【アーデンティア帝国編 「第三章 悪徳の都に舞い降りたメスガキ」スタート!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
水の精霊ウンディーネとして力を発揮するフランソワーズは、薄暗い通路をズンズンと進む。
天井と壁がヒカリゴケのように光っているため、足元も見えない恐れはない。
いかなる原理か、街灯のように辺りを照らす器具も、左右の壁の高いところに設置されている……。
ここの主であるように、小柄で幼く見える少女が歩き続けた。
コツコツと響く足音は、後方からついてくる面々の足音と混じっていく。
神秘的で薄暗い通路にあるのは、もはや恐怖ではない……。
様々な空間を抜けて、天井が高く、歴史を記したような彫り物がある壁に囲まれたところへ出た。
立ち止まったフランは、ぐるりと見回す。
「ここが、歴代イシス女王の遺体を安置した墓所か……」
追いついた面々も、明らかに特別な部屋に委縮した。
けれど、アティーファだけ、安置されている
上にある石造りの蓋をズラそうとするも、まったく動かない。
見かねた教授が、それを手伝う。
「君も、力を貸してくれ!」
「……はいっ!」
助手である若い男も加わり、ズズズと、石の蓋がズレていく。
重い音を響かせつつ、柩に立てかけるように外れた。
中にあったのは、丁寧に処理されたミイラ。
指輪が嵌められていて、高そうなネックレスもかけられている。
それを覗き込んだアティーファが、嬉しそうな声を上げる。
「母さま! やっぱり、母さまは
柩の端にもたれかかるように崩れ落ちたアティーファは、笑いながら泣き続ける。
急に動いた拍子にか、フードが外れた。
そこにあったのは、あまり日焼けしていないが現地民と思われるショートボブの少女らしき顔。
というのも、その少女はまるで老婆のように老いているから……。
「なっ!? こ、これは一体?」
年相応の積み重ねをした爺さんである教授は、巨躯を震わせた。
傍にいる助手、柩の中が気になって近づいた面々も、唖然とするばかり。
いっぽう、フランソワーズが説明する。
「その柩に刻まれた名前を読んでみなよ?」
「アティーファ……。ど、どういうことだ!?」
混乱する教授に、少しだけ落ち着いた本人が説明する。
「それは、妾の母の名じゃ……。改めて自己紹介をしよう。妾は、ファリダ! 滅びたミスルヒヤ王国における、今代のイシス女王だ」
沈黙が支配した。
いち早く立ち直った教授が、冷や汗をかきつつ、尋ねる。
「母親に見捨てられたとは?」
「そのままの意味じゃ……。妾は神官どもに『先代は義務を放り投げて失踪した』と告げられた。真偽を確かめるため、顔を隠してヘト・ネテルのツアーに参加した次第! 死んだなら、ここに埋葬されているからな? ミイラの指輪には見覚えがあるし、つけたままで過ごすから取り外すことはできんはず」
身じろぎした教授は、質問を続ける。
「待ってくれ! 先代のイシス女王は、暗殺されたか病死、怪我による死亡だろうが、なぜ秘密にする? その姿は何だ?」
呆れたファリダは、息を吐く。
「よく喋るやつだ……。いいだろう! 文字通りに、冥途の土産だ! ミスルヒヤ王国には宝珠があってな? それは、砂漠をオアシスに変えるほどの力を持つ」
意味ありげに微笑んだファリダに、誰もが老婆のようになった少女の原因を知った。
話し相手になっている教授が、続きを述べる。
「歴代のイシス女王は、その宝珠を稼働させるための犠牲と……」
「そうじゃ! 母は体が弱くてな? いつの間にか、姿を見せなくなった。妾に『裏切り者の母親を憎め』と吹き込む神官どもを残して」
ため息をついたファリダは、首を振る。
「神官ではなく、売国奴の群れじゃな! ミスルヒヤ王国を売って、自分たちはオアシスを作れることでアーデンティア帝国のデアゼー教の幹部になりおった」
「その宝珠は、イシス女王の血筋でなければ反応せんのか? たとえば、1人だけに負担させず――」
「ハハハハ! やつらに、そんな頭はない! いや、選択肢を広げて自分たちの特権が崩れることを恐れていると言うべきか?」
重苦しい沈黙が、広い墓所に満ちた。
自虐的に笑い続ける、ファリダ。
すると、教授が神妙な顔で片膝をついた。
「本日は、イシス女王に拝謁できて光栄の至り! わずかな時間ですが、ワシにエスコートする栄誉を許してはいただけないか?」
突然の行動に、ファリダはキョトンとする。
もはや助からない状況、今の話を聞いた直後で、いきなり口説き出すとは思わず。
狂気を感じさせる笑いを止めて、顔を赤くした。
「う、うむ……。良かろう」
差し出した手に重なるよう、教授も手を伸ばし、立ち上がる。
「まあ、こんな老いぼれに言われても嬉しくないだろうがな?」
「一言、多い!」
ファリダは反射的に怒鳴ったものの、怒っていない。
「妾も、同じように老いた……。お似合いじゃろうて」
死の香りが充満した場所で、思わぬロマンス。
もはや行き止まりという絶望を忘れて、なごむ一行。
その時に、フランソワーズが言う。
「じゃ、最後に残ったことを済ませようか?」
フランの視線の先には、ツアーで案内していた現地の女ガイドがいた。
絶対的な力を持つ相手に抵抗する術はなく、女ガイドは後ずさる。