ようこそ時魔法使いのいる教室へ   作:ゆーざーめい

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5話 特別試験

 勉強会を開始して数日が経った頃、堀北が担当するクラスメイトから相談があった。

 

 曰く、堀北の教え方が厳し過ぎて付いていけないらしい。

 

 そう訴えてきたのは堀北の受け持ちのクラスメイトの中でも学力が低い2人だけだったが、勉強会が円滑に行われていないなら問題だ。俺は堀北に話を聞く事にした。

 

「堀北、勉強会の調子はどうだ?」

 

「あまり順調とは言い難いわね。2人、神城君に苦情を言いに行っていたでしょう?内容は私の指導法が厳しいと言ったところかしら」

 

 どうやら知っていたらしい。ならば話が早い。

 

「気づいていたか。その通りだ。それで、やり方を変える事はできないか?」

 

「無理ね。私は自分が受け持ったクラスメイト全員を次の特別試験で勝たせなければならない。厳しくしなければいけないのよ」

 

 堀北からは、何か焦燥感のようなものが感じられた。

 

「そこまでしなくても、教師役を引き受けてくれるだけでも十分ありがたい。今は目先の特別試験の事だけを考えるのではなく、今後を見据えてグループの全員と円滑な関係を形成していく事が大事だと思うんだが」

 

 そもそも、厳しくすれば成績が必ずしも上がる訳ではないのだが、この様子だとそれを言っても無駄だろう。

 

 最悪、グループを再編成し直す必要があるか。そう考えていると、堀北が語り始めた。

 

「…私は神城君と違って、クラスに何も貢献出来ていないわ」

 

「そんな事はないと思うが。入学初日の話し合いでも、役に立つ意見を出していただろう」

 

「神城君も気づいていたわよね?それに私は、神城君にポイントの変動の可能性を示されなければ気付けなかったわ。だから、少しでもクラスの役に立って、兄に認めてもらいたいのよ」

 

「兄というと、生徒会長のことか?」

 

 生徒会長と同じ苗字だと思っていたが、兄妹だったらしい。

 

「…そうよ。私は兄を追いかけてこの学校に入ったの。不出来な妹だけど、特別試験で結果を出せば、兄も私の事を認めてくれる筈だわ」

 

 …難しいな。俺は堀北と生徒会長の関係性を知らない。関係が良好ではない事は分かるが、これではどう堀北を説得すれば良いか分からない。…少々強引な方法を使うか。

 

「分かった。堀北が自分のスタンスを曲げないなら、残念だけど教師役を外れてもらう。代わりは楓花にやってもらおうか」

 

「…鬼龍院さんが教師役を引き受けるとは思えないのだけど」

 

 だよな。俺もそう思う。というか、実際そういう話はあった。学力がクラス2位の楓花に教師役を頼めないかと。結果は言うまでもないだろう。のらりくらりと躱されて、結局断られてしまった。仕方ない、ここはハッタリで乗り切ろう。

 

「確かに難しいな。だが、俺が頼み込めば楓花も受け入れてくれるかもしれない。いや、受け入れさせてみせる」

 

「…そう。神城君なら鬼龍院さんを説得する事も出来そうね。…分かったわ。神城君の言う通り、やり方を変えてみる事にするわ」

 

 ハッタリは成功したようだ。ひとまず、これで様子を見よう。

 

 それからは、堀北のグループでも他のグループでも、俺の耳に届くような問題が起きる事はなく、時が過ぎていった。念の為堀北のグループの様子は神室に定期的に確認してもらっていたが、堀北は宣言通り方針を変え、グループの雰囲気も問題ないようだった。

 

 一方、俺が担当する勉強会では、俺が徹夜で能力をフルに活用して作った一人一人の得意不得意に合った問題集をさせていた。

 

「神城君凄いよね。個別に5人分、別の問題集作ってくるとか。労力ヤバいでしょ」

 

「確かに大変だが、教師役を引き受けるからには、これくらいはやらないとな」

 

 集中が切れたのか、長谷部が俺に話しかけてくる。実際大変ではあるが、俺の場合は肉体的疲労も精神的疲労も感じないので大したことではない。

 

「本当、いつこんなもの作ってるんだか」

 

 神室が呆れた目でこちらを見てくる。

 

「神室にはいつもお世話になっている。神室の成績が上がるように、俺も頑張っているという訳だ。勿論、他の4人の分も手は抜いてない」

 

 ここで敢えて、神室と俺の関係に意識が向くようなことを言ってみる。

 

「あれ、神城君って鬼龍院さんと付き合ってると思ってたんだけど、もしかして神室さんと付き合ってるの?」

 

 予想通り、長谷部が食いついてきた。内容は少し下世話だったが。

 

「2人とも付き合っていない。ただ個人的に、神室には頼み事をしているだけだ」

 

「へー、そうなんだ」

 

 長谷部はまだ疑惑の目を向けてきたが、表面上は引き下がった。

 

 何故こんな話を振ったのか。それは、神室を隠れ蓑にして、山村の存在をカモフラージュするためだ。神室が表立って俺の手駒として動いていることが周知されれば、存在感の希薄な山村はよりその真価を発揮する。そのために、神室の存在を印象付ける。最終的には同学年の全クラスに認知させるが、まずは同じクラスのこのグループからだ。

 

「…終わったんだけど」

 

と、姫野が問題集を終わらせ、こちらに渡してきた。

 

「私も終わりました」

 

「オレもだ」

 

 山村と綾小路も終わったようだ。俺は3人分の問題集をチェックし、間違っていたところについて、順番に解説していく。その間に神室と長谷部も終わったようで、2人についても同様の工程を繰り返した。

 

「…こんなところか。じゃあ今日は解散にしよう」

 

 全員分の問題集のチェックと解説が終わったので、今日は解散にする。俺の勉強会の様子はこんな感じだ。

 

 そんなこんなで、気がつけば特別試験本番。

 

「これより、一対一筆記テストを行う」

 

 茶柱先生の合図により、特別試験が始まる。と言っても、特別な事は何もない。一つでも多く問題を解くだけだ。

 

 一月前に行われた抜き打ちテストよりは簡単なので、俺の場合は全教科すぐに解き終わってしまったが。それに念の為未来予知も使ったので、全教科満点は堅いだろう。

 

 自分の結果よりも、クラスメイトの結果の方が気になるところである。自分が教えた5人の結果は殊更だ。

 

 こちらの結果は敢えて未来予知は使わない。毎回未来予知で結果を知ってしまうのも退屈だからだ。俺はあまりメリットのないタイミングで未来予知を使う事はない。結果は後のお楽しみである。

 

 そして数日が経過し、結果発表当日。テストの返却は解説付きで授業中に終わり、特別試験の結果は帰りのホームルームに提示された。クラスポイントは以下の通りになった。

 

 Aクラス 1095(+115)

 Bクラス 725(−45)

 Cクラス 650(+20)

 Dクラス 470(−90)

 

 俺達Aクラスと一之瀬と葛城のCクラスがクラスポイントを増加させ、坂柳のBクラスと龍園のDクラスはクラスポイントを減少させる結果となった。

 

 俺達Aクラスの試験結果は、31勝8敗1分。内訳として、俺を除く教師役の5人は全勝、そして楓花も勝利、俺が担当したグループの5人は全勝、堀北さんが担当したグループの6人は5勝1敗、真田が担当したグループの6人は4勝2敗、平田が担当したグループの6人は4勝2敗、松下さんが担当したグループの5人は4勝1敗、神崎が担当したグループの5人は3勝2敗となった。

 

 俺の相手は坂柳だったのだが、共に全教科満点だったので引き分けになった。

 

 総合的に、満足できる結果となった。

 

 クラスが歓喜に沸く中、俺は堀北に声をかけた。

 

「5勝1敗、堀北自身も含めると6勝1敗か。良い結果を出せたな」

 

「神城君のグループは全勝だったじゃない」

 

「俺は引き分けだ。それに俺の方が担当している人数が1人少ない。教師役の中で一番結果を出したのは堀北だろう」

 

「満点で引き分けた人に言われると嫌味にしか聞こえないのだけれど、まあいいわ。素直に賞賛を受け取ってあげる。でも、1人だけ勝たせる事ができなかった。それを忘れる事はないわ」

 

「そうだな。慢心しないのは良い事だ」

 

「神城君にもお礼を言うわ。あの時助言してくれたお陰で、勉強会を円滑に進める事が出来た」

 

「半ば脅しみたいなものだったがな」

 

「そうね。でも、結果的にそれが良い方向に働いたのも事実よ。改めてありがとう」

 

 あの時はどう転ぶか微妙なところだったが、結果を出し、堀北は自信を付けたように見える。まあまあ荒い手段を使った自覚はあるが、良しとしよう。

 

 堀北は俺との会話が終わると、自分のグループのメンバーに声をかけにいった。神室の報告通り、雰囲気は良好そうだ。

 

 堀北の様子を見届けた後、俺は自分のグループのメンバーを集めることにする。そういうメンバーを選んだのだから当然と言えば当然だが、全員が輪に混ざる事なく、帰る支度をしていた。一人一人に声をかけ、集合させてから本題に入る。

 

「今日は予定通り勉強会は休みだけど、このメンバーで祝勝会を開こうと思ってる。どうだ?」

 

「いいぞ」

 

「いいよー」

 

「私は構いません…」

 

「いいわよ」

 

「…わかった」

 

 綾小路、長谷部、山村、神室、姫野の順に肯定が返ってくる。姫野は少し逡巡していたが、心底嫌だという訳ではなさそうだ。

 

 このグループには1人で行動する事が多い人達を集めたが、最低限のクラスメイトとの交流は持って欲しいというのが本音だ。

 

 少なくとも、勉強会には全員律儀に毎回参加してくれるため、協調性がない訳ではない。

 

 なので、まずはグループ内で仲を深めようと思っていたのだが、勉強会は短期集中のため会話に興じれる時間も短く、勉強会が終わると、主に姫野が帰りたそうにする為、なかなかこういう機会を作れずにいたのは事実だ。そのため、祝勝会という口実で交流を持とうとしている訳だが、果たして上手くいくかどうか。

 

 祝勝会では、入学初日に集まった飲食店を利用した。席につき、注文を済ませるなり、長谷部が切り出した。

 

「なんかさ、この勉強会の集まりって友達が少ない、というか、殆どいない人で構成されてるよね。神城君はそうでもないけど」

 

「俺もクラスメイトで話をする人は多いが、友人と言えるのは楓花くらいだ」

 

「そっか。それでさ、私としては、このグループに居心地の良さを感じてるわけ。だからね、この6人で、改めて放課後とか休日にも遊びに行くようなグループを作りたいなーなんて思った訳よ。勉強会だけじゃないグループ。みんなはどう?」

 

 このグループで交流した時間は短いと俺は感じていたが、長谷部はそれでもこのグループの雰囲気を好ましく思っていたようだ。

 

 確かに、短い勉強会の時間の中でも、長谷部はよく喋っていた印象がある。一匹狼が多い特殊な集まりだが、それ故に、同じ気質を持った者達が集まっている。それも一因としてあるだろう。

 

 さて、思いがけず長谷部が都合の良い事を言ってくれた。俺としても、楓花以外に普段遊べる友人がいないので、このメンバーとより仲良くなるために、この提案は素直に歓迎したいが、他のみんなはどうだろうか。

 

「確かにオレも居心地が良いと感じていた。長谷部の意見に異論はない」

 

「私も、この6人は静かなので落ち着きます」

 

「私はどっちでも良いけど、一応同意しておいてあげるわ」

 

 綾小路、山村、神室は賛成した。

 

「姫野はどうだ?」

 

「…ここで自分だけ嫌だ、なんて言ったら勉強会での居心地も悪くなるじゃない」

 

「確かにそうだな。では、姫野がどうしてもと言うなら、勉強会のグループからは外れてもらって、個別に教えよう。姫野は成績も良いし、勉強会自体不参加でも良いが」

 

「…分かった。別に私もそこまで嫌なわけじゃないしね。ただし、遊びの誘いとか断っても文句言わないでね」

 

 少々意地悪な言い方をしてしまったが、姫野も賛成してくれて良かった。

 

「ありがとう。俺も勿論賛成する」

 

「じゃあ決まりってことで。これから私達は神城グループってことでよろしく」

 

「俺が中心なのか」

 

「一応私達は神城君に勉強を教えてもらってるわけだしね」

 

「良いんじゃない?神城グループで」

 

「私も賛成」

 

 神室と姫野がニヤニヤしながら同調した。ここからグループの名称を変更する事は難しいだろう。まあ仕方ない。

 

「それから、グループ発足に当たって一つ、これから堅苦しい苗字呼びは禁止にしない?」

 

「名前で呼ぶということか?」

 

「そう。早く打ち解けるために、まずは形から入るのも良いんじゃないかなと思って。あだ名でも良いよね。例えば神城君だったら、紫苑だから…しおっちとか?」

 

「俺は呼び方にこだわりはない、と言いたいところだが、しおっちは恥ずかしいな。みんなはどうだ?」

 

「オレはどちらでも構わない」

 

「私は名前呼びなら良いけどあだ名は嫌」

 

「私も」

 

「私もです」

 

 基本的に全員、名前呼びは良いがあだ名呼びはダメか。

 

「そっかー。良いと思ったんだけどな、あだ名呼び」

 

 長谷部はあだ名呼びに未練があるようだ。

 

「無理強いは良くない。諦めろ」

 

「…それもそうだね。じゃあ、これからはみんな名前呼びってことで。紫苑、清隆、真澄、ユキ、美紀ね。私は波留加だから、そういうことでよろしく」

 

 長谷部…波留加が締め括り、神城グループの名前呼び問題は解決した。

 

 その後、注文した食事が届き、本格的に祝勝会が始まった。主に喋っていたのは俺と波留加だったが、他の4人ともそれなりに会話も弾み、仲を深め、楽しい時間を過ごすことができた。特別試験にも勝ち、今日は良い一日になったと言えるだろう。

 

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