【アーデンティア帝国編 「第二章 風の精霊シルフィード VS 水の精霊ウンディーネ」更新中!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
俺とシャーロットは、サクリフィ王国の王都であるウルティマナへ向かう。
最後の補給となる街で、しばらく滞在。
旅人を泊める宿があり、携帯食や道具を販売しているところは、限られている。
小さな村では、下手すれば村長とかに襲われるのだ。
だから、あえて村の中に泊まらず、昼のうちに通過するケースも多い。
(孕ませれば村に定住するって考える奴も、少なくないからな……)
全員が共犯になれば、完全犯罪だ。
ちなみに、男は身ぐるみを剥がして殺すか、奴隷で売り飛ばす。
旅を続ける遊牧民に至っては、襲撃した村からの略奪婚が常識だったりする。
俺たちも、安心して泊まれる街はありがたい。
けれど、日が暮れたあとの酒場は、非常に騒がしかった。
「ハハハハ! アーデンティア帝国なんぞ、俺らにかかれば案山子だ!」
「あいつらの逃げっぷりは、見物だったな!」
座ったままで振り返れば、騎士の平服や兵士が目立つ。
この酒場の大半を占めて、酒が入ったジョッキをどんどん口に運ぶ。
ドンッと音がして、料理の皿やジョッキが置かれた。
それを持ってきた給仕の若い女は、愛想よく説明する。
「
「ギフテッド騎士団の……。聖女リナって、聞いたか?」
汚れてもいいエプロンをつけている女は、うーん? と悩む。
「さあ? それより、払って!」
「ハイハイ……」
渋らずに、木のテーブルの上に金を並べた。
こういう場では釣りを出さないケースが多く、事前に手数料を払って両替するのがマナーだ。
給仕のチップを含めた金額に、片手ですくった女が驚く。
「わお! お客さん、気前がいいね? 私の好みだし、これでどう?」
ニマーッとした若い女は、片手で指1本だけに。
「悪いけど、連れがいるんだ」
俺の隣をひょいと覗いた女は、自分を見てきたシャーロットと目が合う。
「……ごめんねー! たまには、遊びなよ?」
おざなりに謝った女は、片手をヒラヒラさせつつ、それでも俺に媚びを売りながら離れていった。
騎士や兵士たちの叫びが続き、他の給仕も忙しく動き回っている。
厨房のほうは、戦争のような雰囲気。
息を吐いたシャーロットは、運ばれた料理とドリンクを見た。
「リナは、こいつらといないか……」
「王都の近くで騎士団とやりあったら、速攻で逃げるしかないぞ?」
俺の指摘に、黙ったままのシャーロットが食べ始めた。
大衆向けにしては値段が高く、味は……良いほう。
さっきの給仕が誘ってきたのは、娼婦を兼ねているから。
(といっても、本職ではない)
気が向いた時、あるいは、好みの男がいた、金払いがいい客がいた。
継ぐべき家名や財産がない平民は、自分の意思で春を売る。
そして、人が集まる酒場で給仕する女は、地元の美人が多い。
俺が周りを見たら、さっきのようなやり取り。
「少し、高いだろ?」
「……なら、他の人を探して」
指の数で交渉する男女。
俺に声をかけた女はかなり安くしていたが、金持ちか将来性があると踏んでの先行投資だったようだ。
1階は酒場で、2階の個室がプレイルーム。
むろん、普通に宿泊することも可能だ。
シャーロットのほうを向いて、忠告する。
「目を合わせるなよ? 奴らは酒が入っているし、荒事の直後だ」
「……分かっているわ」
うんざりしたように答えた、シャーロット。
食べ切らないと、金がもったいない。
2人でモシャモシャと食べていたら、男の声。
「おい、嬢ちゃん! こんな場所にいるってことは、待ちだろ?」
「メシも奢ってやるから、俺たちのテーブルへ来いよ」
俺が見ると、下っ端らしき兵士2人だ。
帯剣しているが、護身用の長さだ。
酔っているらしく、赤い顔でフラフラとした千鳥足。
無視したシャーロットの肩に手をかけ、しつこく誘う。
「やめてください」
手を払われたが、兵士たちは怒らず。
「ハハハッ! 可愛いじゃねえか!」
「遠慮すんなって! お前は、どっか別で食え! 俺たちが座る」
シャーロットの隣に座っている俺は、乱暴に肩を突き飛ばされそうになった。
とっさに足を滑らせて回避しつつ、床ギリギリに沈み込み、近い兵士の足を押すことで払う。
「うおっ!?」
ドターンと倒れた兵士に、酒場が静かになった。
誰もが動きを止め、俺たちのほうを見る。
注目を浴びた、もう1人の兵士は、顔を真っ赤にしながら、殴りかかってきた。
「てめぇええっ!」
前へ踏み込みつつの半身で拳を避けつつ、正面から相手の首を押しつつ下へ落とす。
バターンと、もう1回の大きな音。
精神的なショックを受けた兵士2人は、立ち上がりつつ、どちらもダガーを抜く。
「お前……。俺たちをギフテッド騎士団の二旗隊と知ってのことか!?」
「やめとけ! 刃物を抜いたら、もう喧嘩じゃなくなる」
叫びながら、片手のダガーを振り回してくる2人。
激怒した酔っ払いだけに、簡単に避けられる。
小さな風切音が響き、女の給仕が悲鳴を上げた。
俺たちの近くにいた客は慌てて逃げ出し、遠くにいる奴らは無責任にヤジを飛ばすだけ。
(やれやれ、面倒なことになった……)