【アーデンティア帝国編 「第二章 風の精霊シルフィード VS 水の精霊ウンディーネ」更新中!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった!   作:初雪空

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追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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第16話 危険を避けるには、直感か幸運が必要だ

 半包囲したデストロイヤー騎士団が立ち直る前に、決める必要がある。

 

 そう思ったティルは、リナを見た。

 

 彼女も見つめ返し、頷く。

 

 次に、倒れたままで上半身を起こしたシャーロットを見た。

 

 けれど、シャーロットが何かを言う前に、再びティルを見つめる。

 

(自分はいいから、彼女を助けてと……)

 

 別の意味だったらコントになるが、今は決断の時だ。

 

 ティルは、重武装の騎士が警戒しているのを良いことに、シャーロットを肩に乗せた。

 

 くるりと背を向けて、全力疾走。

 

 身体強化により、時速40kmを越えた。

 

 肩に載せられ、くの字に折れ曲がっているシャーロットは、激痛よりも自分たちだけ逃走することにびっくりする。

 

「ちょっ! ちょっと!? リナ……リナがまだ残っているわ? 止まって!」

 

 シャーロットは、ちょうど背中側に頭があった。

 

 自分で顔を上げて、遠ざかるリナを見るも、彼女は微笑んだまま。

 

 右手のスピアを構えた重装騎士が、その前に立ち塞がった。

 

「くっ!」

 

 理屈では、逃げるべきだと分かる。

 

 今にも激痛で意識を失いそうで、自分を担いでいるティルを振り払う気力すらない。

 

「あ、うっ……」

 

 考えている間に、シャーロットは意識を失った。

 

 腹を支えにして、ティルの背中に頭が接する。

 

 

 見る見るうちに遠ざかっていく、男女2人。

 

 デストロイヤー騎士団の隊長は、素直に感心した。

 

『思い切りのいい奴だ……』

 

 リナ・ディ・ケーム公爵令嬢を奪おうとすれば、いくらでも殺す手段はあった。

 

 手足の1、2本ぐらいは、壊しても良かったのだ。

 

 けれど、こちらが体勢を立て直す前に倒れたままの女子を担ぎ、最短ルートで走って逃げた。

 

 時間をかけるほど、残り4人は新たな連携を見せて、マジックソード学院の生徒や一般兵が駆け付ける。

 

 ここは、サクリフィ王国だ。

 

『逃がすわけにもいかんな? 2人、飛ばせ!』

 

『『ハッ!』』

 

 2人が答えると同時に、それぞれスピアの先端を遠ざかっていくティルに向けた。

 

 ホバー走行による加速をしながら迫る一方で、回転しているコーン状のスピアが凄まじい勢いで射出される。

 

 直線で逃げていたティルと、気を失ったままで肩にのっているシャーロットを串刺しに――

 

 横殴りの強風が通り過ぎて、必殺のスピアを邪魔する。

 

 狙いからズレたことで、関係ないほうへ突き進み、やがて地面に刺さった。

 

『なっ!?』

『……風魔法の上級であるウィンドストームに、指向性を持たせた?』

 

 槍の部分をなくしたことで、握るためのグリップとその後ろだけになったスピア。

 

 それを持ちながら、ホバー走行をしていた重装騎士がターンする。

 

 新たな敵の出現に緊張するも――

 

『学院の生徒?』

『……我々を援護か、逃げる奴らを狙ったか! 余計なことを』

 

 地面に両足を下ろした重装騎士2人は、マジックソード学院の制服を着た女子に興味をなくした。

 

 彼女も、右手に持っているスモールレイピアの切っ先を下げる。

 

 ティルが逃げ去ったほうを見つめていた。

 

 隊長が、叫ぶ。

 

『戻れ! 聖女リナを護衛しつつ、撤収する! あの女は重傷だ。長くはあるまい……』

 

 乱入したティルは、そもそも殺す対象にあらず。

 

 自己完結した隊長に従い、倒れた1人も運ばれていく。

 

 最後に、隊長は堂々と立ったままの女子を見る。

 

(我々を恐れんか……。怖い女だ)

 

 2つの丸いゴーグル越しに見た隊長は、その女子がわざと邪魔したことに気づいた。

 

 しかし、任務は聖女リナの奪還と、王子を殴り飛ばしたシャーロットの始末か連行。

 

 偶然を装った邪魔にまで、付き合っていられない。

 

 むしろ、上手いやり方だと褒めていた。

 

 射出したコーン2つを含めて、彼らは痕跡を残さずに立ち去る。

 

 

 左腰にスモールレイピアを吊るした、マリカ・フォン・ミシャール。

 

 彼女は、デストロイヤー騎士団の邪魔をして、ティルを守った。

 

「そっかー! オッパイに栄養が集まった女のほうがいいの?」

 

 ボソボソと、怖いことを呟いている。

 

 心配して近寄った女子は、おそるおそる、尋ねる。

 

「だ、大丈夫? さっきのデストロイヤー騎士団って、村1つを焼いたとか噂になっているけど」

 

 その殺戮者のトップは、マリカを油断ならぬ女と評価していたが……。

 

 笑顔のマリカが、答える。

 

「うん、大丈夫! たまには、放し飼いにしたほうがいいよね?」

 

「……へっ? ああ、うん! ペットは、広い場所のほうが喜ぶし」

 

 訳も分からず同意した女子に、マリカは何度も頷いた。

 

 胸元のペンダントを開けて、ジッと見ている。

 

「家族の写真?」

 

 パチッと閉じた後で、マリカが女子に向き直る。

 

「そんな感じ! 足が速いから……。仕込んでおいて、良かった!」

 

 何が良かったの?

 

 そう聞きたかった女子は、かろうじて口を閉じた。

 

 好奇心、ネコを殺す。

 

 彼女は、デストロイヤー騎士団よりも恐ろしい魔の手から逃れたのだ。

 

 本当の恐怖とは、気づいた時に終わるもの。

 

 ともあれ、ティルとマリカは別れた。

 

 今後は、それぞれに人生を歩むだろう。




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