ようこそ時魔法使いのいる教室へ   作:ゆーざーめい

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6話 暴力事件

 中間テスト兼特別試験も終わり、6月も半ばになった。

 

 クラスポイントの特別試験後からの変化はなし。授業態度や生活態度に関しては、4月は十分に気をつけていても20ポイントの減点があった。それが今回はない。という事は、4月は特にそのあたりを厳しく見られていたのかもしれない。幾分か気が楽になる情報だ。

 

 また、念の為、未来予知で期末テストでも特別試験がないか確認してみたが、至って普通の筆記試験だった。おそらく夏休みの無人島でのサバイバル試験まで特別試験はないだろう。

 

 という訳で、しばらくは勉強会を継続しつつ、学校生活をエンジョイしようと思っていたのだが…。

 

「橋本が裏切り?」

 

「はい。坂柳さんと龍園君に私たちのクラスの情報を流しています。どれも大した情報ではないんですが…」

 

 美紀には、主に他クラスのリーダー格である坂柳、一之瀬、葛城、龍園について、定期的に探りを入れてもらっているが、そうか、橋本が裏切りか。大方、自分のクラスがAクラスから陥落しても、自分だけはAクラスで卒業したい、そんな理由からだろう。

 

 クラス移動は2000万ポイントあれば可能だ。恩を売って自分を引き抜かせる。Aクラスで卒業するための戦略としては間違っていない。バレなければの話だが。

 

「分かった。俺が橋本を問い詰める」

 

「よろしくお願いします」

 

「いや、知らせてくれてありがとう。引き続き、他クラスの偵察は任せる」

 

「はい、少しでもお役に立てれば嬉しいです」

 

 という訳で、翌日。裏切り行為について、橋本を咎める事にした。

 

「橋本、坂柳と龍園に接触するのはやめろ」

 

「何の話だ?」

 

「単刀直入に言うが、俺はお前が裏切り行為を働いていると確信してる。だから、この先誰かを退学させなければならない、そんな試験があったら、真っ先に橋本が退学するように誘導する」

 

「おいおい、物騒だな」

 

「冗談じゃないぞ。俺もAクラスで卒業したいからな。裏切り者には容赦しない」

 

「…っ。分かった、降参だ。Aクラスで卒業したいのは俺も同じだ。もう坂柳と龍園には近づかねえよ」

 

 もしかしたら利用する事もできたかもしれないが、手間がかかるのでやめた。どうせそのうちバレるだろうし、逆に利用されても困る。

 

 さて、釘は刺しておいた。橋本も、これでAクラスを維持している限りは裏切らないだろう。

 

 そして、俺達のクラスがAクラスから陥落することはない。俺がそうさせない。

 

 Aクラスの特権自体には興味がないが、やはり前にも考えた通り、Aクラスの地位は守り抜く必要がある。

 

 それに、最近気付いた事だが、俺は存外負けず嫌いだ。今までは勝つのが当たり前過ぎて気付かなかったが、それはあくまでも個人での話だ。クラス単位での事となると、話は変わってくる。これから負ける可能性もあるだろう。だが、負けたくない。俺がこのクラスを勝利に導く。手段は選ばない。

 

 …思考が少し物騒な方向に飛んでいったな。あくまでも主目的は学校生活を充実させる事だ。橋本の裏切りで動揺していたらしい。やはり手段は選ぶべきだ。危ない。

 

 気分転換に、誰かと遊ぶか。神城グループのメンバーとは一昨日遊んだばかりだし、楓花を誘ってみるか。

 

『楓花、今暇か?』

 

『紫苑か。丁度良い、面白い話があってな。お前も来い』

 

 遊びに誘ったつもりが、何か面倒事に巻き込まれそうな予感がする。

 

『分かった』

 

 取り敢えず、了承のメッセージを送った。まあ、楓花が面白い話というくらいだ。放置するべきではないだろう。

 

 少し気は重いが、楓花に位置情報を送ってもらい、その場所に急いで向かう。

 

 向かった先には、楓花に加え、松下と、Cクラスのリーダー格である一之瀬がいた。

 

「来たか紫苑。遅いぞ」

 

「これでも急いできたんだがな」

 

 不自然にならない程度に加速も使ったからかなり速かった筈なんだが、文句を言っても仕方ない。

 

「それで、松下と一之瀬もいるみたいだが、何があったんだ?」

 

「それは私から説明するよ」

 

 ここで一之瀬が口を開いた。

 

「取り敢えず、知ってくれてるみたいだけど、一応初めましてだから自己紹介からするね。一年Cクラスの一之瀬帆波です。よろしくね神城君」

 

「一年Aクラスの神城紫苑だ。よろしく」

 

 自己紹介を交わすが、当然お互いがお互いの事を知っている。入学してから2ヶ月半も経過し、どちらもクラスのリーダー格だ。知らない方がおかしいだろう。

 

「それで、改めて聞きたいんだが、何があったんだ?」

 

「まず、私達CクラスがDクラスから度々嫌がらせを受けているのは知ってくれてるかな?」

 

「もちろん知っている」

 

 これは一年生の間では有名な話だ。中間テストが終わった頃から、Dクラスの嫌がらせは始まった。ただ、どれも問題にはならないような小さな嫌がらせばかりで、学校側が動くような事態にはなっていない。

 

 ついでにAクラスとBクラスへの嫌がらせもあるのだが、その頻度はCクラスが圧倒的に多い。

 

「それに関しては、まだ大きな問題にはならなかったというか、問題にできなくてね。生徒会長に相談しても、その程度の嫌がらせでは出来る事は何も無いって言われちゃったし。でも、実は今回、うちのクラスの須藤君が、Dクラスの生徒に対する暴力事件の容疑者になっちゃったの」

 

 須藤健か。たしか、バスケ部所属の粗野な男子生徒だったか。

 

「暴力事件ともなると、流石に問題にせざるを得ないみたいで、生徒会で審議をする事になっちゃって。でも、Dクラスってああいうクラスでしょ?私は冤罪だと疑っているんだけど、どう対処すれば良いか困っていて。それで、Aクラスに協力をお願いできないかなと思って、連絡先を交換している松下さんに連絡して、ここで待ち合わせてたの」

 

「そしてたまたま松下を尾行していた私がこの場に居合わせたというわけだ」

 

 不意に楓花が一之瀬の話に割り込んだ。

 

 たまたま尾行とかいうよく分からないことを言っているが、何か直感的なものが働いたのだろう。楓花はそういう人間だ。尾行される方はいい迷惑だが、残念な事にこの学校で尾行される事はたまにある。というか俺が真澄や美紀にさせてるし、俺もBクラスとDクラスの生徒にされたことがある。

 

「なるほど」

 

 ともかく、話は大体分かった。念の為、松下に目線で確認を取る。

 

「だいたいそんな感じだよ。それと、出来れば尾行はやめて欲しいかな、鬼龍院さん」

 

 すると、松下からは肯定が返ってきた。そして、尾行について楓花に苦言を呈する。

 

「そうか。検討しよう」

 

 どうせまた何かあれば楓花は平然と尾行をするだろう。そう確信させるような口振りだ。松下と一之瀬もそれを察したのか、苦笑いを浮かべている。

 

「それで、暴力事件に関してだが、俺も協力しようと思う」

 

 美紀に調べてもらった情報等から推察するに、恐らくは龍園の策略だろう。今回の暴力事件でDクラス側に有利な判決が出てしまえば、龍園がより過激な手段に出る可能性がある。それは好ましくない。俺の比較的平和な高校生活を守るためにも、ここはCクラスに味方した方が得策だろう。

 

「良いの?」

 

「もちろんだ。Aクラスのみんなにも、何か情報を持っていないか聞いてみる」

 

「ありがとう。うちのクラスだけじゃ手詰まりだったんだ。それにBクラスの人には断られちゃって」

 

「坂柳の指示だろうな」

 

 坂柳なら静観して高みの見物を決め込むだろう。あれはそういう性格だ。

 

「そっかー。じゃあやっぱりBクラスに協力してもらうのは望み薄だね」

 

「諦めた方が良いだろう。それで、一応確認だが、須藤は無罪を主張してるんだよな?」

 

 冤罪を疑っていると言っていたから間違いないだろうが、一応確認はしておく。

 

「うん。ただ、須藤君は普段の素行があまり良くなくて、最近は改善されてきたんだけど、どうしても以前のイメージが悪いから、審議でも不利に働く可能性があって不安なの」

 

 須藤の素行の悪さは学年でもそれなりの人数が知っている。と言っても、一之瀬の言った通り最近は改善されているようだが、審議で不利に働く事は間違いないだろう。

 

「分かった。じゃあ事件の詳しい話を聞かせてもらおうか」

 

 それから一之瀬は事件のあらましを語った。まとめると、須藤がDクラスのバスケ部の連中に呼び出されて特別棟に向かった所、そこに石崎大地というDクラスの中でも武闘派の男子生徒もいて、喧嘩を吹っ掛けられたが、乗らずに帰ったとのこと。須藤の話では、石崎が殴りかかってきたため手が出そうになったが、必死で抑えたそうだ。

 

 しかし、翌日、つまり今日になると、須藤を呼び出したDクラスのバスケ部の連中と石崎が、怪我を負った状態で学校に被害届を出し、生徒会で審議をする事になったそうだ。生徒会に所属している一之瀬さんは当然すぐにその事を知り、須藤の冤罪を晴らそうとしているという訳だ。

 

「それだけ聞くと、須藤君が殴った証拠がないから、Cクラスが有利な気がするけど」

 

 話を一通り聞き終えたあと、松下が疑問を浮かべる。

 

「Dクラス側もそこは考えているだろう。その証拠に、特別棟には防犯カメラがない。恐らくだが、須藤が帰ったあと、自分達で怪我を作り、須藤に怪我をさせられたように見せかけようとしているんじゃないか?須藤は評判も悪いし、一概にCクラスが有利とは言えないだろうな」

 

「やっぱり神城君もそう思う?」

 

「ああ。付け加えるなら、全て龍園の策略だろうな」

 

「龍園君かー。あんまり良い噂は聞かないけど、こんな事までやってくるとはね」

 

 一之瀬も薄々龍園の仕業だと感じ取っていたようだ。

 

「何にせよ、防犯カメラの映像次第でまた話も変わってくる。分かったらまた作戦を考えよう」

 

「そうだね。今日はありがとう、神城君、松下さん、それに鬼龍院さんも」

 

 こうして、暴力事件について、その日の一之瀬との話し合いは終わった。

 

 翌日、暴力事件の事が茶柱先生から伝えられた。情報を持っている者は学校に伝えるようにとの事だ。

 

「茶柱先生も言っていたが、情報を持っている人は教えて欲しい。それと、今回俺はCクラスに協力する事にした」

 

「神城、何故Cクラスに協力する事にしたのか教えてもらっても良いか?」

 

 神崎が俺に問いかける。

 

「Cクラスの一之瀬に事件の詳細を聞いてな。結論から言うと、俺はこの事件をDクラス側から仕掛けたものだと思っている。だからCクラスに協力する事にした」

 

「なるほど。その話、俺達にも詳しく聞かせてもらう事は可能か?でなければ、どうするべきか判断するのが難しい」

 

「構わない」

 

 それから、俺は昨日の話を要約してクラス全員に伝えた。

 

「そうか。分かった、俺もこの件に協力しよう」

 

「僕も協力するよ」

 

 神崎と平田を筆頭に、何人かが協力する事を宣言し、クラスの総意としても、Cクラス側に付く事が決まった。このクラスの何人かはDクラスに嫌がらせを受けていた事も要因としてあるだろう。ただ、残念な事にAクラスで有益な情報を持つ人は現れなかった。まあ未来予知で分かっていた事だが。あくまでも俺がAクラスから情報を得ようとしたという事実が重要なのだ。

 

 そして放課後、俺は再び一之瀬と話し合いの場を設けた。メンバーは俺1人だ。協力を約束してくれたクラスメイトには申し訳ないが、()()()()()()()()()()()ので、自由に過ごしてもらっている。

 

「それで一之瀬、何か新たな情報は得られたか?」

 

「それなんだけど、特別棟近くの防犯カメラに、須藤君が通った後、怪我をした石崎君達が通っていた所が映ってたらしくてね」

 

「須藤が石崎達に暴力を振るったように捉えられる可能性がある訳か…」

 

 未来予知で知ってはいたが、初めて聞いたような反応をしておく。

 

「そうなんだよね。それで、Aクラスでは何か情報を持っている人はいた?」

 

「申し訳ないんだが、誰も暴力事件について知ってる人はいなかった」

 

「そっか。何か良い方法はないかなー」

 

「…一応、一つ案がある。上手くいくかは分からないが…」

 

 それから俺は一之瀬に作戦を話した。

 

 方法としてはシンプル。特別棟に偽の防犯カメラを設置し、石崎達を呼び出し、学校側が全てを知った上でこの騒動の顛末を静観しているという嘘を信じさせ、訴えを取り下げさせる事だ。

 

 しかし、いざ実行に移すとなると、なかなか信じさせるのが困難だったり、途中で石崎が龍園に連絡をしてしまい、龍園にこちらの策が見抜かれてしまったりと、作戦は上手くいかなかった…という未来の分岐をいくつも予知した。なので、本当に上手くいくかは分からなかったんだが…。

 

 結論、成功した。上手くいくか分からないとは言いつつ、俺は事前にいくつものパターンを想定し、成功率を限りなく100%に近づけていた。もちろん、その場での俺の細かな言動次第で失敗する可能性は僅かにあったが、作戦は無事完遂できた。

 

 訴えは取り下げられ、クラスメイトにもその事を伝え、この件は一件落着。だったのだが。

 

「よう神城。今回はやってくれたな」

 

「何のことだ?」

 

「とぼけんな。石崎達から話は聞いてる。お前は俺が潰す。精々首を洗って待ってろ」

 

 龍園が宣戦布告をして立ち去っていった。

 

 厄介な奴に睨まれたが、まあ時間の問題だったか。潔く諦め、受けて立つとしよう。

 

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