Fate / the Another story 作:宮崎太助
英田アルダンはフリーライターであると同時に魔術師である。
お互い魔術師の家系である、日本人の父と英国人の母を持つ。
ただ、魔術の研究を辞めて久しく、最早一般人と変わりない。
アルダン自身も僅かに魔術を行使出来るが、それは身体強化で少し視力を上げる程度。
常に双眼鏡を携帯しているかのようなこの魔術は、様々な物を見て記事にする仕事にぴったりであった。
アルダンは初めて来たこの街で取材をしていた。
北側は自然の残る山。
南側は海岸沿いを整え、機械産業の工場などが並んでいる。
自然の中から人工的な夜景を見られる、割と日本では多くの場所で見ることが出来る街だ。
別段特別な場所ではない。
そんな彼はこの街の商店などを周りコネクション作りを行っていた。
現在、彼はホテルの一室でノートパソコンと向かい合い、それをまとめていた。
窓からは人工的な光が装飾のように輝く夜景が覗く。
彼はもらった名刺を脇に置き、昼間の取材を思い出しながら記事に起こしていた。
「あの中華料理屋……旨かったなぁ……」
などと、口から感想を漏らしながら作業を続ける。
そんな折、キーボードをタッチしていると突然、
「イっ…!?」
右手の甲に激痛が走った。
くぐもった声を上げながら、咄嗟に左手で押さえる。
毒虫にでも刺されたのかと、恐る恐る手の甲を見る。
そこには、サイコロの『3』のような、円形の赤黒い痣がぼんやりとできていた。
「なんだ……これ……?」
アルダンは左手でそれに触れる。
しかし、もう痛みは感じなかった。
ただし、異常なことは立て続けに起こる。
視界の端、何もない中空に青白い光の玉を捉えた。
刹那。
それが音もなく爆発したかのように、部屋全体を包んだ。
アルダンは咄嗟に目を腕で覆う。
「……っんだよ!」
腕を解き、そこには不意に現れた一人の人間がいた。
「はぁッ!?……ぅわッ!!」
あまりにも驚き、座っていた椅子から転げ落ちた。
「はっはっ!威勢が良いな、少年」
年老いた男性の声で「少年」と言われたアルダンは、少しむっとした表情でそこの人間を良く見る。
片手は腕を組んでいるかのように反対の袖へ入れ、もう片方の手は下顎の無精髭を撫でながら興味がありそうにアルダンを覗き込んでいた。
明らかに現代では見ない袴姿に、捕えた獣を鞣したような毛皮をベストのように羽織っているのが特徴的だ。
ぼさぼさの白髪混じりの髪は適当に首筋辺りで纏められている。
年齢を感じる浅黒い顔に刻まれた皺は、厳つく威圧感も感じる。
砕けた口調の割には「怖い」、といった印象が強かった。
「ッてぇ……。誰なんだよ、あんた!」
厳つい老人は周りを見回し、アルダンが使っていたパソコンの画面を少し見る。
彼は少し考え、口を開く
「お主、魔術師であろう?それに……記事を書いとるのか。どうやら、この地に流れる魔力の渦がお主に協力しろと勝手に儂を選んだらしくてな」
ぽかんと口を開けるアルダンを見て、一拍置く。
「儂は便利じゃぞ?大昔に死んだ身。霊体を活かしてお主に協力できるぞ?」
皺の刻まれた手を差し出される。
アルダンはそれを握り返し、立ち上がる。
生傷の痕や、鍛練を積んだような硬い皮膚の感触がアルダンへ伝わった。
「待ってくれ、全然整理が追い付いていないんだけど……。とりあえず、俺に協力してくれるっことだけは分かった……」
「それでよい。実体が見えると気が散るであろう。普段は姿を消しておく。好きなときに呼ぶが良い」
彼はすぅっとフェードアウトするように目の前からいなくなった。
しかし、アルダンはどこか、身体の奥底でその男性の気配を捉えているかのようだった。
「なんとなく……そこにいるのは分かる。なぁ、爺さん、あんたは何なんだ?」
消えた老人に問いかける。
しかし、それには答えが返ってこなかった。
「……まぁ、いいか。追々分かるか」
アルダンは突然の出来事をまとめ切れず、頭を抱えるしかなかった。
ーーー
アルダンの滞在するホテルの屋上。
闇夜の中、先ほどの老人が眼下を眺めていた。
老人はそこに誰かがいることを確信しているように振り返る。
すると彼の背後、虚空より黒いもやが突如現れた。
少しして、人の形を模した黒い影が二つ、くっきりと見えるようになった。
「そうか……。お前たちは儂に付いてきてくれるのか」
人型の影は表面上意志が無いのか、全く動かない。
しかし、老人はそれらの感情を汲んでいるかのように何度もゆっくり頷いている。
老人は影の手を包むように握る。
感傷に浸るように、二つの影とも時間を取ってゆっくりと握る。
「すまん……。お前たちより先に逝って」
影は一切動じない。
「この戦、儂の"最後"にはせぬ」
影は返事をするかのように、僅かに揺らいだように見えた。
老人は一呼吸置くと、この街の山側と海側を指差す。
「ここと……ここ。儂の勘が当たっていたら既に誰か動いておる。接触するぞ」
言葉の真意を捕らえたかのように、影はもやとなり、虚空へ消えていった。
老人は眼下を見下ろし、不適に笑う。
「さて、大博打じゃ」
ーーー
翌日、フリーライターの英田アルダンが何者かに殺害されたとニュースで報道された。