翌日。結局、優待者の法則を導き出したのは楓花と堀北だけだった。神崎も夜通し解読を頑張っていたが、正解には辿り着けず、悔しそうにしていた。真田と清隆は早々に諦め就寝していた。結局、清隆の実力は分からないままだ。
そして午前8時、学校側からメールが届いた。
「厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの1人として自覚を持って行動し、試験に挑んで下さい。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。竜グループの方は2階竜部屋に集合して下さい」
その瞬間、俺は
『鼠グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
『牛グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
『虎グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
『兎グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
『竜グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
『蛇グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
『馬グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
『羊グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
『猿グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
『鳥グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
『犬グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
『猪グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』
さて、ここでちょっとした種明かしをする。何故試験が終了したのが9グループではなく12グループなのか。
理由は単純。Aクラスの優待者がいるグループに、それぞれ1人ずつ、合計3人の裏切り者がいるからだ。
特別試験の開始を知らせるメールが届いてから学校側に指定された時間まで、俺は2000万ポイント、つまりクラス移動の権利と引き換えに、3人に裏切りを持ちかけた。
目をつけたのは、学力が高く比較的仲の良い3人組だ。真澄と美紀には、そのために各クラスの交友関係を事前に探ってもらってもいた。この条件で3人を選んだ理由としては、勉強会をその3人で行なってもらうためだ。今から新たに新規メンバーとして、3人を既存の勉強会に参加させるのは難しい。その点、学力が高ければ教師役を用意する必要もなく、仲が良ければ3人で勉強会を行わせても問題は起きない。そう考えた。
その3人はDクラスの女子生徒だった。学力はOAAの数値でB+、B、B−と中々に優秀だ。他の能力もそれなりに高い。本当は3クラスの戦力の均衡を図るためにBクラスから3人、裏切り者を出したかったのだが、条件に合致する3人がDクラスにしかいなかったのだから仕方ない。
因みに、事前に未来予知で裏切りを了承するかは確認済みだ。もし了承されなかった場合、それなりに不味いことになるので当然である。
Dクラスという事で、龍園の制裁を怖がる可能性も考えていたが、3人とも肝が太く、その心配はなかった。
まあ、独走している今のAクラスに裏切りを持ちかけられて断る人間は少ないだろう。まだ入学してから4ヶ月程しか経ってない上に、それなりに仲の良い3人で纏まって移籍できると思えば尚更だ。
しかし、念の為だ。例えばクラスのリーダー格はクラス移動を了承しないだろうし、試しに椎名を勧誘した場合の状況を未来予知したら、断られていた。龍園の制裁を怖がり裏切りを断る人間も、当然いる可能性がある。
ともかく、これで特別試験は終了。結果はまだ発表されていないが、クラスポイントは以下の通りになる。
Aクラス 2379(+600)
Bクラス 893(−150)
Cクラス 645(−150)
Dクラス 220(−300)
かなり差が開いたな。もうクラス間競争は終了で良いんじゃないだろうかとも思う。勿論そう単純な話でもないが。
まあ良い、残りはバカンスである。
さて、何をしようか。取り敢えず坂柳とのチェスの再戦の約束を果たすか。そう思い、俺は坂柳に連絡を送る。すると、すぐに坂柳から返信が返ってきた。
『その様子ですと、この試験を終わらせたのは神城君のようですね』
流石にこんなに早く連絡したら気付かれるか。まあ特に問題ない。
『少し待っていて下さい。2時間後でもよろしいですか?』
『構わない』
恐らく裏切り者が自分のクラスにいる可能性を考慮し、確認を行うんだろうな。
これだけ露骨にやれば、流石にバレるのも無理はないか。
今頃一之瀬や葛城、龍園も確認している事だろう。いや、一之瀬は性格上裏切り者をあからさまに探るような事はしないか。逆に龍園は堂々と探りそうだ。一応3人には、何をされるか分からないから龍園からの呼び出しには応じない事と、防犯カメラがない場所には行かないように伝えているが、未来予知で3人の安全を確認しておこう。
…問題はなさそうだな。取り敢えず一安心だ。ただ、俺も龍園に会うのは避けて行動しよう。裏切り者が自分のクラスにいると発覚した龍園はその怒りの矛先を俺に向ける。わざわざこちらに喧嘩を売りに来る事はしないが、会ったら面倒なことになる。龍園の居場所も逐一未来予知で確認しておこう。
さて、少し時間が出来たので、俺は現在適当に船内をぶらついている。2時間というのは長いようで短い。誰かを誘って遊びに行けるような時間ではないのだ。そのため、しばらく船内を散策し、どこかで一人、朝食を取ろうと考えているのだが、偶然、堀北と遭遇した。
「堀北か。優待者の法則を導き出せたのは見事だったな」
「…ありがとう。出来れば神城君のヒントなしで解きたかったのだけれど」
堀北が少しだけ不満気な表情で呟く。
「それは申し訳ない事をしたな。だが、法則を解き明かしたのは楓花と堀北だけだ。十分に誇れる事だと思うぞ。ここだけの話にして欲しいんだが、神崎は夜通し法則の解読を頑張っていたが、結局解けなかったからな」
「そう。神崎君が」
「かなり悔しがっていたから俺が言った事は秘密にしてくれ」
「そうね。分かったわ」
堀北がわずかに微笑む。
「それはそうと、堀北は朝食は済ませたか?」
「まだよ」
「ならば一緒に食べないか?」
「…良いわよ」
「じゃあ行くか。堀北は何が食べたい?」
「なんでもいいわ」
「じゃあ…あそこで良いか?」
少し先にあるレストランを指差す。
「構わないわ。行きましょう」
堀北の了承を得られたので、レストランに入り、共に朝食を取った。
朝食を済ませ、近況や特別試験の話をし、会話のネタも尽きてきた頃、どこか緊張したような面持ちで、堀北が口を開く。
「…ところで、鬼龍院さんはさっき名前で呼んでいたわよね?」
「そうだな」
「神室さんも長谷部さんも姫野さんも山村さんも、そういえば松下さんも名前で呼んでなかったかしら?」
「そうだな」
あとは名前で呼んでいるのは清隆くらいか。…だいぶ男女比率に偏りがあるな。
「…私の事は名前で呼ばないの?」
「一応全員許可を得て名前で呼んでいる。堀北からは許可をもらっていないからな」
「…じゃあ、その、許可を出しても良いのだけれど」
「そうか?では鈴音と呼ばせてもらう」
「…随分と簡単に名前で呼ぶのね」
「名前で呼ぶ事は仲をより深めるきっかけになると思っている。許可があれば名前で呼ぶ事に躊躇いはない。鈴音とはもっと仲良くなりたいと思っているしな」
「…そう。私も、名前で呼んでも良いかしら?」
鈴音が遠慮がちに言う。
「構わないぞ。寧ろ歓迎する」
「ありがとう。…紫苑君。ところで、この後予定はある?」
「坂柳と会う予定がある。…何かあったのか?」
「そう。別に何もないわ。気にしないで」
「そうか。…そろそろ時間か。急で悪いが、もう行く事にする。付き合ってくれてありがとう、鈴音」
「こちらこそ、有意義な時間だったわ。ありがとう…紫苑君」
こうして、鈴音に別れを告げ、俺は坂柳との待ち合わせ場所へ向かった。
待ち合わせ場所に到着してから、暫く待ち、坂柳が現れる。
「お待たせ致しました、神城君」
「いや、問題ない。やる事があったのだろう?」
「ええ、念の為。予想通り、Bクラスに裏切り者はいませんでした。恐らく、裏切り者がいるのは全員Dクラスでしょうか?」
随分単刀直入に切り込んでくるな。まあ良い、隠す必要もない。
「そうだ」
「やはりそうでしたか。その様子ですと、カジノで大量のポイントを得たという話はどうやら本当のようですね」
クラス移動の事までお見通しという訳か。
「本当だ。これがどういう事か、当然分かっているよな?」
カジノの件を知っているという事は、当然俺が獲得したプライベートポイントの額も知っているだろう。
今回俺が使用したプライベートポイントは6000万ポイント。まだ2億2800万ポイントが残っている。つまり、
「勿論です。しかし困りましたね、クラスポイントでも大きな差をつけられてしまいましたし、どうしましょうか」
「諦めたらどうだ?」
「そうですね、それもありかもしれません。ですが、もう少しだけ足掻かせて頂きます。…さて、始めましょうか」
「そうだな。またポイントでも賭けるか?」
「遠慮しておきます」
「そうか、残念だ」
既にチェスを始める準備は済ませてある。何も賭けていない勝負だが、思考加速をフルに使い、今回も勝たせてもらうとしよう。
1戦目、4月よりも格段に実力が上がっている坂柳に驚き、若干の苦戦。しかし、なんとか勝利する。
2戦目、坂柳の実力を上方修正し、戦い方を変更。危なげなく勝利。
3戦目、この2戦でさらに成長した坂柳にまたしても驚くも、想定の範囲内。勝利を収める。
結局、開始から約3時間後、3戦行い、その全てで俺は勝利した。
「全敗ですか。まだまだ敵いませんね。ですが、とても楽しい時を過ごせました」
「それは良かった。こういう平和な勝負なら、いつでも受け付けるぞ」
「それはありがたいですね。是非、もう少し力をつけてから、再戦よろしくお願いします」
「ああ」
「では、失礼致します」
そう言って、坂柳は去っていった。
…少しチェスの練習をしておくか。このままだと、いつか負ける可能性がある。思考加速まで使っているにも関わらず負けるのは、流石にありえない。
さて、俺も行くか。
この後は何をするか。取り敢えず歩きながら考えよう。
クラスポイントは大きく差が開いた。坂柳が来る前に未来予知で確認したが、一之瀬と葛城は完全に心が折れている。坂柳に関してはまだ足掻くそうだが、そもそもAクラスにあまり関心がないようにも見える。BクラスとCクラスは、現時点であまり大きな脅威だとは言えないだろう。
問題は龍園だ。奴はまだ牙が折れていない。そして何をしてくるか分からない怖さがある。未来予知で警戒はするが、それにも限度がある。…龍園に関しては、早めにどうにかしたほうが良いかもな。今後の課題だ。
逆に、龍園さえどうにかしてしまえば、
この案を完全に実行できれば、クラス間競争は終了。楽しい学校生活の始まりだ。今までが楽しくなかったわけではないが、それでも状況が一変することには変わりない。
…違うな。今考えるべきは残りの豪華客船での生活をどう充実させるかだ。面倒事を考えている場合ではない。
この4ヶ月で友人も沢山増えた。残りの客船での時間も一週間弱ある。存分に楽しむとしよう。