【アーデンティア帝国編 「第三章 悪徳の都に舞い降りたメスガキ」スタート!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
乗客の金を巻き上げたフランソワーズは、懲りずに始末しようと企んだ乗客から小型のマスケット銃で撃たれた。
それが命中して頭の半分を削り取るも、どこぞの液体人間のように戻った彼女に笑顔で見つめられ、乗客は銃を落とした。
「アアアアアアッ!」
ニコニコしながら見るだけのフランに、絶叫しつつ、窓の外へ身を投げ出す。
時速40kmぐらいの車から飛び降りれば、タダでは済まない。
頭から急いで飛び降りた直後に、ゴキッと骨が折れる音がするも、走り続けているバスでは想像するのみ。
「自分からとは、手間が省けていいね!」
その後の車内で響くのは、タイヤからの振動だけ。
笑顔のフランソワーズは、停止した蒸気バスから降り立った。
殺しても死なないフランに注目されないよう、自分の席でピクリとも動かない乗客たちを気にせず、周りを見る。
水の都ヴァッサーシュタットの看板と、観光客らしき集団。
歌っているような音楽が、いくつも聞こえる……。
息を吐いたフランは、リュックサックを背負ったまま、宿を探す。
――数時間後
ヴァッサーシュタットは、大きな観光地だ。
デアゼー教の拠点もあるが、多国籍の人々が行き交い、宿泊施設や店も豊富。
懐が暖かくなったフランソワーズは、高い宿を選んだ。
反政府ゲリラの彼女は、誰も信用しない。
一通りの設備と上の階からの広い景色を見たら、リュックサックを背負い直して、観光へ……。
白い壁が目立つ、砂漠によくある建物が集まっている住宅地。
乾いた空気が辺りを包み、全てを焼き尽くすような日差しを防ぐため、頭にターバンを巻くか帽子をかぶっている人も多い。
通り抜ける風が、舞い上がった砂と熱気を運ぶ。
むき出しの広い地面では車と呼ばれる蒸気機関が走っていて、すみを人が歩く。
かと思えば、建物との間には路地裏である生活用の通路も。
そちらは薄暗く、たいして価値がない物の置き場か、ゴミの一時的な集積場のようだ。
地上には高めの位置に通気用の細長い穴があるぐらいで、窓はない。
2階に窓があるも、星や植物らしき模様である格子、あるいは垂れた布で中が見えず。
ただの布もあれば、一枚絵のようなデザインになっているタペストリーも。
人の流れに沿っていけば、路面に面している1階がそのまま開放的な店が並ぶ通りへ……。
日除けの屋根がある屋外カフェに客がいるも、周りでは食材などの調達が多いようだ。
(暑い……。夜に来れば、ちょうどいいね?)
ガラガラでも、その店に悲壮感はない。
たぶん、そういうこと。
フランソワーズも、屋台で比較的安全な焼いただけの肉や野菜と、その場で作ってくれるフルーツジュースを買った。
壁を背にしつつ、飲み込むように立ち食い。
すると、気になる案内を目にする。
“ミスルヒヤ王国の展示”
ここは、アーデンティア帝国のはず。
どうやら、滅んだか、吸収された王国があったらしい。
デアゼー教の聖地となれば、そのルーツだろう。
――帝国博物館
入場料を払い、ミスルヒヤ王国の展示スペースへ。
注目されているらしく、見学者でごった返した場所。
スリ、触れられることを警戒したフランソワーズは、距離をとる。
張られたロープの内側には、古ぼけた石板、あるいは、古い絵画による記録。
遠目になったフランソワーズが、何とか見ようと――
「ここは、イシス女王が治める国だったのさぁ! 一面の砂漠を緑豊かな土地にした初代女王の名前を代々継承して……。おっと! 今は水の精霊ウンディーネ様のおかげと言わなければ、マズいねぇ? イヒ、ヒヒヒ!」
そちらを見れば、魔女のような格好をした老人がいた。
コートと一体化したフードをかぶっていて、しわがれた声から、女。
猫背でうつむいた様子の婆さんは、ツボに嵌まったらしく、自分のセリフに笑い続けている。
そちらを向いたフランが、尋ねる。
「誰?」
「アティーファ……。そう、呼びな!
その提案で、フランが尋ねる。
「お前、ここの人間だね? 観光客にたかっているの?」
「失礼なやつだ……。お前が探している聖女リナとシャーロットを知っていると、言えば?」
目を細めたフランが、アティーファに言い返す。
「その2人がいるとは、もう聞いたよ? 今でも、象徴としてのイシス女王がいるはずだよね?」
石板の文章を翻訳した掲示物を見られるところに水滴レンズを作っていたフランは、真剣な表情に。
「アティーファは、今代の本名だ!」
「ああ……。同じ名前がいたって、不思議はないだろう? 縁起がいい名前にすれば、そんなものさ」
トーンダウンしたアティーファは、相変わらず、皮肉たっぷりの口調だ。
警戒するフランに、老婆が告げる。
「今は、帝国とウンディーネ様がいる! 女王が生きていようと死んでいようと、大差はないさ……。ヒヒヒ!」
呆れたフランが言い返そうとした瞬間に、制服を着たスタッフの声。
「失礼します! フランソワーズ様で、いらっしゃいますね?」
「だったら?」
自然体で準備するフランだが、スタッフは封書を差し出して、すぐ立ち去った。
その場で破り、流し読み。
「ヘト・ネテルで、2人を引き渡す……。ふうん?」
「初代のイシス女王の聖域だ! 半地下の場所に大きな石を
思い詰めた様子のアティーファが頭を下げたことで、フランは肩をすくめる。
「別に、いいよ? どうせ、これ以外じゃ2人に接触できないだろうし……」