【アーデンティア帝国編 「第二章 風の精霊シルフィード VS 水の精霊ウンディーネ」更新中!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった!   作:初雪空

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追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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第31話 強いからではなく、それを当然としていることが怖いんだ

 サクリフィ王国軍の正面に展開していた、ギフテッド騎士団の二旗(にき)隊。

 

 隊長のララ・リーメルトが、自身を隠せるほどの大剣による魔法を振るい、何とか陣形を維持している有様だった。

 

 離れた場所にいたアーデンティア帝国の部隊は吹き飛ぶも、全体が押していることから士気旺盛。

 

 犠牲に構わず、正面から迫りくる。

 

 左右にいる一旗(いっき)三旗(さんき)が崩れたことは、伝令と偵察で分かっていた。

 

 包囲されつつあるのだ。

 

 隊長というには小柄なララは、肩を上下させつつ、副隊長のナスターシャ・フィルスを見た。

 

「ナーちゃん……。こりゃ、ダメだね! せめて、後ろにいる部隊は逃がそうか?」

 

 同じく疲れ切っているナスターシャが、頷く。

 

「ええ! 正面から来ているのは、何でしょう? 馬車……にしては、頑丈すぎる」

 

 それは、蒸気で動く戦車だった。

 

 正面装甲が固く、歩兵を蹴散らし、障害物を吹き飛ばすための武装も。

 

 マスケット銃が主力だけあって、原始的だ。

 

 しかし、時間のかかる魔法剣や、剣や槍で攻撃する部隊には十分すぎる。

 

 何しろ、数と機動力が違う。

 

「ザッと見ただけで、50?」

「……そーだね!」

 

 ナスターシャの問いかけに、ララは投げやりに答えた。

 

 もはや、横に並んでいる戦車は手が届くほど。

 

 背中を見せれば、文字通りに轢き殺される。

 

 それに、自分たちの後ろは王国軍の司令部。

 

 責任を果たそうと、次の魔法を準備しつつ、全体の指揮を――

 

「風が……やんだ?」

 

 最初に気づいたのは、ナスターシャだった。

 

 ヒュウオオォッと、いずこかへ吸い込まれるような引き。

 

 タイヤと思しき駆動で迫りくる戦車は、その感傷を気にすることなく、ただ距離を詰める。

 

 ダアアアンッ!

 

 すさまじい音が、突破されている戦場に響いた。

 

 迫りくる戦車の正面が大きく凹み、続けて重力が横になったように後ろへ吹き飛ぶ。

 

 遅れて、周りを全て吸い込むような強風が吹き荒れ、戦車部隊もたまらずに状況を確認する。

 

 上から顔を出した車長らしき男が、原因を探った。

 

「何が――」

 

 その顔が後ろへのけぞり、気絶したまま、逆方向へ叩きつける。

 

 装甲に覆われた戦車に乗っている帝国軍すら、異常すぎる光景に停止。

 

 いっぽう、全体を見ていたララは、一連の行動をした青少年のほうを向いたまま。

 

「……ティル君?」

 

 戦場に行く前の、最後の息抜き。

 

 マリカ・フォン・ミシャールのお気に入りとして紹介された男子だ。

 

 そこには、素手のままで立つティル。

 

 けれど、その雰囲気が違う。

 

 帝国軍の指揮官らしき声が、増幅されて響く。

 

『撃て――っ!』

 

 歩兵では持ち運べない武装が、ティルのほうを向き、一斉に砲弾を飛ばした。

 

 蒸気カタパルトによる、投石と似た、原始的だが十分な破壊力がある攻撃。

 

 けれど、魔法剣を極めた1人であるララは、肌で感じていた。

 

(通用しない!)

 

 耳がおかしくなるほどの轟音が響き、その破片による衝撃波と土煙が辺りを覆うも、ヒュウオオォッと呼吸する音。

 

『見たか、我が軍の新兵器を! いくら強くても、たった1人で――』

 

 次の瞬間に、戦車の群れが外側へ吹き飛び、あるいは、側面から大きく潰れた。

 

 土煙が収まったあとには、片手を横に振り切ったティルの姿。

 

 呼吸をしながら、その片手でゆっくりと拳へ握りこむ。

 

「帝国に戻れ! さもないと、死ぬぞ? お前ら……」

 

 ここは戦場だ。

 

 1人の発言など、気にする人間もいない。

 

 そのはずだった……。

 

 なのに、武器を持っていない青少年の呟きが、主戦場に響き渡る。

 

 ララは、直感的に悟った。

 

(違う! 立場があるとか、強いとかじゃない……。この子は)

 

 仮にも、王国軍の精鋭だ。

 

 その隊長を務めているため、色々な人間を見てきて、評価した。

 

 生まれながらの立場を自慢する奴がいた。

 

 鍛え上げた体やスキルを誇る奴もいた。

 

 しかし、この青少年は次元が違う。

 

(これだけの力を振るえば、普通は気分が高揚するはず……)

 

 ボクですら、魔法剣を面白がり、しばらく調子に乗っていた。

 

 だが、どうだ?

 

 戦局を変えるほどの力を示しながらも、退屈そう。

 

 生まれながらの気質、メンタリティは、どれだけ訓練しようと変わらない。

 だとすれば、この青少年は――

 

(器が違う……。いや、もう人間を辞めているのか!?)

 

 すると、ティルは帝国軍の司令部がある方角を見た。

 

「分かっているんだぜ? その馬車は、まだ未完成……。これから、お前らの司令部だか動力の中心部を叩くから、今のうちに撤退しな!」

 

 言うが早いか、ティルの姿が消えた。

 

 何もない空間でパアンッと破裂音が響き、その左右でやはり戦車部隊が吹っ飛んでいく。

 

 副隊長のナスターシャが、進言する。

 

「ララ! いまのうちに!」

「……分かってる! 各隊は負傷者を救護しつつ、撤退しろ! それぞれの指揮官、騎士は、その責任を果たせ!」

 

 機動力と装甲で迫っていた戦車部隊は、壊滅した。

 

 まだ無事な車両も、混乱している。

 

「深追いするな! それより、後ろへ下がるぞ! こんなところでムダ死にをするな!」

 

 ララは、取り残された敵兵を殺しながら追撃している味方に叫んだ。

 

 必死に自軍へ逃げ帰っている敵兵、戦車。

 

 ナスターシャが、指示を出している間に話しかける。

 

「あの少年……強いですね? どこが落第生なんだか!」

 

 しかし、力なく首を振ったララは、指摘する。

 

「違うよ、ナーちゃん……。強いだけなら、ちっとも怖くない! あんな強さを示しながら、それを当たり前にしていることが異常なんだよ」




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