【アーデンティア帝国編 「第二章 風の精霊シルフィード VS 水の精霊ウンディーネ」更新中!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
水の精霊ウンディーネのフランソワーズは、地上に立ったまま、唾を吐いた。
「気が済んだ? そろそろ、おうちに帰ったら?」
風の精霊シルフィードである、マリカ・フォン・ミシャール。
彼女も、ゆっくり息を吐いた。
「あなたが帰りなさい! 人の男を奪っておいて……」
ニヤッとしたフランソワーズは、両手を腰に当てる。
「やだやだ! 捨てられた元カノのくせに――」
「ティルは、久々の再会で私の指に喜んでいたわよ? そっちは……あらあら! そんな未発達のボディじゃ、とても興奮しないかぁ」
反応で見抜かれたフランソワーズは、激怒した。
マリカの真下にある地面から、水の槍が突き出る。
けれど、相手の視線と雰囲気から読んでいたマリカは、あっさりと避けた。
ブレるように消えて、別の場所に出現する。
空中だろうと、お構いなしだ。
宙を舞うマリカが、頭を下にしたままで呟く。
「おっと?」
地上に立ったままのフランソワーズの手の動きで、水の龍となり、空中でいくつも襲い掛かる。
破裂するような音と主に、その龍の群れは空中で爆ぜた。
背中に一対ある輝く翼で飛ぶ、マリカ。
「ハハハ! 次は、どうするの?」
文字通りに、キリがない。
決め手に欠くフランソワーズだが、それはマリカも同じ。
四元素の2つが戦っても、決着がつくわけがない。
地上への影響も無視できず、どちらもティルへの被害を気にする。
彼がいなければ、フィラブー基地とそこにいる人々はとっくに消し飛んだ。
ティルがいなければ、四元素の精霊が戦うこともない――
違う!
気にすることがない彼女たちは、それぞれに人類を抹消するだけ。
◇
地上で見上げているベティ・フォン・トロッケルは、考える。
(このままじゃ、ウチらも助からん!)
隣に立っているイヴリン・リュトヴィッツが、呟く。
「ど、どうしましょう?」
「ティルに説得させれば、あるいは……。いや、もう博打やな!」
息を吐いたベティに、イヴリンが尋ねる。
「その根拠は?」
「風の精霊シルフィードも、ティルに執着しとるようだけど……。すでに交戦に入ってるから、どっちも納得せんやろ?」
イヴリンは、少し考えた後でうなずく。
「ええ……。難しいでしょうね? だけど、他の男を紹介するとか、落としどころはあると思いますが」
腕を組んだベティは、難しい顔だ。
「それやけど……。嫌な予感がするわ! 聖女リナの話やと、『四元素の精霊は、人とは違う価値観、思考になる』だったろ?」
「はい! でも、年頃なら、恋愛ぐらい――」
「これほどの破壊力と、殺しても死なない存在……。リナの話と併せれば、たぶん人としての感情が希薄か、ほとんどない! だから、大量虐殺もできる」
ゴクリと唾を呑み込んだイヴリンは、空と地上を問わない、大迫力のバトルに目を向けた。
「え? じゃあ、どうしてこれほどの痴話喧嘩を……」
「ウチの最悪の予想ではなー? あの2人、ティルしか恋愛対象にならん」
「はあっ!? ちょっ! ちょっと、待ってくださいよ? なら、どっちかを消滅させるまで、この戦いが続くんじゃ……」
首肯したベティが、イヴリンを見上げた。
「せやで? 理由は分からん……。ひとまず停戦させるにも、ティルに発言させて内容を間違えたら、あの2人のお気持ち表明でウチらは死ぬ」
「ぐぇええっ……」
絞め殺された鶏のように呻いた、イヴリン。
けれど、そのティルに、もう争うな! と言わせるしかない。
周りを見渡せば、先ほどのマイクパフォーマンスを聞いていた中で目端が利くやつらは同じ考えのようだ。
ティルをじろじろと見るか、部下に指示を出している。
両手を下ろしたベティが、ため息をつく。
「あかん……。帝国軍のやつらがティルに手を出して、それに気づいた精霊2柱が一緒にウチらを殺し出す未来しか見えんわ!」
「ど、どうにかしないと!」
イヴリンが叫ぶも、ベティは首を横に振るだけ。
「万策、尽きたわ! 目の前の絶対的な死を前にしたら、管理できそうなティルを人質に、言うことを聞かせたくもなる」
「そんなこと……」
「ああ、そうや! さっきも、精霊たちは一瞬で水や風による破裂や吹き飛ばし! 想い人を傷つけられたくなかったらと脅した瞬間に、そいつらが文字通りに地形ごと消えるわ! でも、希望があれば縋るのが、人間や」
言いながら、自分のリボルバーの銃把をなぞるベティ。
「あの! いえ、何でもありません……」
自分で自分の頭を撃ち抜く意図を感じとったイヴリンは、思わず声をかけるも、すぐに黙った。
そして、運命の瞬間がやってくる。
親衛隊の大尉の声。
「水の精霊ウンディーネと、風の精霊シルフィードに告げる! こちらは、君たちが奪い合っているティル君の身柄を押さえた! 我々の要求に従わなければ、彼がどうなっても知らんぞ?」
凄まじい音や風で満たされていた野外で、いきなり静寂。
空中にいるマリカと、靴の底に固定した水を張り付けて同じ高さにいるフランソワーズは、声がした方向へ振り向いた。