入学式が終わった後は敷地内の案内があり、解散は昼前だった。俺達のクラスはその足で親睦会も兼ねて敷地内にある大型ショッピングモールであるケヤキモールの飲食店に集まり、昼食を取っていた。
場所はクラス全員が入れて人通りが少なそうな所という条件で平田が決めた。やはり有能だ。
数人、親睦会という響きに若干嫌そうな表情を浮かべていたが、その後の話し合いには参加した方が良いと考えたのだろう。渋々ながらも参加していた。参加率は100%だ。
親睦会ではこれと言って重要な話題は出なかった。文字通りの親睦会だ。俺も楽しくクラスメイトと交友を深めた。
一時間が過ぎた頃、俺はタイミングを見計らい、話を切り出した。
「そろそろ話し合いをしたいんだが、良いか?」
俺の言葉に、クラスメイト全員がこちらに視線を向けた。否定の言葉がなかったので、話を続ける。
「取り敢えず、他の生徒がもし近くにいた場合、当然話を聞かれたくない。だから申し訳ないんだが、この中から二人ほど、飲食店の外に見張りを立てたい。引き受けてくれる人はいるか?勿論話し合いの内容は後で責任を持って共有する」
「僕がやろうか?」
早速平田が立候補する。だが、平田にはできれば進行のサポートとしてこの場にいてもらいたい。その旨を伝えると、平田は素直に引き下がった。しかし、平田以外に立候補者が現れない。どうしたものかと考えていたが、少し経って、立候補者が現れた。
「…私がやろっか?話し合いではどうせ役に立てないだろうし」
姫野ユキという女子生徒だ。親睦会への参加に乗り気ではなさそうだった内の一人である。
「なら、私もやろうかな。私も話し合いの役には立てないと思う」
姫野が立候補してすぐ、長谷部波留加という女子生徒が手を挙げた。これで2人、見張り役は決まった。
「二人ともありがとう。あとは書記が一人欲しいんだが、誰かやってくれる人はいるか?」
「あ、それなら私がやろうか?」
こちらはすぐに引き受けてくれる人物が現れた。松下千秋という大人びた女子生徒だ。
「じゃあ、見張り役は姫野と長谷部、書記は松下に頼むとして、姫野と長谷部は、早速で悪いが見張りを頼む。それと、2人には入口近くとその周辺に分かれて見張りをして欲しい」
「分かった」
「オッケー」
2人が席を立ち、飲食店から出て行くのを見届ける。姫野が入口近く、長谷部がその周辺で見張りをする事にしたようだ。
さて、これで話し合いの準備は整ったんだが、どのように進めていこうか。俺が自分の考えを述べるだけでも良いが、クラス対抗での競争を視野に入れると、他の生徒が意見しやすい環境作りは重要だ。なるべく俺以外に意見を出してもらいたい。
「さて、話し合いを始める前に、まずは朝の話を簡単にまとめようと思う。その後で、何か意見がある人がいれば、遠慮なく言って欲しい。まず、毎月1日に与えられるプライベートポイントは何らかの形で変動する。この変動するポイントはクラス単位であり、仮にクラスポイントとしたこのポイントが一番高いクラスに進学率・就職率100%の特権が与えられる。ここまでは良いか?」
クラス全員に向けて確認を取る。疑問はないようだ。
「今回話し合いたいのは、クラスポイントの上昇、もしくは減少を抑える言動、イベントについてだ。何か意見がある人はいないか?」
改めてクラスメイトに意見を述べるように促す。
「…いいかしら?私は学業の成績や、授業態度、生活態度、遅刻・欠席が加点、減点要素になると考えているわ。茶柱先生は学校は生徒を実力で測ると言っていた。学生の実力と言えば学業の成績よ。それと、教室等の学校の敷地内には、いくつかの防犯カメラが設置されていたわ。おそらくあのカメラで授業態度や生活態度の確認をするのでしょうね。私からは以上よ」
最初に発言したのは堀北鈴音という女子生徒だ。寡黙な性格だと思っていたが、言動から芯の強さを感じさせる。防犯カメラの存在に気づき、授業態度や生活態度の確認に結び付けた事から、頭も回るようだ。
「僕も良いかな?部活動の成績もクラスポイントに反映されると思うんだ。だから部活動に入る予定の人は、積極的に活動するべきだと思う」
次に発言したのは平田だった。そういえば自己紹介でサッカー部に入ると言っていた気がする。あの時は未来予知を使っていたからよく覚えていないが。
「…思ったんだが、特権が与えられるのはクラスポイントが一番高いクラスではなく、クラスポイントが一定以上のクラスという可能性はないのか?」
神崎隆二か。これまでとは違う角度からの意見だな。そして痛い所を突いてくる。
「その可能性もなくはない。だが、俺はやはりクラスポイントが一番高いクラスに特権が与えられると考えている。理由としては、クラス対抗での特殊な試験のようなものを想定しているからなんだが…多種多様な試験でクラスで団結して他クラスと競い、一番を目指させる事で、切磋琢磨できる状況を作り、様々な困難に対応できるよう、生徒の成長を促す。ありそうだと思わないか?」
これに関しては発想の順序が逆だが、我ながらそれっぽいことを言えた気がする。俺の言葉に、何人かが嫌そうな顔をした。気持ちは分かる。俺も正直面倒だ。…鬼龍院だけは面白そうな顔をしていたが。
その後も話し合いは続き、生徒会に入る事や、ボランティア活動を行う事がポイントの上昇に繋がるのではないかという意見も出たが、生徒会やボランティア活動に興味がある人がいなかったため、この案はひとまず考慮しないことになった。
「話が煮詰まってきたな。取り敢えず、授業態度、生活態度に気をつける事、遅刻・欠席をしない事、学業の成績を伸ばす事、部活動で活躍する事、クラス対抗での競争に備える事を基本にしよう。それと、これは5月から始めようと思っているんだが、頭の良い人を教師役として、勉強会を開きたいと思う。教師役ができるかもしれないと思う人は考えておいて欲しい。朝も言ったが、この話は他クラスには他言無用でお願いしたい。推測の域を出ない考えだが、ポイントの変動が事実かどうか分かる次のポイントの振込日、5月1日までは、今日の話し合いを念頭に置いて行動して欲しい。では、話し合いは終了。それぞれ会計を済ませたら出て行ってくれて構わない」
俺の言葉に、クラスメイトがそれぞれ飲食店から出て行った。数人のグループで連れ立って行く人達は、これからケヤキモールで遊びにでも行くのだろう。
進行の補佐を務めてくれた平田、書記の松下、見張り役の姫野と長谷部にお礼を言って、松下には話し合いの内容をまとめたものを姫野と長谷部に共有してもらった。ついでにいつの間にかクラスの女子に連れ去られていた平田を除いた松下と姫野と長谷部の分の昼食代は支払った。3人とも恐縮していたが、大した出費でもないから構わないと伝えると、素直に受け入れた。
実際、本当に大した出費ではないから問題ない。あまり多くは稼げないだろうが、それなりの額を稼ぐあてはある。明日からは、そちらの方に時間を割くとしよう。今日は取り敢えず一人で、案内されなかった敷地内の確認だな。
「神城」
と思っていたんだが、思わぬ人物に声を掛けられた。鬼龍院だ。
「何か用か?鬼龍院」
「クラス対抗での特殊な試験という考えは非常に面白いな。この学校も退屈せずに済みそうだ。それと神城、お前は非常に興味深い。まさか半日でここまで学校の秘密を紐解くとは」
「あくまで推測だがな」
「私にはどうもお前が確信を持って話しているように聞こえたがな」
鋭いな。とはいえ、クラス対抗での特殊な試験は本当に推測だから、そこは見当違いなんだが。
「そう思ってくれたなら好都合だな。みんなが俺の仮説を信用してくれれば、事実だった時にスムーズに事が運ぶ」
「…ふむ、まあ良いだろう。ところで神城、お前はこれからどうするんだ?」
「一人で敷地内の確認をしようかと思っている」
「私も同行しても良いか?」
…一人でも二人でも同じか。それに入学初日から一人行動というのも寂しいと思っていたところだ。
「構わない。じゃあ行こうか」
「ああ。まずはケヤキモールの施設内からか?」
「そうだな。どんな店があるのか把握しておきたい」
「ではまずはあそこで遊ぶか」
そう言って鬼龍院が指差したのは、ゲームセンターだった。
「いや、今日は遊ぶつもりはない」
「良いじゃないか、行くぞ神城」
俺の発言はあっさりと突っぱねられ、俺は鬼龍院に強引にゲームセンターに連れて行かれた。それからなんだかんだで1時間程、ゲームセンターで遊ぶことになった。楽しい時間を過ごすことができたが、それはそれとして。
「…そろそろ敷地内の確認をしたいんだが、良いか?」
「何だ神城、楽しくなかったか?」
「…いや、楽しかったが、今は優先順位が違うんじゃないか?」
「そうか。なら仕方ないな。付き合ってやろう」
何故か俺が我儘を言ったみたいになったが、まあ良いか。
それからは、特に大きな脱線をすることはなく、敷地内の確認ができた。
確認が粗方済み、寮に到着した頃には、既に日が暮れていた。
「今日はありがとな、鬼龍院」
「こちらこそ、有意義な時間になった」
正直、防犯カメラが多いなと思った事以外、あまり大した成果は得られなかったが、鬼龍院は充実した時間を過ごせたと思っているようだ。こちらとしても、鬼龍院と遊び、長時間一緒にいる事で、仲も深まり、為人も分かった。彼女はかなり変人だが、同時に面白い人物でもある。それが分かっただけでも、今日の収穫としては十分だろう。
「…ところで神城、私達は友人か?」
「そうだな、友人と言っても良いんじゃないか?」
「ならば神城、お互いに名前で呼び合わないか?友人というものは、互いに名前で呼び合うものなのだろう?」
「必ずしもそうとは限らないと思うが…分かった。楓花、これでいいか?」
「ああ、紫苑。明日からもよろしく頼む」
その後は特に何事もなく解散し、お互い寮の自分の部屋に向かった。部屋に着いてからは簡単に食事を取り、風呂に入る。
と、普通の人間ならこのようなありきたりな事をするところだろうが、俺は特殊能力者だ。時魔法の一つ、復元。任意の時間を指定して、身体を記憶だけ残してその時の状態に戻す能力だ。記憶ごと元に戻す事も出来るが、今の所そのような使い方はした事がない。この能力のお陰で俺は、食事や睡眠などの行為を必要としない。
しかし、俺は毎日この能力を使っている訳ではない。食事は娯楽として楽しむことがあるし、睡眠を全くしない生活は、割と暇である。だから特にやる事がない時は、復元を使わずに眠るようにしている。
だが、しばらくは話が別だ。この学校の特殊性を知ってしまった以上、勉強は先取りして進めていく必要がある。
幸い、時魔法には勉強に役立つ能力があと二つある。一つは思考加速。読んで字の如く思考を加速させる能力で、何倍、何十倍ものスピードで勉強を進める事ができる。
そしてもう一つは、過去再生。過去の記憶を忘れる事なく確実に呼び起こす記憶だ。この能力を使えば、一度解き方を理解した問題や暗記系は必ず解く事ができる。
この三つの能力を駆使して、今日からしばらくは夜は徹夜して勉学に勤しむことにする。
と、その前に、新生活の初日だ。今日の振り返りをしておこう。
今日はある意味流されて行動した部分が大きい。厄介な情報を知り、最善と思われる行動をしたつもりではあるが、そもそもこんなことをする必要はあったのだろうか。
俺は時魔法という有用な特殊能力を持っているため、将来の進学や就職に困ることはない。ここに来たのもそれが少しでもスムーズに進むようにというのと、あとは成り行きだ。Aクラスの特権に拘る必要はない。程々に学校生活が楽しめれば、それで満足だ。
しかし、考える。3年間クラス替えがなく、クラス対抗での競争という場に身を置くという事は、他クラスとの交流は少なく、同じクラスの人達との交流が多くなるということを意味する。そうなると、クラスメイトにはなるべくポジティブな感情を持っていて欲しい。その方が俺も楽しく学校生活を送れるだろう。ならば、やはりAクラスを目指し、維持すべきだ。
…さて、考えは纏まった。勉強を始めるか。