました。」

「交流していくうちにグレイブ様と私は様々な協力関係を結ぶことになり、お互いの秘密を共有することになったのです それでガイストの秘密を知っていたのです、親近感は私の中の閻魔の魂でしょうね」

 

お互いに閻魔の魂があるが故の親近感という事か、父の中には前閻魔の魂がある事からタナカさんと父の類似性を本能的に察知したという事なんだろう。

タナカさんがどういう経緯で閻魔の魂を得たのかはわからないが知りたいこととしては十分だ、すっきりした

 

「ありがとうございます、十分です」

 

「結構です、ではそろそろ私ともお別れです この扉の先に行けば魔界への門があるそうですので、そちらから帰還できるとの話です」

 

「あるそう? 知らないんですか?」

 

「はい、この先はガイストのみの居場所 私もこの先に行く事は許されていませんし方法がありませんので、また家宝の話ですが、そちらもこの扉の先にあるそうです」

 

家宝とかそういう話もあったな、色々あって忘れていたがこの先にあるというのなら権利とかなくても貰えたんじゃないか、父も発破をかけたかったのかもしれないが変な事をするものだ

しかし開かない扉、その先にはガイストしか行けない……となると、この扉の先に行く方法は簡単に分かった

 

「ここからは霊体化して行くんですね」

 

「はい、ですので ここからはお一人で」

 

「わかりました」

 

この奥は魔界へとつながる、やっと帰れるんだという実感がわいて来た

 

「お世話になりました、田中さん」

 

「……ええ、私としても貴重な体験でした またお会いしましょう」

 

「はい、それでは」

 

そうして霊体化し扉をすり抜ける、その先は魔力で構成されており霊体化中でも中が良く分かった、中に入るまではわからなかったのには特殊な魔術でも使用されているのかもしれない

霊体化を解除して中を確認する。

目の前には一つのゲートがある、その上には魔界文字で魔界と書かれており、ダイヤルとボタンが付いている。

ダイヤルを回してみるとそこには……日本語で"人間界"と書いていた

 

「帰れるんだ……人間界」

 

ボタンを押すとゲートが繋がったようで、ゲートの先はどこかの倉庫の中だという事が分かった。

チュンチュンと鳥の声と風の音が微かに聞こえるが車や人の喧噪(けんそう)が聞こえないので山奥か何かなんだろう

手を出してみると力が抜ける感じがする、魔力が無くなっていくようなそんな感覚だ

 

このゲートの使用条件がわからないし、人間界には観光に行きたいだけなので一旦今は無理と判断し、ゲートを抜けるのはやめておく、そもそも今は魔界に行きたいし

ボタンをもう一度押すと、繋がりが切れたようにゲートの先は地下室の壁に戻った

 

ダイヤルを戻して魔界に合わせて再度押すと見知った俺の工房が目に入る、たった一週間とはいえ懐かしさで少し涙が出て来た。

それはそれとして、まだもう一つ確認しないといけないものがある、家宝の事だ

 

地下室に入った時に目立つゲートの他、大きな箱が置かれていた

その箱は俺でも初めて見るレベルの大きさの巨大な悪鬼金庫(デモンズバンク)だった

 

悪鬼金庫(デモンズバンク)とは魔界でも最高クラスの強度を持つ金庫である、小物を入れる程度の大きさの物を買うのにも目を見張るような金額が飛ぶ超超超高級品である。

その悪鬼金庫(デモンズバンク)の特大サイズ版である、そりゃもういくらかかったのか考えるだけでも頭がおかしくなりそうだ、そんなものの中にある物なら家宝と言われても違和感はない

 

金庫は通常暗証番号で開くはずなのだが、この金庫にはそれが付いていない

どう開けばいいのかと触ってみようとしたときに、ひとりでにその金庫の扉が開いた

 

魔力認証か生体認証か、はたまた別の物かはわからないがそういう認証方法だったらしい

 

中を確認すると一つのかなり大きなインゴットが入っていた、傍には紙が二つあるので内容を確認する

 

『この金庫自体が我がガイストの家宝である。 中には開いたガイストの者にあった物が現れ、その使い方は二枚目の紙に記載されている』

 

たったそれだけである、俺に合っているのがこのインゴットなのだろうか、もう一枚を確認した

 

魂鋼(たまはがね)……この金属は実体が曖昧であり時折その存在が消えるといわれている、ガイストの【幽霊(スピリット)】にてその実態を制御することが出来る、またこの金属の特性として他者の魂に干渉する力を持つと言われている』

 

「……なにこれ怖い」

 

つまりはこれで武器を作ろうものなら魂を切り裂いて即死させることが出来るという事だろうか、普通の銃や剣なんかよりよっぽど危ない危険物じゃないか

そりゃ多少は攻撃できるようにはなったけども、そこまで殺意もりもりな事はする気が無い

 

「でもまぁ、持って行こうかな」

 

何であれこれはタダの素材だ、馬鹿とはさみは使いようとも言うし、一見オーバーパワーで使いづらそうなものでも色々試せば使える可能性はある

試しに【クワルツ・クワルツ】をかけてみたら変形したので加工も申し分なさそうだ、試せることが多いってのは確かに俺好みと言えるかもしれない

 

少し大きいが、目の前は俺の工房なので運ぶくらいならすぐに出来そうだ、両手で抱えるようにして持ち上げると思った以上に軽く驚いた、俺達ガイストと同じようにこの金属も重さが殆ど無いようだった

 

「よし、これで全部だ」

 

振り返ってももう壁しか見えないが冥界から帰る時だ、感傷に浸っているのも良いがここは思い切って帰宅と行こう

 

「バイバイ冥界!」

 

そう言ってゲートをくぐる、それと同時にゲートはパツンッと音を立てて効果を失った。

場所はいつもの工房だが、そこにゲートは残っていた、ここからまた冥界に行けるのかもしれない、だが今はそれよりも皆に会いたかった

 

ガチャ……

 

「そろそろ帰ってくると思っていたが、丁度だったか お帰りレイラ」

 

「おとさまッ!!」

 

地下室に入ってきた父を確認した俺はインゴットを投げ捨てて思わず抱き着いた、父も優しく抱き留めてくれて頭を撫でてくれる

 

「辛かったか? 私はお前に嫌われたくはないんだ」

 

「大丈夫……! 必要だったってわかってるし自分で選んだんだから!」

 

「そうか、それは良かった」

 

しばらく二人で抱きしめ合った後、落ち着いたのを見て父は話し始めた

 

「家宝は受け取ったな、あれは悪魔(ひと)によって変わるがお前の場合は……あれか」

 

「うん、なんかやばいものっぽい」

 

「俺にはわからんが、お前ならうまく使うんだろう だが驕るんじゃないぞ」

 

「わかってるよ」

 

「よし……なら上へ戻ろう、テレサが待っている」

 

「おかさまが? うん、行こう!」

 

二人で地上へと戻っていく、リビングの方にいくと目的の悪魔(ひと)はすぐに見つかった

 

「レイラちゃん、お帰りなさい」

 

「うん、ただいま」

 

父にそうやったのと同じように母にも抱き着く、二人の愛は俺の中にしっかりと感じられた。

俺が元祖返りとして生きていないのもきっと二人のこの愛のおかげだったんだろうと今ならわかる、それだけに一度死んだ親不孝が申し訳なく感じる

俺がいつの間にか泣いていたことをきっと母も気が付いたのだろう、頭を撫でる手がより優しくなった気がする

 

「私ね、レイラちゃんがこの一週間どこに行っていたのかは聞くつもりは無いの」

 

「おかさま?」

 

「きっと嫌な事があったのかもしれないし辛い思いをしたのかもしれない、あの人だって似たような事がいくらでもあったんだからわかります」

 

「うん……」

 

「言えないのよね、そういう秘密を持つガイストに嫁入りした時に嫌なほどそれを理解させられたもの でもね?私は貴女のお母さんだから、いつでも貴女の味方だってことは忘れないでね いくらでも甘えていいんだからね、あなたの心くらいは私に守らせて頂戴」

 

「うん……うん……!」

 

そのまま大泣きして泣き続けた、その間母は何も言わずただただ抱きしめて頭を撫で続けてくれていた

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

色々と落ち着いて俺も泣き止んだ頃、父が物を持ってきてくれた

内容は俺のス魔ホや各種普段使いする用の小型魔具たちだ、髪飾りは無いがそれは先生たちに渡したせいだろう、工房で簡易版の重力制御と認識阻害魔具でも作っておこう

 

──RRR! RRR! RRR! PPPPPPPPPPPP!!!!!!!

 

電源を入れた途端、ス魔ホがえぐいくらい鳴っている、なんかもう怖い

確認してみると内容はどれも友達からのものだった、エイコ達にはモデビルの仕事で一週間ほど通信が出来ないとかそういう話が言ってたそうで言及はあるが髪飾りがイルマの元にいっていたようで、その辺からなんかおかしくないかとかそういう感じの連絡が大量だ

 

今からそれに対してガイストの秘密なんかを隠しながら返信する事を考えると面倒で仕方ないが、それもそれで必要な事だし魔界に帰ってきた証として対処していくしかないか

……まぁ、これも日常ってことで

 




【スキ魔・小話】
ホテル・ヘルヘイム編もとい冥界編終了です、完全にオリジナル展開でしたので少し小話を、必要なければ飛ばしても本編には影響はありません。

実はこの話を挟まないとレイラが不殺を通して収穫祭で0Pになっちゃいます、レイラの魂視には動物だけでなく植物の魂もみえるのでどちらを収穫してもレイラにとっては殺害行為になりますので
現代人の倫理観を持っている状態で殺害行為は普通に無理だと思ったのでこうなりました

色々設定は出てきましたが実際にはレイラが戦闘行為が出来るようになるのが目的の回なので閻魔とか元祖返りとかはおまけです
まだまだ未熟者なので強さも今までよりちょっぴり強化された+必要に駆られれば攻撃出来るようになっただけです
無双とか無理無理、他人を頼りましょう

にしても最初に考えていた着地点からかなりズレたのでSSとは難しいですね、これからも頑張って書いていきますのでよろしくお願いします
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