Fate / the Another story   作:宮崎太助

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今はまだ濃紺色の空。

段々と薄雲は明けの太陽の光を浴び、明度を上げはじめる。

そして、広大な空は徐々に色相を変えていく。

季節が春に移ろうとしている空は清々しく、まだ冬の空気の冷たさが残っているかのようだ。

空の移り変わりに反応した小鳥たちは活動を始める。

高い囀ずりは、まるで朝の挨拶をしているように聞こえる。

そして、その挨拶に一人の少女がベッドの上でゆっくりと目覚める。

ゆっくり目を開け、明るさを感じながら寝返りを打つ。

彼女は部屋を包む冷たい空気を吸い込み、少し頭を覚醒させる。

次にシーリングライトを付けようと、手だけでリモコンを捜索する。

少ししてベッド脇のそれに手が届き、ボタンを押す。

無機質な電子音が鳴った瞬間、部屋を白色の電灯が照らす。

「んっ…」

寝転んだまま背伸び。

眠りから覚醒する身体を感じ、起き上がる。

ベッドの脇に座り直し、ゆっくりと立ち上がる。

少しぼんやりする頭を働かせ、寝巻き姿のまま部屋を後にした。

 

彼女はリビングへ足を運んだ。

リビングとの対面にキッチンが併設されており、30畳近くはある広い部屋だ。

古く経年を感じる柱に新しさを感じるツヤのあるフローリング。

どうやらリフォームをしたのだろうと見て取れる。

彼女は棚からグラスを取り出し、蛇口を捻り少し水を入れる。

一口、二口で飲み干す程度の水をゆっくりと飲み込む。

喉を通る冷たさで、彼女の思考はクリアになっていた。

そして、グラスをシンクへ置き、歩きだす。

キッチンの向かい。

部屋の隅にある扉へと歩みを進めた。

リビングの奥に設けられた納戸にも思える扉を開ける。

そこには部屋の雰囲気と全く違う、地下へ降りる異質な階段が現れた。

そして、壁のスイッチを動作させる。

電球が壁沿いに何個か灯り、それの配線が剥き出しの状態で吊り下げられているものと分かる。

大小様々な石を積み合わせた壁と階段。

まるで、数百年前に建てられた城の石垣のようにも見える。

相当昔からそこにあったのだろう、歴史を感じる造りが現代の今に残されていた。

彼女は薄暗い階段へ歩みを進める。

部屋の空気とは違う冷たさのある空気が指先の熱を奪っていった。

 

階段の先。

そこは一つの大岩を人工的に削って出来たような広い空間だった。

先程のリビング程度の広さがあり、武骨に削られた壁沿いには古い木製の机や真新しさを感じるプラスチックの引き出しなどがある。

実に統一感のない部屋だ。

そして、一際印象的なのは部屋の中央にある石盤だ。

直径が一尋程度ありそうな、削り出されたままの歪な円形状である。

上面だけが平面になるよう磨き出されていた。

彼女はおもむろにそれへ近づき、右手でそれの上面に触れる。

無機質な冷たさを手のひらに感じる。

目をつむり、意識を右手に集中させる。

「"開け開け開け、龍脈様"…」

そう呪文を唱えると、身体の魔術回路を開き、魔力を対象へと流した。

 

彼女、高梁彗は魔術師である。

この町に代々続く武家の家臣として存続した一族だ。

先祖は地殻運動で生じる力を"龍脈"と称し、魔力を通してその力を頭の中で可視化。

その力の動きから占いを行う術師であった。

この占術を用い、雨や風、地震などの自然災害を予測。

農作物へ対策を促すことで集落の生活に貢献していた。

しかし、それも昔の話。

時代を経るごとに予報技術が発展していき、占術の神秘性は失われていった。

集落の様相も変わっていき、高梁家の占術は最早必要では無くなった。

彼女の生きる現代では「高梁」の歴史を知る者は皆無といえるだろう。

彼女としては「天気予報」としか思っていないこの魔術だが、代々継承してきた魔術回路を誇りに思い、大事にしたいという意思があった。

 

魔術の鍛練を兼ねた日々の日課が終わり、彼女はゆっくりと石盤から手を離す。

この魔術の媒介となっている石盤を通し、頭の中に描かれた"龍脈"のイメージは"穏やかな波"。

その結果が気に入っているのか、不意に口元が微笑んでいた。

 

日が上り、白色の灯りに包まれた頃。

彼女は高校の制服に着替えており、朝食を適当に済ましていた。

コートを羽織り、玄関で靴を履く。

靴箱の上に目を移す。

そこには一人の子供を抱いた、二人の男女の写真。

写っている子供は彼女の面影がある。

二人はおそらく彼女の両親なのであろう。

彼女は写真の二人を見て、

「行ってきます」

そう言って、扉を開けた。

外は春が待ち遠しく感じた。

 

ーーー

 

ある日の朝。

昼間の暖かな空気は桜を咲かせており、新たな年度の始めを感じさせていた。

しかし、朝の空気はまだ冷たく、暖かくなるまで寝ていたい気分にもなる。

世間がそんな中、彼女はいつも通り早朝から目を覚ます。

いつも通り地下室への階段を降り、いつも通り魔術の鍛練を行う。

頭の中に"龍脈"の動きをイメージして、

「えっ……?」

不意な出来事で、咄嗟に石盤から手を離す。

簡単に表現すると、それは些細な違和感。

"龍脈"は穏やかな波であったが、そこに何か別の小さな波が紛れ込んでいた。

例えるならば、広大な湖に絵の具を一滴垂らしたような。

そのぐらい些細なものであった。

そかし、気候が荒れる時とはまた別の、人為的な何かを感じ取った。

少し頭の中で整理する。

原因も分からない些細な違和感だったため、一旦様子を見ること決めた。

登校の準備をしようと、身体を翻そうとした瞬間。

「あッつ…!」

右手の甲に焼けるような痛みが走った。

咄嗟に左手で右手を覆うように押さえた。

少しして左手を離すと、赤黒い痣のようなものが浮き上がっていた。

それはコイン大の真円で、等間隔に三つあった。

「何……これ……?」

鈍痛が続いたままの左手を不思議そうに眺めていた時であった。

「ッ!?」

突如、部屋の中央から青白い光が広がった。

反射的に目を腕で覆った。

光は雷のように一瞬で、ゆっくりと覆いを解く。

薄暗さが戻った地下室。

その部屋の中央、石盤の上には胡座で座り両拳をついて頭を下げる成人男性が一人。

歴史の授業で見たような袴姿の和服で、細身のシルエットながらがっしりした体型なのが見て取れる。

まるでスポーツマンかのようだ。

精悍な顔立ちで整えられた口髭、顎髭は大人の魅力を感じさせた。

矢継ぎ早に展開される事象に、彼女は混乱を隠しきれていない。

「な、なんなの……これ……」

礼をする男性は、それを発言しても良い機会と捉えたのか頭を下げたまま返答をする。

「サーヴァント、キャスター。これより貴殿の力となりまする」

「さ……サーヴァント……?きゃすたぁ……?あ、あなたは何を……言ってるんですか?」

彼女の頭の中は整理が追い付いておらず、つい敬語になる。

キャスターと名乗った男性は不思議そうな表情で頭を上げた。

そこで、二人は初めて視線を交わす。

「私は召還に際して必要な情報を得てはいますが……」

彼は現状を理解するために少し考え、

「なるほど、では説明します」

「あ……えっと……」

彗は地下室を見渡し、

「ついて……来てください。場所を変えましょう……」

彼女はふらふらと踵を返し、リビングへの階段を昇っていく。

(何が起きてるの!?何なのこれ!?)

ぐるぐる回る頭を必死に整理しながら、壁に手をつきながら歩みを進める。

キャスターも石盤から降り、ゆっくりと立ち上がる。

気を遣っているのか、適度な距離間を保っている。

そして、彼女たちはこの地下室を後にした。

 

リビングのダイニングテーブル付近に案内されたキャスターは、そこにある椅子に座るよう促される。

椅子に座った彼は見慣れない物を見るかのうように、視線だけを色々な家具へと移していた。

彗は冷蔵庫から緑茶の入ったペットボトルを取り出し、グラスとマグカップにそれぞれ注ぐ。

「ど、どうぞ…」

マグカップをキャスターの前へ静かに置き、それに対し彼は一礼した。

彗は彼の対面に座り、グラスを置く。

僅かな間があり、キャスターが口を開く。

「では、一つずつ話します」

そこからキャスターの話す内容は、彼女が全く知らない未知の情報だった。

 

願いを叶えられる聖杯を巡る"聖杯戦争"の参加者に選ばれたこと。

参加者に選ばれた者を"マスター"と呼ぶこと。

マスターには過去の偉人がパートナーとして召還されること。

過去の偉人たちは実体を持つ霊体であるサーヴァントと呼ばれること。

サーヴァントにはセイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーというクラスがあること。

サーヴァントへの命令権を有する令呪が三画あること。

また、サーヴァントには基本的に生前叶えたかった望みがあること。

聖杯を手に入れられる権利は、生き残った最後の一組のみであることなど。

 

お茶を入れたお互いの容器が結露に覆われた頃。

キャスターの話しは、彗によって知識外の情報すぎて理解しようと必死であった。

「えぇと……何から聞いていいか分からないけど、あなたも何か願いがあるんですか?」

彼女は先程の話から、自身でもすぐ理解出来そうな質問をする。

その問いにキャスターは少し悩み、

「私は武士として未練のない死を迎えました。些細な願いはキリがないですが、聖杯に叶えてもらうものではありません」

「それについては私も同じ……。ご先祖様の土地を大事にしたいだけ……です」

キャスターは彗のこの言葉を受け、何度か頷く。

「私がこの世に召還された理由は"それ"なのかもしれません」

彗は不思議そうな顔をキャスターへ向ける。

「貴殿の守りたいものを守る。願望器を悪意のある者に渡さない。私はこの聖杯戦争への抑止力なのかもしれません」

キャスターの言葉に、彗は身体の緊張が僅かに解けたことを感じた。

そして、微笑み返す余裕も生まれた。

「ありがとう……ございます。ちょっと、まだ整理が出来てないけど……」

彗は少し震える手でグラスを持ち、口を付ける。

「そういえば、過去の偉人と言っていたけど、あなたもそうなんですか……?」

グラスを置いて向き直る。

知恵熱でもあるのか、重い頭で見るキャスターは少しぼやけていた。

「そうですね……。日本史であれば、おそらく」

キャスターは少し考え、

「私の"真名"はたしかにあります。ですが、過去の行動や結果から対策、対応……。簡単に言えば弱点に繋がり兼ねません」

キャスターは少し間を置く。

それに彗は小さく頷いた。

「私たちは"宝具"と呼ばれる常に身につけていた武具などを持っています。たしかに宝具は強力ですが、それも"真名"に繋がる情報となります」

「つまり、真名は隠しておきたいということ……ですか?」

キャスターは少し微笑む。

「色々な人を見てきました。あなたは芯が強いと感じる。貴殿が落ち着けば名乗りあげることを約束しましょう」

彗はこの会話が一段落したことを感じて深呼吸をする。

この良く分からない事象をキャスターと調べる。

方針が決まっただけで安堵することが出来た。

まだ整理することは多いが、ひとまず後回しにした。

「あっ……。私は高梁彗、よろしくお願いします……キャスター」

「こちらこそ、よろしくお頼み申します」

礼儀正しく頭を下げるキャスター。

彗はそのまま背もたれに体重を預ける。

今日は登校どころでは無さそうだった。

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