【アーデンティア帝国編 「第三章 悪徳の都に舞い降りたメスガキ」スタート!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
観光客たちの墓場となった、ヘト・ネテル。
広いエントランスホールで、アティーファが奥へ歩いていく。
100人が入っても余裕があり、2人が縦に並んでも手が届かない高さだが、閉じ込められたことを意識すれば、圧迫感でパニックに陥りそうだ……。
しわがれた老婆の声で、アティーファが説明する。
「ここは、イシス女王と神官たちが儀式をする場じゃ! 大勢が入れるように作られていて、歴代の女王へ感謝を捧げる意味もある」
「へー! 詳しいんですね? まあ、『死んだ後に復活する』という教えですし」
他人事のように、ガイドの若い女が相槌を打った。
先頭にいる2人に対して、ゾロゾロとついていく面々は憂鬱そう。
やがて、広い地底湖にぶつかる。
立ち止まったアティーファは、後ろを向く。
「この世とあの世を区切っている湖じゃ! つまり、向こうに見えている場所があの世というわけだ」
「そこまでは、知っているぞ? まさか、泳いで渡れと?」
知的な爺さんが、嫌味を交えての質問。
いっぽう、若い女が首を横に振り、とある場所を指さす。
「あそこに、遊覧船を停泊させています! 本来は地底湖をグルリと回るだけですが、非常事態なので奥へ進みましょう」
縦に細長い、現代でいうカヌーを大型にしつつ優美なデザインである木造船を見たアティーファが、顔を見せないままで呆れた。
「女王の船だぞ!? ハアッ……。まあ、良い! ここでお主らと立っていても、仕方ない。
10人ぐらいは楽に乗れるため、次々に足を踏み入れた。
オタクっぽい男が、文句を言う。
「お、俺たちがオールで漕げと? あっ……」
ロープを外した後で、木造船はゆっくり動き出した。
気まずい男は、口を閉じる。
静かな水面をかき分け、ザアアッという音が響く。
上から差し込む光により、幻想的な光景が広がっている……。
両端に陣取った観光客が、それぞれに水面を覗き込む。
教授と呼ばれた
「見たまえ! 水が腐っていない……。おそらく、地下水路と繋がっている」
「……そうですね」
いっぽう、アティーファは中央の椅子に座り、堂々たるもの。
一番細くなっているうちで、前方にある船首に女ガイドの姿。
気になったフランソワーズが、そちらに近づく。
「どうかした?」
「この人が気になって……」
女ガイドの前には、1人が立っている。
ミイラだから男女の区別もつかないが、ボロとはいえ、
「んー、邪魔だなー!」
女ガイドは、ミイラを避けるように左右から前を覗き込む。
すると、横から回り込んだフランが、思いっきり蹴飛ばした!
驚いたリナとシャーロットは、それぞれに叫ぶ。
「えっ?」
「ちょっと、待ちなさい!」
しかし、物理法則は無常だ。
与えられたベクトルに従い、横へ吹っ飛んでいくミイラ。
心なしか、くぼんだ穴2つだけの顔も、納得していない雰囲気だ。
干物だから、バシャンという音も軽い。
いっぽう、それを成した本人は、悪びれることもなく、あっさり告げる。
「ほら、空いたよ?」
「……何をしているの! えっ?」
自慢の巨乳を揺らしつつ、シャーロットが抗議するも、すぐに驚く。
まるでミイラが飛んで行った軌跡をなぞるように、フランも宙を舞った。
バシャーン!
先ほどよりも派手な着水音が、女王の船に乗っている人々の耳に届いた。
――地底湖の中
引きずり込まれたフランソワーズが、口からブクブクと空気を吐き出しつつ、自身をこうした元凶と向き合う。
それは、自分が蹴飛ばしたミイラ……。
日光が差し込み、透明な水中を照らしているものの、動くはずのないミイラがフランにしがみつき、話せるはずのない口を動かす。
『お前の罪を裁く』
男女の区別もつかない、低い声。
不思議と、フランは明瞭に聞き取れた。
呼吸できないまま、動きを封じるように手足で抱き着いたミイラと共に――
そのミイラは、急に下降を始めた。
抗えない水流が、ミイラを下へ押し流す。
驚いたミイラが手足をばたつかせて、フランを巻き添えにしようとするも、上へ浮上しようとする動きのままで深度が深い暗闇へ消えていく。
その雰囲気は、理不尽すぎるだろ? と告げていた。
まったく動揺しないフランは、ジェット水流があるかのように水面を目指す。
水の精霊ウンディーネに水中で喧嘩を売ったほうが悪い!
この世界は、残酷なんだ……。
――女王の船
リナとシャーロットが、左右の端から水面を覗き込んでいる。
他の面々も、恐る恐る、そちらを見たまま。
すると、地底湖の水面が盛り上がり、その中心からフランソワーズが飛び出した。
空中でクルクルと縦回転を繰り返しつつ、船の上に着地。
「「「わぁああっ!」」」
その衝撃によって、左右に揺れるも、誰も落ちずに済んだ。
バランスを取り戻した船の上で、ずっと中央の椅子に座っていたアティーファが、しわがれた声で独白する。
「神への
フードで顔を見せぬまま、クククと笑った。
アティーファが言う通り、ここが王族の墳墓なら、この先にも危険はあるだろう。