【アーデンティア帝国編 「第三章 悪徳の都に舞い降りたメスガキ」スタート!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
水の羽衣をまとっているフランソワーズは、歴代の女王のミイラが安置されている聖域で行き止まりの空間に立つ。
その視線の先にいるのは、現地の女ガイドだ。
褐色の肌で、20歳ぐらいの年齢。
向き合ったまま、後ずさる。
「な、何ですか?」
「最初から、妙だと思った……。ヘト・ネテルは聖域で、いくらアーデンティア帝国になろうと簡単に立ち入れる場所じゃない」
他のメンバーも、女を見つめた。
女が、すぐに反論する。
「わ、私は、ヴァッサーシュタットで許可を得たツアーのガイドです! 閉じ込められたのは残念でしたが、私のせいじゃありませんよ!? どうして、こんな場所で最期を迎えるんですか! やるんだったら、適当な理由で自分だけ外に出てからやります!」
全員、フランに注目した。
息を吐いたフランが、言い返す。
「お前、これまで人が死ぬように誘導していたよね? 最初の行き止まりではポニーテールの幼女を連れて行き、仕掛けに殺させた」
「いい加減にしてください! 私が先に戻ったのは事実ですが、あの子を殺させるつもりは――」
「なぜ、暗い場所で床に這いつくばって探したの?」
キョトンとした女は、首をかしげる。
「は?」
「大量の血痕……。生きているとは思えない! それなのに、自分の服が汚れるのも構わずに探し回った」
「それは、責任を感じて――」
「違うね! お前には、別の目的があった!」
フランの指摘に、聞いていた一同の視線が変わる。
けれど、フランは次の犠牲者について言及。
「連続したガス部屋では、オタクっぽい男が死んだ……。その時に最後尾にいたのも、お前!」
「探しに行くと、言ったじゃないですか! 皆さん、止めてくださいよ!?」
女は助けを求めるが、フランは続ける。
「お前、どうして自殺するように言ったの? 階段がある踊り場で思い詰めた女がいたけど、お前と話した後だったよね?」
口を挟もうとした面々が、思わず女を見た。
「励ましただけです! あなたも、何か言ってください!」
ロングの若い女は、少し迷ったが、顔を背ける。
地団太を踏んだ女ガイドは、激怒した。
「私を悪者にしても、出られません! まだ動けるうちに、出口を探し――」
「お姉ちゃん、どうして私に仕掛けの動かし方を教えたの?」
その場にいるわけがない幼女の声で、死の空間は違う空気に……。
教授と呼ばれている爺さんが、驚く。
「な、なぜ? あれだけの血を失えば――」
「僕は、水の精霊ウンディーネ! 血に見せかけることも可能さ! あれだけ暗くて全員が驚いてなければ、見破られただろうけど」
ギョッとした一行が、フランを見つめた。
その本人は、自分を中心に水を渦巻きながら、説明する。
「壁を突き破る仕掛けが突き刺す前に、その子を水の権能で保護した! お前がするべきことは、ショック状態で固まるか、泣き崩れての謝罪だったよ? 冷静に対応しすぎたね」
嫌味っぽく言えば、女ガイドの雰囲気が変わった。
「あなたには、人の心がないんですか? 皆さん! この人が犯人です!! もう逃げ場がないから、こうやって1人ずつ追い詰めていく――」
「お前、死んだ人間の心臓を食いたかったんだろ?」
フランが言えば、女ガイドは黙り込む。
ここで、顔を見せているアティーファの発言。
「死者を食らう幻獣、あるいは従属神のアメミト! それが、お前の名前だ!」
それを聞いた教授が、険しい目つきに。
「アメミトは、女とされている! 審判で罪人とされた死者の心臓を食らい、その魂は救われないまま……。自分で殺すことができない制約でもあるのか?」
「だから、事故や自殺を装って殺そうと?」
助手の若い男の疑問で、一行はアメミトを睨む。
両手を向けつつ後ずさったアメミトが、それでも誤魔化す。
「違います! 皆さん、酷い――」
「酷いのは、お前のほうだと思うけど?」
今度は、ガス部屋で死んだはずの男が入口から姿を現す。
オタクっぽい男は、アメミトを指さした。
「お前! 俺を誘って2人きりになったところで、ガス部屋に置き去りにしただろ!」
これによって、もはや言い訳できず。
厳しくなった視線で、アメミトは舌打ち。
ふてぶてしい顔つきに……。
「あーあ! せっかく、色々な状況で食べられると思ったのに……。でも、残念だったね? デッドエンド! お前の力は凄いけど、そろそろ動けないんじゃない? 人間は水だけじゃ生きていけなーい! フフフ♪ みんな美味しく食べてあげるから、安心して?」
口を開けば、ノコギリをいくつも並べたような歯だ。
擬態を止めたのか、華奢な体が内側から膨らみ、マッチョで動物を二足歩行にしたような姿へ。
全裸になったが、とても喜べない。
美女といえる顔は口の裂け目が広がったぐらいで、シュール。
ところが、最奥にあるはずの広い玄室が揺れ始めた。
「な、何だ?」
「仕掛けがあるとは、思えんが……」
「こんな場所で!」
慌てふためく中で、フランソワーズは笑顔だ。
「お前さあ……。僕が権能を出し惜しみしていたと思うの? 結局、ここに
言っている間に、玄室の天井の一部が崩れた。
落下した石や土砂で、凄まじい音や土煙。
けれど、地上からの光が少しだけ差し込む。
唖然とする一行に、フランは独り言のように呟く。
「本当は、頼りたくなかったんだけど!」
こんな芸当ができる人物は、多くない。
「勝手に出て行った挙句に、また面倒なことを……」
おっとりした女子の声が、絶望に満ちていた空間に響く。
いつの間にか、どこかの貴族と思われる令嬢の姿。
ソフィア・デュ・ロシュフォールだ。