モザイク   作:猫間黄泉

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第六話「桜が散るのは唐突で」

「ま、何もしない訳ねぇよな」

 

 と呟く奴が手に持つ刃物を見て、

 

「何……それ……」

 

 と私は恐怖する。

 

「何って、見たらわかんだろ」

 

「"ナイフ"だよ」

 

「何するつもり……!?」

 

「お前の目を潰す」

 

 恐怖で体の震えが止まらない。

 

「ひっ……」

 

 本当だ……本当に私の目を潰す気だ……!

 

「お前の目、不気味なんだよ」

 

「だから潰す」

 

 その言葉に私は発狂しそうだった。

 

「嫌だ...」

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

「暴れんなって、それとも、目以外も潰されてぇか?」

 

「っ……」

 

 怖い。

 

「やめて……」

 

「行くぞー!」

 

「嫌……!」

 

 そんな抵抗も虚しく――

 

 ブチッ……

 

 と、聞きたくない音が私の頭の中に響いた。

 

 激痛が走った。

 

「あ...ぁ...」

 

 あまりの痛みに、私は声にならない声を上げた。

 

 目の前が真っ暗だ。何も見えない。

 

 私は悶絶したがそれも無意味で、何も見えない恐怖に駆られながら奴らの声だけが頭に流れる。

 

「うっわw」

 

「血やばすぎw」

 

「俺達が人殺したみたいじゃねぇかwどうすんだよw」

 

「バレねぇ内に逃げんぞ!」

 

 その声を最後に、私は気を失った――

 

 それから1日後……

 

 私は目を覚ましたら病室に居た。

 

 誰が助けてくれたのかは分からない。

 

 そして、私は目を失った。

 

 何も見えないけど、目に包帯らしき物を巻いているのは分かる。

 

 手紙が置いてあるって病院の人から聞いたけど、私には見えない。

 

 それから少しして、私は退院した。

 

 目以外に大きな外傷は無く、すぐに歩けるようにはなった。

 

 私は看護師さんに読んでもらったあの手紙を思い出した。

 

「9月1日に"ここ"で待ってる」

 

 歩けるようになった私は、その場所に向かった。

 

 場所は学校から少し離れた所にある駅の近くだ。

 

 右の方から、人の声が聞こえてきた。

 

「ついてきて」

 

那美だ

 

私は声ですぐに分かった。

 

「那美……?」

 

私は少し疑いながら、そう言った。

 

「そうだよ」

 

 前までの明るい声では無く、凄く優しい声……。那美は私の手を掴んで、歩き出す。

 

「どこに連れて行くの...?」

 

 目が見えない私は、少し怖くて、那美にそう聞く。

 

「内緒」

 

 最後に話したのは、那美を突き放した時以来だ。

 

 会話に少しぎこちなさがありつつも、那美は止まって話し始めた。

 

「ごめんね」

 

「え……?」

 

 最初に放たれた言葉に、私はびっくりした。

 

「私が弱かったから……」

 

「亜沙匁が傷ついた……!」

 

「違う……那美は悪くない!」

 

 全部……私が……!

 

「あの時、私を突き放したのも、私が亜沙匁と同じようにいじめられるのが嫌だったからなんでしょ?」

 

「でもね……遅かった」

 

 え……?

 

「あの言葉に込められてた意味を理解した時にはもう……」

 

「それってどういう……」

 

「疲れちゃった……」

 

 いつもの那美と違って、気力の無い声。

 

「私も亜沙匁と同じようにいじめられるようになった。」

 

「っ……!私が……」

 

 私の言葉を少し遮るように、落ち着いた声で、

 

「違うよ、私のせい」

 

 そう言った。

 

「私が亜沙匁の代わりになるって話だったんだけど、バカだよね……」

 

 そんな事が……

 

 那美は涙ぐんだ声で話す

 

「亜沙匁へのいじめをやめる訳ないのにさ...」

 

「それからずっといじめられて」

 

「もう」

 

「疲れちゃった」

 

 那美がそう言い放った時、静かな場所に鳴り響く音。

 

 カンカンカン……

 

「え……?」

 

「この音って……」

 

 踏切の音……?

 

「ありがとね、亜沙匁」

 

「私は亜沙匁に会えて良かったって、心からそう思ってる」

 

 そんな事を話すって事は……

 

 察してしまった。

 

 聞こえてくる"踏切の音"

 

 最後かのように話す那美

 

「いや……」

 

「いやだよ!」

 

カンカンカン……

 

 那美が今どこにいるのか、どこに立っているのかは見えないけど――

 

 線路の上に立っているのがすぐに分かった。

 

「今まで、ありがとう」

 

 那美がそう言って、私の手を離して突き飛ばす。

 

「待って!」

 

 その瞬間、鈍い音と共に踏切の音だけが残った。

 

「あ……あ……」

 

 目の前で起きたであろうその出来事に……私は言葉が出なかった……

 

 偶然、何かが私の方に転がって来た。

 

 私はそれを手に取ってみた。

 

 あの時に貰ったパンダのキーホルダーだ……

 

 あの時から、那美はキーホルダーをずっと付けていてくれたんだ。

 

 ……本当に居なくなってしまったのだろうか――

 

 まだ、実感が湧かない。

 

 那美のキーホルダーを握りしめて、

 

 ただただ、悲しみだけが心に残って、まだ暖かい晩夏の風が――私の頬を撫でる。

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