【アーデンティア帝国編 「第二章 風の精霊シルフィード VS 水の精霊ウンディーネ」更新中!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
フィラブー守備隊の基地を包囲していた部隊。
水の精霊ウンディーネによる権能で疑似的に地面の上を滑りつつ、泥沼に変えた地面に埋めることで止めた奴らを無力化。
(前にも戦ったからな……)
サーヴァス会戦で蒸気機関を叩いたら、全体の戦力が一気に下がった。
今回も、主要な動力を叩きつつ、野戦司令部らしき場所を制圧したことで終わる――
ヒュウウウウッ
耳をつんざくような風切り音がどんどん近づき、地面が大きく凹みつつ炸裂。
それも、いたるところで。
基地のほうにも着弾していて、悲鳴や破壊音が聞こえる。
立っている俺の耳に、空を見上げている指揮官の呟き。
「バカな……。味方ごと!?」
「まだ、何かあるのか?」
俺のほうを見た指揮官は、苦々しげに、顔を背けた。
しかし、素直に答える。
「おそらく、上空にいる飛行船だ……。爆弾を落としているのだろう」
「ふーん?」
俺たちが見上げている間にも、大きな物体が降ってきては爆発する。
「フラン、もういい! こいつらを動けるようにしてやれ!」
いきなり叫んだ俺に、周りが注目する。
近くの水たまりが揺れて、フランソワーズの可愛い声が響く。
『ハーイ! ティルは?』
「上に飛んで、飛行船を叩く! お前らは、離れたほうがいいぞ?」
唖然としたままの指揮官たちに告げるや否や、下にゴムのような弾力がある細長い部分を作って、勢いよく背中から落ちる。
沈み込んだと思えば、次の瞬間に視界が青一色に変わった。
◇
飛行船「スレッジハンマー」
前後に細長い風船のような巨体で、下部に吊り下げられたブリッジ。
パノラマビューの窓があるところに、偉そうな軍服を着た男が立っている。
「ああ~! これで、味方殺しかよぉ……」
傍に立っている若い女が、すぐに突っ込む。
「船長、士気が下がることは言わないでください!」
「分かってるって……。爆弾は?」
船長の命令に、副官か参謀らしき女が答える。
「ほぼ、落としました! まだ上空にいますか?」
「……帰るよ! 取ーりかじ!」
自棄になった船長の号令に、女が合わせる。
「取舵いっぱい! 戦域から離脱しま――」
ドオオンッ
ぶつかる物がない空で、ブリッジが揺れた。
船長が、すぐに命令。
「状況!」
操舵士、航海士などが、すぐに動く。
「敵の攻撃が当たった模様!」
「……左舷の動力に、ダメージ!」
けれど、伝声管から、驚くべき報告。
『こ、後部より、侵入者! 制圧できませんっ!』
伝声管に取りついた船長が、叫ぶ。
「敵の規模は!?」
『……ひ、一人です! ひぃいいいっ!』
ドタバタとした音、悲鳴が伝わってくる。
「おいっ! どうした? ……くそっ! 総員、白兵戦よーい! 本船の後部に敵が乗り込んだ! 各自で迎撃しろ! 攻撃を許可する!!」
別の伝声管に叫んだ船長は、自身も腰のホルスターからリボルバーを抜いた。
「お前らも、護身用の武器をチェックしろ! すぐに、ここへ来る!」
慌ただしく、ブリッジ要員がリボルバーを抜く音。
支給されていないクルーは、船長と副長が持っていたキーで解錠された武器庫から短めの剣、同じく取り回しがしやすいマスケット銃を手にする。
交代で、大慌ての準備。
特に、先込め式のマスケット銃は、弾丸を前から詰めたうえ、チューブによる蒸気の充填も行う。
蒸気圧をチェックした際の、プシューッという甲高い音と高温が、嫌でも実戦を意識させた。
その間にも、各ポジションと繋がっている伝声管が、敵の接近を知らせてくる。
人がいるのは、飛行船の下部にある船体だけ。
当たり前だが、逃げ場はなく、隠れられるスペースもない。
ブリッジの空気がどんどん張り詰めて、唯一の出入口のドアに銃口が向く。
次に入ってきた者は、誰であろうと助からない。
前線の兵士ですら、誤射は珍しくない。
まして、航空機の士官となれば……。
暴発していないだけで、練度が高いほう。
ガチャン! ギィイイッ
気圧を保つように設計されたドアが、ゆっくりと開く。
それを合図に、誰かが発砲して、残りが続いた。
耳がおかしくなる轟音がブリッジを支配するも――
黒い人影はいきなり上に跳ね、天井からすごい勢いで落下する。
跳ねるゴムボールのような、人外の動き。
跳弾による混乱もあり、全員が敵の位置やコンディションを確かめようと――
青少年といえる侵入者は、1人の前にダンッと着地しながら、反動の勢いで武器を持つ腕を蹴り上げた。
白兵戦に慣れていない人物は武器を手放し、続く打撃で後ろへ吹っ飛ぶ。
それに気づいたクルーで、剣を持つ者が斬りかかる。
だが、彼が片手を振るえば、その剣は半ばから斬り飛ばされた。
唖然とするクルーは、襲撃者がそのまま回転しての蹴りでやはり宙を舞う。
と思えば、何の予備動作もなく、姿が消えた。
人は、想像して観る。
膝を曲げたバネによる跳躍、体の向きを変えての走り出し。
けれども、彼は違う。
棒立ちのままで、いきなり消える。
そのあり得ない動きは、戦い慣れていない士官たちを翻弄。
もはや、どこにいるのかも不明だ。
気づけば、後ろから首筋にダガーを突きつけられた船長の声が響く。
「こ、降参する! お前らも、武器を捨てろ!」