【アーデンティア帝国編 「第三章 悪徳の都に舞い降りたメスガキ」スタート!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
地上から強引に貫通してきたソフィア・デュ・ロシュフォールは、全員に向き直る。
「では、さっそくですが――」
『ガァアア゛ア゛ア゛ッ!』
ドゴンッ!
両足のバネの溜めで床を蹴った巨体のアメミトは数メートルの高さに達しつつも棒立ちで余所見をしているソフィアを大きく開けた口で食いちぎろうとするも、左右でせり上がった石の床に挟まれて潰された。
文字通りに、一瞬の出来事……。
石の床が合わさり、新たなモニュメントへ。
微笑んだまま、チラッと見たソフィアは、死と絶望で埋め尽くされていた広い
「フラン! 時間がありませんよ?」
「ハイハイ……。じゃ、早く穴があるところへ来て? 来ない奴は置いていく!」
断言したフランソワーズが率先して歩けば、他の面々も慌てて集合。
上から細い光が差し込んでいる大穴の真下へ……。
誰もが見上げて、安全な地上を思う。
教授の爺さんは、その年齢とは思えない立派な体格で質問する。
「体感でも、かなりの深さだ! どうやって……。何をしている!?」
血相を変えた爺さんは、アティーファの
「君も来るんだ!」
少女のまま老婆のような顔になったファリダは、笑顔で首を横に振る。
しわがれた声で、別れを告げる。
「宝珠に生命力を吸われた
それっきり、柩にもたれるように座り込んだ。
正面で屈んだ教授は、ファリダの両肩をつかむ。
「諦めるな! ワシと一緒に助かる方法を探すんだ!」
ジッと見上げたファリダは、やがて微笑む。
痛みを堪えるように顔をゆがめつつ、血がついた指輪を差し出す。
「イシス女王の一族である証明じゃ! 本来は死んだ後までつけているが、お主に与えよう。妾と思ってくれ」
教授はそれを受け取るも、説得しようと――
ゴゴゴゴ!
再び、玄室を震わす揺れ。
今度は長く続き、しかも大きくなる一方。
「まさか!」
「そうじゃ……。地上から最深部まで一気に貫けば、絶妙なバランスで保っていたヘト・ネテルは崩壊する! おそらく、フランにとっても最後の手段だったに違いない」
本来の年齢にふさわしい表情に戻ったファリダは、教授の背後に立っているフランソワーズに頷く。
「そなたに万の感謝を……。最後のイシス女王として、その功績を永遠に称えよう! この者を連れて行ってくれ」
「待て! ファリダも一緒に――」
「さよなら、お爺ちゃん! あなたは、付き合うには年上すぎたわ」
初めての口調に、教授は言葉を失った。
握った拳を震わせつつ、笑顔を作る。
「そうだな! ワシは地上へ戻り、ミスルヒヤ王国の記録を残すとしよう。さよなら」
「ええ、お元気で……」
全員がいる場所に立った教授は、ファリダを見つめる。
離れているファリダも、すっくと立ち、それを見つめ返す。
フランが穴と同じ大きさの水の壁を足元に作り、一気に上へ移動させる。
その直前に、崩れた天井が少女のいた場所を圧し潰した。
教授は、絶叫する。
「ファリダぁああああああっ!」
崩れゆく、ヘト・ネテル。
そこから逃れるように、強い水流は縦穴を下から上へ昇っていく。
じきに、全てを焼き尽くす日差しと肺を焼くような暑い空気がある地上へ……。
竪穴があった個所を含めて崩壊するも、土の精霊ノームであるソフィアがいれば、全員の足場を作るなど造作もない。
玄室を埋め尽くすように落下していく地面だった部位を見下ろしつつ、教授が呟く。
「助かった? しかし……。こんなことが許されて、いいのか!? ワシの孫のようなな年で、あの最期とは」
両膝をついたままで
「僕も、1つ許せないことがある……。お前にだけ、今後の予定を説明しておくよ」
フランの話を聞いた教授は、泣き笑い。
「ハハハハハ! それはいい! ああ、そうだな! ワシはミスルヒヤ王国の情報を集めなければならん。助けてくれたことに、感謝する!」
立ち上がった教授は、遠くで心配そうに待っていた若い男の助手がいる場所へ走っていく。
それを見送ったフランが、息を吐いた。
――数時間後
日暮れだ。
急速に温度が下がり、暗闇に包まれていく荒野。
崩落したデコボコの地面で、その一部が弾け飛んだ。
フランソワーズ達が脱出した穴が埋まったところから突き出された手は、若い女のもの。
続いて、現地ガイドの女の顔も。
「ハアハア……。あいつら、絶対に許さない!」
「へえ? それは良かった! 手間が省けたでしょ?」
呑気な声に振り向けば、フラン本人がいた。
靴底に水の足場を作っていて、低い空中に浮かんでいる。
にたりと笑ったアメミトは、得意げに告げる。
「ああ、そうだな? 私は死者を食らう神! どこまでも追い、必ず心臓をいただく! まずは貴様から――」
ウォーターカッターが、若い女の肩を切り裂いた。
直後に、鮮血がほとばしる。
激痛にうめくアメミトは、それでも不敵な笑みを浮かべた。
「ククク……。私は、死なぬ! その絶望を……」
キョトンとしたアメミトは、再生しない体を見つめる。
フランは、笑顔で教える。
「神格には2種類あるんだ……。1つ目は、絶対的なもの! 2つ目は、人の信仰と物に依存するもの」
アメミト、今となっては若い女に過ぎない愚者が、フランを見つめ返した。
構わずに、フランが話を続ける。
「ミスルヒヤ王国が過去となり、たった今、ヘト・ネテルと最後のイシス女王を失った。今のお前を神とする要素は、1つもない」
「あ……」
重傷を負ったまま、フランから遠ざかろうとする女。
それに対し、無邪気な笑みを浮かべたフランが世間話をするように問いかける。
「一度は神になっても、死ぬのが怖い?」
どうなるかを悟った女の視線は、不自然なまでに揺れ続けた。
はっきり言えるのは、その現地ガイドを見た人はいないことだけ……。