「プライベートポイントは毎月1日に自動的に振り込まれる事になっている。お前たち全員、平等に10万ポイントが既に支給されているはずだ」
引っかかったのは、担任の茶柱先生のこの言葉だった。
1ポイントにつき1円、つまり10万円が毎月支給されるという事実に色めき立つクラスメイトを横目に、
いくら政府肝入りの国立の名門校とはいえ、ここまで優遇されることがあるだろうか。
それに、茶柱先生の言い回しにも何か含みを感じる。具体的に何が、と聞かれると返答に困るのだが。
…少し考えれば分かりそうな気がするが、ここは俺が使える特殊能力、
俺は生まれつき、時間に関する他人には使えない能力を使う事ができた。
能力の種類はいくつかあるが、今回使うのは、未来予知。この能力は読んで字の如く、未来を予知できるものだ。
しかしこの能力も完璧ではない。自分が干渉することにより変化してしまう未来の予知は、分岐ごとに複数の未来を予知しなければならないため、難しいのだ。分岐の数が多ければ多いほど、分岐によって枝分かれした未来が大きく乖離してしまうほど、予知は難しく、時間がかかる。
だが、今回のケースではそれなりに簡単に予知できるだろう。
今回は5月1日を予知する事にした。茶柱先生の言う通りならば、次にポイントが振り込まれるのは5月1日だからだ。
時間は…取り敢えず朝のホームルームで良いだろう。この違和感が正しければ、おそらくその時間に茶柱先生から真実の説明がある筈だ。
魔法を使い、必要な情報を手繰り寄せるために、意識を集中させる。
『この学校では、クラスの成績がプライベートポイントに反映される。』
『これは各クラスの成績だ。クラスポイントとも言う。入学時のクラスの順位は暫定的なものだったが、ここから成績順にA、B、C、Dとクラスが変動する』
『この学校に将来の望みを叶えて貰いたければ、Aクラスとして卒業しなければならない』
他にも説明はあったが、重要な話はこのあたりだろう。分岐も少なく、予知も簡単だった。
…どうやら想像していたよりもとんでもない学校に入学してしまったようだ。
Aクラスとして卒業しなければ望んだ進学・就職を叶えられないなど、欲しかった情報以上の厄介な情報も得てしまったが、結局来月には知る事だ。現実を受け止めよう。
予知では特に茶柱先生の説明もなかったが、各クラスがAクラスを目指すという事は、クラスポイントを巡った特殊な試験をクラス対抗で行う可能性も高い。まさか授業態度や学業の成績等、一般的な評価基準だけで競うなんてことはないだろう。
適度に学校生活を満喫して望んだ進学先に進めれば良いと思っていたんだが、そう簡単にはいかないらしい。
…と、考えている内に茶柱先生の説明は終わり、今はクラスメイトの平田洋介の発案で、自己紹介を行なっているようだ。丁度俺の順番が回ってきたようなので、立ち上がり、自己紹介を始める。
「神城紫苑。入学式まで少し時間があるようなので、自己紹介が終わった後、少し話したいことがある。みんなよろしく」
自己紹介は名前くらいしかしていないがこれで良いだろう。クラスメイトに予知したことを共有する必要がある。
「よろしくね神城君。それで話したいことなんだけど、今話してくれる訳にはいかないのかな?」
「長くなるし、少々厄介な話になる。自己紹介が終わった後の方が良いと思う」
「分かったよ。じゃあ次の人、お願いできるかな」
クラスが少し騒がしくなったが、特に問題なく自己紹介が続いた。
「えー…えっと、綾小路清隆です。その、えー…得意なことは特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします」
…訂正しよう。隣の綾小路が盛大に自己紹介を失敗していた。申し訳ない事をしたかもしれない。
それからも平田の主導で自己紹介は続いた。その間に俺は未来予知により得た情報を不自然にならないようにクラスメイトにどう伝えるかを考えていた。そして自己紹介の方はというと、綾小路の後は特に問題もなく進み、俺の考えが固まった頃、ようやく最後の女子生徒の番になった。
「鬼龍院楓花だ。どうやら私が最後のようだな。ならば神城、先程言っていた話したいこととやらを聞かせてくれないか?」
最後の生徒である鬼龍院が自分の自己紹介を最低限に、俺に問いかけた。自分の自己紹介を早々に切り上げてでも話を聞きたいとは、少々変わり者なのかもしれない。…あまり人のことは言えないか。
「分かった。今から大事な話をするから、みんな真剣に聞いて欲しい」
俺の言葉に、平田を筆頭に何人かのクラスメイトが頷いた。他のクラスメイトも俺の言葉に耳を傾けようとしているのを感じる。真面目な生徒が多い。好都合だ。
「まず、先程の茶柱先生の話で思い出して欲しい事がある。先生は毎月1日にプライベートポイントが自動で振り込まれると言った。しかし、果たして毎月振り込まれるのは10万ポイントで固定なのだろうか」
「どういうことだ?先生は毎月10万ポイントが振り込まれるって言ってた気がするんだが」
今発言したのは、たしか橋本正義だったか。こういう時に聞き役がいるのは助かる。
「いや、先生は毎月1日にポイントが振り込まれることと、今回は10万ポイントが振り込まれた事実を分けて話していた。つまり、毎月振り込まれるプライベートポイントは変動する可能性があると、考えることもできる」
「…そう言われれば確かにそう言っていたような気がするな。だけど、なんでこんな分かりにくい言い回しをしたんだ?」
「…ここからはかなり推測の部分が色濃くなるが、ここは高度育成高等学校、進学率・就職率100%の国立の名門校だ。この学校では、こういう些細な違和感に気づき、思考する能力を養う事が求められているのではないだろうか。その上で、少し発想は飛躍するかもしれないが、俺は進学率・就職率100%というのが、全ての生徒に与えられる特権ではないと考えている。全ての生徒に特権が確約されてしまえば、高校3年間、努力を怠る者が現れる事は想像に難くない。加えて、俺はポイントの変動と特権を得られる権利が与えられるのは、クラス単位だと考えている」
「理由はなんだ?」
「この学校では、3年間クラス替えがない。クラス替えがないという事は、クラス単位で3年間共有する何かがあるんじゃないかと思った訳だ」
「なるほどな。それが変動するポイントの共有であり、卒業時にポイントが高いクラスに、クラス単位での特権の付与がされるという訳か」
「察しが良いな。加えて言うなら、変動するクラス単位のポイント、プライベートポイントと差別化するために、仮にクラスポイントとしようか。俺はこのクラスポイントが一番高いクラスのみに特権が与えられると考えている。だからこれからクラスポイントの変動等についてクラスで話し合いたいと思っているんだが、この話は他のクラスの生徒には他言無用で願いたい。あくまでも推測の域を出ないんだが、どうか俺の話を信じて欲しい。という訳で、早速話し合いを始めたいんだが、大丈夫か?」
今まで静かに話を聞いていたクラスメイトが、少しずつ騒ぎ始める。無理もない。俺の推測がもし本当に正しければ、学校は自分達を騙していた事になる。残念ながら事実だが。
クラスポイントに関しては正式名称だが、仮としてそのまま使う事にした。少し不自然だが、偶然の一致で片付けられるだろう。丁度良い言葉が思いつかなかったんだから仕方ない。
「みんな、少し落ち着いて欲しい。神城君の考えが正しいとして、やっぱり話し合いは行うべきだと思う。だけど、もうすぐ入学式が始まる。だから、入学式が終わったら、一旦どこかに集まって話し合いをしたいと思うんだけど、みんなどうかな?」
平田がクラス全員に聞こえるように発言する。気づいていなかったが、もうそんな時間か。俺も少なからず動揺していたらしい。入学初日での自己紹介の発案もそうだが、平田は有能だな。クラスをまとめる際に重要な役割を担ってくれるだろう。
という訳で、話し合いは一旦保留になり、俺達は入学式に参加するため、体育館に向かった。