さて、即行で終わらせようとは言うものの、まずは真嶋先生の説明を聞かなければならない。真嶋先生の話に一応耳を傾ける。
「今回の特別試験では、一年全員を干支になぞらえた12のグループに分け、そのグループ内での試験を行う。試験の目的はシンキング能力を問うものとなっている。社会人に求められる基礎力には大きく分けて3つの種類がある。アクション、シンキング、チームワーク。それらが備わった者が初めて優秀な大人になる資格を得るのだ。先の無人島での試験は、チームワークに比重が置かれた試験内容だった。しかし、今回はシンキング。考え抜く力が必須な試験となる。考え抜く力とは即ち、現状を分析し、課題を明らかにする力。問題の解決に向けたプロセスを明らかにし、準備する力。創造力を発揮し、新しい価値を生み出す力。そう言ったものが必要になってくる。そこで今回の試験では、12のグループに分かれ、シンキング能力を問う試験を行う事となった訳だ。ここまでで何か質問はあるか?」
かなり長い説明だったが、要約すると、12のグループに分かれて試験が行われ、この試験では社会人に求められる三つの要素の一つであるシンキング能力が問われる、といったところだろうか。
他の3人も説明を理解したのか、頭の中で整理するように真剣な表情を浮かべている。
「…質問はないようだな。では、説明を続ける。まず当然のことだが、ここにいる4人は同じグループとなる。そして今この時間、別の部屋でも同じように君たちと同じグループになるメンバーに対して同時に説明が行われている。君たちの配属されるグループは『竜』。ここにそのメンバーのリストがある。これは退室時に返却させるので必要性を感じるのであればこの場で覚えておくように」
渡されたハガキサイズの紙には、グループ名と、AからDクラスまで、合計14名の名前が記載されていた。
Aクラス 神城紫苑 真田康生 平田洋介 堀北鈴音
Bクラス 伊吹澪 鬼頭隼 坂柳有栖 椎名ひより
Cクラス 一之瀬帆波 葛城康平 高円寺六助
Dクラス 櫛田桔梗 森下藍 龍園翔
改めて見ると豪華なメンバーだ。作為的なものを感じる。実際、何かしらの意図を持ってこの竜グループは作られたのだろう。
「真嶋先生、このプリントの撮影は可能ですか?」
堀北が真嶋先生に尋ねる。
「撮影は認められていない。繰り返しになるが、必要であればこの場で覚えるように」
「分かりました」
真嶋先生に撮影許可を貰えなかったため、堀北はすぐにこのグループのメンバーを暗記することにしたようだ。プリントを食い入るように見ている。それは平田と真田も同様だった。
「…説明を続けるぞ。今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を一旦無視しろ。そうする事が試験をクリアするための近道であるといっておく」
堀北と平田と真田がプリントから視線を外したのを確認し、真嶋先生は説明を続ける。
「今から君達はAクラスとしてではなく、竜グループとして行動することになる。そして試験の合否の結果はグループ毎に設定されている。特別試験の各グループにおける結果は4通りしか存在しない。例外は存在せず、必ず4つのどれかの結果になるように作られている。分かりやすく理解してもらうために結果を記したプリントも用意してある。ただし、このプリントに関しても、持ち出しや撮影などは禁止されている。この場でしっかりと確認しておくように」
4人分渡されたプリントに書かれてある基本ルールは、重要な箇所をまとめると以下の通りだ。
・試験開始当日午前8時に一斉メールを送る。『優待者』に選ばれた者には同時にその事実を伝える。
・試験の日程は明日の午前8時から4日後の午後9時まで(1日の完全自由日を挟む)。
・1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。
・話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。
・試験の解答は試験終了後、午後9時30分から午後10時までの間のみ優待者が誰であったかの答えを受け付ける。なお、解答は1人1回までとする。
・解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。
・『優待者』にはメールにて答えを送る権利がない。
・自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。
・試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える。
そして『試験結果』。これは4通りある。
・結果1 グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、優待者を除くグループ全員に50万プライベートポイント、優待者には100万プライベートポイントを支給する。
・結果2 優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、1人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万プライベートポイントを支給する。
そして、結果3と4については、追加でこのように書かれていた。
以下の2つの結果に関してのみ、試験中24時間いつでも解答を受け付けるものとする。また試験終了後30分間も同じく解答を受け付けるが、どちらの時間帯でも間違えばペナルティが発生する。
・結果3 優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合。答えた生徒の所属クラスはクラスポイントを50ポイント得ると同時に、正解者に50万プライベートポイントを支給する。また優待者を見抜かれたクラスは、逆にマイナス50クラスポイントのペナルティを受ける。及びこの時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが正解した場合、答えを無効とし試験は続行となる。
・結果4 優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合。答えを間違えた生徒が所属するクラスはクラスポイントを50ポイント失うペナルティを受け、優待者には50万プライベートポイントを支給すると同時に優待者の所属クラスはクラスポイントを50ポイント得る。答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが不正解した場合、答えを無効として受け付けない。
確認したが、全部予知通りである。
他の3人もプリントに記載されたルールを読み終わったようで、それを見て、真嶋先生が説明を続ける。
「今回学校側は匿名性についても考慮している。試験終了時には各グループの結果とクラス単位でのポイント増減のみ発表する。つまり優待者や解答者の名前は公表しない。また、望めばポイントを振り込んだ仮IDを一時的に発行する事や分割して受け取ることも可能だ。本人さえ黙っていれば、試験後に発覚する恐れはない。もちろん隠す必要がなければ堂々とポイントを受け取っても構わん」
実に親切な設計だ。今回はあまり意味を成さないが。
「それから、君たちは明日から、午後1時、午後8時に指示された部屋に向かえ。当日は部屋の前にそれぞれグループ名の書かれたプレートがかけられている。初顔合わせの際には室内で必ず自己紹介を行うように。室内に入ってから試験時間内の退室は基本的に認められていない。トイレ等は済ませていくように。万が一我慢できなかったり体調不良の場合にはすぐに担任に連絡し申し出るようにしろ。それからグループ内の優待者は学校側が公平性を期し、厳正に調整している。優待者に選ばれた、もしくは選ばれなかったに拘らず変更の要望などは一切受け付けない。また、学校から送られてくるメールのコピー、削除、転送、改変などの行為は一切禁止とする。この点をしっかりと認識しておくように。以上、今回の試験の説明は終了とする」
その言葉を最後に特別試験の説明は終わり、俺達は退室を命じられた。
部屋を出た際には誰もいなかったため、他クラスの生徒、主に龍園に会わないために急いで自室に戻った。あいつと話をするのは正直面倒だ。避けられるならば避ける。
さて、ルール説明は終わった。他のグループの説明も終わっていることだし、やることを済ませるか。
俺は、まず楓花と千秋、堀北、平田、真田、神崎にメッセージを送った。この6人を選んだのは、頭脳面でクラスに貢献しているメンバーだからだ。
内容は以下の通りだ。
『優待者には法則がある。探してみろ』
「神城、これはどういうことだ?」
「文字通りの意味だ。俺は法則から全優待者を導き出した。神崎、真田、ついでに清隆も、優待者には法則があるから探してみろ」
同室の神崎が疑問を投げかけてきたので、同じく同室の真田と、頭脳面でも実力を隠している疑惑が浮上した清隆に優待者の法則を探るよう促す。真嶋先生がいうところのシンキング能力を養うのが狙いだ。
「…その法則はどのくらいの確度だ?場合によっては即座に試験を終わらせる事ができる」
「俺の中では90%だな。まず、優待者は厳正に調整しているという情報から、優待者は各クラス3人で、同時に何らかの法則性がある事が推察される。それを前提に法則を探すと、都合の良いものが見つかった。ヒントは干支の順番と、AクラスからDクラスの関係性を一旦無視しろという先生の言葉だ」
ヒントに関しても、真田と神崎以外の4人に続けてメッセージを送る。
「…分かった。少し考えてみる」
「ああ、そうしてくれ。お前達も俺と同じ結論に辿り着けば、よりその確度も上がるだろう。明日の8時、Aクラスの優待者が俺の予想通りなら、一斉に他クラスの優待者を解答するつもりだ。是非答えに辿り着いて欲しい」
「それは…少々リスクが高いんじゃないか?」
「そうだな。だが、俺達のクラスは独走状態にある。ここで一度負けても問題ないだろう。神崎が懸念していた3クラス同盟の成立リスクも減らせる。それに、最低限のリカバリー案は考えてある」
そう言って、俺は同室の3人にリカバリー案を話した。皆一様に驚いた顔をしていた。清隆ですら表情を変えるほどだ。
「…そういう訳で、最悪の結果にはならない。安心しろ」
「分かった。それならば俺も納得できる」
神崎が納得したようなので、続いて同様の疑問をメッセージで送ってきた楓花と千秋、堀北、平田にも同様に返事を返す。
続けて、優待者を当てさせるメンバーにメッセージを送る。優待者を当てるメンバーの中には神崎と千秋と楓花も含まれているから、その3人を除き、6人にメッセージを送った。全員から本当に合っているのかと疑問を呈されたが、そこは法則の説明をして納得してもらった。そして間違っていた場合、責任は俺が取る旨も伝えておく。
さて、今日やる事はこれで終わりだ。明日8時、この試験を終わらせる。