【アーデンティア帝国編 「第三章 悪徳の都に舞い降りたメスガキ」まで完結!】剣を捨てて殴ったら人生が変わった! 作:初雪空
フランソワーズは、デアゼー教の拠点を訪れた。
天井が高い聖堂になっていて、古い建物だ。
周りが騒然とする中、低身長の彼女は堂々と歩く……。
水の都ヴァッサーシュタットにおいて観光地であるものの、アーデンティア帝国のメインストリームであるデアゼー教の中心。
お祈りに来た信者も、
「どのような、ご用でしょうか?」
いかにも武闘派の男たちに、半包囲された。
素手で戦えるらしく、立っているだけの姿勢もプレッシャーが違う。
足を止めたフランは、笑顔で告げる。
「水の精霊ウンディーネが、来てあげたよ? 僕に宝珠を見せて! 砂漠になるはずのここをオアシスに変えるほどの宝珠を!」
その叫びで、礼拝堂のホールは騒然となる。
人目がある場所で少女を殴るわけにもいかず、素手の男たちは渋い顔へ。
すると、奥から神官と思われる正装をした数人の男が出てくる。
「フランソワーズ様ですね? ようこそ、デアゼー教の生誕の地へ! しかしながら、神聖なる場でそのような冗談は……。奥で、話しましょう」
「ハイハイ……」
ひらひらと片手を振ったフランは、その案内に従う。
それを見ていた礼拝者が、興味を失った。
関係者だけが歩く通路を抜けて、宿坊と思われる空間を横目に、荘厳なホールへ。
その中央には、立派な台座に安置された宝珠……。
「あれ?」
「そうです……。ここからは、お一人でどうぞ! 触っても、構いませんよ?」
貼り付けた笑みの神官が、穏やかに告げた。
しかし、フランが尋ねる。
「イシス女王でなければ、ダメじゃない?」
「よく知っていますね? ですが、見学となりますから……」
神官が受け流すも、笑顔のフランは粘る。
「じゃ、やめておく!」
「分かりました……。イシス女王になった気分で、どうぞ」
それを聞いたフランが、下に複雑な模様が描かれた床に足を踏み入れる。
先ほど告げた通り、神官たちはその場に残ったまま。
中央の台座にたどり着いたフランは、宝珠に触れた。
その瞬間、宝珠が光り出す。
フランの手を通して、生気を吸い取るような雰囲気……。
すると、対応していた神官が笑い出す。
「ハハハハハ! これで、貴様は終わりだ! てっきり、ファリダから聞いているかと思えば、あっけない」
生気を吸い取られたまま、フランが尋ねる。
「ファリダが逃げた後に、どうやって誤魔化したの?」
「ふんっ! ミスルヒヤ王国を支えてきた偉大な神官の
「ほうほう? やっぱり、イシス女王の血筋は関係なかったと……」
フランの返答に、神官たちは改めて見る。
生気を吸い取られて衰弱するはずの少女は、ケロリとしたまま。
1人の神官が、疑問を口にする。
「なぜ――」
水を生み出すという、デアゼー教の奇跡。
その根源となっている宝珠は、フランの力を吸い続けた。
やがて、宝珠は悲鳴のような響きへ。
見守っていた神官どもが、叫ぶ。
「やめろ! 貴様も、死にたくないだろう!?」
「お前を飼ってやる! 今回は、もう十分だ!」
しかし、フランは伸ばした手を触れたまま。
ヒビが入り始めた宝珠に構わず、笑顔で告げる。
「僕が許せないのは……。ミスルヒヤ王国のイシス女王をコケにしていること! 女王を敬わないことは、別にいい。でも、都合がいいところだけ利用するのは、ちょっとね?」
苦笑したフランに対して、宝珠はヒビだらけ。
慌てた神官どもが、口々に叫ぶ。
「それを壊せば、ヴァッサーシュタットは滅びるぞ!?」
「デアゼー教を敵に回して、タダで済むと思うな!」
「今なら、許そう!」
肩を震わせて笑ったフランが、力強く宣言する。
「今は、僕がイシス女王だ! いいよ? お前たちがデアゼー教の幹部でいたいなら、好きにすればいい。この宝珠なしで!」
宝珠は、一部が崩壊している。
ようやく決心した神官の一部が、儀式魔術のような刻印がある床に走り出す。
けれど、フランが発生させた水の渦巻きによって阻まれた。
呪詛のように叫び続ける神官どもの声は、動き続ける水の音でかき消される。
中心にいるフランが、この場を締めくくる。
「女王を祭り上げて生贄にしてきたなら、それに殉じなよ? 砂漠じゃ、よくあるある♪」
さすが、砂漠のオアシスに潜伏していた反政府ゲリラ。
容赦ない……。
宝珠は、最後の悲鳴を上げた。
ほぼ同時に中心から強い光を放ちつつ、水の膜で防御しているフランを除いて、全方位への散弾のように飛び散る。
「ガッ!」
「ぐうっ……」
一部を食らったらしい神官どもが呻くも、騒ぎを聞きつけた警備によってホールの出口を囲む。
「よくも……」
「デアゼー教の聖地と知っての、
今にも殺そうという勢いに、フランは満面の笑み。
「最後のイシス女王として、宣言するよ? ミスルヒヤ王国は完全に滅びた! 後は、好きにするといい」
一斉に押し寄せた警備は、水をぶちまけたように消えたフランに正気を削られた。
床に広がっている水が震えて、彼女の声。
『ハハハハハハ! 原点にして聖地が、王国の遺産にすがるだけとは! せいぜい、頑張りなよ? 数年もしないうちに砂漠へ戻るだろうけど』
血相を変えた男が床にある水たまりを踏むも、それっきり、フランの声は消えた。