【アーデンティア帝国編 「第三章 悪徳の都に舞い降りたメスガキ」スタート!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
ヘト・ネテルの探索は、まだ続く。
封鎖されていた空間で毒ガスの部屋を突破した一行は、人数を減らした。
それでも、奥へ進むしかない。
最初の入口は、とっくに巨石で塞がれたのだから……。
「吹き抜けの踊り場か……。ゾッとしないね?」
リーダーの役割になったフランソワーズは、大人数がいても動きやすい展望台のような平面から下を覗いた。
空気の流れがあるようで、下から上へ強い風が吹いている。
落下防止と景観を兼ねて意匠的な柵があるものの、あいにく上は石の天井で、下は底が見えない暗闇。
恐る恐る、フランの横に並んで、同じように下を覗き込む。
しわがれた声で、アティーファが呟く。
「階段で下へ行けば、最奥にたどり着くじゃろ! 規模と凝った彫り物から、偽の通路とは思えん。女王の
言うが早いか、壁面に沿ってぐるりと回っていく下り階段へ向かった。
「待て! 1人では、危険だ!」
小柄な老婆を、同じく爺さんの教授が追う。
助手の若い男も続き、釣られた面々はおっかなびっくり、円柱にくりぬかれた竪穴の壁面を階段で降りていく。
その中に、ショートカットで元気そうな若い女と、仲が良さそうな若い男の姿も……。
カップルの背中を見つめつつ1人だけ残ったロングの若い女は、落下防止の柵にある手すりにもたれて、ため息をつく。
憂鬱な視線の先は、下にある真っ暗な闇。
「そんなことをしても、意味ないよ?」
思わぬ声で、後ろを見た。
薄暗い空間に、フランが立っている……。
「もう、降りたんじゃ――」
「さっきの女に男を取られて、飛び降りたい? そうすれば、あの2人の記憶に残るし、とても幸せには暮らせないだろうからね」
図星を指されて、女は気まずそう。
「いやー! 僕も似たような状況でね? 他の女を殺すに殺せないから、共有という話になってきた」
顔をひきつらせた薄幸そうな美女が、初めて興味を持った。
「それで、いいの?」
「……良くないんだけど、仕方ないからねえ! お前も、そうすれば?」
今にも飛び降りそうだった雰囲気から、真剣に悩む。
「でも、2人が納得するわけない――」
「こんなところで無駄死にして呪うよりは、前向きだと思うけど」
それは、そう。
「あの男だって、他の女を気に入ったり、抱いたりするよね? 女2人で囲っておけばその心配もないし、3人でも楽しめる……。ほら、いいことだらけ!」
そうかな? そうかも……。
「ありがとう! 2人を説得してみるわ」
悩みつつも受け入れ始めた女は、先ほどよりも明るい顔で階段へ向かった。
満足そうに頷いたフランが、呟く。
「良いことをした後は、気分がいいね!」
「あなたが思うなら、そうなんでしょうね? あなたの中では……」
振り向けば、呆れ果てたシャーロットの姿。
「いたんだ、オッパイ?」
「……その呼び方、本当にやめて! シャロでいいわ」
ため息をついたシャーロットに、フランが言う。
「ハイハイ……。そろそろ、先行した連中を目指したほうがいいよ? 孤立したら、殺される」
背中を見せて、スタスタと階段へ。
ドッと疲れた様子のシャーロットも、重い足取りで続く。
「まったく……。迫ったぐらいで抱いてもらえば、苦労しないわよ! 私だって、あんな恥ずかしい思いをしてまで誘ったのに」
ブツブツと呟き続けるシャーロットに、別の女の声。
「ティルを誘惑したのですか?」
「ええ、そうよ! せっかく、ご自慢の巨乳をぶら下げたのに――」
…………
我に返ったシャーロットが横を見れば、穏やかに激怒したリナ。
「そうですか、そうですか! 私が心配している間に、ずいぶんと楽しんだようで?」
「いや、あのね? ティルには相手にされなかったから、誤解――」
「ほうほう? 5回? それとも、1回でそんなに?」
「だから――」
円柱の底は、平らな床だった。
「あっ!」
ずっと天井のほうを見上げていた現地ガイドの女は、薄幸そうな女を先頭にしたグループがやってきたことで視線を戻す。
座っていた面々も、それぞれに立ち上がった。
教授が、声をかける。
「無事で良かった! この奥に通路があるようだから――」
『グルルルル……』
犬らしき唸り声で、暗がりから10匹を超える群れが出てきた。
大型の犬を腐らせたような形状だが、開いた口からは槍のように見える舌と骨ごと嚙み切りそうな歯が見える。
先頭の1匹がたった数歩で時速50kmのスピードになれば、他の個体もそれに続く――
石の床から天井へ向かうように水柱がいくつも噴き出したかと思えば、その先端から化け物の群れへ突き刺さった。
わずか、数秒の出来事。
苦しそうな悲鳴と共に後ろへ吹っ飛ばされた、犬の化け物たち。
服の上から少しの光でも輝く水の羽衣をまとったフランソワーズは、リズムよく踊るようにステップを踏みつつ、両手をかざす。
それに合わせるように、不可視の水の弾丸が飛んだ。
体勢を立て直した犬の群れは、力尽きるまで空間を押しつぶすような弾幕にさらされた。
呆気にとられた一行に対し、水の精霊ウンディーネとして権能を振るうフランソワーズが自分を中心に渦巻く水流を従えつつ、宣言する。
「遊びは終わりだよ? ここから、遠慮なしで行く……」