【アーデンティア帝国編 「第二章 風の精霊シルフィード VS 水の精霊ウンディーネ」更新中!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった!   作:初雪空

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追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~)
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第6話 脳筋に知識のアップデートはなく、取り返しもつかない

 元父親のエルド・スターンがマジックソード学院から付き添ったマリカ・フォン・ミシャールに目をつけたことで、空気が一変した。

 

 引きつった笑みのマリカは、ようやく自己紹介する。

 

「私は、マリカ・フォン・ミシャール伯爵令嬢です! 今のお話は、聞かなかったことに――」

「ハッハッハッ! 軽々しく爵位を言ったら、いけないよ? 伯爵家に、君のような令嬢はいない」

 

 エルドが、頓珍漢なことを言い出した。

 

 …………

 

 ああ、そうか!

 

 こいつ、自分の派閥をまとめているほうの伯爵だと思っているのか!

 

 騎士爵なんて、目の前の敵を倒せば、それでいいからな……。

 

(男爵なら、こういった話は最初に叩きこまれるだろうが)

 

 そう思いつつ元母親のナディネ・スターンを見れば、口を出す気はないようだ。

 

(夫のエルドに逆らえば、自分が困るからねえ? こんなもんか!)

 

 こんなアホでも、ノダック村の独裁者だ。

 

 マリカが激怒した場合、俺も困る。

 なぜなら、最寄りの大きな街までの旅費を出してもらう必要があるから。

 

(筋肉バカの騎士爵が騒いでも、相手にされない。口約束だけで、とにかく帰るか?)

 

 今度は、俺が視線を送った。

 

 それを受けたマリカも、うんざりした表情から同じ意見のようだ。

 

「スターン(きょう)? その件は、持ち帰って検討いたします。お父様に相談しないと……」

 

 翻訳すると、お前の暴言をミシャール伯爵に報告するから、首を洗っておけ。

 

 しかし、貴族の言い回しが通用しないエルドは満面の笑み。

 

「そうか、そうか! うむ! お前の父親にも言わないとな! ナディネ、彼女の婚礼衣装などを準備しておけ」

 

「えっ! あの……」

 

 状況を理解している元母親は、オロオロする。

 

 マリカの父親であるミシャール伯爵が知ったら、貴族としての派閥が異なっても騎士爵なんぞ一瞬でクビだ。

 

 そもそも、騎士爵は貴族ではない。

 

 代官として赴任すれば、立場上は貴族ってだけ。

 

(何なら、物理的に首が飛ぶ……)

 

 向き合って座る俺やマリカを交互に見るも、フォローなし。

 

 マリカは怒りながら微笑んでいるし、たった今、勘当された俺は他人だ。

 

(元父親と、せいぜい元気でな?)

 

 復讐する気はないが、アホの肩を持って追い出した人間にすがるな。

 

 エルドを潰すと決めたマリカは、立ち上がった。

 

「では、失礼いたします……」

 

「せっかくだから泊まっていけ、と言いたいが……。早く、父親に言わないとな!」

 

 意味深な笑みを浮かべたマリカが、それに応じる。

 

「ええ……。楽しみになさってください」

 

 もはや、マリカが自分の息子の嫁になったかのような扱いだ。

 

 相手にされなくなった俺も、立ち上がる。

 

 旦那を横目に近づいてきたナディネが、話しかけてくる。

 

「ティル! お父さんに――」

「言いたければ、自分で言えよ? 他人になった俺に、すり寄ってくんな」

 

 自分を養っているエルドに良い顔をしながら、必要な事実は他人に言わせてヘイト回避ってか?

 

 冗談じゃない!

 

「だって……」

 

 立ちすくむナディネを放置して、屋敷の外へ出れば――

 

 村の若い奴らが剣を振っていた広場に、馬車が停まっていた。

 

(家紋が描かれている……。貴族らしき中年男と、その息子……にしては余所余所しいな?)

 

 貴族に目をつけられないよう、村の連中は遠巻きに囲んでいる。

 

 それに対して、マリカと一緒に歩いているエルドは得意げに歩み寄る。

 

「ジャコメオ・ヴァルガ子爵! ちょうど、良かった! 俺の息子になるテリヒトにぴったりの嫁を見つけましたぞ?」

 

 敬語と言いにくい呼びかけに、ジャコメオは顔をしかめた。

 

 しかし、マリカを見て、驚いた顔へ。

 

「ほう! 村に、これほどの美人がいたとは……。良かったな、テリヒト? 六男として子爵家を出ても、楽しい生活になりそうだ」

 

 少し間が空いたことで、このオッサンが愛人にしたかった雰囲気だが、ここは昼の村の中。

 

(大勢に、注目されている……。追い出す息子から奪えば、悪い噂になるよな?)

 

 貴族にしては子供を作りすぎで、愛人がいるのだろう。

 

(空きが出たとはいえ、六男にも仕事を紹介するか! 面倒見はいい)

 

 俺が傍観者になっていたら、テリヒトと呼ばれた男子はニヤニヤする。

 

「はい、父上! ……ヴァルガ子爵」

 

 マリカの正面で向かい合い、貴族の令息らしい会釈。

 

「では、レディ……。エスコートさせていただきます」

 

 テリヒトが、ぎこちない動きでマリカの片手を取ろうとしたら――

 

 パアンッ!

 

 スナップを利かせたビンタで、テリヒトが差し出した手は弾かれた。

 

 思わぬ展開に、目を丸くする一同。

 

 手を払ったマリカは、俺を指差しつつ、宣言する。

 

「私は、あの方と婚約しています! 手に触れたければ、彼を倒してからにしてください」

 

 恥をかかされたテリヒトは、痛む手をさすりつつ、驚く。

 

「なっ!?」

 

 ジャコメオは、無表情に。

 

「どういうことかね、スターン卿?」

 

「いいいい、いえ! これは、彼女なりの冗談で――」

「冗談ではありません」

 

 マリカの返事で、逃げ道は塞がれた。

 

 俺がテリヒトと決闘する流れも……。




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