ポンコツ怪盗団に転生したけど、敵のフリして勇者育ててます   作:振り米

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実はこの話間違えて先週10分くらい公開しちゃったてへぺろ
作者もポンコツって事で許して


第30話『神聖なる反逆』

 ──来た。

 

 その瞬間、俺の全身の細胞が総立ちになった。筋繊維の一本一本が硬直し、骨の奥から震えが突き上げてくる。喉の奥が勝手に鳴り、背筋が凍るのに、それでも胸の奥が熱くなる。

 

 上空から注がれるのは、神罰と呼ぶにふさわしい黒白の閃光。

 

《断罪闇光(サンクティオ=レイ)》。

 

 レオニスが満を持して放った、世界そのものを断罪する光と闇の制裁。大気が振動し、天蓋が軋む。空の全てが、一つの意志のもとに歪められていく。

 

「闇に堕ちた光を、光に成り果てた闇を」

 

 それは、ただのカウンターじゃない。

 神の裁きを、神に返す──

 

「そのすべてを、この刃に映し、照らし、打ち砕く──!」

 

 フィリアが叫ぶ。声は震えていなかった。むしろ、この嵐の只中にあるのが似合いすぎているほど、凛と響いていた。

 

 華奢な腕が天を指す。その手にあるのは、世界を貫く一振り。聖なる名を冠するその剣が、咆哮のように輝きを増していく。

 

 放たれた魔力の奔流に真っ向から立ち向かうフィリアの姿に、一瞬、視線を奪われる。というか、吸い寄せられた。

 

 光が、大気を焼き裂いた。いや、それはもはや“空間ごと”ねじ切っていた。

 

 視界が白と黒の交錯に染まり、音という音が、すべて──すべて消し飛ぶ。

 

「《神聖なる反逆(ディヴァイン・リベリオン)》ッッッ!!!!」

 

 天を斬り裂く絶叫だった。

 ただの技名の発声じゃない。魂の芯から搾り出すような、覚悟と怒りと願い、すべてを詰め込んだ叫びだった。

 

 それが、嵐の中心に立つ少女──フィリア・ルミナリアという存在を、確かにこの世に刻み込んでいた。

 

 彼女こそが、当代《勇者》。

 

 その剣が、雷鳴を超えて、闇を貫いて、《断罪闇光》へとぶつかった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 激突。

 

 それはもう、単なる攻防じゃなかった。

 まるで宇宙の二極が、偶然この一点で交差してしまったかのような、存在意義の衝突だった。

 

 フィリアが掲げる聖剣は、まばゆい金色の光を纏っていた。

 

 その光は──まるで命を削って燃やす灯火。儚くも、美しく、それでいて決して揺るがぬ焔。

 

 光と闇。昼と夜。正義と悪。信念と支配。

 そのすべてが、今この空間で真正面から衝突している。

 

 空間が軋む。空が裂ける。大地すら、その衝撃に身を捩らせる。

 

 轟音。衝撃波。空気が、破裂する。

 それでも、フィリアは剣を振るうのをやめない。

 

 ──否、やめられない。

 

 それが、《神聖なる反逆》の真の意味だった。

 

 強大な魔力を含んだ魔法、それも絶望級の破壊力を持つ一撃を反転し、敵に返す。

 

 それが、この奥義。

 

 だが、ただの反射ではない。光の鏡ではない。これは、“力”と“信念”のぶつかり合いを、“覚悟”によってねじ曲げる魔法だ。

 

 敵の暴力を、自らの命と魔力を賭けて否定し、その意味すら捻じ曲げて返す。

 

 だからこそ、《跳ね返す》には、それ以上の覚悟と、出力と、魂が必要なのだ。

 

「っ……くぅぅぅ……!」

 

 フィリアの唇が、噛みしめすぎて血が滲んでいた。歯を食いしばる彼女の横顔には、もはや恐怖も弱音もなかった。ただ、一つの意志が、そこにあった。

 

 肩は震え、剣を握る両手も限界の悲鳴を上げている。

 

 それでも、彼女は倒れない。

 倒れられない。

 

 この力はただのカウンターじゃない。跳ね返すには、跳ね返すだけの力がいる。

 

 フィリアの《神聖なる反逆》は、まるで美しくも危うい刀剣舞のように、ただ光と闇の境界線の上で、今この瞬間だけ、輝いていた。

 

 だが──

 

 剣先が、わずかに押し返される。

 

 そして、地面にひびが走った。

 フィリアの足元から、大地が“ひしゃげる”ような、重い音が響く。

 

 ズン……ズン……と、大地が割れていく。

 まるで巨大な何かが、地中を這っているかのような不吉な音が、空間を支配する。

 

「このままだと……魔力がっ……!」

 

 フィリアが呟いたその声は、もはや悲鳴だった。

 

 身体が削がれている。

 

 魔力と一緒に、命が削られている。

 

 その様子を見た瞬間、俺の中で、何かが──明確に、音を立てて、弾けた。

 

「……!」

 

 気づけば、俺は──

 

 フィリアの剣を握る手に、自分の手を重ねていた。

 

 無意識だった。でも、自然だった。いや、それ以外の選択肢など、最初から存在しなかった。

 

 やつを倒すには彼女に頼むしかない──だが、それは俺が“見物客”でいる理由にはならない。

 

「一人が無理なら──二人なら、どうにかなるだろッ!」

 

 俺は、叫んだ。

 

 そして、自分の中の魔力をすべて──勇者の剣に、注ぎ込んだ。

 

 全身が痺れる。脳が焼けるような痛みが走る。耳鳴りが世界を包み、吐き気が内臓を揺さぶる。けれど、それでもいい。

 

 俺も、“戦う側”でなければならない。

 

「「はぁぁぁぁぁぁあ!!!」」

 

 フィリアと同時に、俺も吠えた。

 

 その瞬間、聖剣が──明確に、輝きを増した。

 

 白と黒の《断罪闇光》と、黄金の《神聖なる反逆》。

 

 両者が正面からぶつかり合い、爆音が空を引き裂く。

 

 それまで押されかけていたフィリアの剣が、ほんのわずか──五分まで、持ち直した。

 

 けれど、それまでだった。

 

 限界ギリギリ。

 

 勇者という主人公と、サブキャラである俺。

 

 魔力量も、才能も、格も違う。

 拮抗はしている。確かに押し戻せてはいる。

 

 でも、俺の力を加えたとて、“跳ね返す”には届かない。

 

 あと一歩。

 あと一手。

 

 その“最後のカード”が──足りない。

 

「……くそったれぇぇぇぇぇ!」

 

 喉が潰れそうなほど叫んだ。

 

 

 ──その瞬間だった。

 

 

 まるで、天上の帳が裂けたかのように。

 

 眩い光が、唐突に世界の縁から滲み出した。

 

 俺の腰に括りつけていた小袋──戦闘の最中など気にも留めなかったそれが、まるで異世界の心臓のように、鮮烈な輝きを発したのだ。

 

 あたりの空気が、ピンと張り詰める。音が消えた。戦場の喧噪、破壊の轟音、炎の爆ぜる音さえもが、遠くなった気がした。目の前のすべてがぼやけて、ただ、その小袋の一点だけが、まるで神の意志でも宿しているかのように、世界の中心となっていた。

 

 

《精霊石》。

 

 

 小袋から、淡く発光する水色の結晶が覗いていた。いや、覗いているどころではない。それは、まるで自らの意思を持つかのように脈動し、拍動し、呼吸するかのような光を放っていた。

 

 心臓の鼓動と同調するかのように、律動する輝き。触れてもいない。掴んでもいない。ただそこに「ある」というだけで、俺の全身を巡る何かが、明確に変わったのを感じた。

 

 ──突如、体が軽くなる感覚。

 

 鉛のように重く沈んでいた四肢が、ふっと浮き上がるような錯覚に襲われる。肩にのしかかっていた重圧が霧のように消え、喉元に絡みついていた絶望が一息で吹き飛んだ。

 

 力が、満ちる。否、滾る。湧き上がる。

 

 指先から腕、胸、腹、脚──身体中を駆け巡るそれは、もはや魔力などという生温いものではなかった。熱だ。命の奔流そのものだった。

 

「アッシュ……!」

 

 隣でフィリアが声を上げた。

 

 その瞳が俺を見つめていた。驚きと戸惑い、けれどそれだけじゃない。信じられないという戸惑いの奥に、確かに笑みが浮かんでいた。張り詰めていた空気の中に、小さな“希望”が息を吹き返した瞬間だった。

 

 剣を握る手にも、確かな変化があった。拮抗していた力の均衡が、ゆっくりと、しかし確実に傾いていく。押し戻されていた剣が、わずかに前へ進む。

 

 脳裏に、過去の知識がよみがえった。

 

《精霊石は、勇者と姫にのみ許された加護装備》

 

《精霊の魔力を解放し、魔力の最大出力を一時的に限界突破させる》

 

 ゲームをやっていた前世の記憶。どこかの設定資料で見た覚えがある。ご丁寧に説明文も付いていたっけ。

 

 でも当時は、その加護も効果もあってないような扱いだった。自動発動もしなければ、任意発動もできない。バグなのか設定ミスなのか、結局“空気アイテム”として扱われていたはずだ。

 

 プレイヤーからは“宝の持ち腐れ”“エア装備”なんて散々な言われようだった。

 

 要するに──俺も、“ちゃんと使ったことがなかった”。

 

「……主人公補正ってやつかね! 勇者ちゃん……!」

 

 思わず、口元が緩む。

 こんな土壇場で、笑えている自分に驚く。

 

 だがその笑いには、確かな実感があった。

 

 指先から、押し込まれていた力が、するりと逃げた。

 今までこちらに襲いかかってきていた光と闇の奔流が、少しづつ、でも確実に前に進んでいた。

 

 剣を握る感覚が、確かに“変わった”と感じた。

 

「それはよく分からないけどっ! でも、いける!」

 

 フィリアが叫ぶ。その顔に、希望が戻っていた。

 さっきまでのあの張り詰めた表情とは違う。苦悶の中にも、確かな意思が宿っていた。

 

「ああッ! さっさと終わらせようぜ」

 

 精霊石から放たれる魔力が、俺たちの体内を一気に駆け抜ける。

 

 まるで熱を持った風のように、神経を這い、血流を遡り、五感すべてを覚醒させる。視界が冴え、聴覚が澄み渡る。時間の流れが変わったと錯覚するほどの集中力が、全身を満たした。

 

 炎でも冷気でもない。なのに、内側から湧き上がるその力は、魂にまで浸透してくる。

 

 それは、単なる魔力ではなかった。

 

 希望だった。

 運命に抗う、たったひとつの手段だった。

 

「俺と──お前でな」

 

 右手でフィリアの剣に触れながら、そう告げた。

 

 フィリアも頷く。無言で、それでも力強く。

 

 その刹那──

 

 聖剣が、眩い閃光を放った。

 

 光そのものが音を立てているかのような、錯乱と破壊と創造の轟きだった。

 

 世界が、音を呑み込んだ。

 

 耳鳴りすらしない沈黙。

 風も止まり、炎も凍り、空気が震えるのさえやめた。

 

 刹那の静寂。

 

 それは、ただの“技”ではなかった。

 

 共鳴。

 

 この一撃に込められたのは、俺の魔力でもフィリアの魔力でもない。“俺たちの”魔力だった。

 

「「──いっけえええええぇぇぇッッッ!!」」

 

 叫んだ。

 

 声が、腹の底から突き上げるように迸った。

 喉が裂けそうなほどの絶叫。それが、戦場の全てを貫く。

 

 そして──

 

 剣が、走った。

 

 風が千切れるような音を立て、大気が爆ぜる。暴風のような斬撃が放たれ、床がめくれ、柱が軋む。

 

 空が震えた。

 

 フィリアの究極奥義《神聖なる反逆(ディヴァイン・リベリオン)》。

 

 それが、《断罪闇光(サンクティオ=レイ)》を正面から穿ち、砕く。

 

 光と闇が、砕けた。

 

 均衡していた力が、崩壊する。

 

 まるで神話の一節が、現実となったかのような光景だった。天と地が引き裂かれ、色彩が反転し、正義と悪が共に消失する瞬間。

 

 そこに残ったのは、黒と白の螺旋だった。

 

 だが今度は、それを黄金の輝きが包み込み“逆向き”に回転し始める。

 

 否応なく収束し、力を蓄え、矛先を変える。

 レオニスに向かって、一直線に。

 

 まるで言っているようだった。

 

 ──「お前の正義は、ここで終わりだ」と。

 

 地面が割れた。

 大聖堂の柱が次々に崩れ落ちる。

 天井がひび割れ、光が入り込む。

 

 レオニスの顔に、初めて“恐怖”が宿った。

 

 あれほど余裕綽々だった男が、今、確かに目を見開いている。

 

《神聖なる反逆》によって返された魔力は、ただの反射ではない。こちらの魔力と融合し、強化され、意思を持った反撃として叩き返されたのだ。

 

 その光は、世界そのものを包む金色の閃光だった。

 

 天井が砕け散り、ステンドグラスが光の花となって舞い落ちる。柱が倒れ、床がひび割れ、聖域に築かれた虚飾が、音を立てて崩れていく。

 

 白と黒。

 正義と悪。

 真実と嘘。

 過去と未来。

 

 すべてが、その一撃に呑み込まれていった。

 

 そして。

 

《断罪闇光》が──完全に、砕けた。

 

 怒涛の魔力が、収束と同時に炸裂する。

 

 黒と白の螺旋が、黄金に染まりながら回転し、レオニスの身体へと吸い込まれていく。膨大な魔力が一点に集束し、彼の奥義をそのまま飲み込みながら、暴力的なまでの力で叩きつける。

 

 もはや抵抗など意味をなさなかった。

 

 帝都大聖堂を包んだその光景は──まさに、世界そのものの色を塗り替えるものだった。




明日2章終幕!!
8:00、12:00、20:00の3話投稿なのでお見逃しなく!!
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