エンちゃんのフィアーズ・ちゃんねる(前半)
ハロー☆ 『探索者』ちゃんたち元気してた? 今日もエンちゃんのフィアーズ・ちゃんねる、ドロドロとやってくよ☆
ところで探索者ちゃんたちは「妖怪」ってどう思う? 「妖怪ウォッチ懐かしいなぁ」「鬼太郎よく見てた」
あー、やっぱそんな感じ? じゃあモンスターは? 吸血鬼とか狼男とかミイラ男とか。
うんうん、「最近マックのCМに出てた」「仮面ライダーキバ思い出す」……やっぱそんな感じだよねー。
「本題はよ」「エンちゃん何系VTuberだっけ?」……はいはい分かってまーす。
今日の都市伝説・洒落怖解説は「ヒサルキ」!
ある保育園の園庭で、木の枝に串刺しにされたトカゲが見つかったんだって。保育園の先生も野鳥の仕業だと思ってたんだけど、
串刺しにされる動物は次はモグラ、その次は野良猫ってエスカレートしてってついには保育園で飼ってるウサギが串刺しにされたんだって。
最初に見つけて何かの事件じゃないかと思った先生は、自分より早く来たっていう園児の子に「何か見てない?」って聞いたんだ。
そしたら一言「ヒサルキが来た」って……
「終わり?」「オチは?」いやいや、こういう投げっぱなしの怖いのが都市伝説の魅力だからね!?
「殺人鬼じゃないの?」「エスカレートしてったら人間串刺しにするとか」うーん、それはそれで怖いかも。
エンちゃんもヒサルキ怖いよー? 上司が今までそんなこと言わなかったのに急に思いつきでやれ大掃除やるぞだの、短期的な目標を作ってやってみようだの……
『ひさ』しぶりのや『るき』。略してヒサルキ!
……ってわけで今日のフィアーズちゃんねるはおしまい! バイバイフィアーズ☆
出ましたモンスター戦隊!
「ったく……」
山道を、青年が一人歩いていた。最低限のアウトドアルックといったいで立ちの、流行りのK-POPアイドルを意識したかのような茶髪のツーブロックカット。
口さがないインターネットの住人からは「女殴ってそう」と誹りを受けそうな風貌は、とても登山青年には見えない。
「ヒサルキめ、こんな山ん中じゃなくて駅前とかに出ろってんだ」
蒸し暑さに顔をしかめ、青年は息を吐く。
「何かお探しかな?」
「あーハイちょっとヒサルキを……うわっ!?」
突如聞こえる女の声に、青年は目の前に誰もいないことに驚き、声のする方を探して目線を下に降ろし二度驚く。
「こんにちは」
目の前に立っていたのは、小学校高学年ほどの年齢の少女だった。青年が少年時代の同級生女子めいたデザインのTシャツとデニムのスカートは、彼以上に山中には場違いである。
「こ、こんにちは……」
「暮府義彦、か」
青年もとい暮府は背中に冷水を流し込まれたかのように固まった。
「ど、どうして」
「どうしてって、拝見したからのう」
そう言って少女がひらひらと見せつけるのは、彼の免許証だった。
「うわっ!?」
ポケットから財布を取り出すと、確かに免許証がない。いかなる手を使ったかいつの間にか抜き取られていたらしい。
「か、返せっ!」
「言われずとも返すわ」
するといつの間にか、免許証は財布に戻っていた。
「ふむ、都内の中堅大学の二年生」
少女の手には今度は暮府の学生証が握られている。
「支払いの類にはルーズ」
学生証と入れ替わりに大量のコンビニのレシートやATMの利用明細が握られる。
「大方、楽して一攫千金を狙うために最近話題の都市伝説『ヒサルキ』の姿を捉えようとこの山に来た……とでもいったところかの?」
図星と言わんばかりに暮府はフリーズする。
「帰れ帰れ。そんな事するくらいならその辺のコンビニで酔っ払いの相手でもしとった方がよほど稼げるわ」
救いようのないバカを前にした態度で息を吐き、手をひらひらと振る少女を前に暮府はカチンと来る。
「うっせーな、お前こそこんな所で何してんだよ子供は帰って宿題やってろ!」
「劉 影凛」
「は?」
「リュウ・エイリン。わらわの名前じゃ。お前、ではなく影凛様とでも呼ぶがよい」
老人か時代劇のお姫様かのような物言いをしながら、少女もとい影凛はじっと暮府を見据える。中国人と思しき名前だが、たしかに姫カットの黒髪やペールオレンジの肌は暮府と同じ東アジア人の身体的特徴を備えているし日本語こそ流暢なものの切れ長の目は日本よりは大陸系の顔立ちである。
「なぁにが様だがきんちょ」
「リンちゃん、でもよいぞ?」
「そういう事言ってんじゃないんだよ」
ウインクする影凛に、付き合ってられないと暮府は鼻を鳴らす。
「あっ、待たぬか!」
「待ちませーん」
そのまま影凛の呼びかけを無視し、早歩きで山道を進んでいった。
「……ない」
影凛と出くわしてから数時間後。陽も落ち始めた山の中で暮府はヒサルキの手掛かりを探していた。ヒサルキの伝承はいくつもあるが、共通する特徴として「動物を害する」というものがある。
ここのところこの山を舞台にしたヒサルキの体験談でもそれは変わらず、山の動物が串刺しなどの変死体で見つかっておりその直後ヒサルキと遭遇したとのことだった。
しかし小鳥一羽、ネズミ一匹として見つからない。
「かといって、ここまで来て諦められるかっていうとなぁ」
そうして歩いていると、何やらうなり声のような声が聞こえてくる。
「ヒサルキか!?」
手がかりを通り越して本物が来たと、声のするほうに向かって駆け出す。
「地の底にましますオシリス神よファラオの名において乞い願います魂に死後の平穏あらんことを」
背の高く肌の浅黒い男が木や草で祭壇のようなものを作り地に跪き祈る姿に、暮府は思わず駆け込んだ勢いのままずっこけた。
「おや、大丈夫ですか?」
ずざざざざ、というスライディング音に気付いた男が、ヘッドスライディングを決めた暮府を助け起こす。
「こんな山の中で野球の練習とは、すばらしい向上心ですが珍しい方ですね」
「いや、あ、ありがとうございます」
自分より一回り年上と思われるアラブ系と思しき男の発言が本気らしいのと、助けてもらった礼とで「いや、あんたには珍しいとか言われたくないんですが」を飲み込みながら暮府はお礼を言った。
「えーと、何をされてたんですか? あっ僕は暮府って言います」
「なるほど……私はカーリスと申します。この山で不慮の事故により命を落とした動物たちの魂を鎮めるため、わが祖国エジプトの法により祈祷をしていたのです」
「そ、そうだったんですね」
確かに、正当な方法による狩猟や生存競争の果てならいざ知らず悪質ないたずらや環境破壊で野生動物が死ぬ例は枚挙にいとまがない。この星に生きる生命として共存する命に敬意を表しその行く末の幸せを願うカーリスを見て、暮府は己の行動に気恥ずかしささえ覚えていた。
覚えていた、のだが……ふと、暮府の視線が木の枝の積み重ねられた一点に留まった。
「あのー、カーリスさん。あの木の枝ってどうしたんですか?」
「向こうの道の行き止まりにあったのです。動物たちが貫かれあまりにも無残でしたのでここで供養を」
「ヒサルキだぁ!!」
気恥ずかしさは求めていたものを見つけた喜びに吹き飛び、暮府はカーリスの指さす方へ突っ走っていく。
「騒がしい人ですね……あっ」
カーリスは視界から消えゆく後姿を見て、アルカイックスマイルな無表情をわずかに揺るがせる。
「しまりました、カーリス反省。皆に連絡しなければ……」
そう言うと、スマートフォンをズボンのポケットから取り出すのだった。
すっかり陽の落ちた山中を、暮府青年が駆ける。周囲には墓地の卒塔婆のように木の枝と串刺しにされた哀れな小動物たちが並んでいる。
(間違いない、この近くにヒサルキはいる……!)
進むごとに木の枝は長く太くなり、『生贄』も小鳥から野兎、シカ、イノシシ、白骨化した人間と大きくなっていく。
白骨化した、人間。
(人間……!?)
暮府の足がはたと止まった。傍らに立つ木の幹を削ったと思われる尖った柱。4、5柱のそれに刺さっているのは年のころも身に着けた衣服の残骸もバラバラな人骨たち……!
「ッ……!!」
怒りと嫌悪が青年の心に立ちこめる。熊の仕業にしては手が込みすぎている。いかれた殺人鬼の仕業とするなら文字通りの力不足だ。こんなことができるのは……!
「ぐふ、ぐふふ、ぐふふふふ」
獣の唸り声とも下卑た笑いともつかぬ声とともに、「それ」は目の前に立っていた。
「目ぼしい連中はあらかた串刺しにした。今度は熊でも串刺しにしようかと思ったが……人間か」
オランウータンとも熊ともつかぬ、人型で毛むくじゃらの怪物は暮府にねばついた視線を向けながらぐふぐふと笑う。
「これをやったのはお前か、何故こんなことを!?」
糾弾する暮府を前に、怪物は冷めた目で相手を見据える。
「知れたこと。魚は泳ぎ鳥は飛ぶがごとく山に立ち入る生物を串刺し殺すが『ヒサルキ』の在り方よ。ぐふふふ、ぐふっ」
ヒサルキと名乗る怪物は己のたくましい一対の腕を振り回し、興奮を現す。
「串刺しに加えてやってもよいが、得られる『畏れ』も頭打ちになってきた。ゆえに貴様はヒサルキを恐れ語り継ぐ役割となってもらう」
「ッ……いいぜ、いくらでも触れ回ってやるよ」
ヒサルキの周囲に立ち上るよどんだ空気に当てられながらも暮府は強気を作る。
「感心、感心。それではヒサルキの畏れの証明として、お前の腕をもらうぞ」
「ごめんやっぱり無理いいいいいいいい!!」
指先に植わったオオナマケモノめいた爪を見せつける怪物を前に、暮府は回れ右して逃げ出した。
「待て、待て、腕を置いていけ!」
「ふざっけんじゃねえ! くれと言われて俺のゴールドフィンガーはあげられないっての!」
山道を暮府が駆け、ヒサルキがそれを追う。ツキノワグマは自動車並みの速度で走れるというが、ヒサルキもまた鈍重そうな外見とは裏腹に軽快な速度で追跡している。暮府は火事場の馬鹿力でなんとか一定の距離を保っている……そんな状況であった。
つまり限られた力を必死に振り絞りなんとか捕まらずに済んでいる人間に対し、潤沢なパワーを持った怪物がとりあえずは捕まえられないでいるといった構図である。
走るごとにだんだんと暮府の息が上がっていく。体力の限界に達しながらそれでも走り続ける。ということは足元を気にしている余裕などはもはやなく。
「うわぁああああああああああああ!!」
張り出した木の根に足を取られ、暮府が崖から転がり落ちるのも仕方のないことであった。