【アーデンティア帝国編 「第二章 風の精霊シルフィード VS 水の精霊ウンディーネ」更新中!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
アーデンティア帝国のシュトゥルム・コマンドは、どいつも白兵戦の武器を構えた。
ロングソード、バトルアックスと、叩き切るのにぴったりな両手持ちばかり。
途中から失われたバトルアックスを持つ男は、俺を見たままで、ジリジリと下がった。
次の戦闘に入る前に、宣言する。
「俺は、もう行く! この中にティエリー王子殿下と高位貴族の令嬢がいるから、人質にするといい」
隊長らしき男が正面から歩み出て、ヘルメットの前を上げた。
精悍な顔が、俺を見据える。
「仕えている主人を売る気か? 裏切り者に、居場所はないぞ?」
どうやら、俺が保身のために命乞い、と考えたようだ。
騙されるのを警戒しての尋問、でもある。
俺は、首を振った。
「サクリフィ王国に恩はない……。勘違いしているようだが、俺は女に養われても、国に仕える気はないし、その覚えもない」
呆気にとられた男は、苦笑する。
「ハハハ! なら、どうしてここに?」
時間がない。
腐っても王国の司令部だけに、そろそろ態勢を整えた精鋭が押し寄せる。
そう思った俺は、ズバリ言う。
「王子と敵対している! 中にいる聖女リナを逃がしてやりたくてな……」
探るように見ていた男は、ニヤリと笑う。
「どこかのスパイか、その王子が邪魔な派閥か……。よし、いいだろう!」
コテージの扉を大きく開ければ、中を覗き込んだ男は納得した。
王子が縛られたままで気絶していて、こちらを見た女子2人に敵意がないことから、床で絶命している男を刺したあとで部下にハンドサインを出す。
ガシャガシャと動き出した連中が、出てきた女子2人の身元を確認しつつ、王子を担架で運び出した。
ヘルメットの前を下げて、顔を隠した男が、こちらを見た。
「俺たちは引き揚げるが……。お前は?」
言外で、協力した見返りに連れて行ってやるぞ? と告げてきた。
首を横に振った俺は、説明する。
「貴殿の申し出に感謝する! しかし、俺にはやることがあるのでね?」
「……武運を祈る」
アーマーに覆われた片手を上げた男は、来たときのように走り去った。
やがて、何らかの動力の音が響き、けたたましく遠ざかる。
俺は、何気なく片手を振った。
その先を見たあとで、息を吐く。
「あいつ……」
――
マリカ・フォン・ミシャールの言葉を思い出した。
(あいつが、四元素の1つである風の……シルフィード)
空へ打ち上げるように飛んでいった彼女と、俺のこれまでの身体能力を考える。
マリカのお気に入りだったことで、加護を受けていたとすれば……。
「どこまで、俺の力やら!」
一から十まで風の精霊による動きであれば、俺はとんだピエロだ。
すると、風が吹いて、地面に文字を描く。
“どれだけ速くても、普通はそれを制御できないわ”
“それに、ティルが剣に魔法を付与できなかったのは、私が妨害していたから”
「ちょっと待て! お前のせいで、俺はマジックソード学院を除籍されて、実家を勘当されたのか!?」
“加護とは呪いでもあるの! もう少しであなたを飼えたけど、しばらく自由にさせてあげるから”
「今、すごく恐ろしい表現があったけど? 飼うって、何?」
“光栄に思いなさい……。四元素の加護を受けられる人間は、そういないわ”
「女に飼われる男は、確かに珍しいな?」
地面に描かれる文字に1人で突っ込んでいたら、周りに人の気配。
立ち上がれば、ロングソードの切っ先。
「貴様、何者だ! 王子殿下をどこへ――」
キーンと、金属音が響いた。
切断された切っ先が地面に刺さる、トスッという音が続く。
近衛騎士は、途中から失われたロングソードを突きつけたままで唖然とする。
片手で払った俺は、武器を構えて包囲する奴らを見た。
「下がれ……。すぐに撤退しろ! この戦は負けだ! 残っていたら、帝国軍の本隊がやってくるぞ?」
「帝国の犬か! 先ほどの奴らは逃がしたが、貴様だけでも!」
それに呼応するように、魔法剣による攻撃の気配。
「やれ!」
身体強化で後ろへ大きくジャンプした近衛騎士の命令で、四方から炎が襲いかかるも――
俺の周囲で渦巻いた強風により、その炎は円柱の壁となった。
「やった! 見たか、帝国の手先がっ!?」
空へ吹き上げて、火柱となった後で、俺は何事もなかったように立つ。
「言っただろ? あいつが言ったことが事実なら、もう陣形は崩壊してんだ……。遊んでいる暇なんぞ、ねええんだよおおっ!」
その場で繰り出した右拳は、その先に強風を作り出し、ドヤ顔から驚きに変わった近衛騎士を後ろへ吹き飛ばす。
次に、自分を浮かせるよう、地面から少しだけ離した。
「部隊をまとめて、撤退しろ……。俺が、帝国の本隊を足止めする」
命令していた近衛騎士――恐らくは隊長――が味方を巻き込んで倒れたことで、次の魔法剣を準備していた騎士や駆け付けた兵士たちは、呆然としたままで聞いている。
その隙に、俺は立っていた場所から司令部のエリアを飛び越えるように跳ねて、地面から浮かぶような位置で止まりつつ、帝国軍の正面への直線ルートをとった。
(二旗の隊長と副隊長は、知らん顔でもない……)
王国を去るというのなら、ついでに帝国軍を混乱させておくのもいいだろう。