【アーデンティア帝国編 「第二章 風の精霊シルフィード VS 水の精霊ウンディーネ」更新中!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった!   作:初雪空

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追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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第38話 マリカさん、怒ってる(後編)

 1人だけマッチョな、タイロン。

 

 他の騎士たちは、乙女ゲーに出てきそうだ。

 

 いや、タイロンだって、女によっては好みだろう。

 

 風の精霊シルフィードこと、マリカ・フォン・ミシャールは、どこにもいない。

 しかし、いないからこそ、都合がいいのだ。

 

 勝手に、結婚式を挙げると……。

 

 納得できないタイロンは、両手の拳をギュッとしたまま、上げている。

 ファイティングポーズだが、妙に可愛い。

 

 同年代の若者たちも、慣れた様子でなだめる。

 

 その時に、取り巻きを引き連れた若い男が、ドヤ顔で風の神殿の奥へ歩いていく。

 

 注目した若者たちは、小さな声で会話。

 

「フラヴィオだ……」

「おーおー! あの得意げな顔!」

「ティエリー王子が即位すれば、シルフィード騎士団のトップ間違いなしか」

 

「サーヴァス会戦でぶん殴られ、騎士服を奪われたと知った時は、大笑いだったけどなあ……」

 

 実は、デストロイヤー騎士団の隊長が殴って連れてきたのが、このフラヴィオ。

 

 エレメンタル騎士団、その一部であるシルフィード騎士団の制服を奪われ、あわやスパイ容疑……とはならず!

 

 父親がジェルマーノ公爵で、立場をなくしたティエリー王子を擁立する代わりに、息子の名誉挽回として、マリカとの結婚を認めさせたのだ。

 

 シルフィードの夫となるフラヴィオは、その強さや履歴に関係なく、伝説の人物へ。

 

 

 ◇

 

 

「ジェルマーノ公爵……。やはり、私が――」

「いやいや! ティエリー様、そのお話は終わったではありませんか!」

 

 エドゥアルド・ジェルマーノ公爵は、まだ言うのか、この馬鹿は。と呆れつつも、取り成した。

 

 いっぽう、ティエリー・レ・サクリフィ王子は渋る。

 

「だがな? マリカは、私を助けに来た……。であれば――」

「殿下は、我がジェルマーノ公爵家の支援がなくても? 同じく会戦に立ち会った息子に栄誉を譲る代わりに、我が家は全力でお支え申し上げる。そのミシャール伯爵令嬢がいないから、十分な根回しや他の貴族を押さえることが肝要!」

 

 言葉に詰まったティエリーは、やがて息を吐く。

 

「ミシャール伯爵は?」

 

「自分の領地へ逃げました! ご心配なく、公爵家として押さえますので」

 

 

 やがて、正装になった関係者が、風の神殿の広い場所へ集まる。

 

 シルフィード騎士団と神官たち、本来は立ち会う必要がない文官や見学者も……。

 

 ワイワイと騒がしい広間で、ティエリー王子が話し出す。

 

「私は風の精霊シルフィードに助けられ、みなの前にいる! 密かにそのマリカ・フォン・ミシャール伯爵令嬢と会い、愛の告白をされたのだ!」

 

 おおー! と、どよめく群衆。

 

 満足げに頷いたティエリーが、語り出す。

 

「しかし、伯爵令嬢とでは釣り合わない……。私は泣く泣く断り、サーヴァス会戦にいたシルフィード騎士団のフラヴィオに譲ることにした! 知っての通り、彼は公爵令息だ! マリカ嬢にも、納得してもらった」

 

 何か言いたげな群衆に、エドゥアルドが先手を打つ。

 

「私としても、断腸の思いです……。しかし、シルフィード様が納得した以上、それに反することは殿下とシルフィード様のどちらにも失礼! せめてもの償いとして、息子のフラヴィオに誠実な対応をさせたく存じます」

 

 群衆の中に紛れているサクラが拍手を行い、静かに広まっていく。

 

 ここで、ドヤ顔のフラヴィオ。

 

 上にいる神官によって、儀式的な結婚が進められていく。

 

 花嫁がいない結婚式はあり得ないが、風の精霊シルフィードとなれば、むしろ神秘的。

 

 それに、神殿に祀られている女神像で事足りる。

 

 やがて、地面が揺れ始めた。

 

 それは小さく、最初は自分の感覚を疑うぐらいだったが。

 

 どんどん大きくなり、広間の高い天井が崩れ始める。

 

 慌てふためき、逃げ出そうとする群衆。

 

 しかし、警備の兵士や騎士が出入口や壁際にいて、詰まってしまう。

 

「おい、退けよ!」

「外に出してくれ」

 

 警備している側は、群衆を一斉に外に出したら、風の神殿の権威が失われると思う。

 

 大勢で押し合う状態が続く中で、いよいよ天井が崩れ始めた。

 

 けれど、その個所は、結婚式をやっている前のほうだけ。

 

「な、何だ?」

 

 地面の揺れが収まったことから、誰かが振り向きながら、呟いた。

 

 全員の視線が集まるのを待っていたように、空と繋がった天井の穴から突風が吹きこむ。

 

 外側へ押し出すような流れで、誰もが両腕をクロスしつつ、耐えた。

 

 再び、祭壇があるほうを見ると――

 

 そこには、地面のすぐ上に浮かんでいる女がいた。

 

 背中に、輝く翼が一対。

 

 ミルクティー色のロング。

 

 視線を感じたのか、振り向いた時に明るい茶色の瞳が見えた。

 

 若い女だが、その雰囲気とプレッシャーは尋常ではない。

 

 選ばれしフラヴィオは、満面の笑みに。

 

「おおっ! 我が妻よ――」

 

 一瞬で接近したマリカのアッパーが、フラヴィオのあごを下から跳ね上げる。

 

 縦に浮かんだ奴は、爪先による追撃で天井の穴から飛び出していく。

 

 後ろに一回転したマリカも、瞬間移動のように追いかけた。

 

 ロケットのように飛んでいくフラヴィオを追い越して、組んだ両手による打ち下ろしへ。

 

 逆再生のように地上へ落下したフラヴィオは、結婚式を行っていた場所でクレーターを作った。

 

 ふんっと鼻を鳴らしたマリカが、上空でどこかへ飛んでいく。

 

 我に返った人間がクレーターを覗き込めば、そこには倒れ伏したフラヴィオの姿。

 

「あ、あが……」

 

 声を漏らしたことから、まだ生きているらしい。

 

 今の連撃に耐えることで、一生分の運を使い切ったようだ。




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