【アーデンティア帝国編 「第三章 悪徳の都に舞い降りたメスガキ」スタート!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった!   作:初雪空

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追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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第58話 相手が悪かった

 観光客たちの墓場となった、ヘト・ネテル。

 

 広いエントランスホールで、アティーファが奥へ歩いていく。

 

 100人が入っても余裕があり、2人が縦に並んでも手が届かない高さだが、閉じ込められたことを意識すれば、圧迫感でパニックに陥りそうだ……。

 

 しわがれた老婆の声で、アティーファが説明する。

 

「ここは、イシス女王と神官たちが儀式をする場じゃ! 大勢が入れるように作られていて、歴代の女王へ感謝を捧げる意味もある」

 

「へー! 詳しいんですね? まあ、『死んだ後に復活する』という教えですし」

 

 他人事のように、ガイドの若い女が相槌を打った。

 

 先頭にいる2人に対して、ゾロゾロとついていく面々は憂鬱そう。

 

 やがて、広い地底湖にぶつかる。

 

 立ち止まったアティーファは、後ろを向く。

 

「この世とあの世を区切っている湖じゃ! つまり、向こうに見えている場所があの世というわけだ」

 

「そこまでは、知っているぞ? まさか、泳いで渡れと?」

 

 知的な爺さんが、嫌味を交えての質問。

 

 いっぽう、若い女が首を横に振り、とある場所を指さす。

 

「あそこに、遊覧船を停泊させています! 本来は地底湖をグルリと回るだけですが、非常事態なので奥へ進みましょう」

 

 縦に細長い、現代でいうカヌーを大型にしつつ優美なデザインである木造船を見たアティーファが、顔を見せないままで呆れた。

 

「女王の船だぞ!? ハアッ……。まあ、良い! ここでお主らと立っていても、仕方ない。妾(わらわ)が許す」

 

 10人ぐらいは楽に乗れるため、次々に足を踏み入れた。

 

 オタクっぽい男が、文句を言う。

 

「お、俺たちがオールで漕げと? あっ……」

 

 ロープを外した後で、木造船はゆっくり動き出した。

 

 気まずい男は、口を閉じる。

 

 静かな水面をかき分け、ザアアッという音が響く。

 

 上から差し込む光により、幻想的な光景が広がっている……。

 

 両端に陣取った観光客が、それぞれに水面を覗き込む。

 

 教授と呼ばれた老爺(ろうや)は、助手のような若い男と話す。

 

「見たまえ! 水が腐っていない……。おそらく、地下水路と繋がっている」

「……そうですね」

 

 いっぽう、アティーファは中央の椅子に座り、堂々たるもの。

 

 一番細くなっているうちで、前方にある船首に女ガイドの姿。

 

 気になったフランソワーズが、そちらに近づく。

 

「どうかした?」

 

「この人が気になって……」

 

 女ガイドの前には、1人が立っている。

 

 ミイラだから男女の区別もつかないが、ボロとはいえ、貫頭衣(かんとうい)を纏っている。

 

「んー、邪魔だなー!」

 

 女ガイドは、ミイラを避けるように左右から前を覗き込む。

 

 すると、横から回り込んだフランが、思いっきり蹴飛ばした!

 

 驚いたリナとシャーロットは、それぞれに叫ぶ。

 

「えっ?」

「ちょっと、待ちなさい!」

 

 しかし、物理法則は無常だ。

 

 与えられたベクトルに従い、横へ吹っ飛んでいくミイラ。

 

 心なしか、くぼんだ穴2つだけの顔も、納得していない雰囲気だ。

 

 干物だから、バシャンという音も軽い。

 

 いっぽう、それを成した本人は、悪びれることもなく、あっさり告げる。

 

「ほら、空いたよ?」

「……何をしているの! えっ?」

 

 自慢の巨乳を揺らしつつ、シャーロットが抗議するも、すぐに驚く。

 

 まるでミイラが飛んで行った軌跡をなぞるように、フランも宙を舞った。

 

 バシャーン!

 

 先ほどよりも派手な着水音が、女王の船に乗っている人々の耳に届いた。

 

 

 ――地底湖の中

 

 引きずり込まれたフランソワーズが、口からブクブクと空気を吐き出しつつ、自身をこうした元凶と向き合う。

 

 それは、自分が蹴飛ばしたミイラ……。

 

 日光が差し込み、透明な水中を照らしているものの、動くはずのないミイラがフランにしがみつき、話せるはずのない口を動かす。

 

『お前の罪を裁く』

 

 男女の区別もつかない、低い声。

 

 不思議と、フランは明瞭に聞き取れた。

 

 呼吸できないまま、動きを封じるように手足で抱き着いたミイラと共に――

 

 そのミイラは、急に下降を始めた。

 

 抗えない水流が、ミイラを下へ押し流す。

 

 驚いたミイラが手足をばたつかせて、フランを巻き添えにしようとするも、上へ浮上しようとする動きのままで深度が深い暗闇へ消えていく。

 

 その雰囲気は、理不尽すぎるだろ? と告げていた。

 

 まったく動揺しないフランは、ジェット水流があるかのように水面を目指す。

 

 水の精霊ウンディーネに水中で喧嘩を売ったほうが悪い!

 

 この世界は、残酷なんだ……。

 

 

 ――女王の船

 

 リナとシャーロットが、左右の端から水面を覗き込んでいる。

 

 他の面々も、恐る恐る、そちらを見たまま。

 

 すると、地底湖の水面が盛り上がり、その中心からフランソワーズが飛び出した。

 

 空中でクルクルと縦回転を繰り返しつつ、船の上に着地。

 

「「「わぁああっ!」」」

 

 その衝撃によって、左右に揺れるも、誰も落ちずに済んだ。

 

 バランスを取り戻した船の上で、ずっと中央の椅子に座っていたアティーファが、しわがれた声で独白する。

 

「神への背信(はいしん)の罪ぐらいでは、死なぬか……。まあ、そうでなければ」

 

 フードで顔を見せぬまま、クククと笑った。

 

 アティーファが言う通り、ここが王族の墳墓なら、この先にも危険はあるだろう。




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