【アーデンティア帝国編 「第二章 風の精霊シルフィード VS 水の精霊ウンディーネ」更新中!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった!   作:初雪空

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追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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第26話 私に、死んだ魚を愛でる趣味はありません……

二旗(にき)に請求してくれ」

「……畏まりました」

 

 ララ・リーメルトの宣言で、俺とシャーロットは夜会に出られそうな正装になった。

 

 貴族が出入りするような店を出て、馬車で乗り付けたのは、同じく高級店。

 

 広い個室に案内され、丸テーブルを囲む。

 

 お互いに自己紹介を済ませれば、ナスターシャ・フィルスが頭を下げた。

 

「知らぬ事とはいえ、大変失礼いたしました……」

 

「あなたの対応は、当然でした」

「私は、気にしていません」

 

 俺とシャーロットが許したことで、柔らかい雰囲気になった。

 

 ロリロリしたララが、興味深そうに俺を眺める。

 

「君が、マリカちゃんの想い人……。で、そちらが恋人?」

 

 笑っているが、目は真剣だ。

 

 そのプレッシャーを受けたシャーロットは、身を固くした。

 

「いえ、その……」

 

「瀕死だったので、やむなく助けました。そのような威圧は、止めてくれませんか?」

 

 俺の指摘に、ララは表情を変えた。

 

「へえ~? そのオッパイ、ずいぶん気に入ったようだね? マリカちゃんの好意を知らないと? 伯爵令嬢と並び立つには、そんな好き勝手に――」

「やめてください」

 

 当の本人からのストップで、ララは黙った。

 

 マリカ・フォン・ミシャールは、ララを見据えたまま、言い切る。

 

「私に、死んだ魚を愛でる趣味はありません……」

 

 息を呑んだララは、マリカを見た。

 

「君は……いや、止そう! すまなかったね、2人とも?」

 

「いえ」

「…………」

 

 雰囲気が悪くなったが、マリカは問いかける。

 

「じきに、アーデンティア帝国との戦争です! ティルは、どうするつもり?」

 

 全員の視線が、集まった。

 

「俺か……」

 

 彼女たちの視線から逃れるように、天井を見る。

 

「どうしたものかね? 少し、席を外す」

 

 立ち上がり、トイレに行くことを宣言した。

 

 そのまま、夜風に当たる。

 

「……何の用だ?」

 

 俺が呼ぶと、ガシャリと金属のすれる音。

 

『お前たちに、良い話を持ってきた……。聖女リナを連れ出すための』

 

 くぐもった、男の声。

 

 そちらを見れば、暗がりから重装甲の騎士が出てきた。

 

 丸いヘルメットに、顔を覆うだけのマスクに丸い眼鏡のような目。

 

 グポンッと、光った。

 

『驚かないのだな?』

 

 俺が戦った、デストロイヤー騎士団だ。

 

 今は武器を持たず、敵意も感じられない。

 

「いずれ、相対するとは思っていた」

 

 肩を震わせた死神は、話を続ける。

 

『ククク……。今は、やらんよ! まさか、今連れ出すとは考えていないな?』

 

「二旗の隊長、副隊長とも、殺し合いになるだろう! 王都に集まっている戦力の全てから逃げ切る自信はない。あんたを含めてだ」

 

 愉快そうに笑った男は、思わぬ提案。

 

『それは、そうだ! 物は相談だが、俺たちの仲間にならないか?』

 

 眉をひそめた俺に、顔を見せない男が説明する。

 

 

 席に戻れば、女たちが不安そうな顔だった。

 

 気を遣われたから、笑顔で応じる。

 

 別れ際に、全てを察したようなマリカが俺を見た。

 

「ティル? あなたの好きにして……」

 

「俺は、お前が何であろうと、態度を変える気はない」

 

 目を見張ったマリカは、やがて呟く。

 

「ありがとう……」

 

 背を向けたマリカは、馬車に乗り、立ち去った。

 

 近寄ったシャーロットに、話しかける。

 

「よく、我慢した」

「……ここからリナと逃げ出すのは、無理だもの」

 

 頷いた俺は、歩きながら説明する。

 

「策がある! リスクもある……。俺は乗るが、お前はどうする?」

 

 全てを聞いたシャーロットは、悩み出す。

 

 

 ◇

 

 

 俺とシャーロットは、デストロイヤー騎士団の重装甲を身につけていた。

 

 ガシャリと音を鳴らしつつ、前へ歩く。

 

 周りの騎士、兵士たちは、恐れをなして退いた。

 

 顔を見せていないことから、俺たちの正体はバレない。

 

 先導する隊長は、前を見たままで言う。

 

『聖女リナに手が届くところまでは、案内しよう……。あとは、お前たち次第だ』

 

『どうして、こんな真似を?』

 

 その質問に、立ち止まった隊長が振り向く。

 

『俺は、ティエリー王子を好かぬ……』

 

 前を向いた隊長は、再び歩き出す。

 

 俺たちも、その後に続く。

 

(ティエリー王子と、何かあった? もしくは、敵対する派閥か)

 

 やつに大恥をかかせるか、失脚させたいのだろう。

 

 いずれにせよ、このチャンスを活かすだけ。

 

(とはいえ、ここはサクリフィ王国軍の中心……。リナを連れて脱出するのは、不可能に近い)

 

 マリカたちと会った夜、この隊長から提案された。

 

 聖女リナがいる場所まで案内してやろう、と……。

 

 罠?

 

 そうだろう。

 

 罠でなくても、これは破滅する可能性が高い。

 

 しかし、隊長から言われずとも、これが最初で最後のチャンスだ。

 

(でなければ、リナに近づくことすら無理)

 

 そして、他にも懸念がある。

 

『帝国は、どうして寡兵(かへい)で戦を?』

 

 再び立ち止まった隊長は、顔が見えなくても困惑した様子で答える。

 

『それだ……。俺も、それが気掛かりでな? 奴ら、何か企んでいるぞ?』

 

 前を向きかけた隊長は、俺に向き直る。

 

『貴様らが助かるとすれば、それだろう……。お前には、指揮官か参謀の素質があるな?』

 

『まだ命があれば、考えてみます』

 

 俺のジョークに、隊長は肩をすくめた。

 

 今度こそ、聖女リナがいる場所へ向かう。

 

 いよいよ、サーヴァス会戦が始まるのだ。




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