【アーデンティア帝国編 「第二章 風の精霊シルフィード VS 水の精霊ウンディーネ」更新中!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
急角度で地面へ突っ込む、飛行船。
斜めになった床に、下へずり落ちつつ、せまいブリッジにいる誰もが悲鳴を上げ、パノラマに広がる部分による特等席を堪能する。
斜め下へ落ちないように近くのものにしがみつく、船長の男に尋ねる。
「手動で姿勢を戻せないか?」
「無理だ! そもそも、このスレッジハンマーで知っているのは極わずか!」
同じく、別のところにしがみつく副長の女が叫ぶ。
「さっきの話では、自動操縦に切り替えたようです! この角度とスピードじゃ、脱出も無理!」
他のクルーは、もう悲鳴を上げるか、遺言のようなセリフ、所属している帝国軍を恨む暴言だけ。
水の権能で自分を固定しつつ、船長に告げる。
「下の部分だけ、落下させるぞ?」
「それができたら、苦労しねえよぉおおおおっ!」
もはや、顔芸とツッコミの担当になった船長。
俺は構わずに、飛行船で浮かんでいる前後の細長い部分から吊り下げられている接続部分を水のカッターで切る。
(上に人がいるかもしれんが、もう間に合わん!)
ついでに、下の左右にある推進器とやらも、魚をさばくようにザクッと……。
投下される爆弾のように、俺たちは急激な落下へ。
「うあああああああっ!」
「キャアァアアッ!」
ブリッジ内は、阿鼻叫喚だ。
「フラン! 上のほうは、どっかへ蹴り飛ばせ!」
『……うん、分かった!』
人が乗っている下の部分だけ、普通に落ちていく。
すごい顔になっている船長が、こちらを睨む。
「おい! どおおおおするんだよおおおおおおっ!」
「減速させる」
落下している先に、受け止めるようにゴムっぽい水の膜。
ぐにょーんと下へ凹みつつ、衝撃緩和。
そのままでは、上へ跳ねるだけ。
第二、第三の膜で、受け止め続ける。
未知の感覚と、何が起きているか不明なため、周りの悲鳴は続く。
やがて、地面と思えない感触で、無事に着地した。
「はい、到着!」
命の危険の直後でぐったりする面々だが、船長はそれでも顔を上げた。
「お、お前……。いい加減にしろよ……」
「あの親衛隊に言え! とりあえず、外に出るか……」
水のカッターで、歪んだ外殻の一部をドアのように切り取った。
内側から水圧をかけてやれば、バンッと、弾け飛ぶ。
「もう、何でもアリだな……」
ツッコミ役となった船長に構わず、歩いて外へ。
下へ飛び降りて、サクサクと歩けば――
ゴウンゴウンと、重苦しい音が上空から降り注ぐ。
まるで上に別の大陸があるような影で、覆われる。
(戦闘用の飛空艇か? さっきの親衛隊のやつが乗っているのだろう……)
見るからに攻撃的なデザインで、下部にある大砲のような部分を下へ向けている。
すると、先ほどの親衛隊の男の声。
『告げる! 我々は、アーデンティア帝国だ! そちらに水の精霊ウンディーネがいると聞いた……。こちらが砲撃と爆撃を行えば、諸君は誰一人として助からんぞ? その人物を引き渡せば、諸君の安全は保障しよう。食料などの提供をしても構わん! 捕虜になっている友軍も、寛大に扱おう! 親衛隊の名で、約束する』
んんー?
「さっきと、言っていることが……」
そこで、気づく。
「脅しで取り込めるなら、それに越したことはない?」
ここで、話題になっているウンディーネ、フランソワーズちゃんの声。
『どうする? 僕でも、あの大きさでの攻撃はいつまでも防げないし、殺さずには無理だよ?』
「そっちの様子は?」
『あんまり良くない……。元々、なし崩しの状態だったし! 特に、フィラブー基地の守備隊や、さっき撤退できずに残った部隊は、そろそろ攻撃してきそう』
まあ、時間の問題だったし……。
「仕方ない! フラン、上の飛空艇を――」
『待って! ああ、もうっ! こんな時に!!』
珍しく、フランの焦った声。
俺のほうでも、異変に気づく。
(風が、変わった?)
乾燥していた空気が、肌をすり上げていく。
砂漠らしい風は、急に止まった。
と思えば、急に空高くへの竜巻。
周りの砂や小石を巻き上げるも、不思議と当たらない。
風の一部が、ゆっくりと人の形をなしていく。
明るい茶色の瞳が2つ、先に俺を見ている……。
マジックソード学院で、よく見た顔。
ミルクティー色をしたロングが、自身の風でなびく。
マリカ・フォン・ミシャールだ!
美人ながらも可愛い顔で、俺と正面から見つめ合ったまま。
耳に馴染んだ声。
「久しぶり、ティル!」
「ああ……」
思わず、後ずさりつつの返答。
影のある笑顔で、マリカは瞬間移動のように正面から抱きついた。
そのまま、下におろした片手で優しく握る。
至近距離で、俺を見たまま……。
「ウンディーネから助けるのが遅れて、ごめんね? それとも……」
探るような目になったマリカが、笑顔のまま、低い声になった。
「もう、あの女じゃないと満足できない?」
これまでの間にも、マリカの片手が動き続ける。
んー? という感じで、下から覗き込む彼女に、答える。
「と、とりあえず……。あの空に浮かんでいるのを倒さないと」
ようやく片手を離したマリカは、数歩だけ、後ずさった。
「フフ……。私に飽きたわけじゃないようね?」
ニマーッとした笑顔で、動かしていた手の指をなめる。
「そうね! ちょっと、邪魔だわ!!」
パアンッ!
何もない空間が破裂したと思ったら、マリカが消えた。
(風の精霊シルフィード……)
この大空は、彼女のものだ。