【アーデンティア帝国編 「第二章 風の精霊シルフィード VS 水の精霊ウンディーネ」更新中!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
元父親のエルド・スターンがマジックソード学院から付き添ったマリカ・フォン・ミシャールに目をつけたことで、空気が一変した。
引きつった笑みのマリカは、ようやく自己紹介する。
「私は、マリカ・フォン・ミシャール伯爵令嬢です! 今のお話は、聞かなかったことに――」
「ハッハッハッ! 軽々しく爵位を言ったら、いけないよ? 伯爵家に、君のような令嬢はいない」
エルドが、頓珍漢なことを言い出した。
…………
ああ、そうか!
こいつ、自分の派閥をまとめているほうの伯爵だと思っているのか!
騎士爵なんて、目の前の敵を倒せば、それでいいからな……。
(男爵なら、こういった話は最初に叩きこまれるだろうが)
そう思いつつ元母親のナディネ・スターンを見れば、口を出す気はないようだ。
(夫のエルドに逆らえば、自分が困るからねえ? こんなもんか!)
こんなアホでも、ノダック村の独裁者だ。
マリカが激怒した場合、俺も困る。
なぜなら、最寄りの大きな街までの旅費を出してもらう必要があるから。
(筋肉バカの騎士爵が騒いでも、相手にされない。口約束だけで、とにかく帰るか?)
今度は、俺が視線を送った。
それを受けたマリカも、うんざりした表情から同じ意見のようだ。
「スターン
翻訳すると、お前の暴言をミシャール伯爵に報告するから、首を洗っておけ。
しかし、貴族の言い回しが通用しないエルドは満面の笑み。
「そうか、そうか! うむ! お前の父親にも言わないとな! ナディネ、彼女の婚礼衣装などを準備しておけ」
「えっ! あの……」
状況を理解している元母親は、オロオロする。
マリカの父親であるミシャール伯爵が知ったら、貴族としての派閥が異なっても騎士爵なんぞ一瞬でクビだ。
そもそも、騎士爵は貴族ではない。
代官として赴任すれば、立場上は貴族ってだけ。
(何なら、物理的に首が飛ぶ……)
向き合って座る俺やマリカを交互に見るも、フォローなし。
マリカは怒りながら微笑んでいるし、たった今、勘当された俺は他人だ。
(元父親と、せいぜい元気でな?)
復讐する気はないが、アホの肩を持って追い出した人間にすがるな。
エルドを潰すと決めたマリカは、立ち上がった。
「では、失礼いたします……」
「せっかくだから泊まっていけ、と言いたいが……。早く、父親に言わないとな!」
意味深な笑みを浮かべたマリカが、それに応じる。
「ええ……。楽しみになさってください」
もはや、マリカが自分の息子の嫁になったかのような扱いだ。
相手にされなくなった俺も、立ち上がる。
旦那を横目に近づいてきたナディネが、話しかけてくる。
「ティル! お父さんに――」
「言いたければ、自分で言えよ? 他人になった俺に、すり寄ってくんな」
自分を養っているエルドに良い顔をしながら、必要な事実は他人に言わせてヘイト回避ってか?
冗談じゃない!
「だって……」
立ちすくむナディネを放置して、屋敷の外へ出れば――
村の若い奴らが剣を振っていた広場に、馬車が停まっていた。
(家紋が描かれている……。貴族らしき中年男と、その息子……にしては余所余所しいな?)
貴族に目をつけられないよう、村の連中は遠巻きに囲んでいる。
それに対して、マリカと一緒に歩いているエルドは得意げに歩み寄る。
「ジャコメオ・ヴァルガ子爵! ちょうど、良かった! 俺の息子になるテリヒトにぴったりの嫁を見つけましたぞ?」
敬語と言いにくい呼びかけに、ジャコメオは顔をしかめた。
しかし、マリカを見て、驚いた顔へ。
「ほう! 村に、これほどの美人がいたとは……。良かったな、テリヒト? 六男として子爵家を出ても、楽しい生活になりそうだ」
少し間が空いたことで、このオッサンが愛人にしたかった雰囲気だが、ここは昼の村の中。
(大勢に、注目されている……。追い出す息子から奪えば、悪い噂になるよな?)
貴族にしては子供を作りすぎで、愛人がいるのだろう。
(空きが出たとはいえ、六男にも仕事を紹介するか! 面倒見はいい)
俺が傍観者になっていたら、テリヒトと呼ばれた男子はニヤニヤする。
「はい、父上! ……ヴァルガ子爵」
マリカの正面で向かい合い、貴族の令息らしい会釈。
「では、レディ……。エスコートさせていただきます」
テリヒトが、ぎこちない動きでマリカの片手を取ろうとしたら――
パアンッ!
スナップを利かせたビンタで、テリヒトが差し出した手は弾かれた。
思わぬ展開に、目を丸くする一同。
手を払ったマリカは、俺を指差しつつ、宣言する。
「私は、あの方と婚約しています! 手に触れたければ、彼を倒してからにしてください」
恥をかかされたテリヒトは、痛む手をさすりつつ、驚く。
「なっ!?」
ジャコメオは、無表情に。
「どういうことかね、スターン卿?」
「いいいい、いえ! これは、彼女なりの冗談で――」
「冗談ではありません」
マリカの返事で、逃げ道は塞がれた。
俺がテリヒトと決闘する流れも……。